動的平衡2 生命は自由になれるのか

著者 :
  • 木楽舎
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本棚登録 : 991
レビュー : 115
  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863240445

感想・レビュー・書評

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  • 「『生物と無生物のあいだ』の人だけど、あの本は正直、面白くなかったんだ」
    油絵の匂いのするガレージの隅で、蛹はコーヒーを淹れていた。そこら辺にあったマグカップに、勝手に熱いコーヒーを注ぐ。そして、大きな古いソファに腰を下ろすと、持ってきた本をぱらぱらとめくり、適当に読み返し始めた。

    ガレージの主は、一心不乱にキャンバスに向かっていたが、コーヒーの匂いに気付いて振り返った。
    「オレのぶんは?」
    「俺が持ってきた豆だけど」
    「そこにあるロータスのビスケット、食べていいよ」
    「蚕も、コーヒー飲む?」
    「やった!」
    蚕は筆を置き、トレーナーの裾で手を拭った。それから、ポットに残っていたコーヒーをカップに注ぎ、蛹の隣に座る。身を乗り出して、蛹の手元から本を取り上げ、ぱらぱらとめくった。
    蚕は、ガレージで夜通し絵を描いている。昼間は眠っていることが多い。昼夜が逆転しているので、訪ねてくる人間は少ないし、自分から誰かを訪ねていくことも少ない。蛹は、その数少ない一人だった。いつも何かしら本を持ってきて、そのまま置いていく。持って帰ることは少ない。おかげで、ガレージの隅にはちょっとした本の山が出来ていた。

    「ふーん。生物と無生物のアレは、生命の定義を探す本だっけ。個人的には、生物がらみの色々な話題が取り上げられていて、けっこう楽しめたけど」
    「でも、答えにはたどり着けなかった。結局、自己複製能力という、既存の定義に縛られたまま終わった感じだったように思う」
    へえ、と蚕は相槌を打つ。彼は、どうやら面白そうな箇所を探して斜め読みしているようだった。
    「この人、そのあとも、何冊か本を出してなかったっけ?」
    「うん。で、前作の『動的平衡』で『生命とは動的平衡状態にあるもののことだ』っていう結論にたどり着くんだけど」
    「動的で平衡?」
    「動的で、平衡」
    「動的も、平衡も、理系っぽい言葉だよね」
    「絶えず変化しながら一定の秩序を維持し続けるシステム、くらいに捉えたけど」
    「感覚的には分かるかも。感覚的にしか分からないけど」
    うん、と蛹は頷く。
    それから、ビスケットに手をのばす。
    「で、この本は、動的平衡という概念を広げて生物学やら何やらを眺めてみるっていう感じ。新しかった」
    「新しい? 自分のコピーを作れるのが生命、っていう考え方を変えるってこと?」
    「考えてみたら、それって確かに窮屈だと思って」
    「まあ、もうちょっと何かねえの? とは思うけどさ」
    「うん。自己複製能力だと言われれば、そんなものかと思ってしまうけど、窮屈だし、独りよがりな気がする。それに、生命が『なぜ』存在するのか、という問いに対しては、行き止まりだし。どうでもいいけど、このビスケット、こないだ俺が買ってきたやつだよね」
    「それはどうでもいいんだけどさ、『なぜ』って、理由のこと? お前そんなん考えてたの?」
    「いや、理由というとちょっと違うんだけど、外側に求める何かっていうか―――生命それ自体でどうこうじゃなくて、っていう話で」
    「何らかの秩序を維持するために、生命という仕組みを導入したってこと? あ、なんか違うって顔してる」
    「目的というよりも、そういう仕組みを導入した結果、こういう惑星になった、っていう方が、好きかもしれない。生命という枠から、自由になれるとっかかりのようなものを感じるっていうか」
    蚕は少し首を傾げ、それからじっと表紙を見る。
    「うーん、まあいいや。ゆっくり読みたいから、しばらく貸してよ」
    それから、休憩終わり、と言って立ち上がった。
    蛹は、これからが休憩の本番とばかりに、靴を脱いでソファに横になった。

  • 生命とは何か。
    その定義は長らく、「自己複製するもの」だったらしい。
    生命の目的は子孫を残すことであり、子孫を残すというのは遺伝子を単位としたその複製であり、言うなれば生物の個体は遺伝子の複製のために乗り捨てられるものに過ぎない、と。
    しかし、私たちは確かに生命の号令に突き動かされることもあるが、一方でその命令に背くこともできる。
    結婚せず、子どもを作らずにいることもできる。どうとでもできる。「できる」というのは、可能性・可変性を持つこと。
    となれば、遺伝子の中には「子孫を残せ」以外の号令もあるというべきだ。それは、「自由であれ」という可能性を志向した号令ではないだろうか――というテーマの一冊。
    『動的平衡』に続く、福岡ハカセの生命への考察・第二弾。

    考察内容も面白いのですが、それに行きつく前の事実・エピソードの紹介も面白くて、
    私たちの体内に住む大腸菌は数kgにも及ぶだとか、ヒトの遺伝情報は3GBくらいだとか、腎臓の働き(尿は何か)だとか、
    生物学知識ゼロ人間の私にとっては、読み進めるたびに「へー!」の連続でした。

    私たちの世界には、因果律も運命もない。
    ただ自由と共時的な多義性が確保され、私たちは何かを選び取ることもできるし、そのままにしておくこともできる。その自由さのありように、意味がある――。
    うーん、福岡生命論(論じるというより、エッセイ的な内容ですが)、面白かったです。

  • 前作に引き続き、本当に素晴らしい。
    科学の難しい話しを、実に明快な文学的表現で描いており、スラスラと読み進む事ができた。
    生命を動的平衡と考えてしまうと、そこが最終地点となって、考える事を放棄することに繋がると批判する人がいる。しかし、多くの人が楽しいと感じて読む本には、共感性の高い真理が潜んでいるのだと感じた。万物は流転するし、行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にはあらず、なのだ。ヘラクレイトスや鴨長明が、直観的哲学で唱えた言葉を、科学的アプローチで読ませてくれる良書だった。

  • 動的平衡の流れの中で生命が生命として存在している。過去の偉人たちの偉業と生物学とを巧みに繋げている。

  • 自然の一部

  • 『動的平衡2』(木楽舎)刊行記念
    福岡伸一先生 トークショー&サイン会

    ■開催日時:2011年12月13日(火)19:00〜
    ■場所:丸の内本店 3F日経セミナールーム
    ■定員:100名様
    ■要整理券(電話予約可)

    ■参加方法:丸善・丸の内本店にて、対象書籍をご購入(発売前はご予約)の先着100名様に和書売場各階カウンターにて整理券を配布いたします。
    (整理券がなくなり次第、配布終了となります)

    対象書籍
    『動的平衡2』(福岡伸一著/木楽舎刊/税込1,600円)

  • 1

  • 動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか を読んだので、次は2です。

    内容 :
    なぜ、多様性が必要か? 動物の必須アミノ酸は何を意味しているのか? 
    時間を止めて何が見えるか? 遺伝は本当に遺伝子の仕業か? 
    さらなる深化を遂げた福岡生命理論の第2弾。

    著者 : 福岡 伸一
    1959年東京都生まれ。京都大学卒。青山学院大学教授。
    2007年「生物と無生物のあいだ」でサントリー学芸賞、中央公論新書大賞を受賞。
    ほかの著書に「フェルメール光の王国」など。
    福岡伸一オフィシャルブログ「福岡ハカセのささやかな言葉」
    福岡伸一 | web R25 〜 福岡伸一の20代を振り返る熱いメッセージを完全収録したインタビュー公開。

    2012/5/5 知る。 2012/6/8 予約 9/21 借りる。 10/8 読み始めるが、今回は読みきれずに中断。 また次回!

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  • 興味深い話が散見される。日本のソメイヨシノはすべて同じDNAを持っているとか、進化での重要なのは負けることとか、植物から動物が誕生したのはアミノ酸の欠落からだとか。福岡さんの拡張高い文章に載せて、雑学的ではあるが、興味深い事柄を学べる。

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著者プロフィール

福岡伸一 (ふくおか・しんいち)
生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、青山学院大学教授。2013年4月よりロックフェラー大学客員教授としてNYに赴任。サントリー学芸賞を受賞し、ベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)ほか、「生命とは何か」をわかりやすく解説した著書多数。ほかに『できそこないの男たち』(光文社新書)、『生命と食』(岩波ブックレット)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)、『せいめいのはなし』(新潮社)、『ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで』(文藝春秋)、『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版)など。

「2019年 『フェルメール 隠された次元』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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