私は呪われている (ミステリ珍本全集06)

著者 :
  • 戎光祥出版
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784864031301

作品紹介・あらすじ

圧倒的な筆力で怪異の世界を描き続けた直木賞作家の真骨頂!幻の少女向けホラー「双面の舞姫」他4篇を併録!

感想・レビュー・書評

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  • 疲れた…!
    なんという濃さ…。しんどい、でも続きが気になる、しかししんどい…の繰り返しでようやく読み終わった。が、490ページを2日たらずで読み終わってみれば、やっぱりどうにも惹かれて仕方なかったのだなと分かる。

    表題作は、前途有望な医学生と若き警察署長が「化け猫」の影を漂わせて死んでしまった事件から、この二人の遠い先祖の悪因が語られ悪果の謎が解かれていく次第…が、その悪因の濃いこと濃いこと、悪因悪果の「悪果」を凄惨に描く作品は多いけれど「悪因」を執拗に、ページのほとんどを割いて描き出す橘外男は一種の変態なのじゃなかろうか。それほどに悲惨で、津黒山の悲劇部分を一字一句をまともに追っていけば読み手のこちらがおかしくなりそう。マンガ「デビルマン」の虐殺場面を越えるかという(実際はこちらが先だけど)。
    ゆえに、読み始めは非常に同情できた医学生にも警察署長にも「それは呪われる。呪われるしかない」と言わずにはおれなかった…。親の因果が子に報うことがあってはならないと思うけれど、謂れなき悲劇に襲われたならばやはりここまで徹底的に末代まで祟らなければ気が済まないだろうという暗澹たる気持ちになった。ちなみに化け猫は忠義猫で、この忠義猫の活躍たるや凄まじく、そこは快哉を叫んでもよいかと。これ、猫でも犬でもいいのじゃないかしら。でも犬だと怪談にならないかな。猫であるゆえの怪談味が抜群に良いので。
    …で、かように読者を疲れさせておきながら、この結末はなんたることかと思わせる肩透かしなのだけど、それまでがあまりにあまりな濃さなので、橘外男も疲れたのではと推察。いいのです。この終わり方で良いのです。タイトルももうこれでいい。

    ちなみに続く「双面の舞姫」はタイトルでネタバレしちゃってるのだけど、少女向け小説としてはエグくて、やっぱり橘外男ってへんた……もとい、「私は呪われている」で悲劇に倒れた郡山署長を思わせる藤巻警視とその妹が元気で、警視に至っては大活躍なのでちょっと嬉しい。しかしエグい。

    残りの「人を呼ぶ湖」「ムズターグ山」「魔人ウニ・ウスの夜襲」は短いしエグ味は控えめ。エグいけど。
    「雨傘の女」も超短いし現在では珍しくない怪談だけど、橘の筆が巧いのでとても怖い。ゾッとして読み終われる良い配置。

    しかし疲れた…

  • 怪異譚、秘境冒険譚、時代物、ホラーそして因縁話……ここらへんの要素がごっちゃになりつつグイグイ読ませるテンポの良さ。いやあ、えらいものを読ませて頂きました。(特に「双面の舞姫」はいろんな要素が多すぎて、今の時代、あのネタは問題作だけどそれすら含めてガンガン読ませる勢いが凄い……)
    解説・巻末資料で、橘外男の改稿癖について説明されてましたが、こんだけ大量に異本があると、私なんかはどれ読んだことがあるのか分からなくなりそうな感じすね。いやはや凄い。

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著者プロフィール

橘外男
一八九四年、石川県に生まれる。厳格な軍人の家庭に育ったが中学を退学、札幌の叔父に預けられる。その後、医療器機店、書籍配給会社などの職を転々。一九二二年、有島武郎の推挽を受けた『太陽の沈みゆく時』でデビューし、ベストセラーとなる。三六年「酒場ルーレット紛擾記」で『文藝春秋』の実話募集に入選し再デビュー。三八年「ナリン殿下への回想」で第七回直木賞を受賞。五九年死去。作品に『陰獣トリステサ』『青白き裸女群像』『私は前科者である』等がある。

「2023年 『橘外男海外伝奇集 人を呼ぶ湖』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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