デービッド・アトキンソン 日本再生は、生産性向上しかない! (月刊Hanada双書)
- 飛鳥新社 (2017年5月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784864105484
感想・レビュー・書評
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外国人から見た日本。素直な意見。
観光業や伝統産業について、その接客のマズさ、特にルール至上主義で融通利かず、クレームに対して大多数を無視して禁止項目の乱立、そんな風にリスク回避思考が強いためにIR誘致や富裕層向けホテルの発想にも到らない。
日本は勤勉さや技術力に自信があるようだが、GDPの成長との相関関係は証明されておらず、データサイエンスによるEBPM(証拠に基づく政策立案)ができていない。だから、自分たちが「おもてなし」を目的に海外旅行をした事がないにも関わらず、外国人には日本の「おもてなし」を目的に日本に来てくれる事を期待してしまう。クールジャパン政策。お客さんではなく、社内の論理を重視する会社のように、ピントがズレている。それが日本の実態だと言われている気がして、同意せざるを得ない。
筆者は日本が嫌いな訳ではない。これには間違いなさそうだ。ただ、日本人の勘違いした自画自賛の態度は頂けないのだろう。これもよく分かる。
ところで、肝心な生産性の話は?一人当たりGDPのランキングで世界30位の日本。しかし、生産性を示すデータとして、この結果を見て生産性が低い、生活残業、無駄な会議が問題と切るならば拙速であり、筆者に前述の論をお返ししたい。長寿、少子、女性就業率で労働(年齢)人口が少ないために、総人口比で一人当たりGDPは下がる。著者が言うようにデフレ環境もあるし、最も目立つのはサービス業の生産性の低さ。単に働き方だけでは、結論は出せない。
ただ、会議や残業、IT活用度の低さについて言いたい事は分かる。同じ事を何度も発言する人、それでも理解しない人の多さ、それ故に資料作りに熱が入るような、この社会全体に蔓延る悪しきスパイラルよ。ルール至上主義についてもそう。自分で考える、自分の意見を持つという軸が無いから、表現力も理解力も、応用力も育たないのだ。組織が意見を聞かないから、それを持とうという努力もしなくなる。年功序列による政治力ヒエラルキーの勝ち抜き戦。その頂点界隈に、意見できず。日本だけでも無いが。ファクトと信じた検索結果を基準に生きていく事の弊害。現代病、徐々に。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アトキンソンさんの著書の内容は毎回うなづくことばかりで、線を引くとしたら線だらけになってしまう勢い。バックグラウンドの前提なしに日本を他の国と比較する、日本のメディア批判はまったくそのとおりと思う。ほんの少しだけ電車が乗るのを待ってくれることは田舎だったらあるかもしれないけれど、小さいうちの近所の駅ですら、乗客を電車が待ってくれなくて、そんなにタッチの差だったら待ってあげてもよいのに、と思ったことを思い出した。
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日本について興味深いDataメモ。
<敗戦と高度成長期と微調整ばかりの事なかれ主義>
高度経済成長できた理由は、日本人気質(生真面目さや器用さなど)の要因は小さく、人口大国(ドイツ人より遥かに多い!)だったところに敗戦というゼロからの出発(とりわけ酷い状況だったドイツでも敗戦に伴うGDP減少率は3割だったが日本は5割減!)で団塊世代が働き手になったことが主因(欧州の人口増加率は戦後から2割増に対し日本は8割増!)。その強みがあったからこそ微調整で何とかなってきたわけだが、その成功体験が重しになって微調整しか出来ない世代が多勢を占めるようなった。
アトキンソン氏はだからこそ、変化のアレルギー、事なかれ主義を取り除くことができれば成長の希望があると説く。そのためには感情論を止め、エビデンスを重視し、ロジカルに考えた計画性と行動力を上げること。従来の秩序を壊してでも(どの道今の秩序は持たない)新たな価値を創造すること。イギリスも植民地を失い富の余剰がなくなって、教育からロジカル重視に転換してきたという。日本もイギリスと状況は似ている。
<海外で日本文化は人気とは言えない>
無形文化財の「和食」でもブームとは言えない。欧州の和食レストランの数は東京のフレンチ、イタリンの数とほぼ同じ。TopAdviserの「世界Top50」のレストランで和食はわずか2店。マスコミの煽る「日本を自画自賛する愚」から脱せよ、と。
<移民と社会保障>
筆者は移民受け入れに反対の姿勢。80年代、イギリスは観光ビザ入国者にも健康保険制度を適応したため医療ツーリズムによって財政が圧迫された経験を持つ。経済圏でつながるEU全体でさえ、移民はEU人口の9.4%でそのうちEU圏外からの流入は6.3%(点数制度で所得、学歴、IT関係などの業種別に高得点の人だけ移住できる)。歓迎している数字とは言えない。日本では難民(移民の中でも祖国を追われた人びと)は3年ほど合法的に滞在することができる。難民申請も何度もできるので4回もすれば12年間も滞在できる実態について危惧する。
<労働と賃金>
ベースとして男女の収入格差が倍もあるため(先進国平均は女は男の約8割)、女性労働者を増やすほど男の就業率低下や収入減による不況に陥るという。この構造は高齢者再雇用にも非正規労働や同一労働同一賃金、Global化×Online化(つまりRemote Workやクラウドソーシンクなど)にも重なる。筆者は雇用を創出するのでなく、既存の低賃金労働者の生産性を上げて今の男の賃金に近づけよ、と主張する。 -
読んでて、たしかに、なるほどな、となる。
現在の日本で生産性が低いことなど、様々な要素が「高度経済成長期」の社会の在り方と結びつけられている。
この「良かったときの日本」から「落ち目の日本」になっていることを自覚して、早急に手を打たないといけないのだと思う。 -
感想
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観光産業と生産性向上とがなんかこんがらがってるように思える
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小西美術工藝社代表取締役・デービッド・アトキンソンさんが毎回訴えている”生産性”について、小西美術工藝社で代表取締役を担う事になった経緯や、その後の仕事で経験を踏まえ熱く語られている本です。ここ数年の”日本万歳番組”についても警鐘を鳴らされております。瀧川クリステルさんで一気に認知された”おもてなし”についても、”外国人はそんなものは大して求めていない!”っとバッサリ切り捨てるアトキンソンさん! 嫌いじゃないですよ、私は!
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日本人は事なかれ主義。問題意識はあるが、行動を起こさない。日本人は前例がなければ動かない。現状を変えることへの拒否反応がある。論理的思考が苦手。論理的思考には何よりもデータとそれを分析する能力が必要となる。近年、データサイエンスの発展により、世界的にはあらゆるデータが簡単に手に入り、検索、分析ができるようになったが、日本はデータがない時代のまま。日本が先進国になった理由は高い技術力と勤勉だったからではなく、人口大国であったから(経済=人口×生産性)。日本の生産性向上の鍵は女性の働き方を見直すこと。
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生産性向上は、自分の中でも解決すべき大きなテーマ。本書はイギリス出身の金融アナリストから宮大工集団 小西美術工藝社を立て直した方による書籍で、マネジメント視点を期待していたが、観光行政視点が7割で、ちょっと残念。そうなら題名に『観光立国を目指して』など入れてほしかった。
観光視点では面白い提言がまとめられているように感じる。そちら方面の知見が乏しいので、なんともいえないが。
生産性については、引き続き学習継続です。