- Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
- / ISBN・EAN: 9784866250908
作品紹介・あらすじ
ここは、地獄か?工業都市・川崎で中1殺害事件をはじめ凄惨な出来事が続いたのは、偶然ではない-。その街のラップからヤクザ、ドラッグ、売春、貧困、人種差別までドキュメントし、ニッポンの病巣をえぐる!
感想・レビュー・書評
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読んだ。大好きな番組クレイジージャーニーにBAD HOPというヒップホップグループが出ていて、生まれ育った川崎という都市のことをたくさん喋っていたので興味を持った。
川崎には、川崎区や鶴見区などサウスサイドと呼ばれるエリアがあるらしい。光化学スモッグが常に排出されている工業地帯。治安が悪い、という認識はあったけれど、こんなスラム街のようなところとまでは思っていなかったのでだいぶ衝撃を受けた。
本書はそんな川崎で活躍するかつての不良少年少女を追ったドキュメンタリーだ。川崎でだからこそ育った音楽、ダンス、文化。負の連鎖を断ち切って、これから川崎で大人になっていく子どもたちの希望となれるような存在になった。出生や家庭環境を恨むではなく、過去を後悔するではなく、川崎がルーツであることを武器にし誇りに思う姿はとてもクールで格好がいい。
ダーク・ツーリズムという言葉を初めて知った。悲劇の跡地を訪れて追悼し知的好奇心を満たす観光のことだそうだ。
それの変種としてスラム・ツーリズムなるものもあるらしい。それが、住んでいる人たちの生活や貧困の実態を興味本位で覗きたいという下世話な高みの見物であることは否定できない。でも読みたい。知りたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
川崎のディープエリアをそこで生まれ育った人たちへのインタビューを中心に川崎の過去、現在そして未来への希望を記した本。
現在でこそ、川崎は高層マンション、大きなショッピングセンターやコンサートホールができ普通のにぎやかな街の様相を醸し出しているが、かつては工業地帯とそれに伴う公害、風俗店(これは今でもあるが)等、一定年齢以上の人たちにはあまり良いイメージの街ではなかった。
本書はそのようなバッドイメージにつながるような、川崎のダークサイドを浮き彫りにしているが、単にその部分を強調するわけではなく、その中で川崎を愛し、必死に生きている若者たちの模様を明確にすることで将来への希望を描いていて、単なる興味本位のルポとは一線を画した良書である。 -
「ここは、地獄か?」という帯のコピーと黒煙を上げる工場の無機質な写真。音楽ライターでもある著者による本作は、近年、凄惨な殺人事件・放火で話題になった川崎の実態を描いた傑作ルポルタージュである。
アメリカのデトロイトを彷彿とさせる劣悪な環境下で生まれた近年のヒップホップや、歴史的なヤクザとの関係性、売春、ドラッグ、人種問題など、極めて生々しい実態が克明に描かれる。そんな中である若者はヒップホップに、またある若者はダンスに、スケートボードに、と自身が進むべき道を見つけられた者たちはまだ幸福なのだと思う。彼らの背後には、そうした道を見つけられずに、地元の不良からアウトローへの進まざるを得なかった仲間の姿が容易に想像できるからである。
それでも音楽やダンスといった文化が一抹の光になっているということは、読者である自分にとっても多少の救いにはなる。だからといって自分に何ができる、というわけではないにせよ。 -
川崎といえば昔からヤンキーのメッカというイメージが刷り込まれています。実際仕事で知り合った人からも川崎は先輩後輩のけじめははっきりしていて、何歳になっても先輩の前では正座だと聞いた事が有ります。
この本の中ではもっとヤンキー漫画のような世界観が描かれていて、リアルビーバップじゃないかと思いました。川崎に産まれなくてよかった。僕みたいな草食獣はギタギタにされてしまっていた事でしょう。
川崎発のメジャーヒップホップグループを軸に当地の歴史や風習などを章立ていますが、本当かいなと思う位異世界です。一番びっくりしたのは被っているヘルメットによって絡まれるという事です。野球帽タイプのヘルメットみたいなんですが、それを被ってバイクに乗っているだけで絡まれるってびっくりですよね。
川崎には在日の方々多く居住しているそうなのですが、彼らがヘイトスピーチで傷ついているのは胸が痛みます。ヘイトデモに参加している人々はどういうつもりで参加しているのでしょうか。理解できません。 -
私にとって近くて遠い町川崎。
自分の暮らしている世界とはかけ離れた世界がそう遠くないところにある。子供の時から過酷な環境に置かれた人たち。
音楽によって、その世界から脱し、でも地元を離れず、そこに住む子供達に還元していこうとする姿が、とても素晴らしいと思う。子供達の将来の選択肢を増やしてやろうという思いがあるのがすごいと思う。
ヘイト・スピーチは悲しい。自分より誰かを下に見ないと自分を保てない人たちが悲しい。川崎市も頑張っておられるようだが、まだまだ頑張って欲しい。それを市民、国民が支持し、後押ししていかなければ。 -
”サンタクロースがやってこなかった子どもでも、サンタクロースになることはできるのだ”
ノンフィクションの池袋ウエストゲートパークを読んでいるようだった。
出版された当時から読みたいリストには入ってたけど、なかなか読めてなかったやつをやっと。
こういう土地柄のストーリー、しかもハードな現実の物語って読み応えあるし語弊があるけどめちゃくちゃ好き。
その理由はなんなのかっていうと、自分の経験では慮れない、ある意味全く共感できない状況を見せつけられるからで、想像力や自身の社会での立ち位置の認識の圧倒的な欠如を感じるからなのかもしれない。
冒頭でも書いたように、一種の市井のヒーローたちの物語にように感じるけど、それは同じ日本に存在する紛れもない現実。
そんな状況下での連帯や繋がりは、作中でもあるように、「ルーツ」ではなく「におい」という、ある種一番現実的な感覚で生まれるもの。
そういうハードな環境で、外部からの介入や制度によってもたらされたものではなく、人と人との繋がりやひどく純粋な欲求によって形成されたストリートカルチャーは、いつの時代も若い人を中心に惹きつけてやまないものなんだと思う。
どんな絶望的な時代や状況でも、「もしかしたら自分も」と微かにでも思わせてくれたり、なにかに努力することの意味を見出してくれる人たちを、フッドスターと呼ぶのだろう。 -
スラムツーリズムブームの嚆矢になったような作品で、作中で言及されてるようにそう言う面もあるけど、読んだ印象は、それよりも地域と文化の関わりが多く描かれていて、(2021年から見ると若干楽観的過ぎるのではと思えてしまうような)ポジティブなフィーリングにむしろグッときた。
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音楽系ライターの作者のためラップ関連のお話が多かった
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川崎市川崎区で起こった中一殺害事件、簡易宿泊宿火災、幸区で起こった老人ホーム殺人事件。川崎で不穏なニュースが続いた2015年。どんな土地なのだろうかと、取材をしている。
前半は川崎のディープな事情が分かる。今の時代にこんなところがあるのか?と驚いてしまう内容。負の連鎖。
中盤からは川崎から出たラップグループBAD HOPのメンバーや、それに関係する所謂不良たちへの取材から見えた川崎を書いている。
中盤以降は取材した人は違うが、だいたい内容は同じ。
家庭環境が悪く、不良しか道がなく、中学卒業したらトビかヤクザか、な生活から、音楽で将来の道筋を開いたBAD HOPメンバー。ラップ、ヒップホップ、スケボーは大きく道を外れようとしている若者に希望を与えている。(本に出てきているメンバーは大体警察のお世話になっているが…)
貧困、移民の社会の闇が川崎南部に凝縮されている。彼らだけが悪いわけではなく、社会の問題でもある。
取材した人が偏っているため、川崎というマチをあまり深く、多角的に取材はできていない印象。もっと色々な面からこの町を知りたい。 -
語弊がありそうですが、爆笑しました。幼い頃から、(近所なもので)なんとなく川崎に抱いていたイメージが、形を変えぬまま膨らんで本になった印象。こえーよ、まじかよ、と思いながらも読む手をとめられない。ルポなんだけど、筆致の緩急は小説のようで、「次はどんなやばい話が聞けるんだ」と一気読みしてしまいました。問題提起もありますが、いかんせんエピソードが強すぎてそちらに気を取られがち。