目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画

  • 飛鳥新社 (2020年6月1日発売)
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本 ・本 (428ページ) / ISBN・EAN: 9784864107471

作品紹介・あらすじ

◎世論と政策のキーマンをどう操り、反対者を沈黙させるのか? 
おそるべき影響力工作の全貌が白日の下にさらされる、禁断の書。

◎原著は大手出版社Aleen&Unwinと出版契約を結んでいたが刊行中止、その後も2社から断られた。
「(本書の)販売中止を決めた自粛は自己検閲だ」(フィナンシャル・タイムズ)と物議をかもし、
中国共産党の海外工作ネットワークをすべて実名入りで解明した、執念の本格研究、ついに全訳完成!

◎オーストラリア政財界・メディアに介入した手法は、日本にも使われている!
「中国が他国をどのように影響下におこうとしているのかを知りたければ、まず本書を読むべきである。」
(ジョン・フィッツジェラルド教授の推薦の言葉)

◎「世界各国のモデルになるのでは」とされる、ターンブル政権の外国人・企業からの献金禁止の法制化や
「スパイ活動」の定義拡大の動きに本書が先鞭をつけた。
「中国による浸透工作が半ば完了しつつあった時、強烈なウェイクアップコールとなったのが、
ハミルトン教授による本書「サイレント・インベージョン」である。本書はオーストラリアを変え、
アメリカにも大きな影響を与えた。」(監訳者解説より)

感想・レビュー・書評

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  • オーストラリアの中国共産党の影響結果が見える本。
    多用民族の受け入れなグローバリズムな社会脆弱性をつくナショナリズム+共産党国家の新たな脅威。
    もはや侵略。
    何を言ってもヘイト扱いされそうな環境整えたという意味ではしたたか。
    これが世界中でおきている。
    よくぞこれだけの事例をそろえたと見る。証拠がないものは推論するしかないが流れは把握できる。

    ハニートラップに賄賂に新しい形の共産主義+中華思想と考えると目新しく見えて始皇帝時代まで遡っても根っこになるほど感がある。
    史記に通じるものがあり歴史は繰り返すが今おきているのだろう。
    オーストラリアを西洋国家最弱見なして利用された歴史の長さが自国に当てはめて人ごとでないと感じる。

    コロナもあって世界が対中国包囲網となる未来が見えるし
    アメリカは徹底的にこの状況を対応しようよしているが
    キーマンが地政学視点で案外日本だろうなーと今後の対中政策で今後10年の在り方がかわりそう。
    そんなことまで思わせる濃い内容だった。

    中盤は少しインタビューや一人の人間のルポ視点でだるくなるが
    全般を通して読んでおきたい考え。

  •  豪国内で、議員など要人への献金、貿易やインフラ買収、ヒューミント、文化・学術交流の中での工作など、個人と組織の実名入りでこれでもかというほど実例が挙げられている。豪での中国や中国系住民の存在感がどれほどか肌感覚では分からないが、相当なものなのだろうと思わされる。
     外国からの投資は中国からだけではないことは著者も認識している。しかし日米などと異なり、中国からの投資は、企業のものであっても、自国の戦略的利益に沿うよう体制に操作されているというのだ。留学生含む中国系住民が当局の意向に沿う言動をするのは、愛国心、実益、自国に残した家族を守る、など様々な理由がある模様。
     豪が狙われるのは、「西洋諸国の最弱の鎖」であるという地政学的位置、大規模な中国人コミュニティ、多文化政策の故だという。
     献金、貿易、投資、様々な交流、これら自体が直ちに違法ではないだろうし、グローバル志向の観点からはプラスとも捉えることも可能。また、豪国内で中国によるこれらの活動を批判すると、人種差別主義者や外国人恐怖症と言われかねないという。すなわち、リベラルで開かれた社会ほど、外部からのこれら「侵略」には脆弱なのだろう。

  •  日本におけるチャイナの浸透工作は深刻なものだと思うが、オーストラリアも中々だということがよくわかる。中学か高校の時にオーストラリアは白豪主義から多文化主義へ、みたいなことを習ったが、この多文化主義のようなボーダーレスな考え方はチャイナの格好の餌食なのだと思う。

  • オーストラリアが中国共産党に侵食されている様子を克明に記載した本。オーストラリアのオープンな民主主義体制に、資金力と人の数の多さでつけ込み、国全体を「親中派」にしようとしていることが書かれています。

    そもそも、レーニン式社会主義がいまだに跋扈している中国において、人々が豊かになるにはコネを使うしかなく、他国に行ってもその態度を改めない(多分改めなければいけないことすら自覚できていない)ので、オーストラリアでも政治献金などを通じて、コネの形成を行う。その裏側で中国領事館が中国共産党に批判的な動きを在オーストラリアの中国人を利用して行う。一方のオーストラリア人は①排外主義者だと思われることを恐れ、②特に大学関係者は中国人留学生がいなくなることによる経済的な損失を恐れて中国に都合の悪い事項の自己検閲を行う。という状況が数々の事例をもとに紹介されています。

    中国共産党のやり方は狡猾としか言いようがなく、また彼らは時間をかけることを厭わず、かつ資金力が豊富であり、そのくびきから逃れるには多くの時間と経済的な損失があるだろうと思われました。

    しかし、自由と民主主義を大切に思うのであれば、避けて通れないのではないかと考えます。

    翻って日本はどうなのか?改めて考えさせられました。

  • 読んでおかないと…と思って読み始めたけど、遅読民のため読了に難儀しました。疲れました。
    衝撃的なことがたくさん書かれていて、通勤中の電車の中で何度か叫んでしまいました。

    いろんな方向性に目覚めちゃった日本人いっぱいいるけど、この本読んで目覚めた方がいいんじゃね?と思いました。知っても恐ろしいけど、知らずにいるのも恐ろしい。

    今後もせめて知ることはしていかないといけないと思いました。

    ところで、コロナでこの二国間の関係悪くなりましたよね?この本読んで、その辺のことも詳しく知りたくなりました。

  • 実名が、次々と出てくる!
    チャイナの侵略は、ファンタジーではない!
    他国の出来事と軽く見てはならない!日本の放送局もかなり侵略されている可能性があるからだ!

  • 途中離脱 またの機会に挑戦

  • 今更ですが、少し前にかなり評判になったSilent Invasion。
    かなり際どいところまで中国共産党の影響がオーストラリア社会に与えていることがわかる。戦略家のルトワック氏が、経済なども戦争としてとらえ、ルール無用で欲しいものを手に入れようとするというコメントを思い出させる。確かに以前ドキュメンタリでオーストラリアの地方議員に立候補した中華系オーストラリア人が、投票権のある中国人留学生を動員して、祖国(もちろん中国のこと)のために!と旗を振っていたのを思い出す。結局、落選していたが、この手のアクションはちゃんとした防御策を行わないと、色々なところで今後は発生していきそうだ。

    台湾関連のプロパガンダで簡体字を平気で使ったり、なんとも雑なイメージもあり、中国がどこまで戦略的にアプローチしているかわからないが、オーストラリアとニュージーランドを西側から切り離すためのターゲットとし、とにかく多角的に色々アプローチするこでかなり浸透したということなのだろう。

    コロナの調査を要求したことで、中国とぶつかるようになったが、結構状況としては深刻だったことが伺える。日本もなんか中国が喜びそうなことを言う人はいるが、ただたんにお花畑なのか、裏で何か動いているのか、理解に苦しむタイプが多い気がするが、オーストラリアはわかりやすいぐらい中国が系を引いているというような人々が跋扈していたのだなと思う。

    P.18(元シドニー中国領事館政務一等書記官、亡命者陳用林氏)
    オーストラリア(そしてニュージーランドも)は「西洋諸国の中の弱い鎖」と見なされ、この一党独裁国家の潜入・転覆のための手段をテストするための場所となっている。

    P.20
    「チャイニーズ」という形容詞は無差別に使われてしまうことが往々にしてあり、中国にルーツを持つ「中国系オーストラリア人」までが一緒に汚名を着せられることになる。実際のところ、オーストラリア内で中国という一党独裁国家の影響力の高まりに最も危機感を感じているのが、自分たちのことを「オーストラリア人である」と認識している「中国系オーストラリア人たち」だ。彼らはむしろ、自分たちが定住先として選んだ国家に忠誠を感じている。彼らは新たに押し寄せてくる中国人たちーー怪しい経歴や中国共産党と密接につながりを持つ億万長者たちや、北京の代弁期間をつくっているメディアのオーナーたち、そして生まれた時から洗脳されている「愛国的」な(しかし永住権を求めている)学生たち、そして中国大使館によって設置された親北京団体に先導されているビジネスマンたちーーを失望や不吉な予感を感じながら見てきた。

    P.24
    抑圧的な体制は文化大革命以降のどの時期よりも深まってきており、習近平体制になってさらに厳しいものとなっている。それでも数億人もの人民を、貧困の悲惨さからすくい上げた目覚ましい経済成長こそ、現代中国の功績であると論じる人々もいる。彼らはこの偉業(たしかに歴史的にも重要だ)に比べれば、抑圧はとるたらないと主張する。中には成長を達成するために独裁体制が必要だったと考える人もいる。そうなると、チベット独立や人権派弁護士の逮捕の件を繰り返し非難するよりも、この偉業を賞賛して利益を得るべき、ということになる。南シナ海で軍事基地の建設が止められなくなっても、とにかく儲けることに集中しよう、ということだ。

    P.41
    今世紀の今後のさらなる太メイサについては、中国専門家であるジャミル・アンダーリニによって以下のように指摘されている。
    中国の偉大なる復興のロジックというのは、本質的に「報復主義」的なものであり、その前提として「自分たちの正当な権力の座や影響力、さらには領土の回復まで、まだ長い道のりがある」という考えがある。世界にとって最も致命的な問題は、中国がどの時点で回復のピークを迎えたと感じるかであり、中華民族の一部に属していないそれ以外の人々にとって、そがどのような状況になるかという点だ。

    P.42
    オーストラリア人にとって重要なのは、「領土的な野望を正当化するための偽造的な歴史的主張は、なにも中国の伝統的な影響圏だけに限定されているわけではない」ということだ。中国は偽史を使って将来オーストラリアの所有権を正当化するためのポジションを得ている。

    P.48(天安門事件の影響)
    事件当時に豪首相であったボブ・ホークは、この時の罪人な映像に大きなショックを受け、オーストラリア内に滞在していた学生たちに対し「母国に強制送還することはしない」と涙ながらに告げている。この決断によって四万二〇〇〇人の中国人たちがオーストラリアの永住権を獲得することになり、後に彼らの近親を含む合計一万人ほどの中国系移民が誕生した。私を含めた当時のオーストラリア人のほとんどは、この決断を慈善的な感覚でポジティブにとらえていた。結局、同じ仲間が殺されたり収監されている国に学生たちを送り返す責任を取りたいとは誰も思わなかったからだ。
    ところが現実は、当初の想定とは違ったものとなった。(中略)この隠れた歴史の一部は(中略)この当時の学生たちの四分の三はオーストラリアの大学で学んでいたわけではなく、語学研修で数ヶ月だけ滞在していた短期留学生だったという点だ。(中略)移民局の職員たdちは、中国人の流入の拡大ーーこれは教育関係者からは「カネのなる木」と見られていたがーーを、彼らが語学コースに入学する費用と引き換えにオーストラリアに働きにくるための手段であると見ていた。この短期の語学留学生たちに、当局は厳しい入学テストを行いたかったが、中国人を「カネのなる木」としか見ていなかった教育係の官僚に負けてしまった。(中略)ホーク首相が一時滞在ビザを優遇したことにより、移民局は何千人もの難民申請者によってあふれかえることになる。(中略)中国人コミュニティのメンバーの証言によれば、いいままでほとんど民主化運動に積極的に参加したことのない何人かの学生は、ビザ申請のために民主化運動に加わり、デモに参加したりプラカードを振りかざしたりして、友人にその写真を証拠として撮影してもらったりしていたという。当局はただ単に状況を追認するほかはなかったのである。

    P.52
    北京政府はオーストラリア国内に十数個ある中央統戦部の組織に対し、必ずしも直接的な統制をかけているわけではない。むしろ彼らはこれらの組織に対して助言を行い、資金や大使館のサポート、そして祖国へのつながりなどの面から支援するやり方を選んでいる。キャンベラの中国大使館や主要都市の領事館などでは、このような任務が文化・教育担当の大使館員や寮直人たちの仕事のほとんどの時間を占めている。涸れっらは数十年かかって発展させた、通常はあからさまな強制を必要としない心理・社会的な手法を使っている。杜建華によれば、結果として僑務工作は「行動を集中的に制御し操作するための効果的なツールなのだが、表向きには艦台で有益に見える」という。法輪功のメンバーやチベット独立支持者のように、このような方法でも納得しない人々は、非難やブラックリストへの掲載、サイバー工作、そして嫌がらせなどを含む、攻撃的かつ高圧的な手段の対象となる。

    P.61
    中国共産党が、オーストラリア国籍を持つ華僑に対して祖国への忠誠を第一にするように期待している。(中略)海外移民の第一世代だけでなく、中国語をほとんどしゃべれないその子供たちも、リクルートの対象として狙われる。さらには西洋人の家族に養子として引き取られた中国人の子も「中国の夢」を実現する人材として狙われる。オーストラリアの中国系の子供の中には、週末になると中国共産党の世界観を教える中国人学校に通う者もいる。無料のサマーキャンプで十代の子供を二週間ほど中国本土に訪問させ、巧妙な形で「中国人らしさ」を植え付けるものや、党の見解を教え込むものもある。
    先進国で若くて優秀な人材が海外に出ていくのを「頭脳流出」と捉えて嘆くことが多いが、中国共産党はすでに一九八〇年代から別の見方をしていた。「頭脳」が海外にいても、とりわけ科学やテクノロジーの分野で生み出す成果は、母国にとって利益になるからだ。

    P.62
    二〇〇一年に中国共産党は「海外から国家に貢献する」という政策を公式化している。(中略)最大の問題は、中国の「頭脳」たちをどこまで愛国的な状態で、海外で維持できるかだ。それは「頭脳」が幼稚園の頃から体系的に愛国教育工作を受けて洗脳されていれば、まったく難しくない。さらにリベラル派の「「海外で教育を受けた中国人学生は開かれた心を持つはず」の期待に反して、実態から言えば、海外から帰国した学生たちも、海外に一度も出たことのない学生と「ほとんど変わらずに愛国的」だった。

    P.64
    世界中から「民族をかき集め」て単一の中国人というアイデンティティを作ろうとする積極的な運動は、文化の多様性を認めながらも新しい移民集団をオーストラリア国内に取り込むことを目指すオーストラリアの多文化政策に反して進められた。新たな移民はオーストラリアへの忠誠を誓うように要求されるが、中国共産党は多くの中国系オーストラリア人たちの忠誠を確保することに成功した。このやり方が続く限り、多様化しているがまとまっているオースとララリア国内社会への、中国系オーストラリア人の統合は失敗するだろう。

    P.66
    オーストラリアの中国語ラジオ局は、いまやすべてが中国に決して批判的なことを言わず、南シナ海から香港の民主化運動、そしてダライ・ラマに至るまで、党の方針に沿ったストーリーしか流さないものばかりとなった。

    P.73
    前夜になって副首相は会合をキャンセルし、その理由を「外国的に機微な問題」だと言った。ちなみにこれは「中国大使館の圧力に屈した」という暗号だ。

    P.76
    オーストラリアでは、左右の党派に関係なく「中国の法体制が独立的なものではなく国家の一つのツールである」という認識で一致している。(中略)中国の法廷では有罪率が九九%である。中国の最高裁は政治体制から司法の独立を「誤った西洋の思想」だと拒否している。

    P.88(China's Crony Capitalism,未邦訳、著者Minxin Peiより)
    根深い汚職体制は一九九〇年代からあらわれ、データが示すように、二〇〇〇年代に入ってから極めて有害な影響を持ち始めたのであり、数人、もしくは数十人の政府高官たちが、省庁を超えて共謀して汚職を働く状況も出てきた。ペイによれば、中国で汚職にかかわらずにビジネスをしたり資産を形成するのは不可能になったという。つまり腐ったリンゴとそうでないリンゴの比率が逆転したということだ。

    P.91
    軍においても昇進の売買は広く行われている。人民解放軍の腐敗は「蔓延」というレベルにあるといえるだろう。(中略)汚職の拡大のおかげで、人民解放軍では昇進の際、有能さや正直さを排して賄賂を使い、部下から賄賂を要求する人間が有利になってしまった。

    P.93
    習近平の汚職撲滅運動は成功したと言えるだろうか?その公式結果は驚くべきものだ。チャイナ・デイリーの報道によると、二〇一六年には七三万四〇〇〇件汚職捜査が行われ、四一万人の役員たちが「規律違反や違法行為」で処罰されたという。(中略)ある信頼できる情報筋によると、末端の役人たちはさらに用心深くなり、高級幹部たちは拘束されるリスクが上がったため、実業家に自分たちへの賄賂の価格を釣り上げたという。そして賄賂の巧妙な支払い方が発明され、たとえば海外の口座に直接外資を振り込ませるやり方などが出てきた。(中略)ミンシン・ペイは、レーニン式の一党独裁権力に市場経済が加わると必然的に汚職が発生すrのであり、定期的な一斉操作でも縁故主義的なネットワークをつぶすことはほとんどできていないと論じる。マーティン・ウルフは「もし市場経済を、汚職の比較的少ない政府と両立させたいのであれば、経済を動かす各プレイヤーたちには独立した司法体制によって守られる法的権利が必要になる。ところがレーニン式の一党独裁国家では、まさにこれこそが決定的に提供できないものだ。なぜならその定義からして、党は法の上に存在するものだからだ」と記している。

    P.125(揚東東、あるオーストラリアの大規模な中国系オーストラリア人団体とオーストラリアの政党の仲介人、という人物のコメント)
    彼は上海の「隠れキリシタン」だったと証言しているが、これは中国のように信仰の自由のない国からの移民が政治的な保護や居住許可を得ようとする際によく使われる言い訳だ。

    P,145(オーストラリアの主要メディアが共産党から提供される資金と引き換えに新華社、人民日報といった中国政府系メディアからの記事を発表することになったことについて)
    オーストラリアの最も優れた中国メディア研究科であるフィッツジェラルドとワニング・サンは、「レーニン式のプロパガンダ耐性は、大衆の口を通じて大衆を説得するのではなく、他者に本当に重要なことを報じないように脅したり困惑させることで成立するのだ」とコメントしている。この合意は、中国が西洋諸国の大勢のオープンさを利用した例であると同時に、主要メディアの財政状況の悪さを示していた点で衝撃的だった。

    P.157
    中国からの投資は、やはり異質である。アメリカの企業は、アメリカの戦略的利益に沿った行動をするように指導するワシントンからの命令に従うような傾向を持っていない。もしアメリカ企業がそのようなことを行おうとすれば、豪州の市民社会からの激しい反発を受けるはずであり、メディアの追求で説明責任を追うことになる。そして当然、アメリカの企業は海外で贈収賄事件に関与した場合には起訴されて莫大な罰金を払わされることになる。ハワード元首相は一九七〇年代の日本からの投資に対する不安感と、今日の中国からの投信に対するそれを同等視しているが、これはまったくのつじつまが合わない。外国からの影響に対する嫌悪感は、確かにオーストラリアの国民性の中に存在する。ところが中国からの投資に対する疑念は、政治的な真実に立脚したものだ。この投資は、オーストラリアを支配しようとする独裁体制によって操作されているものだからだ。これは前代未聞の事態なのだ。

    P.184(二〇〇八年、オーストラリア中心のコンソーシアムが広州に天然ガスを曲きゅうする契約を勝ち取ったことについて)
    中国のシドニー領事館で政治担当の職員だった陳用林はこの一連の動きを内側から見ていて、後に内実を暴露している。それにいよれば、北京側はすでに最安の契約案を提示してきたインドネシアに契約を与えるつもりだったが、北京の共産党中央委員会がオーストラリアに与えてやれと命じてきたという。陳用林によれば、「彼らはオーストラリアをかなり重要視しており、当時は完全にアメリカと同調していたため、オーストラリアをこちらに振り向かせるために経済的手段を使うべきだと考えていたようだ」という。
    オーストアリアがあまりにもすばやく経済的な手段に反応したため、これ以降北京は「オーストラリアを操作するには経済的な手段を使う」ことにした。

    P.192
    陳用林は、二〇一六年に中国共産党はオーストラリアを、西洋世界への影響力拡大を試す場所として三つの利点があると見ていると書いている。一つ目はオーストラリアの地政学的な位置関係である。これは「西洋諸国の最弱の鎖」というのだ。二つ目は大規模な中国人コミュニティを抱えていることで、中国系移民は「中国と密接かつ多様なつながりを持ち、イデオロギー的な教育を受けていることが多く、そのほとんどは中国の優越心を共有している」のだ。そして三つ目はオーストラリアの多文化政策であり、これは北京に忠実な在豪中国人に「中国の価値観や習慣」を普及させ、それを中国共産党の立場を向上させるために利用されてしまっている。

    P.194
    反体制派の作家、劉暁波が二〇一〇年にノーベル賞を授与された時、中国共産党はメンツを潰され激怒した。もちろんノルウェー政府はこの決定に全く関わっていないのだが、北京は中国のサーモン市場におけるノルウェーのシェアを大きく削減することで報復した。自由貿易交渉は中止され、外交関係は凍結状態に陥った。この様子を見ていた他国はこのメッセージをしっかりと受け取り、劉暁波から距離をとり始めた。(中略)劉暁波にノーベル賞が贈られた六年後、ノルウェー政府は中国に対して卑屈な謝罪ともいえる行為を行なっている。

    P.220
    中国の諜報機関は人間の「四つの不徳」である情欲、復讐欲、名声よく、強欲を利用することで知られている。

    P.234
    アメリカ当局は「人種プロファイリング」と非難されるのを恐れて、北京へのスパイ操作で慎重に行動しなければなくなっている。スパイたちのほとんどは中国系だ。アメリカ国内の北京と関係を持つ組織は、アメリカ当局に対して遠慮せずに「人種プロファイルング」を行なっていると非難するが、彼らはオーストラリアでも「外国人恐怖症」という言葉を使って批判者を沈黙に追い込んでいる。(中略)中国は西洋のリベラル派の敏感さに最大限つけこもうとしており、その「代理人」や「擁護者」たちに対して、人種差別というカードを使いながら、スパイ行為という非難だいかに誤っているを指摘するように勤めている。

    P.270
    二〇一六年に教育部が発表したガイドラインでは「有害なアイディアの違法な拡大、教室におけるそれらの表現は、法と規制に従った厳しい処罰を受けることになる」と実にストレートな表現が使われている。では「有害なアイディア」とは何か?(中略)「七つの禁止事項」には、立憲民主制度、報道の自由、そして人権や学問の自由を含む「普遍的な価値観」が入る。二〇一四年のアメリカ連邦議会報告書には「これらに従わない学者たちは監視され、脅迫され、嫌がらせを受け、罰金が課せられ、殴られたり起訴されたり投獄されたりする」と警告されている。

    P.293
    近年のトレンドとして、大学の中にあるセンターや学部が、中国系学者の「飛び地」となりつつあることが明らかになっている。(中略)「飛び地」ができたことの結果の一つが、学問に対するアプローチの文化が変わったことだろう。たとえばそれは研究者同士の関係性が合議的なものではなくなり、指導者がしゃべると部下の研究者たちはただそれを聞くというスタイルへの変化だ。

    P.303
    雷希颖はオーストラリアのメディアにおける中国に関する不当な報道のされ方や、オーストラリアの大学の範疇活動を研究する目的で入学を許可された。同時に彼は亜副業として、北京の喧伝家としても活動しており、そのために大学の設備を利用しているとも言われている。(中略)雷希颖は中国共産党に関係する多くの組織に属し、「ネット上でイデオロギーを構成する優れた若者の代表」として表彰されたこともあり、オーストラリアは「アメリカの召使い」であると考えている。(中略)「土人的なオーストラリア」というフレーズは漢字で「土澳」と書くのだが、これは中国人学生たちの一部で非文明的なオーストラリアの後進性を嘲笑う言葉として使われているのだ。雷希颖について尋ねたときのオーストラリア国立大学の反応は、彼には「言論の自由の権利がある」というもので、具体的にはなんお行動もとっていない。(中略)これは言論の自由なのか、もしくは外国政府のためにリベラルな価値観を攻撃対象とする、有害で敵対的なプロパガンダではないのか?雷希颖が作成した動画には人権侵害された人々を擁護する中国弁護士を中傷するものもある。(中略)オーストラリアの言論の自由に対するコミットメントは、全体主義国家を援助する目的で雷希颖に利用されているのではないだろうか?全ての人々の言論の自由を守ることにかまけて、そのも自由を奪うことを目的としている勢力に、我々はあまりにも甘いのではないだろうか?

    P.308(CSSA:中国学生学者協会について)
    中国人学生たちに社会面で支援を供給する一方で、これらの団体は学生たちの活動を監視・警戒して、彼らが腐敗的な活動に巻き込まれないようにしている。彼らが腐敗的な活動に巻き込まれないようにしている。(中略)ある中国人学生が政治的に正しくないと解釈される意見を表明すれば、その学生は大使館に報告される可能性が高くなる。(中略)習近平は二〇一五年、海外で学ぶ中国人学生を「共産党の中央統一戦線工作における新たな中心的存在」と位置付けた。

    P.331
    海外の中国人同士の集まりは、潜在的に「僑務工作」の影響・浸透工作の対象となり、その中には教会も含まれる。(中略)中国は「宗教横断的」なアプローチを採用しており、相手がプロテスタントかカソリックかは区別していないという。彼らは工作を担当する職員に、海外の中国人系の協会を監視して浸透させ、中国共産党の「中国人らしさ」という概念や「スピリチュアルな愛」を積極的に推進することで「中国化」させるように支持している。中国共産党にとって本当に神聖な存在は、祖国への忠誠心と、当然ながら党そのもの以外にはないからだ。

    P.350
    北京は、われわれの元首相や外相たちが、かつて世界を舞台に渡り歩いた存在であり、自分たちにはまだ発言力があると感じているのを理解している。よって彼らは中国に来ると大歓迎を受ける。かつて自分たちが統治した国民たちはもう尊敬してくれないが、中国共産党はその事実を知っているために彼らの功績を称え、重要人物としてのステータスを復活させてくれる。

    P.350
    「関係」とは一般的に、ビジネス目的のコネづくりのプロセスだと理解されているが、実際はそれ以上の意味がある。これは西洋人が踏み入ってしまう「精緻化された中国人の人間関係マネージメント術」なのだ。(中略)好意の応酬はいつの間にか「当事者たちを相互義務がある関係にまとめあげる」。西洋人たちはこの親切なビジネス関係構築のアプローチを、本物の「友情」と勘違いしてしまいがちだ。そして警戒心を緩めた挙げ句、彼らに簡単に手なづけられてしまうのである。

    P.354
    ドイツ在住の中国のコメンテーター、長平は、一九八九年(天安門事件)以降の中国の教育体制を「正邪あえてあいまいにさせるもの」であったと解説する。彼は中国人留学生が海外で自国の全体主義を擁護する際に使うロジックを報告している。それは「人権は西側の価値観だ」、「すべてが完璧な社会など存在しない」、そして「すべて社会には隠しておきたい恥がある」というものだ。中国共産党はいわゆる「普遍的な価値観」(国連人権宣言で示されているようなもの)が誠意用の価値観であり、「社会主義の革新的価値観に取って代わるもの」(共産党の悪名高い九号文件にある言葉だ)ではないと主張している。海外の愛国的で若い中国人留学生たちの口やパソコンからこのような独裁政治の弁明が発せられるのは、驚くべきことではないかもしれない。ところがこのような言葉を西側の影響力のある人々、とりわけ元リーダーたちの口から聞くようになるのは、実に警戒すべき事態だろう。

    P.355
    中国共産党は、六億人以上を貧困から脱却させたのではなく、実際は六億人以上を貧困に留め置いた。中国共産党が中国国民を押さえつけるのをやめて、基本的な経済面での権利ー所有権やビジネスの設立、移住の自由、職業の選択などーを許した時、初めて中国国民は貧困から脱却できたのだ。

    P.370
    シドニーの独立系シンクタンク、ロウウィー研究所の東アジアプログラム・ぢレクター、メリデン・ヴァーラルは、(中略)中国という共産党国家を「共産主義の化け物」と見るのは間違いだと主張する。それでも中国共産党が海外での批判者たちを黙らせようとするのは正当化できると示唆する。その理由は、中国人として生まれたら常に中国人であり、中国人であるということは「自分の父親を愛するように中国も愛さなければならない」ので、公共の場での批判は慎まなければならないからだという。中国人(彼女の目から見れば一心同体で行動している)は高い生活水準と引き換えに、政治には関わらないという「社会契約」を結んでいるというのだ。
    ヴァーラル博士によれば、オーストラリアで中国人学生が同胞の学生が中国共産党を批判したり、人権を擁護するのを聞いて大使館に報告しても、オーストラリアは中国の「このようなしきたい」を受け入れるべきであるという。学生たちがオーストラリアでこのように行動するのは自然なことだ。

    P.374(香港大学の学者、フランク・ディコッター教授の言葉)
    三つのことが重要だ。第一に、中国共産党は構造的にレーニン式の一党独裁国家のままであるということ。第二に他のレーニン一党独裁国家と同様に、国内外で自分たちに反対してくる全てのものに対処するための組織と哲学(プロパガンダ)の両方を持っている。それが中央統一戦線部だ。第三に、レーニン式の一党独裁国家は常に公約(別の言葉では「ウソ」だ)を掲げるのだが、それは都合が悪くなったら常に破棄される。これはつまり、彼らの主張することはほとんど真剣にとる必要がないということだ。
    この三つに、さらに一つの要素を加えておくべきだろう。それは容赦がないということだ。国内外のあらゆるすべての反対勢力に対して、容赦なく弱体化させようとしてくる。実際のところ、中国共産党にとって、中国国民には「外国」というものは存在しない。これらのすべてはリベラルな民主主義国家にとってはあまりにも相容れないものであり、中国人以外の人々には理解できないものだ。

  • 朝のラジオ番組で知って図書館から借用

    他の本で忙しくて読みきれずに返却

  • 若かりし頃ワーキングホリデーで1年間滞在し色々な思い出があるオーストラリアが中国に乗っ取られてしまいそうになっていた(現在も進行中?)事の詳細が書かれた本です。
    具体的には政治家や企業に献金したり、オーストラリアに大量の留学生を送ったりして政治的・経済的影響力をあらゆる分野で影響力を持たせて中国に対する批判を封じ込め、時に抗議や暴力的な行動を起こすという手法。日本の約20倍の広大な国土に2,600万人弱という首都圏の人口より少ない国家という事で、著内でも記載がある通り、中国の他国乗っ取り計画の試験場となっていたんでしょう。
    以前、多くの中国人の方と仕事したり時に中国出張をしたりして、中国に対してはそれなりの親近感を持ってはいるのですが中国政府が他国や中国国民や華僑に対して行おうとしている事についてはある種の恐ろしさを感じざるを得ません。。。日本は大丈夫かな・・・本当に心配。

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著者プロフィール

オーストラリアの作家・批評家。著作に『目に見えぬ侵略:中国のオーストラリア支配計画』(Silent Invasion: China’s Influence in Australia)『成長への固執』(Growth Fetish)、『反論への抑圧』(Silencing Dissent:サラ・マディソンとの共著)、そして『我々は何を求めているのか:オーストラリアにおけるデモの歴史』(What Do We Want: The Story of Protest in Australia)などがある。14年間にわたって自身の創設したオーストラリア研究所の所長を務め、キャンベラのチャールズ・スタート大学で公共倫理学部の教授を務めている。

「2020年 『見えない手』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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