寂しさでしか殺せない最強のうさぎ (現代歌人シリーズ)

著者 : 山田航

• 書肆侃侃房 (2022年7月20日発売)

作品紹介・あらすじ

雨宿りやめる決意を君はする止んだのか濡れる気かは知らない​

小説的な企みのなかに、
「ひかりってめにおもい」ことや
「夏が動く音」、「手渡し」の危険さといった
日常に潜むスリルが散りばめられている。
ふいに出現する
口語の息遣いに虚をつかれた。（江國香織）


【収録歌より】
猫の頭蓋骨は小さい　手に収まるくらいの量の春つかまえる
手渡しは危ないからさテーブルに置くよ紅茶もこの感情も
ひかりってめにおもいの、と不機嫌だごめん寝てるのに電気つけちゃって
電線で切り刻まれた三日月のひかりが僕をずたずたに照らす
海、海、海、海が見えるよ僕たちは海に奇跡の投げ売りを見た

感想・レビュー・書評

[fukayanegiさんの感想 · 2023年4月3日]

地元図書館でリクエストしたら、近隣図書館からの相互貸借というシステムにより借りられた一冊。
購入してもらうことは叶わなかったものの、蔵書なき本を読めたことは感謝。

実はこの本の前に『桜前線開架宣言』が手元にあったのだが、濃密過ぎて全然前に進めないし、返却期限厳守の本書が届いたこともあり、『桜前線～』は一旦返却することに。

で、本書。『世界中が夕焼け』や『ことばおてだまジャグリング』といった解説、エッセイの文章は読んだことあったけれど、山田さんの歌集自体は初めて。

意外にもちょっと難しく感じた。
というか、その描写に込められた心の在り様が想像しきれないものが多かったかなと。
というのも、破調というのでしょうか、どうやって五七五七七のリズムで読んだらよいのかわからないものが多くて。

特に最初の”五”が五ではないことが多いようで、最初で挫けるともうどう読んでいいかわからなくなる。
でも、このリズムの崩れをうまく飲み込めれば、より味わいが増すのだろうなぁと読み手としてのスキル不足を実感。
安易な解決としてオーディブルとかあるといいのになぁ、と思ったりもしたけど、字面や空白、句読点がもたらす妙味もあるので難しい。

■好きと感じた歌

〇目論見がはずれ制服ぶかぶかなままの卒業　十五の夜に

〇「４年ぶり２０回目の出場」の「ぶり」で片付けられた世代へ

〇テトラポット飛び渡ってく素足、風あびてまばゆい歯列矯正

〇一円も使っていない日曜日ゆうばえ染まる公園にふたり

〇さめるのをちょっと待ってた煮つめたてのココアも身の程知らずの恋も

〇きれいごとたわごとうわごとえそらごとまるごと君のなら聞きたいよ

〇ただしいとただいとしいの差分から伸びてもつれてもどせない糸

〇振り向いて笑ってみせたりしなくていい傷つく場所を間違えちゃだめだ

〇一日を終わらせていい夕焼けはそんな許しとして機能する

〇完璧な二人になんてなれないや死ななきゃだいたいハッピーエンド

〇足跡をなぞって歩む巨大なる自由帳ふたり占めしながら

〇春のゆき浴びる駅舎でもうしばらくカステラみたいな会話をしよう

〇東京の防犯カメラに映されたすべてのキスを集めた映画

〇夜の地平線のあたりでぼやけてるあれがイオンでその右が月

〇乾燥機の中に投げ込むスカートと呑みこんだ言葉とトランクス

〇金魚鉢のなかであそんだまだそこが容器であると気付かぬままに

〇ポリタンクへ灯油をわたす初春には君と僕ではなくなる僕ら

〇貨物車がごうと過ぎゆき思い出すクラス中から無視された朝

〇「似てる」「あー、似てるミサキの元カレに」フードコートの水がぬるいな

恋の歌、若さの歌、寂りょうの歌が多く心に響いた。
特に最初に挙げた歌は、先日娘の卒業式で目にした少年たちの未来を感じさせ、また週末手元に届いた『未来のサイズ』（俵万智）の歌の全貌とも期せず繋がるものがあり、感慨深し。

[fukayanegiさん · 2023/04/07]

ベルガモットさん、こんにちは。

ありがとうございます！
それが、忘れ物をしてしまいまして。。。

いざさらば　響く歌声その後方ハンカチ忘れ天井仰ぐ（fukayanegi作）

気合いで堪えましたw

[☆ベルガモット☆さん · 2023/04/07]

おおおおお、fukayanegiさんの涙をこらえておられる姿が想像できますっ！
式の合唱歌声が聞こえる状況がイメージできて、聴覚と視覚の刺激や、感涙も体験できる、とても素敵な作品ですな！歌集をいっぱい読まれているのでさすがです☆
いよいよほむほむ短歌会、入会ですね♪短歌くださいの自由詠にさっそく投稿なさってはいかがでしょうか？！

[fukayanegiさん · 2023/04/08]

いえいえ、お粗末様でした。
あ、詠めるかもと思う程のシーンだったので挑戦してみましたが、そうそうは難しいですよ〜。
応募なんて恐れ多い。

[☆ベルガモット☆さんの感想 · 2022年12月10日]

江國香織さんが帯だなんて贅沢！
たぶん200首以上の短歌が収録、詩も少しある第3歌集。2012‐2021年の10年ほどの時期の短歌だそう。歌集を出すたび、何かに対して卒業することにしているとのこと。
山田さん独特のこじらせ感が混じりつつ、語彙力の豊富さ、全方位からの視点のずらしに脱帽。ブックオフとか無印とかも詠っていて、真似したいと思った。厳選して特に好きな5首。

暗闇と時間は部首が同じだな暗闇どっちも音があるのな
（部首と音の有無という新視点、暗闇に光が見えるような気がした）
「4年ぶり20回目の出場」の「ぶり」で片付けられた世代へ
（ぶりに着目して、その世代の見えない哀しみが伝わるよう）
海が遠ざかってく車窓　思い出は何もない海だけどさみしい
（海で遊んだあと去っていくところでしょうか、たまたま通りすがりでしょうか）
東京の防犯カメラに映されたすべてのキスを集めた映画
（街の小さい映画館に上映されてそう。観たい！）
乾燥機の中に投げ込むスカートと吞みこんだ言葉とトランクス
（同棲してだいぶ慣れたカップルの気だるさでしょうか、喧嘩しちゃったのかしら）

[傍らに珈琲を。さん · 2022/12/10]

ベルガモットさん、こちらにもこんばんは！

４年ぶり…の歌は共感しました。
◯年ぶり◯回目の出場です！とはよく聞くフレーズだけどモヤッとすることもあったんですよね。
高校野球にしろ合唱コンクールにしろ、４年ぶりだとしたら、３年生でさえ初出場なんですよ。
出場の願い叶わなかった努力の年月を、さらっと通算の数字で表されてしまう事に、なんだかな～って思ってました。

東京の防犯カメラ…こういう目線って流石だなーと思いました。
「キスを集めた映画」と言われると、ニュー・シネマ・パラダイスしか浮かびません。
詠まれた方もこの映画ご存知なのかしら？

[☆ベルガモット☆さん · 2022/12/11]

傍らに珈琲を。さん、こちらもコメントありがとうございます♪

『出場の願いかなわなかった努力の年月』にスポットライトを当てちゃう山田さんの優しい視線に共感しちゃいますよね～
なるほど、キスを集めた映画のシーン、『ニュー・シネマ・パラダイス』にありましたね！！ご指摘ありがとうございますっデジャブな感じがしていたので、すっきりしました☆
生活はそれでも続く、の中に切り取られたシーンを詠っていて好きな歌集でした。

[傍らに珈琲を。さん · 2022/12/11]

ベルベットさん、こんにちは

お返事有難う御座います♪
ホント「優しい視線」ですよね。
短歌って永遠の長さも瞬時も同じ57577に詠えてしまうのが本当に素敵です。

「ニュー・シネマ・パラダイス」でスッキリされたようで、なによりです☆
この映画、思い出の映画なんです。
「それからはスープのことばかり…」をレビューしたのですが、そのしたの方に書いた映画エピソード、当時見た映画は「ニュー・シネマ・パラダイス」でした。

[コルベットさんの感想 · 2022年10月26日]

『久々に持った受話器は軽すぎて伝えたいこと忘れそうだよ』

[koshiさんの感想 · 2022年8月9日]

摘む花をすべて忘れて僕たちがずつと寂しくありますように

.
忘れられないから、思い出してしまうから寂しい。あるいは、これから忘れてしまうことが、寂しい。

すべて忘れてしまったら、はじめからなにもなくなったら、寂しくなくなる？なくなるはずなのに、それは、すべて忘れることが、それ自体が寂しいという矛盾を孕んでいる。

.
東京の防犯カメラに映されたすべてのキスを集めた映画

[iwanoaidaさんの感想 · 2022年8月10日]

タイトルがおもしろくて最初に見た時に笑った。

関係性に着目した歌集とのことで、恋愛の歌(相聞歌)が多い。

君に出会ったときの鼓動がまるっきり「チェリー」の出だしのドラムだったな

ああ君が働いている夜に見る俗悪番組おもしれえなあ

「肯定」と「青空」ちょっと似てること肯定じゃなく青空してよ


思い切りせつない路線に振り切った歌よりも、湿った感情が乾きかけているときに出てくる言葉みたいなのがおもしろい人かもしれない。

[hatsudonさんの感想 · 2023年4月9日]

北海道在住の人しかわからないであろう事が共感できたし、こんな短い歌でぎゅっと詰まってる思いが素晴らしい。

著者プロフィール

1983 年札幌生まれ。札幌在住。
第一歌集『さよならバグ・チルドレン』（ふらんす堂）、第二歌集『水に
沈む羊』（港の人）。
編著に『桜前線開架宣言』（左右社）、エッセイに『ことばおてだまジャ
グリング』（文藝春秋）。

「2022年 『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』 で使われていた紹介文から引用しています。」