春戦争 (新鋭短歌シリーズ7)

著者 :
  • 書肆侃侃房
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863851252

作品紹介・あらすじ

ひたむきな模索
結論づけられない渾沌とした内面とそれをとりまく世界。
東 直子

自選短歌五首
好きでしょ、蛇口。だって飛びでているとこが三つもあるし、光っているわ

すっきりとした立ち姿を見てってよこれがあなたがたの生んだものです

軽く罪にぎって風の中をゆく さほどでもなき人生をゆく

つよい願いつよい願いを持っており群にまぎれて喉を光らす

春の日はきみと白い靴下を干す つま先に海が透けてる

感想・レビュー・書評

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  • 本棚に春が訪れたようです。
    桜色の水彩画の柔らかなタッチの装画・装丁も、丸ごと一冊、陣崎草子さんの作品です。
    ピンク色の帯に東直子さん解説「ひたむきな模索」、
    手に程よく収まり、軽やかな紙の質感にも、
    開く愉しさがあります。

    目次より
    ひざまずく時/したたる翠/グッドモーニング、それから/指を入れてはいけない/群にまぎれて/抜いた歯/春戦争/素直な庭/草木をわけて/月の海神

    ちょっとユーモアがあって面白かったものを一首、春は色んなところで感じることができるなぁ〜と。散歩が楽しくなりそうです。笑
      (桜本)(三木)(畑山)(岡田)(島)
       知らない家の前歩いてく 

    そしてもう一首、記憶の中に温かく残る祖母を思い起こせてくれた歌です。
      花の降るブルーシートに正座して
       「海みたいや」と笑ってた祖母

    新しい本との出会いに、感謝です。

  • 陣崎草子さんの歌集ですね。
    陣崎草子さん(1977ー)大阪生まれ。イラストレーター、絵本作家、児童文学者、歌人。
    解説の東直子さん(1963ー広島生まれ、歌人、小説家、脚本家)は『陣崎さんの歌を読むと、ぽかんと口を開けて何かに見入ってる幼児の姿を思い出す。そして自分もそのような状態であったことも濃密に思い出される。』と綴られています。
    まさに、ひたむきで素直な作風が心地よいですね。

     二の腕をつかめばはっと流れこむ
       熱あり植物園の真ん中

     きみの喉から芽吹きいま茂りゆく夏草
       声の消えてゆくさき

     春の日はきみと白い靴下を干す
       つま先に海が透けてる

     この道がまちがった場所につづくこと
       知ってるぼくらのほどよい笑い

     春の指、長くて節のめだつ
       君の春の指をそっと曲げてごらん

     春戦争 いつまでもずっと開いてる
       ぼくのノートに降りてこい、 鳥

     山百合に似てるわたしの節くれた
       手はしっかりと物を掴める

     かけがえのないものなのだと気がついて
       朝朝食に飾るたんぽぽ

     明け方の笹藪わけて追うきみの
       シャツの背にある裂けそうな月

     どうやって生きてゆこうか八月の
       ソフトクリームの垂れざまを見る

     スニーカーの親指のとこやぶれてて
       親指さわればおもしろい夏

     何故生きる なんてたずねて欲しそうな
       戦力外の詩的なおまえ

     
    陣崎さんはイラストレーターを目指して東京に出てきて、二十代の終わりに穂村弘さんの短歌に出会って衝撃をうけて短歌を作るようになられたそうです。
    『歌、といわれるこの言葉のつらなりは、内に湧いたエナジーの正体に問いかける祈りだった。』と語られています。
    真っ直ぐで詩的な短歌に出会いました。読んでいて楽しくなりますね。


     


     

  • 陣崎草子 短歌 永遠の着水静けさの海へ衛星が散る日に落とす鍵(キィ) 朝の陽にうばわれてゆく爪たちを見送る湖底あれは幸い 晩夏、あの湖面に散っている爪のうすももいろの静けさを聴け 他人の水盗んできては全身に揉み込んでいる三日月の庭 野菜多く買ってなにやら安心しお茶飲んで正座しておれば虫 うだる夜の恋人の胸に滑らせるバターずいぶん海を見てない 春戦争いつまでもずっと開いてるぼくのノートに降りてこい、鳥 返歌 夏戦争すいか割りなり君の声こっちは嘘だ潮騒ゆらぎ

  • 気丈さがよいです。憂鬱をうたう歌人は多いですが、この人はかなしみ、というよりは、かゆいところをかいてみる、みたいな、しめっぽくないところがあるなあと思いました。
    ただ、ひとつの短歌で状況の切り替えがあることが多いので、ちょっと散漫な印象があります。全体を通して読む短歌なのか、ひとつだけ選ぶと弱い感じ。

  • 圧巻だ。僕の思考回路にはまるでハマらない記述だ。僕は意味を込めようとしたり、意味に重きを置いた回路を持っている。彼女は心象風景を描写している。それで定型の枠に収まっているのだ。ことばの散らばりようは、宗教や旅や小説といったジャンルでは収まらない記述だと思う。春戦争の題の短歌は戦争に関した反戦歌とかイデオロギーではなく、ある風景の描写のようだった。

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著者プロフィール

1977年大阪生まれ、東京在住。大阪教育大学芸術専攻美術科卒業。立体造形会社やデザイン会社に勤務後、23歳でイラストレーターとして独立。26歳で絵本作家をめざして上京。2007年、童画家武井武雄について調べていて穂村弘の短歌と出会い、衝撃を受けて作歌をはじめる。2008年よりダ・ヴィンチ誌の穂村弘連載「短歌ください」の絵を担当。同年、歌人集団「かばんの会」入会。2009年、小説『草の上で愛を』で第50回講談社児童文学新人賞佳作を受賞。2013年、絵本『おむかえワニさん』(文溪堂)出版。絵、絵本、小説、短歌を手がけ、作品を発表しつづけている。

「2013年 『春戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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