仕事本 わたしたちの緊急事態日記

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865282832

作品紹介・あらすじ

新型コロナウイルス感染拡大ーーー前代未聞の事態を迎えたわたしたちの文学。
“普通の毎日”が一変した2020年4月、ほかの人はどう過ごしていたんだろう。
パン屋、ミニスーパー店員、専業主婦、タクシー運転手、介護士、留学生、馬の調教師、葬儀社スタッフ……コロナ禍で働く77人の日記アンソロジー!!!

ミニスーパー店員……「お一人様一点限り」のトイレットペーパーをめぐって
四月七日(火) ピークは過ぎたと思うが、未だタイミングが悪いと入手するのに苦労する品ではある。うちの店も「お一人様一点限り」の制限付きだ。すると一人のお婆さんが、「友達が困っているから友達の分も買って行ってあげたい」とレジに来た。流石にルールを守らないわけには行かず、「申し訳ございません」と丁重にお断りした。お婆さんは12ロール入りのトイレットペーパーを1つだけ買って、店を出た。何だか申し訳なく思っていたのだが、すぐにお婆さんを追いかけた。

馬の調教師……無観客競馬でデビュー戦を迎える馬に寄り添う
四月一七日(金) 川崎競馬開催最終日 この日、自分の厩舎から競走馬としてデビュー戦を迎える仔がおり、オーナーさんも来場はされましたが、今開催は来場出来ても、普段は入れる僕らのゾーンやパドックなどには一切出入り禁止になっています。レース前のジョッキーとオーナーさんとの作戦会議や、レースの回顧など出来ず、仕方ないことですが、そういった楽しみも新型コロナウィルスの影響で奪われています。

専業主婦……退屈そうな息子、不安な日々にピリピリしている夫を力強く支える
四月二二日(水) テレビで人と密にレストランで食事する姿を見て、楽しそうで懐かしくて悲しくなった。夫が帰宅してすぐ手洗いうがいをしないので、注意をしたら逆ギレされた。夫への怒りおさまらず、夕食の用意を放棄しようかと思ったけれど、冷蔵庫の野菜が腐るし予算もない。何よりも夫の個人的外食も避けてコロナ感染のリスクを減らしたい。

ライブハウス店員……「わたしなんかが」という思いに変化が
四月二四日(金) お行儀の良い人間ではないから、おとなしくおうち時間はできないし、そもそも仕事をしないと、いまできることを続けないと、自分の生活どころかうちの店舗、うちの店舗どころか会社、会社どころか文化、エンタメ業界が死ぬらしい。わたしがいないと文化が死ぬことだってもしかしたらありえる気がしてきた。

葬儀社スタッフ……「父がコロナウイルスで亡くなったかもしれないのですが」
四月八日(水) 霊安室の隣の控室で会ったAさんは、背の高いまじめそうな中年の紳士だった。私が名乗ると少し安心した表情を見せた。「こういうの初めてなので……」とすまなさそうに言う。
(ええ、私も伝染病のケースは初めてなんです)と心の中で思ったが、そんな不安は悟られてはいけない。仮にコロナウイルスでなくても、肉親を亡くした遺族は、不安な気持ちで一杯なのだ。まずは安心させることだ。

この“生活"は誰かの“仕事"が支えている!
2020年4月、働き方は一変したーー
タクシー運転手からホストクラブ経営者まで、コロナ禍で働く77 人の“仕事” 日記アンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  • つながる/ひろがる/フェミ・ジャーナル -ふぇみん-|ふぇみんの書評
    https://www.jca.apc.org/femin/book/20200815.html#a

    仕事本 わたしたちの緊急事態日記 | 左右社
    http://sayusha.com/catalog/books/p9784865282832%e3%80%80c0095

  • 様々な人たちの2020年4月の日記集。
    あの時の閉塞感が蘇って苦しくなりもするが、意外なことに同時に広がりも感じた。
    ああ、人が生きているんだな、と思った、当然のことなのだけど。
    コロナ禍以前からインターネットの影響もあって、自分と自分が見える範囲以外でも人が生きている、生活している、ということが感じ辛くなっていたのが、一気に加速したように思う。
    SNSでは断片的すぎて、人々が投稿しているのだとわかっていてもその人々が生きている実感は薄い。
    けれど、大勢の人が生活を書き記しているのをまとめて読んだことで、その質量を実感できたのだった。
    読んで良かった。
    どの日記も滲み入るものがあったが、特にピアノ講師の方と旅行代理店の方の日記が刺さった。

    ただ、これはこの本に対してというか、読んで自分に向き直って感じたことなのだけど、書き手の職業などは幅広かったけれど思想的には割と似ていたように思う。
    当時の政権に対しては、“特に触れない”から批判的な辺り。
    よくやっていた、という人はいなかった。
    私も思い切り批判的な考えなので、とても読みやすかった。
    でも、読みやすくていいんだろうか、とも思ったのだった。
    思想的に遠い人たちも、というかその人たちこそ、生きていることを私は実感すべきなんじゃないだろうか。
    でも、それは1冊の本に負わせずに私が考えていなければならないことだなと思ったので、それは自分に。
    書き手の選別には出版社の信条なども託されているのだろうから、この本自体が一つの主張であるのはいいと思います。

    (ところで、この本自体の装丁は好きではあるのだけど、同じ出版社の〆切本シリーズとまるで同じなので、もう少し違うものが見たかった、という気持ちは少しある。でも、それもコロナ禍の影響で一からのデザインは難しかった、ということならオッケーです!)

  • 日記形式でそれぞれの人の考え方が分かりやすく入ってきた。色んな人がいるんだな。

  • 図書館より拝借。読めるとこまで読もう、の厚さ。温又柔氏の日記内でウティット・ヘーマムーン氏の文章のことにふれていたので、早速「文藝夏号」を図書館予約する。だいたいそんな感じで、わたしの興味はかろうじてつながってゆくのです。

  • 様々な業種で働く人達の緊急事態宣言中の日記。

    働きたいのに仕事がなくなってしまった人、働きたくないのに(出社したくない)のに働かなければいけない人、怒る人、落ち込む人、比較的ポジティブな人…日記を読むことで本当に三者三様だなと実感した。
    人によって捉え方が違うのでマスクする·しない、外出する·しない、自粛の度合いでギスギスしていたあの頃を思い出す。
    今までの当たり前が急にひっくり返されて、フィクションの世界をみているようだったな。
    あの頃より今は色々と落ち着いてきたけど、まだまだコロナは正しく警戒すべきだと思っている。

    様々な業種の方の日常や仕事内容を知れるのも興味深かった。
    町田康さんの日記が面白くてクセになりそうだ。

  • 昨春、初めての緊急事態宣言下での様々な職業の方の日記。
    最初はその分厚さに「全部読めるかな…」と軽くひるむほどでしたが、”コロナ禍”に対する切り口の多彩さ、まさしく十人十色な個性の発露に惹かれ、時間はかなりかかりましたが読み切りました。

    先の見通しなんてなかなかたたない状況で「緊急事態宣言解除」を1つのゴールとしている方が多かったですし(あの頃の自分も確かにそうだった)、そんな中でも「まあ年内には徐々に収束しているだろう」という希望的観測に基づいた記述も多々見られました。
    まさか1年後にも緊急事態宣言が発令されていて、変異株なんてものが猛威をふるっているなんて、自分もそうですがほとんどの人が予想できていなかったと思います。
    1日の感染者が3桁になっただけで戦々恐々としていたのに、1年後の今は
    「あ、東京は今日は1000人切ったんだ」
    と1桁違うところで、あの頃からしたら完全に感覚が麻痺しているかのように感染者数を捉えています。
    それはさておき、数々の日記からは
    「とにかくこの(昨春の)緊急事態宣言を乗り切る」
    という思いが溢れていて
    「2021年の5月のこの今、この方々はどんな思いで過ごしているんだろうか」
    と思わずにはいられない、そんな気持ちで読んでいました。

    終盤に登場する旅行会社社員の青木麦生さんが、このコロナ禍で忘れたくない物事をリスト化した最後に
    「嬉しかったことも自分の心の醜い部分も、しっかり覚えていなければならない」
    と締めていたのがとても印象的でした。
    非日常と感じていた日々が日常のようになっている今、これはとても大事なことだと感じました。
    コロッと悲観的にもなるし、現実逃避よろしく楽しいことだけに目も気持ちも向けたくなったりするけど、どこかでキチッと俯瞰して良いも悪いも記憶しておくこと。理由はうまく言葉にできないけど、自分には至極必要な作業に思いました。

    あとは細かいところですが、首相の呑気な動画に激怒したり、「自分にできることはないか」とあれこれ模索したり、カミュの『ペスト』を読んでみたり、オンライン飲み会の誘いが誰からもこないことにモヤモヤしたり、「育乳」するためにサプリメント購入したり、普段やれない掃除や片付けをしたり…
    色んな人のあの頃の気持ちや行動は共感したり笑ったりとにかくひたすらに興味深いものでした。
    同じ日をそれぞれに過ごしている。
    それ自体は当たり前の事だけど、自分と普段はリンクすることない他人様の日常に、それぞれの日記を通じて思いを馳せることに不思議な刺激がありました。

    さらにどうでもよすぎるけど、SNSをレイバンの広告に乗っ取られた話が2人の方からでてきて、こんなところでその話題を目にする意外性もあって
    「あの広告、ホントにゴ★ブリ以上の生命力だなー」
    と妙なところで関心したりも。


    すべてがきちんと収束した後に、もう一回読み返したい一冊です。

  • 全く同じ日を色んな人が生きているんだ、ということを考えた。
    期間の中に自分の誕生日も入っていて、今年の誕生日の過ごし方は覚えていたので、自分と比較もできて、面白かった。

  • 図書館で順番が回ってきたけど、今だからこそ読むのがつらく感じ、一部だけ読んで返却した。
    あの頃の方がしんどくなかったような、今の方がマシなような、よく分からない気持ち。もう少し落ち着いてから読んだ方が良い気がする。
    思っている以上に政治家を批判している人が多くてしんどい。政治家擁護とかではなくて、単に、具体的に人を批判しているものを読むのがしんどい。

    巻末にある鏡リュウジさんの文章は落ち着いていて、なるほどという感じ。この方の文章が最後で良かった。

  • もうコロナ禍にまみれて1年以上経過しているのか、と痛感。あなた方が書き綴ってる我慢やストレス、ほんの少しの未来も変わらず続いているよと伝えたい。
    いろんな稼業の人の日記を読んだが時期も1ヶ月間でだいたい書いていることが似通っていてかなり端折って読んでしまった。政府への批判とか。まぁわかるけどね。

  • コロナ禍の緊急事態宣言で変わるいろんな仕事が日記で綴られる。
    葬儀社スタッフと内科医、歯科医の日記に一番哀れを感じる。
    印象に残った文章
    ⒈ ひとは、ありがとうの数だけかしこくなり ごめんなさいの数だけうつくしくなり さようならの数だけ愛を知る。
    ⒉ 敵はコロナであって、目の前にいる夫や妻ではない。
    ⒊ 歯科医院は医療機関ではなかったらしい。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。ロックバンド「クリープハイプ」のヴォーカル、ギターを担当。作家としても活動し、これまでに小説『祐介』、日記エッセイ『苦汁100%』『苦汁200%』(いずれも文藝春秋)、『犬も食わない』千早茜との共著(新潮社)を上梓。

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