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- Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
- / ISBN・EAN: 9784864760881
感想・レビュー・書評
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小林多喜二は『蟹工船』『党生活者』、埴谷雄高は『死霊』『虚空』しか読んでいないし、さほど関心のある作家というわけでもないが、この評論はとても面白く読めた。
小林多喜二「と」埴谷雄高という、一見全然ちがう方向を向いている作家ふたりを並列し、結節することにより、新たな視座を切り開いていこうという知の営みがスリリング。
2人は昭和初期、戦前の共産党時代においてちょっとすれ違い、互いに面識を得ることはなかった。多喜二は党に殉じて獄死し、埴谷はのちに党を捨て、観念の世界にひた走ったわけだが、結局この両者のえがきだした文学世界はどこかで親近性を持っている。
埴谷の『死霊』は、小説としては非常に読みにくいが哲学としてはさほど難しいと思わなかった。ただし曖昧な書き方が多く、最後まで謎を秘めた未完の作品として残った。この本を読んで、『死霊』における対-共産党的な側面を再認識することができたし、作者の構想が若干鮮明になった気がした。
最後のほうで論じられている、テクストが「保存されないかもしれない」という不確かさ、「テクストの傷つきやすさ」という観点はなかなか刺激的だった。
バランスがとれて冷静な、優れた知性の書く物を読むことは楽しい。こういうマイナーな出版社の文庫で埋もれてしまってはもったいないなあと思った。
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