- Amazon.co.jp ・本 (152ページ)
- / ISBN・EAN: 9784862723468
感想・レビュー・書評
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第3歌集『ミステリー』が読みやすくて良かった藤島秀憲さんの第2歌集。
図書館の蔵書にあったので取り寄せてもらった。
藤島さんは認知症のお父様を19年にわたって介護されていて、この歌集の終わりの方で見送られている。
19年という、長く途方もない時間の介護のあいだ、さまざまな思いを持つことがあっただろう。
その思いをつぶさに観察し、短歌として昇華されていてすごい。
深刻なことほど、軽口を叩くようにユーモアを込めて。
短歌という器は、重い思いをそのまま入れると、器の分も重くなり、演歌っぽくなってしまう。
うまい歌人の方というのはそのバランス感覚が優れているような気がする。
例えば歌人の穂村弘さんがよく引用される、
[ゆるキャラのコバトンくんに戦(おのの)ける父よ 叩くな 中は人だぞ]
は、あとからこの状況を思い出したら、おかしかったんだろーな、と思った。
叩いてるときは平謝りで、申し訳ない思いで一杯だったとしても。
気になった歌少し。
[もうみんな大人の顔つき体つき冬のすずめに子供はおらず]
この歌はご自身のことを詠んだのではないだろうか。冬=中年期から老年期にさしかかる自分。
[里芋の煮物を箸でつかめずに死にたいという父の嘘つき]
家の祖母もよく「死にたい」と言っていた。嘘つき、と詠みたくなる気持ちがわかる。
[新聞の兜を父は折らんとす今度五十の息子のために]
[一年前には折れた兜が、くしゃくしゃの朝刊に「断固反対」の拳]
だんだんできなくなっていく父の悲しみ。それでも息子は息子だ。
[地上から九十センチの芍薬に二台の車椅子が止まりぬ]
お墓参りに行ったときの歌。
他の墓参りの方たちだろうか。九十センチってちょうど車椅子の方の眼の前にお花がくる長さかな。美しさをふたりじめ。
[激しく激しくトイレットペーパーを引き出せど母の夢から解き放たれず]
お母様も亡くされている。
激しく激しく、の字余りが感情の高ぶりを強化し、トイレットペーパー、の字余りも、カタタタと引き出されるペーパーの伸び感をあらわしている。そうか、字余りはこう使えばいいのか。下句は77なので収まりが良くなるのだな。
[おはようと大さじ4の白い息吐いて吐かれてすれ違いたり]
冬の情景が目に浮かぶよう。
大さじ4、というのが新鮮。
[じくじくと父の床ずれざまあみろ一人の命をわれは支配す]
ネガティブな思いも短歌の器は受け止めてくれる。
[湯気の立つごはんがあって父がいてあなたにたまに逢えて 生きてる]
恋もしていた。
『ミステリー』ではこの恋が成就するのかな。違うのかな。ホッとできる瞬間です。
[四百円の焼鮭弁当この賞味期限の内に死ぬんだ父は]
お父様がICUに入った後の歌。
ふだん、なんとなく見ている賞味期限の日付が大きな意味を持って迫って見える。
[学歴にも職歴にも書けぬ十九年の介護「つまりは無職ですね」(笑)]
これが現実。
[数々の短歌をわれに詠ましめし父よ雀よ路地よ さようなら]
短歌は環境に詠まさせられる部分も大きいような気がする。
その後藤島さんは新天地に赴く。
植物の名前が多くでてきて、なごんだ。
「世界って豊かな人たちの集まりなんですよ」
赤松さんという作家さんがおっしゃっていた言葉。
それを忘れたくない。
表紙がかわいい。
すずめ、の木にすずめが2羽留まってるのだ。
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