迷うことについて

制作 : 東辻 賢治郎 
  • 左右社
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本棚登録 : 29
レビュー : 1
  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865282344

作品紹介・あらすじ

わたしたちはいつだって迷っている。
夜明け前が一番暗いと知っているけど、その暗さに耐えられるときばかりじゃない。
失われたもの、時間、そして人びと。
個人史と世界史の両方に分け入りながら、迷いと痛みの深みのなかに光を見つける心揺さぶる哲学的エッセイ。

全世界を見失うがよい、迷いながら自分の魂を見出だすのだ。ーーH・デヴィッド・ソロー。

いにしえの哲学者は「それがどんなものであるかまったく知らないものを、どうやって探求しようというのか」と問うた。
一見、この問いはもっともだ。でも、いつだってわたしたちが探しているのは、どんなものかまったくわからないものだ。
進むべき道に迷い、〈死の谷〉で帰り道を見失い、愛の物語はガラスのように砕け散る。
脚本はついに一文字も書かれず、囚われ人は帰ってこない……。

旧大陸からやってきて、いつしかアメリカ西部のどこかに姿を消した曽祖母。
たどり着いた新大陸を10年にもわたってさまよった最初期の入植者カサ・デ・バカの一行。
嵐のような10代の冒険をともに過ごし、ドラッグで命を落とした親友。
ルネサンス以来描かれるようになった〈隔たりの青〉。
かつて愛した砂漠のような男。
父との確執。
ソルニット自身の人生と、アメリカを中心とした歴史と文化史に視線を向けて、
メノンとソクラテス、ベンヤミンやヴァージニア・ウルフらとともに、
迷うことの意味と恵みを探る傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 2019年8冊目。

    テーマが「迷い」、著者はレベッカ・ソルニットと知り、本屋さんで出会って中を開くまでもなくレジへ。読み終えた今、その期待はまったく裏切られず。

    VUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)の時代に必要なことは、より正確な予測力やより強靭なコントロール力ではなく、むしろ「迷い」のなかに留まれる力なのではないか、と思うことがある。「ネガティブ・ケイパビリティ(不確実性のなかに留まる力)」という言葉もあるくらいで、僕たちはもう少し「わからないこと・もの・場所」との豊かな付き合い方を学んでいくべきなのではないか、と。

    幅広い分野の思索を著す一級の作家であるレベッカ・ソルニットによるこの本は、そんな「迷うこと」の価値を深く深く感じさせてくれる。「エッセイ」と一言で片付けてしまうにはあまりにも美しすぎる文章で、「迷っても大丈夫」という安心感と、「迷うことこそでこそ得られる豊かさがある」という希望を与えてくれる。

    各章の題材となっている著者自身の体験に根付く話は、哲学、芸術、自然などへの深い理解に基づいて多様で、数々の著作からもわかるようにその射程範囲の広さに驚かされる。ときに現れるシュールレアリスティックな夢の話は幻想的で、この人自身が歴史家を越えて芸術家なのだと強く感じる。

    「迷う=get lost」...喪失を獲得する、自分自身の足場や世界の手掛かりを積極的に手放してみる、そうした先でしか出会えない豊かさの存在を信じさせてくれる素晴らしい一冊だった。何かを失った(lost)思いに苛まれる自分でいるのではなく、そういう自分すらも丸ごと失ってみる(get lost)、ときにはそんな経験も必要だと思う。一生、豊かに惑い続けたい。

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著者プロフィール

1961年生まれ。作家、歴史家、アクティヴィスト。カリフォルニアに育ち、環境問題・人権・反戦などの政治運動に参加。1988年より文筆活動を開始する。歩くことがいかに人間の思考と文化に深く根ざしているか広大な人類史を渉猟する『ウォークス 歩くことの精神史』(Wanderlust, 2000)、エドワード・マイブリッジ伝River of Shadows(2004、全米批評家協会賞)、旅や移動をめぐる思索A Field Guide to Getting Lost(2005)、ハリケーン・カトリーナを取材したA Paradise Built in Hell(2009、邦訳『災害ユートピア』)など、環境、土地、芸術、アメリカ史など多分野に二十を越す著作がある。美術展カタログや雑誌への寄稿も多数。

「2018年 『説教したがる男たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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