- Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
- / ISBN・EAN: 9784863854192
作品紹介・あらすじ
第29回歌壇賞を受賞し、幻想小説も発表する著者の鮮烈な第一歌集。
叙情の品格、少女神の孤独。端正な古語をもって紡ぎ出される清新の青。
川野芽生の若さは不思議だ、何度も転生した記憶があるのに違いない。
――山尾悠子
【収録歌より】
アヴァロンへアーサー王をいくたびも送る風あり千の叙事詩に
天上に竜ゆるりると老ゆる冬われらに白き鱗(いろくづ)は降る
harassとは猟犬をけしかける声 その鹿がつかれはてて死ぬまで
ほんたうはひとりでたべて内庭をひとりで去つていつた エヴァは
詩はあなたを花にたぐへて摘みにくる 野を這ふはくらき落陽の指
感想・レビュー・書評
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わがウェルギリウスわれなり薔薇(さうび)とふ九重の地獄(Inferno)ひらけば
狂恋を逃れむがため木となりし少女らならむ花のなき森
harrasとは猟犬をけしかける声 その鹿がつかれはてて死ぬまで
無性愛者(アセクシャル)のひとはやつぱりつめたい、とあなたもいつか言ふな だありや
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自然や動物だけでなく幻想世界を掴み取っているようなスケール感。社会的な普通への反抗心が、文語で端麗に紡がれている。すごすぎる -
Lilithとは繭の中のぬばたまの夜。
Lilithとは挑みつづける孤高の少女。
Lilithとは何者にも平伏さない気高い獣。
Lilithとは夢幻の空間を舞う術を教示する歌。
Lilithとは無数の私の始源を無限に描写した絵画。
頁を繰る指先から火花が散り、湧き起こる風は一つの世界の上を渡る。あらゆるものの輪郭をなぞり、名付けてゆく風だ。そこでは魚が囀り、水が燃えることもあるだろう。空を流れる優麗な言葉を掴まえたくて繋ぎとめたくて、ゆっくりと息を吸いこむと、胸を鋼のような光で射抜かれる。恐ろしいほどの才能に震えた。 -
どれもこれも感銘受けるばかりだった。
ここまで自身と言葉に厳格に対峙するような人いただろうか。
おっかないな、と思いながら読んだ。
歌はどれもこれも素敵だったけど、この人に惚れ込んだり目標にすると、いつかこのひとの持つ透徹さに切り裂かれるか、窒息しそうな怖さがあった。
作品は好きです。 -
Twitterで話題になっていたので手に取りました。現代短歌を読むのはこれが初めて。文語調の作品で格調高く、一読しただけでは作品を味わい尽くせない奥深さがあります。限られた文字数で表現された言葉による芸術は1枚の絵画、或いは写真のようにも感じられました。また『言葉の内包する構造にそのまま操られることなく、言葉と刺し違える覚悟を持つこと、それこそが文学の役割であると信じて』いるという著者の言葉にも痺れました。
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P.47。三文字が反芻する。これは自分だけかもしれないけれど、恐らくそうなのだろうけれど、思わず深く頷いてしまった。
単なる一個人の意見ではあるが「わたくし」が水生生物であるかどうか等聞いてしまうのは些か野暮に思える。そう思った。頁を開き、手に取った栞を読み首を傾げた一文だ。完成された空間に手を加えるなど不必要だということに疑問を抱える必要は無い。何故ならこの文字群は、まさしく、作音楽器だからである。
決まった音だけでなく、微妙な、その日全てを引っ括めた一瞬でしか味わえない音をあえて閉じ込めたそれらに対して何を疑問に思う必要があろうか。湿った苔は岩肌に、彼女の声は貝の中に。それでいい。それだけが救いだ。これは、Lilithは、ほころびを許さない作品であるとも思う。ほころびに見えるものは「そうあるべきもの」として存在している。如何にも、世界は此処にあったのだ。息巻く色とりゞゝの花と濡れた枯葉は晦冥に呑まれる前に此処に落ちたのだ。Lilith、かがよう字を、また教祖を目撃した心地である。出逢えた事に感謝を。 -
カバーなしの単行本。青い翡翠に竜の鱗が浮かぶような、とても美しい佇まいに惚れ惚れ。価格もISBNコードも帯にお任せのシンプルさが清々しい。思い切ってる。帯の飾りも竜の鱗だろうか。
みそひともじの異界体験に胴震いがした。物語や空想のほか、そんなところにも、と思うような時と場所に、夢・幻・魔が口を開けて呼ばわっているような。それを見出し取り上げる感性と、格調高く美しく、しかも自由な言葉で表す戦いぶりに眩暈がする心地。読んで、見て楽しいばかりか、時には頭韻がりんりんと鳴って口ずさみたくなるようなものまで。今後も気になる歌人に出逢ってしまった。小説もあるらしい。読まねば。 -
歌集を読んだのはほぼ初めてだったが、31文字で掌編小説のような世界が作れることに驚き、美しい日本語に驚いた。知らない言葉が多く、噛み締めるように2ヶ月くらいかけて読んだ。充実した読書体験だった。
著者プロフィール
川野芽生の作品





