- Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
- / ISBN・EAN: 9784865280388
作品紹介・あらすじ
掴めないはずの感覚を捉えた瞬間の心地良さ。
それが集積して立ち上がる日常をとても愛おしく感じました。―又吉直樹
第一歌集『夜にあやまってくれ』で鮮烈なデビューを果たした著者、待望の第二歌集。
わたしとあなた。心と躰。
繋がっては離れ、私たちは、世界をひらく鍵を探しつづけている。
2016年以降に詠まれた短歌のうち、『短歌ください』掲載作を含む297首を収録。
思い出は増えるというより重なってどのドアもどの鍵でも開く
生体認証。指紋や眼球や顔が暗号になるように、歌を作ることで入れる世界がある。歌を詠み、歌に詠まれた心身は、そこでは鍵の役目を果たしてきた。自らの欠片を差し出すことで、ドアをこじ開けてきたのだ。でも、少し醒めた時には、こんな風にも考えてしまう。はたして、世界は世界の方で、そんなわたしの押し付けがましい断片を望んでいるのだろうか、と。
心許なく、世界に問いかける。わたしのなにがめあてですか? この歌集におさめた歌は、そんな世界との相聞の苦闘の跡だ。
――「あとがき」より
〈収録短歌より〉
白ければ雪、透明なら雨と呼ぶ わからなければそれは涙だ
君は手の銀貨を天然水に変えその水はすぐ人間になる
文字のない世界に降っていた雪よこれからつく嘘にフォントあれ
またここにふたりで来ようと言うときのここというのは、時間のこと
ライターのどこかに炎は隠されて君は何回でも見つけ出す
感想・レビュー・書評
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好きな短歌の本、買ったばかりだが本屋で実際手に取って選んだ本はすぐに読みだしはじめる。なんとも大人の恋の物語をにじみさせる歌ばかり、どことなく色っぽいです。
気になった歌は・・・
思い出は増えるというより重なってどのドアもどの鍵でも開く
バスタオルふたりで使う脱衣所でまたキスをしてしまう、ふりだし
今きみが触れているのはこころかもしれないから優しくはしないで
一度や二度は見たことがあるこの月を見てはいけないような満月
思い出すひとつひとつの風景の無音わずかにカラーではある
明日には明日のニュースを見ることになるのだろうまだ誰も知らない
針のない鼠に生まれ変わったら何をしたいだろうはりねずみ
どのページから読み始めてもいいしどこで読み終えてもかまわない
会いたさは会っても消えてゆかなくて傘を差しても少しは濡れる
会うためにあるいはもう会わないために橋は静かにカーブしている
口のなか切ってしまったその後は言葉すべてに血の味がする
夏の夜の躰めあての雨の窓こころがめあてと言ってしまえよ
この中に犯人がいる ふたりしかいない部屋でも名前を呼んだ
君と見たどんな景色も結局はわたしひとりが見ていたものだ
持ち運び可能な躰を持ち運ぶ会いたいというだけの理由で