エレファントム 象はなぜ遠い記憶を語るのか

  • 木楽舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863240155

作品紹介・あらすじ

2000年、ワトソンが少年時代を過ごした南アフリカ、クニスナの森で大母(メイトリアーク)と名づけられた一頭の象が姿を消した。最後に残された象を探し、彼が向かった先は…。幼少期の不思議な体験と、アフリカに込めた思いがここに結晶する。象の魂(エレファントム)が漂う大地を舞台にした、ワトソン渾身の作品。

感想・レビュー・書評

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  • 象は不思議だ。
    ライアル・ワトソン博士の生涯と象を我々は追体験したが、それでも象はまだ不思議だと感じた。
    1人に見えてずっと大勢と繋がっている姿は、まさにヒトのような姿ではないか。
    博士が知り、理解した象は、今、もう別の性質を帯びているのだろう、なぜなら象はそこに居るだけで大勢と繋がり、次の世代へ的確な遺伝子情報を伝えているのだから。
    象の変化はその時の全世界の象の意志を反映しているのだとしたら、ヒトにもそれは可能なのではないか。
    世界の総意を集め、どう生きていくのかを決めて次へバトンを渡す。その自然な流れを、世界のルールのように、象から理解させられた。

  • 象の神秘的な側面、個と全体が密接に絡み合う生態圏について考えさせられます。

    過去に酷い迫害があって、縮小に縮小を重ねる象の生息地と現在の生体数を思うと心が痛む。

    人間にも象のようなコミュニケーション能力があれば、犯罪や戦争、環境破壊なんて消えてなくなるのにねぇ。

  • 象は、ときに攻撃的で残酷だが、知能が高く、慈悲深い…、
    私が本書を読んで象に抱いたイメージです。

    太母と呼ばれる象とシロナガスクジラとの邂逅の場面は実に感動的でした。
    こういう場面に立ち会うことができたなら、何事にも代え難い宝になるでしょう。

  • 空虚は居心地の悪いものだ。静かになると、たいてい早とちりをした人が終演の拍手を鳴らす。音の合間の静寂は、誰をも少し不安にさせる。意味深い休止を身につけることは実に困難だ。私たちはいつも躍起になって、何もない空間や停滞した空気をがらくたで埋めようとする。無があるからこそ物事が形をとり、それぞれに区別されうるのだということを忘れている。

    私たちは話すことをやめ、聴かなくてはならない。沈黙に耳を澄ますことを学ばなくてはならない。多くの答えは、音の合間に潜んでいるからだ。沈黙の響きの中に。


    象の幻。

    幻は、不確かで実体がないものではなく、様々な痕跡を、この世界に確かにある、沢山の欠けらとそれが表すものを、掴むことができるかという、こちら側が存在している世界の広がりを試している。

    象は、ヒトには聞こえない音でネットワークを作っている。地球を覆いつくす生態インターネットだ。

    もしそうだとしたら、世界は姿を変える。僕たちに見えているものはただそれでしかなく、そうではないものによって、世界が作られていることになる。そこでは個体と全体が同一で、一つに起こることが全てにとっての一部になる。そうやって生きる社会が作られている。

    そして、匂いというものが、時空を超えて、表れる。

    僕たちの体からも毎日こぼれ落ちていく四千万個にのぼる細胞は、そのたったひとつが個体のすべてを表す情報を同じように含むものかもしれず、そのうちのどれほどかは、上手くいって僕たちの寿命をはるかに超える時間で存在していくかもしれない。その欠けらたちは、匂いという哺乳類がもつ強い嗅覚の力を引き出し、それぞれの存在という情報を拾い、伝えるネットワークとなりえるのかもしれない。

    目に見ないものが、繋がりを作っている。
    象だけではない。ぼくたちひとも同じように、沢山の感覚を呼び覚まされながら生きている。


    いつかの大切な記憶、瞬間、人。
    普段は思い出せないようなイメージが、鮮明な感情のように湧き上がる。

    それだけではなく、いままでに見たこともないものを見たように思い、はじめての場所に立って覚えがあるように思う。わかるはずのないことがわかったり、見えるはずのないものがないものが見えたりする。それらは同じように、きっかけと僕たちがもっている感覚が土台となって、浮かび上がっている。


    象が生きているかもしれない世界を少しだけ垣間見る。そうしてみれば、同じくらい少しだけ、ぼくたちのことが分かったような気になる。見るということだけが繋げる世界に生きているだけでは、何気無くふと、ささやかなるぐらいで、僕らのことを通り過ぎていく素晴らしいきっかけたちを掴み取ることは、決してできはしない。


    '「答えのない問いを探せ。それこそが大事な問いだ」'

  • 福岡伸一さんの訳

  • 昔《生命潮流》や《未知の贈り物》や
    絵本のような《水の惑星》を
    読んで以来のワトソンさんである

    この本は永遠のゾウとの巡り合いを書き起こすと同時に
    ワトソン自身の歴史を綴るというもう一つの姿を持ち
    最後の執筆とされている本でもある

    フロリダに栖む7歳の少年ルーキーの話から始まる
    その内容はこの本の本題の一つでもある
    時空を超えたコミュニケーションに付いてである
    ルーキーは鋭い感性を持ったダウン症の男の子である
    湿地の散歩とそこに住む生き物達との出合いを
    父親とともに愉しんでいた
    言葉が苦手でボディーランゲージを使っていたが
    ある日父には見えない動物が登場して通じない会話に落ち込み
    TVに登場したゾウを見たことでそれがゾウであると判明したけれど
    アメリカでは1万年も前に鼻の長い動物はいなくなっていた
    つまりルーキーは時折1万年越しの幻を見ていることになる

    ワトソンは南アフリカの喜望峰で生まれ育つ
    いたずら盛りの10才から13才までの4年間の夏休み
    1ヶ月の間親から離れて町の男の子だけで
    海の合宿生活をすることになっていた
    それは自給自足の生活で水と食材を自分達でまかなっていた
    2年生の時に三人で水を探しに遠出をすることになり
    そこで運命を変える幻の白いゾウと出合い釘付けになる事件が起こる
    それと同時に弓矢を持って羊の皮をまとった人と巡り合う
    彼は先住民のホッテントットとかコイサン族であり
    年寄りなのか若者なのか分からなかった
    本物のストランドローバーだった
    彼の名前は「!カンマ」
    サバイバルの知識と技術を教わりながら
    言葉の交換をしてしばらくの間毎日いっしょに暮らしたが
    ある日忽然と消えてしまう

    この二つの出逢いが彼の一生を形成する大きな転機となる
    ここで意識や五感以上の感覚や存在との出合いを求める
    生き方に強く惹かれることになる
    ネルソン・マンデラが27年間閉じ込められた初めの頃である

    《名前は単なる記号でない・重みと歴史を持ち支配の扉ともなる》
    《答えのない答えを探せ・それこそが大事な問だ》
    《母性は個であり得ず共同体の中心であり太母と呼ばれる》
    雌のゾウはいつも大きな存在の一部として自分を認識している
    単独の太母(母系制)は存在し得ない
    雌が一頭だけになったらもはや何者でもない

    最後の7章《時空を超えて》で語られるコミュニケーション
    というものの無限性は全体観を理解する
    個意識の悟りへの入り口となるかもしれない
    集合意識と繋がる道程なのかもしれない

    バーニークラウスは「野生の聖域へ」で音の棲み分けという考えを
    持ち出しているという
    それぞれの種は音響的領域を持っている
    生命の全ては自分達専用の周波数帯を分け持っている
    地球中に広がって交信できる
    クジラとゾウは超低周波や高周波を使って
    種を超えたコミュニケーションをしているかもしれない

    可能性が無限に広がる何ともロマンのある話ではないか

  • ライアル・ワトソン氏が南アフリカの少年時代に出会った謎の白象とコイサン族(ブッシュマン)の!カンマ。
    滅びゆく象達の深い話が語られる。クニスナの最後の一匹の雌象が海岸でシロナガスクジラと交流するくだりは忘れられない。
    読みやすいし、下手な小説よりもスリリングだった。
    他の著作も読んでみたいと思う。
    ただし、科学のカテゴリに入れていいかどうかは正直迷うところ。

  • 茫洋としていて、ノンフィクションとして読むべきか物語と捉えるか迷う。

  • 面白い本。癒される。すべてのものは生きるべくして生きている。象の鼻という特殊なもの。ヤコブソン器官、低周波、普段意識されていないものが生きていくうえで重要な働きをしている。

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