世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

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  • 英治出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862761095

作品紹介・あらすじ

ドラッカーなんて誰も読まない!?米国ビジネススクールで活躍する日本人の若手経営学者が世界レベルのビジネス研究の最前線をわかりやすく紹介。競争戦略、イノベーション、組織学習、ソーシャル・ネットワーク、M&A、グローバル経営、国際起業、リアル・オプション、ベンチャー投資…ビジネス界の重大な「問い」は、どこまで解明されているのか。知的興奮と実践への示唆に満ちた全17章。(Amazon.co.jp)

感想・レビュー・書評

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  • 「世界の経営学者はいま何を考えているのか」
    入山教授

    1.購読動機
    経営に関心があり、かつ事業を発展させる経営とは?を整理したかったから。
    当然、この一冊でどうこうなるという結論を期待していなかった。
    一方で、著書にある数種類の研究に浅く接することにより、思考回路に穴を開けたかったから。

    2.結論
    思考に穴をあける、考えを整理するという意味で⭐️五この評価となりました。

    3.⭐️五この理由
    ①不確実性高い現代ビジネス世界
    競合がいない業界はもはや存在しないと考えています。
    さらに、競合との競争は激化し、かつそのスピードは早くなっているとも考えます。
    こうした不確実性が高い現代ビジネスにおいて、企業はどのように計画を作るのがよろしいのでしょうか?

    ②著書からの示唆
    ・仮定、ifを必ず書き出しておくこと。
     時間軸とともに、検証、洗い替えすること。
    ・内、外リスクを書き出しておくこと。
     外リスクはコントロールしづらい。
     ゆえに、行動してリスクを変化、観察できるよう   
     にしておくこと。
    ・悲観シナリオ
     悲観シナリオを作ること。
     その場合、どうする?!を想像、準備すること。

    4.言い訳をイメージする
     目標、計画。
     達成しない場合の言い訳は、
     ①行動しなかった
     ②行動したが、やり方が▲だった
     のふたつ。

     ならば、事前に①と②を重要度高いものに限り、 
     つぶしておけばよい。
     そのようにならない体制、環境を作るという
     こと。

    #ビジネス書好きなひとと繋がりたい



  • 昨年末から勤務先近所の書店で平積みされていて気になっていた本だったのだが、アカデミック色が強いのかと思って敬遠していた。しかし、クライアントさんが新年の目標を考えるために読了したとfacebookで報告していたので、それでは読まないわけにはいかないということで読んでみた。
    冒頭述べた「アカデミック色」というのはまったくないわけではない。というのは、筆者は非常にリファレンス豊富でさすが学者という感じ。しかし、文章のテンションが著者も言うとおりエッセイ風であったり統計などの難解なものについてはわかりやすく(かなり端折ってが正しい)書かれているので、経営学初心者でも十分読みやすい。

    さて、内容はというと、大変実務にとっての示唆に富んでいて、ビジネスマンであれば一読の価値がある。経営者よりもマネジメント業務についている方々が読まれるといい気がする。というのも、経営者としての意思決定よりもう一歩現場に落ちたところでの参考になるものが多いからだ。

    個人的には第5章のトランザクティブ・メモリーと第6章の見せかけの経営効果、第15章のRBVが非常によかった。
    トランザクティブ・メモリーの考え方は恥ずかしながら初めて目にする理論であった。RBVは私が修士論文を書く際に援用した理論枠組みであったため、それを否定する理論があることを知り、非常にワクワクしながら読むことができた。

    筆者も書かれているが、それぞれの理論やフレームワークはもちろん立派なことであるが、経営学の限界としてはそれらを一般化して各企業に落とし込んだところですべてが理論どおりに成長企業になるわけではないことだ。ここが経営学が難しくておもしろいところなのではないかと再認識させられた。

    筆者は今後は早稲田MBAの教授になるなんていううわさもあるが、こんなに過激に書いて大丈夫なのだろうか?(笑)

  • 米国の最先端の経営学者達が、『何に関心を持ち、どんなテーマについて、どのような手法で研究しているのか』が分かりやすく書かれている。

    まず、経営学についての3つの「勘違い」から始まる。経営学者は、日本では大人気のドラッカーの本を読まない。これは自分自身の経験からも十分実感できる。MBAレベルにおいても、ドラッカーの著作や論文はほとんど登場しないから。まして、それを超えるレベルでは当然だろう。ドラッカーが「経営学のすべて」であるかの如く演出されていた日本の「ドラッカーブーム」に、著者も相当な違和感を覚えていたことだろう。

    ドラッカーの本は、経営学というよりも「名言」や「経営哲学」の集積である。「名言」だから解釈の幅は広く、人によって解釈も異なる。これは科学とは言えない。だからといって、「経営哲学」に意味がないわけではない。「経営哲学」はとても重要だ。

    ハーバードビジネスレビュー(HBR)は学術誌ではないというのも納得できる。経営者や経営管理者向けに、(最先端の)研究成果を分かりやすく紹介することが同誌の目的だから。もっとも、MBAレベルではHBRを読む機会はかなり多いし、世の中一般水準からみれば相当学術的ではある。

    最後に、ビジネスクールの教授の評価の基準は、良い授業をすることでなく、権威ある学術誌に載せる論文の数だという。ビジネスクールもアカデミックな世界であるから、こうした評価基準は分かるが、行き過ぎてしまうと、現実の経営問題との関連性が希薄になる危険がある。

    著者は、先端経営学の主流が演繹的アプローチに偏りすぎているという点に危惧を抱く。演繹的アプローチとは、仮説を設定し、膨大なデータを統計的なアプローチによって分析し、理論を実証するという方法である。また、研究(理論)の新奇性が重視されるため、90%以上の理論仮説が、その後研究者によって実証研究されていないという。放置された理論が山ほどあるということだ。

    (老婆心ながら)一点注意すべきなのは、Porter(あるいはMintzbergやBarneyなど)の理論が、今では全く役に立たなくなっている、あるいは、学ぶに値しないということではない。定番理論の「他に」も注目すべき経営理論や研究は沢山ある、経営学は日々進歩している、だからこうした最新の動向にも目を向けるべきだ、ということを著者は主張しているのだ。

    定番理論をきっちり押さえるのがいわばMBA教育である。本書の主張の多くは「その上のレベル」の話であることに注意すべきだろう。本書は非常に分かり易く書かれているので、国内外で経営学に関する基礎的な教育を受けていない人にも十分読める内容だが、逆に、(途中のMBAレベルの話が省略されているため)誤解を招く可能性もあるような気がする。

    本書では、参考文献(論文)が随所に紹介されているのが嬉しい。特に、内生性、ソーシャルキャピタル、不確実性などが興味深い。RBVも改めて読み直す必要がありそうだ。論文をダウンロードして、時間を見つけて読んでいきたい。

    (経済学もそうだが)、社会科学である経営学は、現実の企業経営に役立つ知見を提供すべきものであり、「象牙の塔」の中の論理に支配され、研究のあり方が歪められてしまっては意味がない。今後の経営学の方向性に注目したい。

  • マイケルポーター
    SCP
    structure conduct performance.競争しないポジショニングを取る事。

    組織論
    学習にはlearning curveがあり、経験の蓄積により、ある一定レベルまでは急速に生産性、効率性が向上し、これは組織でも同様に言える。

    組織では同じ事を全ての人間が学ぶのではなく、各スタッフがそれぞれの専門性を磨き、記憶の分担共有(transactive memory)を行う事が肝であり、この時、「誰が何を知っているかwho knows what」を認識する事が重要。

    知の探索explorationと知の深化exploitationの両利きambidexterityを組織的に整備する事。業績が良いと、知の深化を重視した組織創りを進める一方、知の探索を怠りがちになり、知の近視眼化myopiaが起こりやすい。
    中長期的なイノベーションが停滞するリスクが企業組織に本質的に内在する。これをcompetency trapと言う。

    類似する「イノベーションのジレンマ」は経営幹部個人の認知問題として捉えているが、competency trapは問題の本質を組織に求めている。


    Social capital
    人と人の繋がりそのものが資本であるという考え。


    strength of weak ties
    弱い繋がりの方が強い繋がりよりも新しい情報を得やすい。
    強い繋がりの人間とは住む世界がほぼ同じであろう為。


    Structural hole
    ソーシャルネットワークのハブの事。


    パンカジュ ゲマワットによる海外進出の留意点
    "CAGE"
    Cultural 国民性
    Administrative 政府
    Geographic 地理(本国からどれだけ遠い?)
    Economic 所得格差


    ホフステッド指数(国民性を数値化したもの)
    以下の6項目で全世界のIBM従業員からリサーチしている。
    Individualism = Collectivism
    Power distance
    Uncertainty avoidance
    Masculinity
    long term orientation
    rentraint = indulgence


    日本人と最も近いのはハンガリー人、次いでポーランド人。
    最も遠いのはオランダ人、スウェーデン人。


    born global firm
    生まれながらの国際ベンチャー


    新事業投資時のCriteria
    小額投資をしつつ、不確実性を明らかにしていくReal option手法。
    1、全ての不確実性を洗い出す。
    2、上記を外生的、内生的に分類する。
    3、それぞれの楽観ケースと悲観ケースを想定し、戦略オプションを検討する。
    4、段階的な投資に基づいて、それぞれのケースの収益性を評価する。
    5、事業開始後、洗い出した不確実性を定常確認する。


    ドゥシュニツキー、レノックス「リサーチポリシー」2,289企業30年の調査で、CVC投資が多いほどイノベーションパフォーマンスが高まる。企業価値が高くなる。

    理由1
    DDの時点で技術を知る事ができる。

    理由2
    ボードメンバーになる事で、技術やビジネスモデルの情報を知る。

    理由3
    スタートアップの業績で事業の将来性を判断できる。



    M&A
    買収プレミアムについて、アメリカは平均35.6%、日本は平均19.9%のプレミアムが支払われている。
    新興国が先進国の企業を買収する場合、平均16%のプレミアムを払っている。


    コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)
    CVCはR&D予算の1-3%。

  • 刺激的。日本の経営学は一社または数社を丹念に観察するケース・スタディーの研究が多い。数値化できる経営の法則を証明できないか研究する欧米の経営学のフロンティアの紹介。

    ・企業とは何か、経営学には四つの視点がある。
    ①効率性を重視し、「市場取引ではコストがかかりすぎる部分を組織内部に取り込んだもの」を企業と考える。
    ②企業の「パワー(力)」を重視するもの。
    まさに今この事が起きているのが鉄鋼業界。鉄鋼市場は国際的なレベルで見ると企業集中度が低く、多くの企業が小さいマーケット・シェアを持ってせめぎあっています。他方でその主要素材である鉄鉱石の市場はBHBビリトンなどの三大メジャーに牛耳られているのが原状です。そこで鉄鋼メーカーは鉄鉱石メジャーに対して不利な力関係を克服するために、M&Aなどを通じて業界再編を行い、さらには鉄鉱石ビジネスにも参入するようになっています。世界最大の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミタルはその代表例でしょう。
    ③「企業は経営資源の集合体である」とする見方。
    ④認知心理学ディシプリンのアイデンティティやビジョンを重視する見方。「企業とは経営者や従業員がアイデンティティやビジョンを共有できる範囲のことである」

    ・1972年から1997年までの全米40産業、6772社の時系列データを用い、企業が10年以上続けて同じ業界のライバルよりも高い業績を残している場合「持続的な競争優位」を持っているとみなした。
    そこから、
    ①アメリカでは「持続的な競争優位」を実現する企業はたしかに存在するが、その数はすべてのうちの2~5%にすぎない。
    ②近年になればなるほど、企業が競争優位を実現できる期間は短くなっている。すなわち、持続的な競争優位を実現する事はどんどん難しくなってきている。これはアメリカの企業全般にみられる傾向である。
    ③他方で、いったん競争優位を失ってからその後再び競争優位を獲得する企業の数が増加している。すなわち、現在の優れた企業とは、長い間安定して競争優位を保っているのではなく、一時的な優位をくさりのようにつないで、結果として長期的に高い業績を得ているように見えるのである。
    →つまり、理論的には、より積極的な競争行動を取る企業の方が高い業績を実現できる(実証研究でもいくつかそれを裏付ける研究がある)。
    さて興味深いのは、これらの研究で主張されてきたことは、一見するとポーターのSCPパラダイムの「競争しない戦略」と逆の考え方のように聞こえるという事です。SCPの主張の中心はライバルとの競争を避けることにあります(ファイブ・フォースつまり、「新規参入圧力」「企業間の競合圧力」「代替製品・サービスの圧力」「顧客からの圧力」「サプライヤーからの圧力」があり、それをなるべく避けられる業界を選び、それが難しければ業界内でユニークなポジションを目指す)。

    ・ビジネスでは、同じ業界内の企業同士でも、主要な顧客のいるセグメントがライバル企業と重複していることもあれば、ライバル企業との重複が少ないこともあります。たとえばアパレル業界では、ある婦人服と子供服を作っているメーカーAは、同じように婦人服と子供服を作っているメーカーBとは市場が重複することになりますが、紳士服に特化したメーカーCとは重複度が低い、ということになります。
    …アメリカの航空会社では、どの路線に飛行機を飛ばしているかで、企業の間の路線(セグメント)の重複度合は異なります。たとえば1989年のアメリカの航空路線のデータを使った分析によると、アメリカン航空はノースウェスト航空とは路線があまり重複しませんが、デルタ航空と重複度が高いという結果になっています。
    このような状況下で、もしアメリカン航空がある路線で価格を大きく下げたらどうなるでしょうか。競合するデルタ航空は、その路線の価格を引き下げるだけでなく、対抗措置としてアメリカン航空が飛行機を飛ばしている他の路線でも価格を引き下げるかも知れません。
    このようにコンペティティブ・ダイナミクスの研究者たちは、「市場(セグメント)の重複度が高い企業同士は、互いに積極的な競争行動が取りにくくなる」と主張したのです。
    ここからが私論になります。この命題が正しいとすると、ある企業が積極的な競争行動を取れる一つの条件は、ライバルとのセグメントの重複が少ない、ということになります。これはまさにSCPパラダイムの骨子でした。もちろんユニークなポジションを取れているということは「うまく守れている」ということなのですが、ただ守るだけではいつかは競争優位を失う可能性井が高いのですから、同時に攻めの競争行動を取る事も理にかなうはずです。

    ・一つの病院で過去に行われた1151の関節置換手術のデータを入手した。平均は3.6時間、最短は28分、最長は11.5時間。その組織の学習効率を計測して分かったこと。
    ①執刀チームが同じメンバー同士で繰り返し手術を経験するほど、手術にかかる時間は短くなる。分析結果では、同じメンバー同士が10回の手術を経験する事で手術時間は約10分短くなる。つまり「チーム」としてのラーニング・カーブが存在する。
    ②病院そのものにもラーニング・カーブが認められる。病院全体で100回の手術を経験する事で、執刀チームの手術時間が平均で34分知事○ことが確認された。
    ③個人の経験は、短期的にはチーム・パフォーマンスを下げるがあ(施術中に多くの責任を任され、一時的に作業効率が落ちると解釈できる)、中長期的にはプラスの影響を与える。

    ・アメリカのすべての企業でラーニング・カーブが存在し、学習効果の高い企業は利益率も高い傾向にある。しかし、産業ごとに学習効果の差は大きい。アメリカで学習効果の最も高い産業の上位三つは、コンピュータ産業、医薬品業、石油精製業であり、逆にもっとも学習効果が低い産業は、革なめし業、製紙業、製糸業だということです。

    ・組織の記憶力に重要な事は、組織全体が何を覚えているかではなく、組織の各メンバーが他メンバーの「誰が何を知っているか」を覚えておくことである(トランザクティブ・メモリー)。そしてトランザクティブ・メモリーが効果的に働くためには、組織のメンバーそれぞれが専門性を深めている事と、相手が何を把握しているかを正しく把握していることが重要である。

    ・記憶力ゲーム。科学、食べ物、歴史、テレビ番組など七つのジャンルごとに文章が与えられて、単語を覚える。各カップルはそれぞれ自分の判断でジャンルを選び、その際にペアの相手に相談する事はできない。カップルの合計点で評価が決まる。
    交際期間三ヶ月以上のカップルを集め、一部はカップル同士、一部はランダムに入れかえ、その内の半分にジャンルを指定して覚えてもらった。
    つまり、
    ①もともと交際していて、ジャンル指定のなかったカップル
    ②他人同士で、ジャンル指定のなかったカップル
    ③もともと交際していて、男女それぞれが覚えるべきジャンルを指定されたカップル
    ④他人同士で、男女それぞれが覚えるべきジャンルを指定されたカップル

    を作った。
    ①と②では①の方が結果が高くなった。これは、カップル間で相手の好きなジャンルを予測できる、トランザクション・メモリーが形成されていると考えられる。しかし、③と④では④の方が結果が高かった。これは、自然に形成されたトランザクション・メモリーを外部から無理やりゆがめると、両者の軋轢が非効率を生み出すことを示唆している。

    ・従業員の多くが「他の人が何を知っているか」を自然に日頃から意識できる組織作りを目指すと良いのではないか。

    ・企業が多角化から高い業績を得られるのは、その企業が多様な知的資産を有している時に限り、多角化自体は企業にマイナスの影響を与える。
    多角化と業績の関連だけを数値化して研究すると、知的資産の与える影響を見逃す。

    ・ウォルマートの成功の理由の一つがその徹底した低価格戦略にあるということは、業界では誰もが知っていることでした。さらにウォルマートは低価格化の実現のためにITシステムの構築に拒否を投じていたこともよく知られていました。そこで長らくナンバーワンの地位をウォルマートに明け渡していたKマートは、チャールズ・コナウェイ会長のもと積極的にIT投資を行い、思い切った低価格戦略に舵を切ってウォルマートに対抗しようとしたのです。
    実は、これはビジネススクールでよく紹介される話しなのですが、ウォルマートが低価格戦略を実現できている背景には、複数の因果関係が複雑に絡み合っていたと言われています。
    たとえばウォルマートが巨大なITシステムを構築した背景には、それにより同社の充実したロジスティクス網を管理することでオペレーションの圧倒的な効率化を加速させるねらいがありました。またウォルマートは都市近郊に進出していたKマートとは異なり、郊外を中心に出店を進めて他社との競争を避けていました。さらに「Everyday Low Prics」の印象を消費者に与えることで広告費を抑え、それはたんなる経費の抑制だけでなく、販促活動を減らして売り上げ変動を減らし、その結果ITシステムを使っての販売予測をより正確にする効果もありました。

    ・イノベーションを生み出す方法は、すでに存在している知と知を組み合わせることである。

    ・企業組織は本質的に知の深化に傾斜しがちで、知の探索をなおざりにしやすい。事業が成功している企業ほどこの傾向が強く、これをコンピテンシー・トラップという。イノベーションの停滞を避けるために、企業は組織として知の探索と深化のバランスを保つ体制を作る必要がある。
    (デザインコンサルティング企業IDEOの七つのルール)

    ・ソーシャルな結びつきにおいて、一つのテーマについて深く情報を得ようとするならば強い結びつきが効果的であり、逆に多様な情報を効率的に集めたい時は弱い結びつきの方が効果的。
    ある研究で、企業間のアライアンスの種類により、それらを「強い結びつき」と「弱い結びつき」に分類した。例えば、合弁事業、資本提携、共同研究開発などは時間、人材を多く割く必要があり、企業間の調整も複雑なので、「強い結びつき」。他方、企業間の共同マーケティングやライセンシング契約などはコストも時間も前者より少ないため、「弱い結びつき」。
    半導体産業と鉄鋼産業で企業間のアライアンスデータを取得して分析したところ、「半導体産業では弱い結びつきのアライアンスを多く持つ企業の利益率が向上し」、逆に「鉄鋼業界では強い結びつきのアライアンスを多く持った方が利益率が向上した」。
    半導体のように技術革新のスピードが速く不確実性の高い環境では、企業は積極的にイノベーションを起こす必要があるため、新しい「知の探索」が必要となります。逆に鉄鋼産業のように比較的安定した事業環境では、新しい技術を探索するよりも、既存の技術をより深く活用する方が効率的でしょう。

    ・国民性を計測するホフステッド指数。
    ①その国の人々が個人を重んじるか、集団のアイデンティティを重んじるか(個人主義⇔集団主義)。
    ②その国の人々が、権力に不平等があることを受け入れいているか。
    ③その国の人々が、不確実性を避けがちな傾向があるか。
    ④その国の人々が、競争や自己主張を重んじる「男らしさ」で特徴づけられるか。
    これを指数にし、各国間で「国民性の距離」を計測することができる。

  • 日本人が知っている経営学と最先端の経営学のギャップを埋める本。それぞれのトピックはサラっと触れる程度だけど、視点の勝利と言える。もっとこういう本出て欲しい(^-^)/。

  • この時点ですでに「両利きの経営(深化と探索)」を唱えていたのか。
    これだけ情報が伝播するのが一瞬という時代にも関わらず、人の心に言葉が根付くのには逆に時間がかかっているような気がしてしまう。
    2021年の今でこそ、社内のみならず各所で「両利きの経営」の話を聞く。
    しかもこの著作、約10年前に発行であるが、この10年間で両利きを達成して業績をV字回復した会社はほとんどないということか?
    それだけ「両利き」が根付いてないということか。
    この10年で両利きを意識していれば、必ず業績は回復しているはず。
    「『両利き』なんて10年前の理論じゃないか」で切り捨ててもいい話だ。
    しかし10年経った今でもこれらが実現できていないことは何を示唆しているのだろう。
    本書でも書かれているが、ドラッカーもポーターも今の経営学者は研究していない。
    学問にも栄枯盛衰はつきものと思うが、それではこの10年間でどの部分がどう進化していったのかが知りたいところだ。
    ビジネスは確かに大きく変化している。
    個人的な考えだが、日々の技術進歩、科学の進歩があって、それがビジネスに転用されて変化していっているように感じる。
    理想的な経営理論があって、それに合わせて後追いでビジネス自体が変化するということはないと思う。
    やっぱりテクノロジー起点と考えるのだが、それは偏った考えだろうか。
    一方で最近は人事組織についてもテクノロジーを活用するようになっている。
    経営は「戦略」という言葉が一般化したくらい、戦争・競争と切っても切り離させない。
    どういう組織が強いのか。どういう人材がいれば勝負に勝てるのか。
    ライバル企業に打ち勝つために、この辺をHRテックとして効果的に管理する方法も流行っている。
    本書を読むと「必ず勝つ戦略」がどこにもないことに気が付いてしまう。
    それは当然であって、もし必ず勝つ戦略が体系化されていて、誰でも真似が出来たらどうなるだろうか。
    どの企業もその必ず勝つ戦略を使ったらどこが勝つのだろうか。
    そう考えると「どうすれば勝てる組織を作れるか」という点に集約されていくのだということが見えてくる。
    なぜ成功した経営者ほど、M&Aでオプションを多めに積み上げてしまうのか。
    日本人は集団主義と言われるが本当なのだろうか。
    やはり企業は人と組織で左右される。
    究極の経営とは、実は人事なのではないだろうか。
    そんなことすら本書を読んで考えてしまった。
    (2021/12/21)

  • 2012年に書かれているので、「いまなにを考えているか」という観点ではちょっと古くなっているのかもしれないが、平易な文章でアカデミアの経営学と実学を連結させようという筆者の意図が伝わってくる。読みやすい。総花的になっているため、結局何だったのかという感想になる可能性は高いが、ざっくりと2010年代前半までの経営学の研究潮流をとらえる(計量的な分析が多くなっているが、定性的な分析も有効性あるよね)のには良い。

  • ー 誤解をおそれずにいえば、ドラッカーの言葉は、名言ではあっても科学ではないのです。

    たしかにドラッカーの言葉一つ一つには、はっとさせられることが多くあるかもしれません。しかし、それらの言葉はけっして社会科学的な意味で理論的に構築されたものではなく、また科学的な手法で検証されたものでもありません。 ー

    科学としての経営学の側面を分かりやすく教えてくれる作品。実際の論文は退屈なのだろうが、本作は面白い。

    偉大な経営者の名言ではなく、成功した企業のケーススタディでもなく、成長企業の分析でもなく、科学としての経営学に関心があれば参考になる。

  • 世界の経営学の潮流の一端がつかめる。
    著者のセレクションが素晴らしく、興味の湧くテーマが多かった。
    統計的な取り扱いとか、数式ではなく自然言語定義によるトートロジーなど、学術チックな話は個人的には面白いと思った。
    学際領域故の経済学・社会学・心理学のどれを基本思想とするかで、事象の捉え方が異なるというのも興味ふかい。
    確かに、自分が比較的取り扱う人材や組織というテーマは心理学や社会学をベースにしている気がするが、たまに扱う戦略やマーケ、営業改革などは経済学にベースとする部分が多い気がする。

    実務の観点から見ると、最新の理論は、ちょっと高尚すぎて現場から乖離しているような気がしないでもない。
    現場の悩みはもっとプリミティブなものだという感覚だ。
    個人的には、経営学の理論がもう少し統一されて、現場のリテラシーが高まれば、最新の理論にチャレンジできる機会も増えるかなと思う。
    とはいえ、経営学の一般法則は、やはり●●の産業においてとか、●●の経済状況においてとか、●●の競争環境においてとかの非常に細かい前提において成り立つものなのだと思う。

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著者プロフィール

入山 章栄(イリヤマ アキエ)
早稲田大学ビジネススクール教授
1972年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年にピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーを経て、2013年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。主な著書に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)のほか、Strategic Management Journal、Journal of International Business Studiesなどの国際的ジャーナルへの論文発表も多数。

「2022年 『両利きの経営(増補改訂版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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