世界一わかりやすい地政学の本 世界のリーダーの頭の中 (Knock-the-knowing)
- ヒカルランド (2016年10月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
- / ISBN・EAN: 9784864714341
感想・レビュー・書評
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の〇太こそ“諸悪の根源”、“紛争要因”?! ドラ〇もんの人間関係で学ぶ地政学!
ブログ「倉山満の砦」、コンテンツ配信サービス「倉山塾」、ネットチャンネル「チャンネルくらら」などで積極的に言論活動を行っている憲政史家の倉山満先生による著書。
■の〇太こそ“諸悪の根源”、“紛争要因”?
冒頭、“ドラ〇もんの人間関係”を用いて地政学の説明がなされるのですが、なんといきなり、「の〇太こそ諸悪の根源であり紛争要因である」とします。
少なくとも“地政学における相関図”においてはそうなると。
一見、どう見ても“いじめられてばかりの可哀そうな子”としか思えないの〇太がなぜ”諸悪の根源“なのか。
ジャイ〇ン、ドラ〇もん、の〇太などそれぞれの登場人物の“立ち位置”をよくよく整理すれば、この結果に落ち着くという結論には確かに大いに納得です。(し〇かちゃんの立ち位置などまさに言い得て妙)
その後、本編で詳しく述べられていく世界史の変遷を読めば、結局、「世界史とは地政学に基づく相関関係図を正しく認識し、それを活用することができた国家が覇権を握っていく歴史である」とつくづく思わされます。
地政学の視点を持ったうえで歴史の出来事を見ないと、なぜそのような出来事が生じたのか、なぜそのような帰結になり得たのか、到底理解することができないということを著者の倉山先生は様々な歴史事実を用いて解説していきます。
そういう視点でいくと、大英帝国はなぜ大英帝国なり得たのか、ビスマルク体制のドイツの何がすごかったのか、大日本帝国がいかにして列強へと駆け上がっていったのか、第二次世界大戦の”真の勝者“は誰なのか、非常に分かりやすかったです。
そして地政学的視点が欠落するということは、即ち国家の凋落を意味するということも。
■“ココセ”を繰り返し、“敗着”に至った大日本帝国
将棋または囲碁には“ココセ”と“敗着”という言葉があるそうです。
ココセとは、「自分にとって都合のいい手を、相手が指すことを期待すること、そこから転じて、相手の思うツボの手を指してしまうこと」であり、敗着とは、「負けの直接の原因となった指し手」を言うのだそうです。(間違っていたらすみません)
日本は明治維新、日露戦争において地政学を駆使し、国力を高め、最強の帝国陸海軍を擁し、列強の一角を占めるにまで至りました。
にもかかわらず次第に地政学的視点を失ったことを背景に、列強の中にあって滅びようがないポジションにいながら、ことごとく状況判断を間違え、”ココセ”を繰り返し、ガダルカナル島陥落で”敗着”に至り、国際社会の地図から消えてしまいました。
少なくとも地政学における国際社会においては、明治維新以前の江戸時代の状態にまで逆戻りしてしまったといっても過言ではないのではないでしょうか。
要は、”文明開化”する以前の状態に戻ってしまったわけです。
本書での言葉を借りれば、現在の日本は“非文明国”もしくは百歩譲って“半文明国”であるというのが関の山ではないでしょうか。
身も蓋もない話ですが、「アクターからシアターに成り下がってしまった」とはそういう意味なのだろうと思います。
■悔しければ地政学を学び、駆使せよ
本来なら「日本ほどの経済大国、アジアのリーダーたる日本が“半文明国”であるはずがない」と反論したいところですが、現実を見た場合、反論材料が皆無に近いことは否定しがたいです。
また、何も考えずに目の前の事象にとらわれて、声を上げたところで何の役にも立たないし、むしろ敵対勢力に逆利用され、”ココセ“を繰り返すのがオチなのでしょう。
ではどうするか。
本当に悔しければ、地政学を一人一人が学び、理解し、駆使できるようにならなければならないということではないでしょうか。
本書の結びの言葉、「一万人の“のび太”に本書を贈ります。」は著者の倉山満先生から読者ひとりひとりへの叱咤激励の言葉といえます。
■自分自身や自分の大切な人を守るために。
本書を読んで感じたことは、地政学という技術は、国家に限定されるものではなく、身近な人間関係にも使える技術なのではないかということです。
ニュースや報道を見ていると、「ご近所トラブル」「交友関係のトラブル」「恋愛トラブル」「職場の人間関係」等々、現代においても様々な人間関係のトラブルが存在し、そこから“悲劇的な事件、事故”に発展することも多く見受けられます。
「いざとなれば引っ越せばいい」「いやなら会社を辞めればいい」というのも正論なのですが、差し迫った状況や抜き差しならない場面では、思考が停止してしまい、正しい状況判断・決断ができず、後になって「あの時引っ越せばよかった」「会社を辞めておけばよかった」と悔やむことが多いというのも、また人間の性(さが)なのではないでしょうか。
自分自身や自分の大切な人がそういったトラブルに巻き込まれないためにも、そういった後悔をしないようにするためにも、「正しい状況判断」「正しい決断」ができるようになっておくことに越したことはないと思えてなりません。
ただでさえ、天災や不慮の事故など、個人ではどうしようもない事態は日々の生活の中において起こりうるのですから・・・。
世界の各国の相関図を、あるいはドラ〇もんの人物相関図を、身の回りの人物相関図に置き換えることができれば、非常に役に立つのではないでしょうか。
国際政治に関心がある人でなく、人間関係から派生する様々なトラブルから自分自身や自分の大切な人を守りたい人にとっても読んで損はない一冊と言えます。おススメです!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
歴史が好きな私ですが、世界史は複数の国の関係が複雑なのと、時代によってその関係が目まぐるしく変わるような感じをもっていたので、疎遠でありました。
ところが、地政学関連の本で一昨年辺りからお世話になっている、この本の著者である片山氏が、地政学の切り口から近代世界史を解説してくれています。
特に、はじめに、の部分で、多くの人が知っている「ドラえもん」に出てくる登場人物の関係を、地政学の考え方で解説してくれています。思い起こせば、ドラえもんと「スネ夫・出木杉」はほぼ無関係、しずかと「ジャイアン・出木杉」とも関係が薄い中で、彼らの関係を示している(p6)は、世界史を地政学的の観点から学ぶ上で大いに参考となりました。
日本も、大東亜戦争で敗戦国となるまでは、大国の地位を占めた時期もあったようですね。日本が大国に戻ることはあるのだろうか、アジアにおける、中国や韓国、インドとの関係は今後どうなるのであろうか等と、考えさせられた本でした。
以下は気になったポイントです。
・地政学とは、地理政治学のこと、地球上には土地があり、土地の上に人が住み国家があり、しのぎを削っている。その中から生まれた知恵が地政学である。土地という動かない条件を前提に、国家が生き残る術を研究する学問である(p3)
・白村江の戦いのころの朝鮮半島は、日唐代理戦争の舞台であった。朝鮮半島というシアターで、日本と唐というパワーズがヘゲモニーを握って争っていた。百済や任那がアクターとして存在しているうちはパワーバランスがとれていたが、新羅がパワーズになろうとして戦いがおきた。高句麗を滅ぼした後に、渤海が登場してチベットに脅かされるようになると、新羅は日本に詫びをいれてきた(p17)
・キリスト教は、奈良時代には伝来している、ネストリウス派「景教」である。これは、カトリックとプロテスタントから異端とされている(p19)
・三十年戦争において、フランスがプロテスタント連合について、カトリックのハプスブルク家を粉砕したので終わった。宗教で敵味方が分かれなくなったので、欧州ではこれを機に宗教戦争はなくなった(p23)
・江戸幕府は鎖国によってキリスト教を追い出したのではなく、プロテスタント側についた幕府がカトリック勢力を追い出したのが鎖国である。三十年戦争でプロテスタント側・オランダについたこになる(p25)
・中立は戦争している両者の敵になること、両方の陣営から、「こいつを相手にしたら厄介なことになる」と恐れられるだけの実力が必要(p26)
・7年戦争(1756-65)の頃の欧州の大国は、英国・フランス・オーストリア(ハプスブルク)・プロイセン(後のドイツ)・ロシア、であり、30年戦争でプレーヤーであった、スペイン・スウェーデン・オランダは没落した(p27)
・ロシアとトルコの戦争は、数え方では19回あるが、結果は大体ロシアの勝ちであるが、そのたびにイギリスが介入して、地中海に出てくるなと圧力をかけられた(p34)
・中南米からの麻薬・移民・スペイン語の流入はアメリカにとって頭痛の種、最も怖いのが、スペイン語。これが流入すると、WASP(白人、アングロサクソン、プロテスタント)の支配が危うくなる(p36)
・イギリスはスペインの力が北へ及ばないように防ぎ、ロシアはスペインを助ける、そのため、アメリカ大陸は英露代理戦争の舞台となる(p37)
・海戦史上、戦艦と戦艦がぶつかりあわない初めての戦いが、1894年の日清戦争。このような戦い方の変化を生んだ技術革新は、蒸気船の開発であった(p39)
・ウィーン体制は五大国の集団体制だが、実質的には英露が対立している、ロシア・オーストリア・プロイセンは三国の鋼鉄同盟で結ばれている(p41)
・幕末において、イギリス・ロシアと組んでも飲み込まれるしかなかった。オランダは弱体しており、日本を呑み込めないが、大国に対してものを言える程度の国として、アメリカを選んだ(p53)
・国際社会において武器となる「鉄・カネ・紙」において、鉄=軍事力、カネ=経済力、紙=外交力、文化力、宣伝力である(p54)
・欧州では、伝統的に平民は警察が、しょっ引いてもかまわないが、貴族は尊い存在だから警察は手出しできない。この場合は本人同士が決闘で解決する(p56)
・国際連盟のリットン卿は、満州国の独立は認めないが、一切の干渉を許さず、日本の満州における権益はすべて認める。これはブルガリア方式と同じであったが、これを日本は蹴ってしまった(p81)
・イギリスの日英同盟の狙いは、日本とロシアを戦わせること、日露戦争の前にフランスとの間に英仏協商を結んでいる、両国が日ロの戦いに介入しないというとりきめ(p106)
・正式に、日本・モンテネグロ間の戦争終結を確認させたのは、鈴木宗男議員で、日露戦争から102年後の、2006年であった(p108)
・戦わずして大国として認知される方法が、大国が絡む戦争の講和を仲介すること(p109)
・第一次対戦において、帝国海軍は太平洋のドイツ植民地をすべて駆逐するだけでなく、カナダから地中海までの治安を守り、ドイツに無制限潜水艦作戦をさせなかった(p135)
・1916年10.19のロンドン宣言の加入は、日本外交史の金字塔である。この日こそが大日本帝国が名実ともに世界の大国として認められた日である(p139)
・フランスは賠償金の遅払いを理由に、ルール地方を軍事占領したことがあるが、現地ドイツ人のデモとボイコットで立ち往生して引き揚げた(p161)
・イギリスとフランスは敗戦国であるドイツから賠償金を取り立てる、同じ戦勝国同士でも、フランスはイギリスから借金していて、さらにアメリカから借金している、イギリスもアメリカから借金している、アメリカはドイツに投資しているので、これによりドイツが多額の賠償金を払うことができる(p188)
・上陸をさせない水際作戦から、島の内側にこもって要塞化し、上陸した敵を叩くという、作戦に切り替えたことが、ペリリュー島・硫黄島・沖縄におけえる敢闘につながった(p232)
・アメリカは東欧もアジアも共産主義者にとられて、実は自分は何も得ていないことに気付く。ソ連と毛沢東は敵だと気づいたので、1948年にマーシャルプランを発表して、西欧諸国を支援する(p245)
・冷戦終結は、1989年のベルリン壁の崩壊ではなく、91年のソ連崩壊である(p252)
・ドラえもんの世界において、のび太は小突き回されてばかりで諸悪の根源、これを解決するには、のび太が強くなるしかない。のび太が強くなると、ドラえもんの登場人物は結束する、映画版ではそんな話ばかり(p295)
2017年2月26日作成 -
憲政学者の倉山満による、地政学という視点で近現代の世界を紐解く一冊。
各国のパワーポリティックスをドラえもんの登場人物に例えるのはとてもわかりやすい。
また、徐々に論旨が明確で研ぎ澄まされてきた感がある。 -
内容量ハンパない。
早く読みたいしメモも取りたいと葛藤しながら読みました。おもしろいの一言です。
こういう内容は、もしかして倉山先生のこの表現、文章でなければわかりにくかったかもとか思えてきます。
近代の世界の歴史(主に大戦あたり)の動きが重層的に説明されてて、知識欲が刺激される。
歴史の教科書がなぜわからないかがわかる。