- Amazon.co.jp ・雑誌 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784863852198
作品紹介・あらすじ
小説と翻訳と短歌を中心にした文学ムック
「たべるのがおそい」はじまります
わたしたちは誰もが重力というものに支配されています。
「たべるのがおそい」は、その重力を少し弱めてみたいと思っています。
読んでいるあいだ、少し動きやすく、歩きやすい、
それがこの一風変わったタイトルの文学誌の目標です。
西崎憲
感想・レビュー・書評
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小説(翻訳を含む)とエッセイと短歌の3本立て。それぞれ、読むときのバランスをよく考えた配置がされていて、リーダビリティが高い。
「こちらあみ子」の今村夏子さんの短篇「あひる」がやはりというか、ディープインパクト。前半の若干のスリラー感から、後半の「わたし」の隔絶感になだれ込むあたりが、パトリシア・ハイスミス「回転する世界の静止点」に通じるような気がする。円城塔さん「バベル・タワー」が森見登美彦作品っぽいヘンテコ感+くそまじめ感でかなり好きである。「日本文学全集」で「雨月物語」の現代語訳を手掛けられたことが効いているのかもしれない。西崎憲さん「日本のランチあるいは田舎の魔女」はちょっと伝奇めいた柚木麻子さん「ランチのアッコちゃん」っぽいと思いながら読んだ。
短歌は挿絵とのレイアウトが美しいと思ったし、語句づかいも面白いと思ったものが多いけれど、正直な話、ナルシスティックに自分の内面を読んだものばかりで疲れる。小説だってつまるところそうなのかもしれないけれど、もう少しフィルターがかかって突き放して書かれたところというか、読者との距離感を取ったところが私は好きである。短歌の作者さんには申し訳ないけれど、下着一丁(あるいは全裸)で迫ってこられる感が強くて辛いんです、個人的に。
掲載作品のなかでは、イ・シンジョ/和田恵子訳「コーリング・ユー」が一番好みだった。電話越しの知らない相手の内面に踏み込んでいく感じは、ちょっとニコルソン・ベイカー「もしもし」に似ているかもしれない。
乱暴な言い方をすれば、これと『MONKEY』があったら、他の文芸誌をごっそり無視して前に進めるような気がする。でも他のも読むよ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本にまつわるエッセイが全部面白かった
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藤野香織さんの「静かな夜」が良い。見えないもの―死者とか気配とか地獄とか―を扱っていて、タイトル通り、話者の息づかいが聞こえそうな感じに、近く静かに進むのがいい。前半は女性、後半は(女性のパートナーである)男性の一人称。
この良さは、短編だからこそ、という気もする。長編はどういう作風なのか少し気になった。
ほかの収録作品もぼちぼち読みたい。 -
巻頭エッセイ
穂村弘
小説
今村夏子★ 円城塔 西崎憲★ 藤野可織★
翻訳
ケリー・ルース 岸本佐知子・訳
イ・シンジョ★ 和田景子・訳
短歌
大森静佳 木下龍也 堂園昌彦 服部真里子 平岡直子
特集
〈本がなければ生きていけない〉
日下三蔵 佐藤弓生 瀧井朝世 米光一成
★★★
155回芥川龍之介賞候補
5度目のノミネートとなった山崎ナオコーラ『美しい距離』
3度目のノミネートの高橋弘希『短冊流し』
初ノミネートとなる今村夏子『あひる』
崔実の『ジニのパズル』
村田沙耶香『コンビニ人間』
7月19日、村田沙耶香に決定。
個人的には、こういう功労賞的受賞よりは、今村さんが超新星のごとく世間に登場し、あみ子のよさを拡散してほしかった。 -
・穂村弘 夢の中の町
見慣れたものが、ほんのちょっと視点を――あるいは名前を――ずらすだけで、ぜんぜん別物のように見えるふしぎ。そんなふしぎを追い求めているのかな。
・今村夏子 あひる
一見、ほのぼの系のお話で、とくに大きな事件もなく終わるんだけど、妙に不穏。なんともいえない、そこはかとない暗さというかこわさが立ちのぼってくる。この人の作品はこれが初めてだったので『こちらあみ子』(だっけ)も読んでみないといけない。
・再会 ケリー・ルース
喪失をえがいた短編。一度読んだだけではちゃんと把握できなかったけど、今も把握できてるのかあやしい。
・バベル・タワー 円城塔
こういう伝奇物っぽい話好き。とてもありそうに始まって、どんどんなさそうなところへ向かっていった。
・はばたく、まばたく 大森静佳
「曇天に火照った胸をひらきつつ水鳥はゆくあなたの死後へ」
(わからないけどなんか好きだった)
・桃とカルピスと砂肝 木下龍也
「キリストの年収額をサブアカで暴露している千手観音」
「青春の管理下にあるぼくだった 明日を平気で殺しまくった」
(そこはかとないユーモアと、ぐさりとつきさされる自我を感じた。)
・虚構こそ、わが人生 日下三蔵
ずっと年上の方だと思っていたら中学生で星新一とあったので、あれっと思って調べたら自分より十歳お若かった。わたしも星新一から図書館の大人コーナーに入っていったもんな~。裏と表の二重生活かあ。そういうのもありか。(息子のことを考えてる。)
……一編一編ぜんぶ書くつもりだったけど、力尽きた。でもぜんぶすみずみまでおもしろかった。つぎは紙版を買うつもり。
いちばん好きだったのは、最後の「日本のランチあるいは田舎の魔女」。
物語を読む楽しさを存分に味わった。そして出てくるランチがとてつもなくオイしそうだった。くもりさんとまた会いたい。 -
好︰円城塔「バベル」/ 西崎憲「日本のランチあるいは田舎の魔女」