ソングライン (series on the move)

  • 英治出版
3.98
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本棚登録 : 364
感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (497ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862760487

作品紹介・あらすじ

オーストラリア全土に迷路のようにのびる目にはみえない道-ソングライン。アボリジニの人々はその道々で出会ったあらゆるものの名前を歌いながら、世界を創りあげていった。かつてのドリームタイムに大陸を旅した伝説のトーテムの物語に導かれ、チャトウィンは赤土の大地に踏み出す。人はなぜ放浪するのか-絶えずさすらいつづけずにはいられない人間の性を追い求めたチャトウィンが、旅の終わりに見出したノマティックな生き方の真実とは?死の直前で書き上げたチャトウィン渾身の力作。

感想・レビュー・書評

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  • 読み始めてしばらくは亡羊としてまさに蜃気楼のようにつかみどころが無かったが、やがてその思想や論理が、あたかも意図的に断片的に現されるストーリーとリンクするかのように確実に輪郭を結び、すさまじい意識変革を促してくる。社会、心理、政治、経済、そして哲学。およそいままで触れてきたすべての知性によって糊塗された価値観を軽々と持ち上げ裏返されるエネルギーを感じた。
     すさまじい書である。

  • ソングラインの概念を攫むのが難しかった。自分にもアボリジニの歌う歌が聴こえてくるのではないか‥と読み進めたがとうとう感得するには叶わなかった。神話的な世界観を捉えるには自分は全く浅はかだ。その代わりにチャトウィンの文章が奏でる音楽となって響いてきた。旅をすることで世界との関係を見つめてきたチャトウィン、ついに自分の最期を意識せざるを得なくなった時、死に行く者が“始まりの場所”へと帰還するアボリジニに自分の生涯を照らし合わせた思いの果てに強く打たれた。その思いが大地に沁み入るレクイエムとなって余韻はつづく。

  • オーストラリアのアボリジニに伝わる、伝説を織り込んだ歌。その中には土地の特徴も歌い込まれており、歌を歌いながら祖先が辿った道のりを同じように歩くことが出来る。いくつもの部族のいくつもの歌が、平面ではなく、網目のように、オーストラリア大陸全土に広がっている。

    不思議な味わいの本である。
    作者はソングラインに惹かれてオーストラリアに渡り、その謎を追う旅をする。間には、作者がオーストラリアに来る前に出会った言葉、土地、人々、それらに関する作者の思索の膨大な量のノートが挟まれる。

    人はなぜ旅をするのか。旅とは何なのか。

    忙しい日常の中、秩序立てて読む本ではなく、旅先でたゆたうように読む本なのかもしれない。

    アボリジニの清濁合わせた描写がよい。

    *ノートの中に動物行動学者のローレンツが出てきてちょっとびっくり。人脈の広い人だったのか・・・?

    *作者はサザビーズの美術鑑定家として働いた後、旅に身を投じ、文筆家となる。旅先で感染した病気が元で早世している。
    作者の経歴自体が物語である。

  • なんだろう、読み終わった後の、この心地よさは・・・
    男をも女をも虜にしたという、チャトウィンの魅力に捕われてしまったということなんだろうか。

    非難めいたことも、失望も、怒りも口にすることなく、あるがままを淡々と受け入れているかのような。
    片隅にひっそりと佇みながらも、好奇心に溢れたまなざしで人々の話に耳を傾けているかのような。
    無愛想なアボリジナルのおばさんでさえ、思わず手を伸ばしてその頬をなでたくなるような。

    旅行記の呈をしたフィクションということなのだが、どこまでも優しげなその語り口に魅了される。

    ラスト、瀕死の状態にある氏族の長老たちを訪ねるアボリジナルの青年に同行し、まさにソングラインを辿ったチャトウィンが目にした邂逅の光景。
    旅の終わりとも始まりともいえるようなその邂逅の、光に満ちた厳かさ。
    それはもしかしたら、死期を悟ったチャトウィンが、自らの最期に眺めることを望んだ光景だったのかもしれない。


      The Songlines by Bruce Chatwin

  • 己の視野の狭さをまざまざと突きつけられました。迫りくるとてつもない荒野。広く遠い地平線。
    アボリジニが見つめ続ける、あらゆるものの原型としての世界。人は大地から動物から、全てを教わってきた。切り離せるはずもない。その足で、歩み続けるということ。どこからきて、どこへゆくのか。
    目覚め、歌い巡り、世界を構築し、還っていった先祖たち。名前を呼ぶ。引き付け合う。そしていつか辿りつく己。外から内へ。
    読み進めながら、何か取り返しがつかないような気持ちに襲われて。手の届く範囲で問いと答えを出してしまう都市生活を、改めて自覚。原文で読みたい…レッツレッスン英語ー。
    あー旅に出ねば!一種の飢餓感。また少しずつ読み返そう。

  • 作者はイギリス人。サラリーマンをしていたものの旅に憧れてパタゴニアに旅出ち、その紀行を書いた「パタゴニア」で著名な作家となる。アボリジニの放浪の旅ウォークアバウトに引かれて、アリス・スプリングスで、オーストラリア国籍を持ちアボリジニの聖地を地図にしているロシア出身のアルカジーとともに、旅をする。

    オーストラリア全土に迷路のように、ソングラインと呼ばれる目に見えない道筋が伸びる。先祖達は道ででくわしたあらゆるものの名前を歌いながら世界を想像したという。部族の交流の道でもある。

    トカゲ族の祖先の物語をジェスチャーで表現するアボリジニ地主のクドゥングル(マネージャー)を見て、思い出したのが、雄のトゲウオが縄張り争いをする様をジェスチャーで見せてくれたコンラート・ローレンツであることに驚いた。

    オーストラリア最後の鉄道(というのはThe Ghanだろうか)はアボリジニの土地を横切り、聖地の木々を切って聖地の土や岩を使って建設されている。偶然現場を訪れてしまったアボリジニとチャトランたちの一行は微妙な雰囲気になる。

    ヨーロッパやアメリカで公演したこともあるピントゥピ族の演者ジョシュアから、先祖の”夢”の話を聞く。「”大きくて飛ぶもの”の話」もしてくれるという。よくよく聞いてみると”カンタス航空の夢”だった。ロンドンやアムステルダムに行った話もソングラインで説明される。

  • ノンフィクション

  • 港Lib

  • この本がイギリスで出版された1987年の翌年にブルースチャトウィンはAIDSで死んでいる。最初の著作「パタゴニア」を書くきっかけとなった旅には松尾芭蕉の「奥の細道」を持参したという彼の、オーストラリアの旅の記録。
    オーストラリアのアボリジニ達は、自らの土地にまつわる風景、地形、岩、樹などありとあらゆる事象を先祖伝来の「歌」として記憶する。その歌をたどれば、オーストラリア大陸の隅々まで旅をする事が出来るという。
    オーストラリアを舞台にしたロードムービー的な記録の合間に、著者が自らの半生の旅の最中に書き溜めた文章・言葉・詩などが混じる。
    装丁が素晴らしい。Bookoffには持ち込まず、本棚に置いておく本。

  • アボリジニでは、子供が喋りそうになると、母親はその子に土地の植物や昆虫を持たせ、抱いて歩く。
    その歩くリズムと土地の動植物の名前を子供が覚える。
    そうしてアボリジニの土地を子供に与える。
    ぜひ、私もそうやって暮らしてみたい。そう思える。これが本当の人の関わり方の原型ではないかと言いたくなる。
    「そんな子供が詩人にならないわけがない。」448p

    生まれる前からゲーム音に囲まれて育つ日本の子供達とは何たる違い。
    その違いは「土地」の意味の違い。そして「土地」との関わりの違い。

    そうやって中央オーストラリアにそれぞれのアボリジニによる数多くの歌の道・ソングラインが作られてきた。

    「病院の乳児病棟を訪れたものはしばしば、その静けさに驚く。本当に母親に捨てられた赤ん坊が生き残る唯一の道は、声を立てないことである。」386p
    であるならば、やはり声は、歌は、そして子供にそれを伝えることは命そのものだ。

    ノートの引用文のページは、モレスキンの型抜きように印刷されて、さながら手帳を記しながら旅をしたチャトウィンの気持ちになれる。
    ノートに書かれた、詩句、言語、音、音楽の発生の仕を読んでいると、「魂」という意味でアボリジニがとても豊かであることに気付く。

    ソングラインを追うブルース・チャトウィンの旅は、はるか昔、人類の祖先がアフリカで最初の歌を歌ったであろう時を思索するほどにまで広がってゆく。
    それは、夢見るように素敵だ。

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著者プロフィール

1940年イングランド生まれ。美術品鑑定や記者として働いたのち、77年本書を発表し、20世紀後半の新しい紀行文として高い評価を得る。ほかに『ソングライン』『ウィダの総督』『ウッツ男爵』など。

「2017年 『パタゴニア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ブルース・チャトウィンの作品

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