カタツムリが食べる音

  • 飛鳥新社
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784864103015

感想・レビュー・書評

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  • タイトルと美しい装丁に惹かれて手に取った。
    カバーのところどころに緑のいびつな穴があいている。
    なにかと思ったらカタツムリの食べた跡だったんだ。
    最初は気にも留めなかったけれど、読み終わって改めて装丁を眺めるとその穴がとても可愛らしく感じる。

    この本の著者は長年原因不明の難病に苦しんでいた。
    歩くことももちろん気軽な外出も儘ならぬ不自由な生活を強いられてる。
    そんな彼女の元に一匹のカタツムリがやってきた。
    彼女はすっかりカタツムリの虜となりいつしか生きる糧となった。

    カタツムリの仔細な観察はもちろんのこと、ありとあらゆる文献を読みこみ熱心にカタツムリを研究し続ける。
    この本の内容も彼女が難病に苦しむ心情の吐露は最小限で、カタツムリの考察が全体を占める。
    例えばカタツムリの歯は2640本もあるなんて驚きだったし、求愛行動の独特さは想像もつかないもので非常に面白い。
    しかしカタツムリにさほど興味を持たない私にはいささか退屈でもあった。

    それでも彼女が己と一匹のカタツムリを重ね合わせながら希望を見出していく姿には心を打たれる。
    彼女は最後には緩やかに回復し自宅へ戻ると同時にカタツムリとさよならする。
    日常生活を取り戻していくとカタツムリへの関心も徐々に薄れていく。
    それで良いと思う。
    いっときでもカタツムリが彼女の支えになった事は間違いがないのだから。

    「最後に星を見て、眠りに就く。歩みがどんなに遅かろうと、できることはたくさんある。私はあのカタツムリを忘れない。いつまでも、決して忘れない。」

    素敵な本に偶然ながらも出会えたことに感謝。
    この本が病に苦しんでいる誰かに届きますように。

    余談
    あとがきもあるように、YouTubeで"The sound of snail eating"と打ち込むとカタツムリが食べる音を聞くことができる。
    これ、お勧めです。

  • カタツムリの専門家が書いた本だな、食べる音ってどんなだろうと軽い気持ちで読み始めたが、すぐに引き込まれた。
    著者は元々カタツムリに関心があったわけではなく、難病でほぼ寝たきりの生活をしていた時に、友人が何となく家の近くで見つけたカタツムリを鉢植えに乗せて置いて行ったのだった。
    本を読むことさえしんどい中で、カタツムリを見守ることが著者の日々の生きがいになる。
    その生活を綴る文章がとても良い。
    詳細な観察と、後にカタツムリについて深く学んだ知識から語られる、情に溢れたカタツムリの生態。
    正直、カタツムリに興味のなかった私も、近所で観察できないか探しに行きたくなるほどだった。
    同時に、社会から切り離された状態で、生きるということを突きつめざるを得なかった著者の、表面上は静かな、けれどとても苦しく激しい戦いにも胸を打たれた。

  • 流れている時間が違う。
    違うってことに気付かされる。

  • 難病で動けなくなった著者が見舞いに来た友人の気まぐれでカタツムリを飼育することになり、その観察記録をのちにまとめたもの。カタツムリへ徐々に興味をもち惹かれていく様子が詩的な表現でかかれていて、読んでいても暗い気持ちにならずゆったりと読み終えることができた。訳もとてもよいです。

  • 「カタツムリが食べる音」 作者が寝たきりの生活を送っていた時に、ひょんな事からルームメイトになったカタツムリの観察記。世界に興味を抱き、意思を持って冒険を繰り返す小さな命に、スターウォーズで実は男前な勇者だった R2-D2 に喝采を送った時のような興奮を味わいました。よい本。

  • 好き

  •  ひとの時間とカタツムリの時間。
     狭いけれども広大な世界。

     自分の殻に閉じこもること。カタツムリの生き方。
     ただ、見つめるという静かなちから。

     映画を見ているような本でした。味わい深い。
     おそらく写真を増やしたりもっとキャッチーに売りだすことも可能だろうが、そうしたら安っぽくなってしまうんだろうな。
     文字の力を感じる。

  • 病気になり、ベッドで寝ているしかなくなってしまった著者が綴るカタツムリの詳細な記録。多くの文献からの知識とかわいらしいカタツムリの生態に非常に興味をそそられた。意外と知られていない身近な生物についての入門書。文学的な作品でもありながら、科学的な視点も持ち合わせており飽きずに読むことができた。表紙がカタツムリに食われた工夫がしてあり、手元においておきたい本。以前読んだ飛鳥新社の「ハキリアリ」も同様の工夫がしてあった。ほかの生物に関する本も探してみる価値がありそうです。

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