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- / ISBN・EAN: 9784865283778
作品紹介・あらすじ
女中たちから料理を教わる台所が隠れ家だった娘時代、
4人の子育てに追われる日々、ギニア、ガーナ、セネガルで出会ったアフリカの味、
作家として名を成し、世界中を飛び回る日々に知った東京のヤキトリ、マグレブのタジン鍋。
料理なんて召使いのすること──。
そんな母の言葉への反発が、文学への情熱と同じくらい熱い、料理への愛を気づかせてくれた──。
2018年ノーベル文学賞に替わるニュー・アカデミー賞を受賞した世界的黒人女性作家の最後の自伝的回想録。
感想・レビュー・書評
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カリブ海のグアドループ出身作家が、文学と共に幼い頃から取り憑かれてきた〈料理〉の記憶を軸に、数々の国を渡り歩いてきた人生を振り返る美味しい回顧録。
邦題は『料理と人生』だけど、読後に浮かぶのは〈料理と親ときょうだいと友人と夫と子と仕事と若さと老いと人生〉である。単に「人生のこの折にこの料理を作って食べた」ということ以上に、食(特に作ること)と密接に繋がってきた人生が語られる。
コンデの生家には料理番がいて、彼女たちから教わった料理がコンデのルーツだ。グアドループ料理はクレオールで、とにかくなんでも美味しそう!習いたての少女の頃から現在に至るまで、伝統の味を守るより自分のアレンジを加えるのが好きで、自分の前衛的センスに絶対の自信を持ちながらも食べた人の反応に一喜一憂する様が可愛らしい。
つまりコンデにとっての料理は、文学と同じく創作欲を満たしてくれるライフワークなのだ。小説家として評価されず燻っていた時代は、ホームパーティでたくさんの客に料理を振る舞うことが彼女の自尊心を支えた。だからこそ、旅先や移住先の料理もどんどん取り込んでオリジナルな自分の味に作り変えてしまう。味は土地に紐づくのではなく、個々の作り手の料理があるだけだ、というのはさまざまな土地で暮らしてきたコンデの哲学である。
コンデのお祖母さんは腕のいい料理人だったという。コンデはそれを自慢に思っているが、お母さんにとっては根深いコンプレックスの元で、台所に出入りする娘に「料理なんかにかまけるのは馬鹿だけ」と言い捨てるほどだった。この、母親が自分の母に対するコンプレックスをこっちにぶつけてきてるな〜〜〜っていう感覚、めちゃくちゃよくわかる。厳格なカトリックだったお母さんの保守的な思想が、今度はコンデと息子の関係に派生するのも因果だと思った。
家の話だけじゃなく、移住と旅の話もめちゃくちゃ面白い。インド旅行でコンデが味わった屈辱は、自分の渡印体験を思い返すとわかる気がする。まして時代を考えると、今より露骨に差別的な目で見られたのだろう。だが、そこに突然現れるマザー・テレサ。読んでて声でそうになった。
日本にも滞在していて、しかもきっかけが管啓次郎だというのでアガったのだが、どうやら高級料亭みたいなところしか行ってないらしく、日本料理の習得は諦めてしまっている。これは残念だった。居酒屋のモツ煮とか好きそうなのに。
そのほかにも独立主義者としての活動や創作の苦難、同性愛者に対する葛藤、アメリカにおけるカリブ海出身者とアフリカン・アメリカンコミュニティに存在する深い溝など、一章ごとに濃い話が美味しそうな料理と共に語られる。全体としては賑やかな印象のエッセイなのだが、「夢の旅、旅の夢」から最終章にかけての寂しいような、満たされているような余韻がとても素晴らしい。特に「夢の旅、旅の夢」はフィクションに足を突っ込んだ幻想旅行食日記で、この章だけ抜きだすと吉田健一みたいでとても好きだ。
リズミカルでするする読める文体に感動していたら、本書はコンデの語りを夫であり彼女の作品の英訳者でもあるリシャール(リチャード)が口述筆記したのだという。澁澤・矢川問題を年始からずっと引きずっているので、コンデとリシャールの公私におけるパートナーシップには感銘を受けた。「親密なライバル」かぁ。
とにかく読んでいてでてくる料理の多様さに目が眩むし、お腹が空くし、料理上手への尊敬の念が募る一冊。〈家庭的〉な行為とみなされてきた料理を〈創造的〉な行為として定義し直し、どんなに否定されても肯定し続けてきた女性の物語である。 -
タイトルかっこいい
間で生きるマリーズコンデの切実さ -
【本学OPACへのリンク☟】
https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/710469 -
女子栄養大学図書館OPAC▼https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000067221
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"魂の旅"の書。手や目の機能を失ったコンデは夫であり翻訳家のリシャールの支えで刊行したと訳者あとがきで知る。世界の空と海を跨ぎ人と食の出会いに臆病さを隠し個性と自由を味わう。素直な世辞のない文が終盤は穏やかさが包み目頭が熱くなる。
心は世界を旅した気分になる。料理は伝統的なものは守られる味とし、食の味覚は自由というコンデ。美味しいか不味いかの匙加減に信憑性を感じ読んでいて自分もその気分になっていくのが面白かった。ありとあらゆる土地に赴き、味わい、人と会い、語り合う。インドの現象とマザーテレサの神的オーラは奇跡的。困難で複雑で余裕のなさは異邦人を孤独にする。当初の日本の東京の印象がリアルで共感を覚えた。しかし日本は好みではないのかと落胆もしたが後半で日本を好きになっていて嬉しかった。
女性は母や祖母から料理や家事を受け継ぐ。私も母や祖母を懐かしむ。
老いることも織り込められている。母が海外旅行を諦める瞬間を思い出し、コンデの無念さを思った。いつまでも執筆活動を続けてほしいと思う。
この本は手元に置き、折に触れて手とりたい。 -
浅学にてカリブ海文学を、コンデを知らなかったわけですが、絶品と評される料理の腕を振るいながら人生を振り返る本を読んで、とても身近に感じている。結婚と失敗、度重なる引越し、旅先での出会いや人種差別に受けた傷、年老いて動けなくなった嘆き、後半生を共にした夫への愛…日本にもいらしてるのね。あまりお口に合わなかったようですがw
そして今もご健在ということなので、小説を読んでみたいと思う。料理が私とコンデを引き合わせてくれたと思う。
著者プロフィール
マリーズ・コンデの作品





