- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784864720366
感想・レビュー・書評
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これはすごい作品。物語という表現方法を自分の命の中心においた女性と、黒人男性の愛と遍歴の物語。グラフィック・ノベルであるが、コマ運びなどは比較的読みやすい。しかし速読しようとすると、背景のカリグラフィーをはじめとする圧倒的な絵の情報量の流れを感じて圧倒される。
日本のマンガ「この世界の片隅に」と構造がかなり似ているが、「この世界」に対する視点のシビアさ、失われたもの、得られたものの深さ、世界を「語り直す」視点の多様さなど、本作は圧倒している。おそらく、本作には「家」や地域社会、共同体に対する確固たる、しかしある意味盲目的な安心感がここでは全く存在しないからだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
9歳で嫁がされたドドラと奴隷孤児のザム。大人たちから逃れた二人は砂漠の廃船で暮らしだす。ドドラは体を売ることで食べ物を得、ザムは蛇の導きにより水を得る。二人だけの生活の中でドドラは物語を紡ぎザムに語る。やがて二人は引き裂かれ、ドドラはサルタンの子を孕み、ドドラを失ったザムは自らの意思で去勢する。。。
物語と文字と象徴とが重層的に描き出される。蛇が兵士によって殺害される様はザムの去勢の前兆だし、二人が水に飛び込む姿形は子宮の隠喩として描かれる。そしてこの作品を最も特徴づけるのがイスラミック・カリグラフィー。文字はすなわち言葉であり意味であり意志、啓示、預言、あらゆる象徴の依代。たしかに僕たちはアラビア文字を読むことができない。しかしムハンマドだって文盲でそれでも読むことを求められたのだからなんの問題もない。そこにカリグラフィーがありそれを僕たちが視覚的に受け取ること、それ自体に意義がある。
圧倒的な密度と世界観の深遠さにガツンとやられてぐらっときて読み終わってぐったり。やー、これはすごい。世界には本当に面白い漫画がたくさんある。