ロシア軍は生まれ変われるか (ユーラシア・ブックレット No. 166)

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  • Amazon.co.jp ・本 (63ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784864590099

作品紹介・あらすじ

ソ連崩壊後、著しく空洞化が進んだロシア軍。新しい戦略環境の下で「軍事大国」としての内実を取り戻せるのか。

感想・レビュー・書評

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  • ウクライナへのロシア侵略があった際にテレビ等で本著者を知り、概要を知るためにその著作を読むことにした。最近の著作も入手したが、流れを理解したくてこの2011年発行の本も読むことに。

    2010年当時のロシア軍の現状が有り体に書かれていて、大きな問題が有り、米国ともかなりの差があることもわかる。その内容とその改革内容についてだが、まるで一企業の改革案を見るかのようで、組織的・技術的・政治的問題点があり、いかに当時のロシア軍が問題を抱えていたのかがよく分かる。しかもそれらがその後どれほど改革されたが分からないが、現在のロシア軍の進行時のpoor performanceはこのときの問題がまだ解決されていないという可能性を示唆してくれる。

    現在のロシア軍の内容を理解するために、古い本と思わずに読んでみることをおすすめします。

  • 冷戦が終結したといわれて久しい今日、世界情勢が大幅に変わり、ロシア軍は大きな変革の波にさらされている。
    仮想敵国が米国から、中国へと変わり、同時に「非対称な戦争」ともよばれる対テロ対策に重点がうつってきたからである。
    かつて冷戦時代には、軍隊の規模は大きいと言われていたが、それを支えていたのは「紙の軍団」と呼ばれるシステムであった。つまり、書類上は士官などが存在しているが、実際の兵力は有事にかき集めることを前提とした、実態よりも大きく見せた、いわば質より量の状態であった。
    しかし戦争や武器の近代化に伴い、より実際的でコンパクトな軍が求められるようになった。プーチン大統領は制服組から自由である、アナトリー・セルジュコフを抜擢。彼をはじめとし、軍や派閥のしがらみを乗り越えた、大規模な変成が行われている。
    まずは人員の削減(リストラ)をして、不要な部門をカット。師団の編成も変えて、師団から、旅団をメインにして、部隊自体をダイエットしている。続いて、徴兵制ではなく志願制に移行し、同時に契約軍人で質の高い人員を保持しようとしているが、こちらは費用の問題もあり、なかなかすすまない。また、装備の劣化にも手をいれいている。
    核軍縮も一応行われてはいるが、隣に中国がいる以上、アメリカほどは削減に思いきれないのが実情である。
    不安定な世界情勢が続くなか、軍事力はいぜんとして大国の「シンボル」である。対外的な影響力は保持しつつも、パフォーマンスの高い軍隊として生まれ変わるべく、ロシア軍は試行錯誤中である。

    <感想>
    「ウクライナ危機」のテレビ番組でもなんかいか、顔を見た若い軍し評論家、小泉氏の解説。非常に的を得てわかりやすく解説されており、軍事には門外漢の私にも楽しく読めた。

  • 現在進行形のロシア軍改革について、軍改革が必要になった背景、これまでの経緯、その目指すところについてまとめられている。果たして、ロシア軍改革が新たなロシア軍の新生に繋がるのか、改革が中途半端に終わり、ソ連軍への回帰に終わるのか注目したいところ。しかし、第一期プーチン政権当時の「強いロシアのイメージ」と装備調達の実態との落差に愕然とした。

  • 旧ソ連の崩壊後、急速にその力を失ったロシア軍。
    プーチンが政権を握った後、その力を徐々に回復させてきていますが、本書はそのロシア軍の現状を解説したものとなります。

    尚、本書はとても薄いのですが、内容が分かりやすくまとめられていると言う点と邦書には類書が少ない(あるいは無い?)という状況もあり、価値ある一冊と言えると思います。

    #それに税抜価格で600円と安価ですし。
    #まあ、書籍の価格に対する価値観は人それぞれですが・・・

    さて、前置きはこの位にして、以下に本書の内容を簡単にまとめます。

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    ソ連崩壊後、軍事予算が激減するにも関わらず、それまでの巨大な軍事機構を維持しようとした為、ソ連時代と比べて作戦遂行能力が大幅に低下したロシア軍。

    #第2次チェチェン紛争当時、首相だったプーチンは120万のロシア軍の内、動員できるのが6万人しかいない事に大きなショックを受けたと言われている。

    これまでこの問題に対処する為、軍を改革しようとする動きはあったが、歴代の国防相が自分の出身部隊(グラチョフ大臣;空挺軍、セルゲーエフ大臣;戦略ロケット軍)を優遇しようとしたのと予算が足りないと言う理由でことごとく失敗。
    しかし、現在、連邦税務庁出身のセルジュコフ国防大臣により軍改革が進んでいる。

    この軍改革の基本路線は、多くの部隊に広く浅く戦力が分散されている状況を改め、部隊数を削減して各部隊へ戦力を集中させると言う物。

    その具体的な目標は以下3つになる。

    1,小規模紛争対応能力の整備
    2,大国としての地位維持の為、核戦力維持
    3,大国としての地位維持の為、外洋艦隊を整備して地球のどこにでも戦力が投入出来る能力を確保

    1に関しては、ロシア各地に武器貯蔵庫「武器装備修理保全基地(BKhRVT)」を整備して人員のみの移動で部隊の国内移動が出来るようにしたり、部隊の規模を縮小して移動をしやすくする等の方策が取られている。
    2に関しては、通常戦力が頼りない為、核による報復をちらつかせて国家防衛を図ろうという意思もある。
    3に関しては、フランスから購入した最新鋭強襲揚陸艦が最新の作戦指揮システムを搭載している為、これを外洋艦隊の中核的な存在として利用する事が考えられている。

    ソ連崩壊後、ロシア軍は20年にわたって装備を購入して来なかった為、装備の旧式化が凄まじく、現在、彼らは装備の近代化に取り組んでいる最中。
    しかし、まだまだ旧式装備の弊害は取り除けていない。


    上記の様に軍改革に取り組んでいるロシアだが、現役高級将校を大量に解雇する等している為、軍の反発は強く、軍改革が成功するかは不透明。
    また、戦略が未確定の為、その軍改革が目指す目標が不透明と言う問題点も抱えている。

    しかし、政権の長期化により権力基盤が強固なものとなったプーチン・メドベージェフは軍改革を断固支持している。
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    装備の近代化や組織改革などにより、現在、軍の急激な近代化が進んでいるロシア。
    しかし、近代化の道はまだまだ先が長い。

    と言った所でしょうか。

    改革に対する軍幹部の反発や戦略が未確定と言う事もあり、今後、ロシア軍が「縮小版ソ連軍」を目指し始めて改革が失敗に終わる可能性もありますが、そうなると中途半端な作戦能力を持った軍隊が完成することになるのでしょうか。

    最近、ロシア国内で反プーチンの動きが表面化していますが、「もしかしたら、この動きの背後には改革に不満を抱く軍幹部たちがいるのかも」なんて想像もしてしまい・・・

    いずれにせよ、本書にも書かれていましたが、政権指導部がロシア軍に対してどこまで自分たちの意思を貫き通せるか。
    これが軍改革が成功するかどうかの命綱を握っているという事になりそうです。

    (上記しましたが)とても薄い書籍ですが、内容はよくまとまっていて興味深いものがありました。

    ロシアに興味があれば一読する価値はあるかと思います。

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著者プロフィール

小泉 悠(こいずみ・ゆう):1982年千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科修了。政治学修士。民間企業勤務、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所客員研究員を経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター(グローバルセキュリティ・宗教分野)専任講師。専門はロシアの軍事・安全保障。著書に『「帝国」ロシアの地政学──「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版、2019年、サントリー学芸賞受賞)、『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書、2021年)、『ロシア点描』(PHP研究所、2022年)、『ウクライナ戦争の200日』(文春新書、2022年)等。

「2022年 『ウクライナ戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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