ブルー・セーター――引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語

  • 英治出版
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感想 : 68
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862760616

作品紹介・あらすじ

この世界は哀しく、そして美しい。-貧困の現実と人間の真実をめぐる女性起業家の奮闘記。世界が注目する社会起業家、非営利ベンチャーキャピタルアキュメン・ファンドCEO渾身の力作、待望の邦訳。

感想・レビュー・書評

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  •  とても現場的な本でした。著者の、葛藤と共に突き進んでいこうとする姿が頭の中に映像として投影されるようでした。ビル・ストリックランドの『あなたには夢がある』に近い印象を覚えましたが、本書の方が書き方がより人間的で、個人的にはこちらの方が好きだと感じました。

     著者であり主人公のジャックリーン・ノヴォグラッツはオーストリアをルーツに持つアメリカ人女性です。アメリカで育ち、国際銀行で就業した後、社会企業家としての道をアフリカで歩み始めます。"何かしたい"という自身の中の根源的な欲求と、これまでの先進国からの社会支援の経験や変化への恐れから"何もしないで"と求める現地の人々の間で板挟みになる著者。答えの無い現場で、もがきながら"現地の人の話を聞く"という姿勢を身体化させていきます。その後国際機関や政府による援助の在り方の見直しや様々なコミュニティを越境するリーダーの育成に従事した後、社会企業家への投資活動にその軸足を移していきます。

     本書で特に印象的だったのは1994年に起きたルワンダ虐殺に対する著者の考察です。被害者になった者、加害者になった者、傍観者になった者、それぞれの人間(友人)と話、著者の葛藤と共にそれぞれの人物に対して思考を巡らせています。ルワンダ大虐殺の前は三者ともルワンダの発展とそのなかにいる人々の幸せに向けて著者と一緒に活動していました。しかし、虐殺が起きた後、同じ目的に向かいながらも表層に現れる三者の様子はそれぞれ全く別のものになっていました。これが何を意味するのか、僕には分かりませんが、何か背中が冷えるような印象を覚えました。

     京セラ元会長の稲盛さんの著書の中にたびたび「地獄と天国は同じ環境だが、ただそこにいる人たちの心のありようが違う」という内容が出てきます。ベクトルが自分に向いているか、外に向いているか。同じ"ルワンダの発展"という共通の目的に向かっていたとしても、逆境の際ベクトルの方向の境目で、三社の様相は全く違うものになってしまったのかもしれない、と思いました。しかし、もし僕がルワンダ虐殺の場にいたら、などと言うことは全く想像することができず、仮に、実際その場にいたら僕は自分方向にベクトルが向きまくってしまうかもしれない、と稚拙な想像力ながら思いました。そのような状況で外へのベクトルを忘れなかった方々(ex.家で子どもをかくまって最後まで守り通したお母さん)に関する内容に、本書を読み進める中で触れたとき、涙が溢れそうになりました。

     もう1つ読んでとても良かったのは、各章ごとに書かれている著名な方々の名言です。本書の内容とシンクロして、自分の中にスーッと落ちていく感覚を覚えました。

     読んでいて少し残念だった点は2点ほどあり、1つは登場人物が多すぎる、かつ各登場人物の説明が個人的には不十分であるため、誰が誰なのかがすぐ分からなくなる点。もう1点は、著者の心に、もう少し触れたかった点です。これはもしかしたら訳の問題かもしれませんが、アフリカやアメリカの虐げられている人々に幸せに尽力することで、どのように著者の心が潤ったのか。世間一般的な幸せ論ではなく、彼女のもっとミクロな、人間臭い感情の土台に触れられたら、もっと良かったと感じました。

     以下に本書の中で印象に残ったフレーズや名言を載せます。ページ数は少し多いですが、現場感あふれ、机上の空論感が限りなく少なく、個人的には読者との距離も極端に遠くはない、不器用ながらに読者の背中を押してくれるお勧めの一冊です。

    「地獄への道は善意で敷き詰められている」

    「耳を傾けるというのは、単に待つ忍耐力を持つということではなく、どういう質問をするかそれ自体を学ぶことでもある。(中略)なかなか口に出せないことが多い。普通はだれからも訊かれないからだ。そして、もし訊かれても、(相手は)実はだれもほんとうのことを知りたがってはいないだろうと思う。」

    “Power without love is reckless and abusive, and love without power is sentimental and anemic. Power at its best is love implementing the demands of justice, and justice at its best is power correcting everything that stands against love.”
    -Martin Luther King Jr.

    In the end, we will remember not the words of our enemies, but the silence of our friends.
    -Martin Luther King Jr.

    I would not give a fig for the simplicity on this side of complexity, but I would give my life for the simplicity on the other side of complexity.
    -Oliver Wendell Holmes, Jr.

    「もし知性だけを持って世界のなかを動くなら、片足で歩くことになる。もし共感だけを持って世界のなかを動くなら、片足で歩くことになる。だが、もし知性と共感とをともに持って世界を動くなら、知恵を得る。」
    -マハ・ゴサナンダ

    • mitsu1124さん
      >cloud141さん

      お気に入り、ありがとうございます。もしお勧めの本等あれば、教えて頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします!
      >cloud141さん

      お気に入り、ありがとうございます。もしお勧めの本等あれば、教えて頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします!
      2013/06/06
  • ■感想
    ・無償の金銭、物的援助では支援先は成長しない。お金を貸し付け、ビジネスをできるようにするべき
    ・資本主義が行き過ぎた考え方だけでも、フィランソロピーだけでもうまくいかない。両者のバランスをもって支援する
    ・ルワンダの虐殺は非常に悲しい出来事。昨日までの友人同士、家族同士で、マチェットを持って殺し合う。誰しもが、モンスターになる可能性がある

    ■印象にのこったフレーズ
    >> 善意の人々は貧しい女性に、クッキーを焼くとか、工芸品を作るとか、何か”すてきな”作業を与え、プロジェクトに補助金を出して、資金を使い果たすまでつづけ、それから新しい思いつきに移っていく。これは、すでに貧しい人々を貧困の泥沼にはまらせる、絶対に失敗しない方法だ。

    >>典型的なパターンとしては、援助関係者が製粉機が壊れるまでの話で、いずれは必ず壊れる。修理の仕方を知っている人がほとんどいないので、壊れた製粉機は役に立たないまま放置される。ディーゼル燃料の不足で、製粉機を動かせなくなる村もある。そのうえさらに、日本政府がガンビア中の女性グループと村々に何千台もの製粉機を寄付したばかりだった。世銀の新しいプログラムがさらに何千台もの製粉機を提供するという発想は、ばかばかしい限りだった

    >>「農民にとってうまくいくには、農民自身が所有するようにするしかないんです。自分が努力して、自分で生活をコントロールできて、それえで自分の生活がよくなるのを見ることしかない。無為に行政を待つのではなく。」

    >>重要なのは、成功をめざすまっとうな意欲を持てるような構造を築くこと、ハディのようなほんとうのビジネスリーダーを見つけて、そうしたリーダーが自国民に貢献できるような道具立てを提供することだ。

    >>今日の世界では、エリート層は、ますます国境を越えて互いの関係を歓迎するようになる一方、自国の低所得者層とはあまり関係を持とうとしない。どうすれば、地元とも、また真にグローバルに連携する共同体同士の結びつきを創り出せるかが、この世代の最大の課題の一つだ。

    >>最大の過ちはありもしない自分を守ろうとしたことだった、とわかるまでに何カ月もかかった。ある意味で若者は正しかったー私は特権に恵まれていた。世界最高の学府に行き、愛情深い家庭で育ち、白い肌のおかげでかなりの機会にも恵まれた。問題は特権に恵まれているかどうかではなく、その特権のせいでプログラムをきちんと運営できなくなるかということだった。私は応じるべき攻撃を間違えていた

    >>私も変わった。アフリカ、インド、パキスタンで二十年以上仕事をし、貧困問題への解決策を進めるには、お手軽な感傷ではなく、規律、説明責任、市場の強さが必要だということを学んだ。貧困問題への答えの多くが市場と事前の中間にあることを学び、何よりも必要なのは、壮大な理論やプランを押し付けるのではなく、貧困層自身の視点から解決を創り出そうとする意思を持った、道徳的リーダーだということを学んだ

  • ずいぶん前に買って、読みかけて挫折して、長らく積読になっていたのをようやく読了。
    この本を買った昔の自分を褒めたいが、いつまでもぐずぐずと読まずにいた自分は厳しく叱りたい。
    世界のこと、もっと知らなきゃな。

  • 若くして世界に飛び出して動く!を実現している著者を、すごいなーとおもうのと同時に、客観的にみたら”ただしい”ように見えることが、そこにある社会にとっては必ずしもただしくないようなところをこの本を読むとさらに感じさせられて、難しさを再認識しました。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「難しさを再認識しました。 」
      正しい正しくないは、相対的だけど、、、どこかで何かをすれば、その影響が思ってみなかったところで出るかも知れま...
      「難しさを再認識しました。 」
      正しい正しくないは、相対的だけど、、、どこかで何かをすれば、その影響が思ってみなかったところで出るかも知れません。。。
      世界を変える人、日本を変える人 : プレジデント
      http://www.president.co.jp/pre/special/interview/
      2013/05/21
  • 起業における国際開発というジャンルについて知るには良書だと感じた。
    慈善/援助と資本主義の枠組みの中でのアクションを考えるのに示唆を得られるのではないかと思う。

  • 世界はつながっているんだ、と感じさせてくれる本。
    旅人であり、世界の貧困問題やサステイナビリティの問題、歴史問題に興味のある私にとっては、興味深く食い込まれるように読める内容でした。
    世界に貢献したい、と若い頃から次々とアフリカを飛び回り、時には危険を犯してでも行動する筆者の姿勢には脱帽です。
    視野を広げたい人、世界をもっと知りたい人におすすめです。
    ―M.C.先生

  • アフリカなどの貧困層を救う社会奉仕活動のビジネスでやってる女性事業家の話。

    アフリカでは寄付や援助によって成り立つ赤字前提の事業が多いというのを知った。著者はそれをいかに黒字化し持続可能なものにするかを検討する。

    女性の立場みたいな話も多く、登場人物は全て女性。だからかちょっと全体通して箱庭感がある。女性ならではの因縁みたいなのもあるのかも。

    もう一つ知れたのはアフリカではマイクロビジネスが盛んであるということ。

    雇われる形式よりも作って売るみたいな方が一般的でビジネスのやり方教えれば誰にでもチャンスはあると感じました。

  • 世界の貧困問題の解決に取り組む社会起業家を支援するベンチャーキャピタル「アキュメン・ファンド」のCEOの自伝。

    が、「アキュメン・ファンド」での活動は、本の後半のほうででてきて、その紹介もわりと駆け足な感じで、この本のハイライトは、筆者のルワンドで、マイクロ・ファイナンスの立ち上げとその後の虐殺に関わる部分であろう。女性の自立を支援したい共通の高い志をもった人が、虐殺のなかでさまざまな運命に分かれて行くさまは、本当に言葉を失うというか、考えさせられた。

    本のなかでも引用されていたが、マーティン・ルーサー・キングの「愛のない力は暴虐であり、力のない愛は感傷である」という言葉が身にしみる。

    また、高僧が、「歩く、一歩一歩が祈り」で、「知と感情をそれぞれ右と左の足として歩く」と言ったというエピソードにも共感した。

    でも一番共感したのは、著者がアフリカに最初にいった現地機関で、現地職員にまるで相手にされずに、苦労した、といった若い頃の話しだったりして。

    つまり、自分の経験でイメージできるのがその辺のところまでで、あとの世界はどんどんスケールアップしていくので、ただただスゴいなー、と思う事しかできない。

    世界にはスゴい人が一杯いるんだな。

    と当たり前の事を再認識した。

  • 社会起業家のエッセイ。
    世界の貧困問題も紛争問題も、また国際協力の分野以外についても、いろいろと気付かせてくれる本。
    物事をどのようにやるかは何をやるかと同じくらい重要。

  • 途上国の住民が自ら運営する事業を中心に投資を行うベンチャーキャピタル「アキュメン・ファンド」のCEOによる著作。
    本書は、著者が、高校生のときに米国バージニアのリサイクルショップで手放したお気に入りの青色のセーターを、25歳のときに理想に燃えて向かったルワンダの首都キガリで、現地の少年が着ているところに出逢う、何ともドラマティックな場面から始まる。著者は、この体験は「私たちがみなつながっていること“We are all connected.”を、いつも思い出させてくれる。」と言う。
    著者の、ルワンダ、ケニア、タンザニア、パキスタン、インド等での、人々との出会い、苦悩、成功と挫折が、飾ることなく生き生きと語られている。
    また、最初の挫折と成功を経験したルワンダで起こったジェノサイドの体験には、途上国支援という切り口に留まらない、民族問題の大きなテーマについて改めて考えさせられる。
    (2010年8月了)

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著者プロフィール

非営利団体アキュメンCEO。最も困難な貧困問題を解決しようとする起業家に「忍耐強い資本」を投資するという考えに基づいて、2001年にアキュメンを設立。「インパクト投資」のパイオニアとして、医療、教育、クリーンエネルギーなどの非常に重要なサービスを何億人もの低所得層に届けてきた。2020年、社会変化を目指す世界的な学びの場としてアキュメン・アカデミーを創設。また、貧困と気候変動が重なる領域での投資に向けて営利のインパクトファンドをいくつか発足させた。さらに、ステークホルダーの生活向上はシェアホルダーの利益と同じ重要性を持つという原則に基づいて社会的インパクトを測定する会社、60デシベルを展開している。
アキュメンの仕事に加え、世界中から講演依頼を受け、また多くのフィランソロピー団体の理事会メンバーでもある。ニューヨーク在住。著作に『ブルー・セーター』(英治出版)。

「2023年 『世界はあなたを待っている』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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