迷うことについて

  • 左右社
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865282344

作品紹介・あらすじ

わたしたちはいつだって迷っている。
夜明け前が一番暗いと知っているけど、その暗さに耐えられるときばかりじゃない。
失われたもの、時間、そして人びと。
個人史と世界史の両方に分け入りながら、迷いと痛みの深みのなかに光を見つける心揺さぶる哲学的エッセイ。

全世界を見失うがよい、迷いながら自分の魂を見出だすのだ。ーーH・デヴィッド・ソロー。

いにしえの哲学者は「それがどんなものであるかまったく知らないものを、どうやって探求しようというのか」と問うた。
一見、この問いはもっともだ。でも、いつだってわたしたちが探しているのは、どんなものかまったくわからないものだ。
進むべき道に迷い、〈死の谷〉で帰り道を見失い、愛の物語はガラスのように砕け散る。
脚本はついに一文字も書かれず、囚われ人は帰ってこない……。

旧大陸からやってきて、いつしかアメリカ西部のどこかに姿を消した曽祖母。
たどり着いた新大陸を10年にもわたってさまよった最初期の入植者カサ・デ・バカの一行。
嵐のような10代の冒険をともに過ごし、ドラッグで命を落とした親友。
ルネサンス以来描かれるようになった〈隔たりの青〉。
かつて愛した砂漠のような男。
父との確執。
ソルニット自身の人生と、アメリカを中心とした歴史と文化史に視線を向けて、
メノンとソクラテス、ベンヤミンやヴァージニア・ウルフらとともに、
迷うことの意味と恵みを探る傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 迷う、失うこと=ロストする、ことについて書かれたエッセイ。
    著者の家族や友人、恋人の「ロスト」のような個人的な体験と、16世紀のアメリカ大陸で生き延びたスペイン人侵略者、インディアンに攫われた子供たちの記録、青に取りつかれた芸術家の一生、音楽、砂漠の動物たち、小説の引用、地図の歴史…と広大な範囲の話題が混ざり合い、思索が展開していく。

    迷子とは精神の状態という著者。街や森で自ら迷うときのこころが、「世界のなかへ紛れてしまう」「抱かれて身を委ねる」、「自我が溶解する」と表現される。世界との接続のすべを失えば、自分自身も見失われる。そして街をさまようウルフの「アイデンティティや激しい欲望に関わること、名を捨てて誰か別の人になりたい、あるいは自分自身を、他人の目に映る自分を思い出させる首枷を脱ぎ捨ててしまいたいという切実な願い」。「自分のバイオグラフィーを生きることから束の間の猶予をもらう」状態。私は方向音痴だけどそうやって迷いながら街を歩くのが好きでどうしてもやめられなくて、まさにこの感覚、この願い、と思う。
    不確実性や謎に留まって、未知の領域に自分を置き続ける能力、negative capability。人間はどうしてもすっきりさせたい、分かりたい、という正の走行性がある気がする。それに抗って、未知の領域の只中に身を置いて分からないまま考える、負の方向に向かい続けるというのは胆力のいることだ。でも、人が心の底で求める類の何かは、そういう営みを必要とするものなのだと思っている。

    隔たりの青の話もすごく素敵なのだ。距離のある所にしか現れない、「旅路をまっとうできなかった迷ってしまった光」たちの美しい青。隔たりの具現なのだ。6章の貴族の娘の話も綺麗。
    私たちが憧憬を抱く対象ではなく、その間の隔たりを抱いて愛すること。この本はまだ頭の中に置いて考えていたいという感じだ。

  • 著者を含め、時代や文化的背景の異なる様々な人物や動植物とのストーリーを辿りながら、様々な土地土地を彼女が綴る美しい文体と共に巡っていく過程で、時間や空間が渾然一体と感じられるような不思議な感覚が得られる本だった。

    ソルニットは、「迷う」ことは、自らを「失う」こと (lost) だと述べているが、そこには悲観的意味合いはない。人が何かに迷っているときには、同時に何か見知らぬものが顔を出しており、自分が見ている世界はそれまで知っていたよりも大きなものになっている。

    本書中では、「迷い」の象徴的な色として「青」が度々登場する。空や海に果てしなく広がる「青」は、決して到達できない願望や欲望と、憧憬への「隔たり」の色であるが、人はその隔たりを埋めるための解決策をつい考えてしまいがちだ。しかしながら、例えそれらを獲得できたとしても、決して満たされることはなく、次の欲望が待っている。不確実性に留まりながら、その隔たりの感覚そのものを愛でることを提案する著者の主張に深い共感を覚えた。

    他にも様々なエピソードが描かれているが、印象深かったのはカリフォルニアのウィントゥ族の話だった。彼らは、自分の身体の部位を指す時に、左右ではなく東西南北の方位を使う。ウィントゥにとって確かなのは揺るぎない世界の方であって、自分はそこに寄りかかる不確かな存在でしかない。

  • 2019年8冊目。

    テーマが「迷い」、著者はレベッカ・ソルニットと知り、本屋さんで出会って中を開くまでもなくレジへ。読み終えた今、その期待はまったく裏切られず。

    VUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)の時代に必要なことは、より正確な予測力やより強靭なコントロール力ではなく、むしろ「迷い」のなかに留まれる力なのではないか、と思うことがある。「ネガティブ・ケイパビリティ(不確実性のなかに留まる力)」という言葉もあるくらいで、僕たちはもう少し「わからないこと・もの・場所」との豊かな付き合い方を学んでいくべきなのではないか、と。

    幅広い分野の思索を著す一級の作家であるレベッカ・ソルニットによるこの本は、そんな「迷うこと」の価値を深く深く感じさせてくれる。「エッセイ」と一言で片付けてしまうにはあまりにも美しすぎる文章で、「迷っても大丈夫」という安心感と、「迷うことこそでこそ得られる豊かさがある」という希望を与えてくれる。

    各章の題材となっている著者自身の体験に根付く話は、哲学、芸術、自然などへの深い理解に基づいて多様で、数々の著作からもわかるようにその射程範囲の広さに驚かされる。ときに現れるシュールレアリスティックな夢の話は幻想的で、この人自身が歴史家を越えて芸術家なのだと強く感じる。

    「迷う=get lost」...喪失を獲得する、自分自身の足場や世界の手掛かりを積極的に手放してみる、そうした先でしか出会えない豊かさの存在を信じさせてくれる素晴らしい一冊だった。何かを失った(lost)思いに苛まれる自分でいるのではなく、そういう自分すらも丸ごと失ってみる(get lost)、ときにはそんな経験も必要だと思う。一生、豊かに惑い続けたい。

  • 濃淡の異なる、しかしどこまでも透明な青に、一章おきに迷い込む。ひとり異国を旅する時、いまこの世にわたしの居場所を知るひとは誰もいない、という何にも代えがたいあの稀有なよろこびを味わったことのあるあなたに読んでほしい。

  • 山の稜線の話がとてもよかった

  • ことばを超えた「今に合致するもの」を見たときに、本当の意味で言葉が流れ、それを後から言語化することで生まれ変わりをする。うちはそのための場所


    以下引用

    未知へ向けて扉を開け放つこと。暗闇への扉。いちばん大切なものはそこからやってくる。

    それがどんなものであるのかまったく知らないものを、どうやって探求しようというのでしょうか。

    あらゆる芸術家にとっては未知のもの、すなわちアイデアであれ、フォルムであれ、物語であれ、未だ到来していないものこそが探求の対象となる。扉を開いて、預言者を、つまり未知なるもの、見知らぬものを招来するのが芸術家の務め

    科学者が未知を既知に、猟師が網を引き揚げるように変えて一方行く、芸術家は、私たちを暗い海へと引きずりこむ

    未知にもとづく計算という、矛盾と呼ぶほかない試みこそ、おそらく最も求められること

    偉大な達成、とりわけ文芸の異業を成し遂げる人間をつくりだしてきた資質、、、それは消極的能力なのだ、つまり、いたずらに事実や合理を追い求めないで、不確実な状況や謎や疑いのうちにとどまっている能力

    しかし、街に迷うことーちょうど森で自らを見失うようにーにはかなり別種の修練が求められる

    迷うこと、感応に満ちた降伏。抱かれて身を委ねること、世界のなかへ紛れてしまうこと、外側の世界がかすれて消えてしまうほどに、その場にすっかり沈みこんでしまうこと

    迷う、すなわち自らを見失うことは、その場に余すことなくすっかり身を置くことであり、すっかり身を置くということは、すなわち不確実性や謎に留まっていられることだ、そして人は迷ってしまうのではなく、自ら迷う、自らを見失う。それは意識的な選択、選ばれた降伏であって、地理が可能にする

    ★どんなものかまったくわからないもの。探さねばならないものはたいていそんなものだ。その探求は迷うことに通じている。「失われた」「迷った」という言葉は、古ノルド語で軍隊の解放を意味する言葉に由来している。この由来は、隊列を離れて故郷へ向かう兵士を、外との暫時の休戦を思わせる。わたしの気にかかるのは多くの人は自らの軍隊に開放を命じることがまったくない、つまり自らの知ることを超えて出ることがないのではないか。ということだ。広告、ニュース、テクノロジー、休息を知らぬ忙しさ。そうした状況に加担する公私の空間のデザイン。

    子ども時代にあてもなく出歩いたことは独り立ちの助けになっていた。方角の感覚を身に着け、冒険を知り、想像力を養い、探検への意思を育て、少しばかり道に迷った後で帰り道をみつけだせるようになった

    文字通りの迷子について今日わかっていることは、単純には以下のようなことだ。迷子になる人は、迷いそうなときに、注意力を働かせておらず、帰り道がわからなくなった時点でどうすればいいのかわからなくなってしまうか、道が分からないこと自体を見止めようとしない。天候やルートや経路沿いの目印、引き返したときみえるはずの景色、太陽や月や星からわかる方角、水の流れる向きやそのほかのたくさんの野生の自然を読解可能なテキストへ変える手がかかりがあり、それに関心を払う技術がある

    →今、自分はこのフェーズだな。流体として作用する物体を探している。

    遭難者の多くは、地球に書かれたそうした言語を読む術を知らないか、足を止めて読み取ろうとしない。加えて見知らぬ環境で緊張を解き、いたずらなパニックや苦痛を招かず、迷っている状態ん自分を馴染ませるというまた別の技術がある。

    不確実な状況や謎や疑いのうちに留まってる能力

    生き延びる秘訣は、自分が迷子だと知るコト

    わたしが好きなのは、進むべき進路を離れて、自分のしっていいる範囲から出てみること。地図と合致しないコンパスの梁や、出会った人のたんでばらばらな指南を材料にして別の道をみつけ


    自分の居場所を知りつつ、迷子になってる、そんな夜

    一日や一週間くらい予定のコースを外れることはたいした事件ではなかった。これまで森のなかで迷子になったことはない。三日ほどよくわからなくなったことはあるが


    探検家が目指すのは、いままで行ったことのない場所ですから、いつでも迷っているようなものです。彼らは自分たちの居場所は正確にわかるとは思っていませんでした。とはいえば、多くの者は装備の運用に熟達していて、十分な精度で進路を把握していました、自分たちが生きのびることが出来、進むべき道が見つかるだろうという楽観的な態度こそ、彼らの最も重要なスキルだった。

    迷子とはおよそ精神の状態なのだ。

    いったいどう迷えばいいのか。まったく迷わないのは、生きているとは言えないし、迷い方を知らないでいるといつか身を亡ぼす。ゆたかな発見にみちた人生はその隙間に横たわる未詳の土地のどこかにある

    森で迷うことはいつでも驚きにあふれていて、忘れがたく、かけがえのない経験だ。すっかり迷子になったりぐるりと回ってみたりして、というのはこの世界で迷子んなるには、目を閉じてその場でぐるぐる回るだけでよい。

    迷子になる、つまり世界の手掛かりを失って、はじめてわたしたちは自分自身をさがしはじめる。そして自分がどこにいるか理解し、自分をとりまく無限の広がりに気が付く


    その中に迷いながら、自分の魂を見出すのだ

  • ◆9/26オンライン企画「まちあるきのすゝめ ―迷える身体に向けて―」で紹介されています。
    https://www.youtube.com/watch?v=ighe77gjWX4
    本の詳細
    http://sayusha.com/catalog/books/_philosophy/p9784865282344

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1381031

  • ふむ

  • ・ベンヤミンがところどころでてくるけど作者のすきな哲学者なのかな?時間感覚の歴史?やったかなんか読もうとしたけど難しいすぎて断念したような.

    ・ベンヤミンに倣っていえば、自分の居場所を知りつつ迷子になっている
    ・迷子とはいわば精神の

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著者プロフィール

レベッカ・ソルニット(Rebecca Solnit):1961年生まれ。作家、歴史家、アクティヴィスト。カリフォルニアに育ち、環境問題・人権・反戦などの政治運動に参加。アカデミズムに属さず、多岐にわたるテーマで執筆をつづける。主な著書に、『ウォークス歩くことの精神史』(左右社)、『オーウェルの薔薇』(岩波書店)がある。

「2023年 『暗闇のなかの希望 増補改訂版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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