迷うことについて

  • 左右社 (2019年4月26日発売)
3.55
  • (8)
  • (11)
  • (5)
  • (4)
  • (3)
本棚登録 : 502
感想 : 17
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

本 ・本 (236ページ) / ISBN・EAN: 9784865282344

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 迷う、失うこと=ロストする、ことについて書かれたエッセイ。
    著者の家族や友人、恋人の「ロスト」のような個人的な体験と、16世紀のアメリカ大陸で生き延びたスペイン人侵略者、インディアンに攫われた子供たちの記録、青に取りつかれた芸術家の一生、音楽、砂漠の動物たち、小説の引用、地図の歴史…と広大な範囲の話題が混ざり合い、思索が展開していく。

    迷子とは精神の状態という著者。街や森で自ら迷うときのこころが、「世界のなかへ紛れてしまう」「抱かれて身を委ねる」、「自我が溶解する」と表現される。世界との接続のすべを失えば、自分自身も見失われる。そして街をさまようウルフの「アイデンティティや激しい欲望に関わること、名を捨てて誰か別の人になりたい、あるいは自分自身を、他人の目に映る自分を思い出させる首枷を脱ぎ捨ててしまいたいという切実な願い」。「自分のバイオグラフィーを生きることから束の間の猶予をもらう」状態。私は方向音痴だけどそうやって迷いながら街を歩くのが好きでどうしてもやめられなくて、まさにこの感覚、この願い、と思う。
    不確実性や謎に留まって、未知の領域に自分を置き続ける能力、negative capability。人間はどうしてもすっきりさせたい、分かりたい、という正の走行性がある気がする。それに抗って、未知の領域の只中に身を置いて分からないまま考える、負の方向に向かい続けるというのは胆力のいることだ。でも、人が心の底で求める類の何かは、そういう営みを必要とするものなのだと思っている。

    隔たりの青の話もすごく素敵なのだ。距離のある所にしか現れない、「旅路をまっとうできなかった迷ってしまった光」たちの美しい青。隔たりの具現なのだ。6章の貴族の娘の話も綺麗。
    私たちが憧憬を抱く対象ではなく、その間の隔たりを抱いて愛すること。この本はまだ頭の中に置いて考えていたいという感じだ。

  • 2019年8冊目。

    テーマが「迷い」、著者はレベッカ・ソルニットと知り、本屋さんで出会って中を開くまでもなくレジへ。読み終えた今、その期待はまったく裏切られず。

    VUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)の時代に必要なことは、より正確な予測力やより強靭なコントロール力ではなく、むしろ「迷い」のなかに留まれる力なのではないか、と思うことがある。「ネガティブ・ケイパビリティ(不確実性のなかに留まる力)」という言葉もあるくらいで、僕たちはもう少し「わからないこと・もの・場所」との豊かな付き合い方を学んでいくべきなのではないか、と。

    幅広い分野の思索を著す一級の作家であるレベッカ・ソルニットによるこの本は、そんな「迷うこと」の価値を深く深く感じさせてくれる。「エッセイ」と一言で片付けてしまうにはあまりにも美しすぎる文章で、「迷っても大丈夫」という安心感と、「迷うことこそでこそ得られる豊かさがある」という希望を与えてくれる。

    各章の題材となっている著者自身の体験に根付く話は、哲学、芸術、自然などへの深い理解に基づいて多様で、数々の著作からもわかるようにその射程範囲の広さに驚かされる。ときに現れるシュールレアリスティックな夢の話は幻想的で、この人自身が歴史家を越えて芸術家なのだと強く感じる。

    「迷う=get lost」...喪失を獲得する、自分自身の足場や世界の手掛かりを積極的に手放してみる、そうした先でしか出会えない豊かさの存在を信じさせてくれる素晴らしい一冊だった。何かを失った(lost)思いに苛まれる自分でいるのではなく、そういう自分すらも丸ごと失ってみる(get lost)、ときにはそんな経験も必要だと思う。一生、豊かに惑い続けたい。

  • 著者を含め、時代や文化的背景の異なる様々な人物や動植物とのストーリーを辿りながら、様々な土地土地を彼女が綴る美しい文体と共に巡っていく過程で、時間や空間が渾然一体と感じられるような不思議な感覚が得られる本だった。

    ソルニットは、「迷う」ことは、自らを「失う」こと (lost) だと述べているが、そこには悲観的意味合いはない。人が何かに迷っているときには、同時に何か見知らぬものが顔を出しており、自分が見ている世界はそれまで知っていたよりも大きなものになっている。

    本書中では、「迷い」の象徴的な色として「青」が度々登場する。空や海に果てしなく広がる「青」は、決して到達できない願望や欲望と、憧憬への「隔たり」の色であるが、人はその隔たりを埋めるための解決策をつい考えてしまいがちだ。しかしながら、例えそれらを獲得できたとしても、決して満たされることはなく、次の欲望が待っている。不確実性に留まりながら、その隔たりの感覚そのものを愛でることを提案する著者の主張に深い共感を覚えた。

    他にも様々なエピソードが描かれているが、印象深かったのはカリフォルニアのウィントゥ族の話だった。彼らは、自分の身体の部位を指す時に、左右ではなく東西南北の方位を使う。ウィントゥにとって確かなのは揺るぎない世界の方であって、自分はそこに寄りかかる不確かな存在でしかない。

  • 濃淡の異なる、しかしどこまでも透明な青に、一章おきに迷い込む。ひとり異国を旅する時、いまこの世にわたしの居場所を知るひとは誰もいない、という何にも代えがたいあの稀有なよろこびを味わったことのあるあなたに読んでほしい。

  • 山の稜線の話がとてもよかった

  • 隔たりの青

  • ◆9/26オンライン企画「まちあるきのすゝめ ―迷える身体に向けて―」で紹介されています。
    https://www.youtube.com/watch?v=ighe77gjWX4
    本の詳細
    http://sayusha.com/catalog/books/_philosophy/p9784865282344

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1381031

  • ふむ

  • ・ベンヤミンがところどころでてくるけど作者のすきな哲学者なのかな?時間感覚の歴史?やったかなんか読もうとしたけど難しいすぎて断念したような.

    ・ベンヤミンに倣っていえば、自分の居場所を知りつつ迷子になっている
    ・迷子とはいわば精神の

全17件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

レベッカ・ソルニット(Rebecca Solnit):1961年生まれ。作家、歴史家、アクティヴィスト。カリフォルニアに育ち、環境問題・人権・反戦などの政治運動に参加。アカデミズムに属さず、多岐にわたるテーマで執筆をつづける。主な著書に、『ウォークス歩くことの精神史』(左右社)、『オーウェルの薔薇』(岩波書店)がある。

「2023年 『暗闇のなかの希望 増補改訂版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

レベッカ・ソルニットの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×