- Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
- / ISBN・EAN: 9784863100626
作品紹介・あらすじ
詩集『白羊宮』などで象徴派詩人として明治詩壇に一時代を劃した薄田泣菫は、大阪毎日新聞に勤めてコラム「茶話」を連載し、好評を博する。人事に材を得た人間観察から、やがて自然や小動物を対象にした静謐な心境随筆へと歩をすすめ、独自の境地を切り拓いた。本書は泣菫随筆の絶顛であり、心しずかに繙くとき、生あるものへの慈しみと読書の愉悦とに心ゆくまで浸るにちがいない。
感想・レビュー・書評
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泣菫版病牀六尺とでも言えばいいのか、自然観察の眼と古典のエピソードの知識が相まって、豊穣な世界がそこには広がっている。久しぶりに泣菫茶話でも読み返そうか。
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はじめは、なにがそんなに良いのかな?と半信半疑で読み始めたけれど、読み終える頃には、この素敵な文章に感服。何度も読み返したくなる文でした。
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パーキンソン病の症状が進行する中で口述筆記によりなった随筆集。
早春のある日の日向ぼっこに始まり、春が深まり夏がやってきて、そして秋冬と廻る一年の、
泣菫の家の庭や近所での草・花・鳥・昆虫・寒熱・風・陽光など動植物や自然の詳細な観察に、
お気に入りの古詩などを引用しつつ、自己の心象を淡々と記していく。
本の帯には「人生観照の極致」とあるけれど、枯れて悟りすましたような観照ではない。
侘助椿が小さな花弁の杯を、冷酒のような春先のひんやりした日の光で満たされ、満ち足りているさまや、
長い地下生活から地上に出てきた蝉を『雄々しい生活の謳歌者』と呼ぶところなど、
著者には身の回りの空間こそ天地そのものであり、充溢した生命に静かに酔っているようだ。
「茶話」にあった皮肉や当てこすり(これはこれで小気味良いものもあるのだけど)は影を潜めている。
かそけきものから芯の強さを取り出すようなこちらの泣菫の方が好きだ。