トランプ現象とアメリカ保守思想

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レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865281521

作品紹介・あらすじ

2016年アメリカ大統領選を席巻するトランプ現象。
疲弊し没落しつつある中流層、とりわけ貧困層に落ちる不安を抱えた中流層下半分の白人の不満と怒り、絶望がトランプ支持に結びついたことはいかなる未来を暗示しているのか?
1950年代、すなわち公民権法以前のアメリカへのノスタルジーを喚起するトランプはいかなる思想に支えられているのか?
第二次大戦後、ラッセル・カーク、ノーマン・ポドレッツらから始まり、ネオコン第2世代にいたる複雑な近代的なアメリカ保守思想の潮流と、思想が政治運動にいかに結びついてきたのか、ニクソンの南部戦略やニューライトの運動、レーガン政権へ向けた保守の大連合など現代アメリカ政治史の流れをたどり、トランプ現象の本質を本格的に捉え直す。
単なるポピュリズムではない、反動思想としてのトランプ現象を暴く。

感想・レビュー・書評

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  • 『追跡・アメリカの思想家たち』の著者で知られる、元共同通信のジャーナリスト会田弘継氏による、トランプをめぐるアメリカの概観をコンパクトに解説してくれる好著。

    本書は3部構成からなる。今回の大統領選の状況論を語る第1章、トランプの来歴や人物像を手短に紹介する第2章、そして著者が専門とするアメリカ保守思想とトランプを思想史で接続する第3章。本書を通して、トランプ的なものというのは、アメリカで周期的に生じる反動の一環のようにみせつつ、しかし反復ながら同じではない異様さも備えているのだと感じさせる。

    ひとつ注目したいトピックは、トランプ的なものの起源に関しての論述である。(第三章)

    トランプお得意の文句「アメリカ・ファースト」は、コメンテーターで過去に大統領選にも立候補したパット・ブキャナンが選挙の際に使った言葉だという。その政策はなんとトランプが掲げるものと同じで、彼らは2000年選挙で改革党で合流し出会っているのだ。

    このブキャナンの政策の源流には、社会学者・ドナルド・ウォレンがいる。かれは70年代におこなった調査から、白人中間層が感じる課税に対する見返りのなさへの〈怒り〉を発見し、彼らこそがアメリカを揺るがす「ラディカルセンター」だとみなした。この調査を保守思想家サミュエル・フランシスが着目し、ブキャナンに働きかけたことが「アメリカ・ファースト」の政策につながる。

    そのフランシスの思想は原保守主義 〈パレオコン〉paleoconservativeと呼ばれる。源流は南北戦争期の南部保守思想であり、その思想の中心は「人種秩序の肯定」そして「再構築」しようとする白人優位主義。ブキャナンの思想は、保守本流からは異端として排除されていたが、フランシス→ブキャナン→トランプと受け継がれたのだと論じる。

    トランプは機会主義的であり、思想を持っていないと評されるのが通例だ。しかし、会田氏のパースペクティブから浮かび上がる姿は、南北戦争に起源を持つ「白人至上主義」者なのだ。

  • トランプ支持につながっていく、保守の流れを過去に遡って追っている。伝統主義者、リバタリアン、ネオコン、そしてニューライト(宗教右派)。50年代へのノスタルジー、白人階級の「ラディカルセンター」がトランプ支持の源流。アメリカ史の流れから、今のトランプ現象を読み解くべきだ、として、その因果の読み解きは読者に委ねられている。

  • 政治に疎いので、ちょっと難しかったです…。トランプ本人のパーソナリティというよりは、トランプが台頭するに至るアメリカ社会の実情、そして思想に焦点を当てています。追い込まれる中間層、ニューライトからはじまる保守派政治運動、信仰復活運動…。常に前進し続けたアメリカの中産階級白人は、今は、アメリカ没落論を背景に、1950年代に羨望の目を向けている。

    ・アメリカの保守思想は、自由主義の保守をするためのもので、自由主義に包含される
    ・オバマ・トランプは対極に見えるが、支持層には「もう戦争はこりごり」という精神性の共通点がある

  • 034頁:カーソンは……双生児の分離手術を率いて……有名になった。
    ・率いる:多くの人々を指揮する。長として指図する。統率する。
    手術って、率いることができるんだ。手術を擬人化して表現しているのだろうか?
    084頁:泡沫候補とみなされていた。大物には組みせないだろうと。
    ・たぶん、生まれてはじめて「くみせない」という用例を目にした。「大物には勝てない、相手にならない」ということを言いたいのだと思うが、「くみする」の意味を取り違えているのではないか?
    【与する/組する】:仲間に加わる。味方する。同意する。
    106頁:若干二十七歳
    ・若干:数ははっきりしないが,あまり多くはないことを表す。副詞的にも用いる。いくらか。多少。
    181頁:どちらの主張にも与さず
    ・「与(くみ)せず」が正しいのではないでしょうか?

  • 2016年アメリカ大統領選を席巻したトランプ現象。これまで知られなかった、米国中流層の怒りや不満はどこから生じているのか? 彼らの思想の源流、そしてトランプ氏が喝采を浴びる理由を明かす。

    第1章 壊れゆくアメリカ
    第2章 トランプという男
    第3章 トランプの反動思想

  •  なぜトランプ? ホワイ、アメリカンピーポー? という疑問から本書を読むことになったのだが、トランプを個人的・キャラクター的に解説するだけでなく、アメリカ保守思想の流れに位置づけることで、なぜアメリカ人がトランプに熱狂するのかをうまく説明してくれる1冊だった。
     第1章「壊れゆくアメリカ」では、現在のアメリカ白人中間層になにが起きているのかということから、トランプに惹かれていく心理を解説。彼らは経済的に追い詰められ、人口比でも割合を減らし、現状に強い疑念と憤りを抱えている。トランプ人気とサンダース人気は同根のもとにあるとする。
     保守もリベラルも、アメリカの政治思想の根本はいずれも「自由主義」というのがおもしろい。リベラルは社会的な価値観における個人の自由の拡大を求めつつ経済は政府にあれこれにやってもらおうとする。一方、保守は社会問題については権力による規制を求めつつ、経済活動には「政府は口を出すな」と言う。
     第2章「トランプという男」は、トランプの生い立ちから、財産を築き、テレビショーで人気者になるまでを描く。「個人的・キャラクター的」な章で、ここはわりとあっさり。
     第3章「トランプの反動思想」は、アメリカの4つの保守思想の系統である伝統主義者、リバタリアン、ネオコン、ニューライトをそれぞれ解説。これらが反ソ連でひとつにまとまったレーガン政権時代をへて、冷戦終結したあとまたバラバラになった各派はトランプをどう見ているか。近代主義の遺伝子を引き継いでいるネオコンはトランプを完全否定。伝統主義者の大部分と、リバタリアンたちも困惑気味。結局、トランプは「反動」であり、支持しているのはニューライト=宗教右派と、伝統主義者の一部=公民権運動の前の白人優位社会を懐古する層ということになるだろうか。
     1冊通して、トランプを軸に、アメリカの保守-リベラル軸の政治の流れを追うことができる。自分としては共和党のなかでもトランプを支持する層としない層があるということを、すこし整理して考えられるようになった。

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著者プロフィール

1951年埼玉県生まれ。青山学院大学教授。米誌The American Interest 編集委員。東京外国語大学卒業後、共同通信社に入社。ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。日本記者クラブ理事を務めた。著書に『追跡・アメリカの思想家たち』『破綻するアメリカ』など、訳書に『政治の起源』(フランシス・フクヤマ著)『難破する精神』(マーク・リラ著)など。

「2018年 『政治の衰退 上 フランス革命から民主主義の未来へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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