自由 (現代歌人シリーズ30)

著者 :
  • 書肆侃侃房
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863854352

作品紹介・あらすじ

海暗くあるのみ白き灯台は光の問ひを投げつづけをり

東日本大震災からまもなく10年。宮崎で暮らしながら、他の人々のために、自分自身からも自由であることを模索しようする本歌集は、読む人に「自由とはなにか」を問い続けます。


【自選6首】
海暗くあるのみ白き灯台は光の問ひを投げつづけをり
ジャカランダの落ちたる花も木に残る花もむらさきにけぶるあしたは
見せることあらねど見せしめのごとき死を死ぬのか人は目隠しをされ
川沿ひと信じ歩いてきた朝のここは川ではなくて海峡
晩おそなつ夏の阿修羅像きみは正面をわれは左の顔を見てをり
オーロラを動かすマウスに触れて子はひとり極地に立つごと冷えて

感想・レビュー・書評

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  • 学校へ行かない自由に揺れてをり川辺に群るる菜の花の黄【きい】
      大口玲子

     本年度の第48回日本歌人クラブ賞を受賞した、第7歌集「自由」。すでに多くの受賞歴がある大口玲子は、現在暮らす宮崎市で、キリスト者としてさまざまな活動も続けているという。

     東日本大震災当時は仙台在住で、被災者として居を転々とせざるを得なかった。その体験から、九州電力川内原発を巡る訴訟の原告の一人になる決意が生まれた。

     ・A4で二枚の意見陳述書読みつつ落椿の加速せり

     鹿児島地裁で、緊張しながら意見陳述をした折の様子。その後に、〈原告席より眺むれば傍聴席二列目の息子ふかく眠れる〉と、一人息子の姿を活写しているところに、母としてのまなざしもうかがえる。

     小学校高学年の息子は、教室ではなく図書室登校を選択するようになった。冒頭の歌「学校へ行かない自由」を発見したのだろうか。息子に付き添い、共に悩み、考える母。

     ・学校に行かなくてもよいが勉強はすべしと思ふ 自由のために

     あとがきに、ドイツの神学者で反ナチ抵抗運動の一員でもあったボンヘッファーの言葉が引用されている。「観念の世界への逃避ではなく、ただ行為の中にのみ自由はある」。

     ナチスにとらえられ、39歳で刑死したボンヘッファーは、苦痛と不自由の中の「行為」に「自由」を見いだした。その言葉が歌集題となり、息子に贈る言葉となったのだ。 (2021年6月6日掲載)

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著者プロフィール

1969年東京都大田区生まれ。歌誌「心の花」所属。早稲田大学第一文学部日本文学科卒業。中国長春市、東京や仙台市や福島市で日本語教師をつとめる。1998年、「ナショナリズムの夕立」で第44回角川短歌賞受賞。宮城県仙台市、石巻市を経て、現在は宮崎県宮崎市在住。歌集に『海量』(雁書館 1998)、『東北』(雁書館 2002)、『ひたかみ』(雁書館 2005)、『トリサンナイタ』(角川書店 2012)、『桜の木にのぼる人』(短歌研究社 2015)、『ザベリオ』(青磁社 2019)、歌文集に『セレクション歌人5 大口玲子集』(邑書林 2008)、『神のパズル』(すいれん舎 2016)がある。

「2020年 『自由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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