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- Amazon.co.jp ・本
- / ISBN・EAN: 9784866290225
感想・レビュー・書評
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いやはての国境近くに職を得つれ旅費かつがつに行かしめにけり
山野井洋
樺太(サハリン)。北海道からは地勢的にたいへん近いが、複雑な歴史もあり、近くて遠い極東の地とも言える。その地を、1970年生まれの松村正直が、ゆかりの歌人の動向や歌集を丁寧に調べ、みずからも旅をした「樺太を訪れた歌人たち」は読み応えがあった。
「なぜ、樺太か」という問いがいつも松村の脳裏にあり、自問自答を繰り返しながら、短歌を通して日本の近代史を再考した論集でもある。戦中のプロパガンダ誌「写真週報」など一次資料にもあたっており、参考文献の目配りも良い。
語られるのは、北原白秋、斎藤茂吉、生田花世、出口王仁三郎ら、戦前・戦中の人々だが、短歌史ではあまり知られていない人々の紹介も印象に残った。
たとえば、掲出歌の作者は雑誌「樺太」の記者で、当地で短歌誌も創刊した歌人という。1936年刊行の歌集「創作短歌 わが亜寒帯」では、さまざまな職業人の目を通した樺太生活が歌われていた。フィクションも入っているそうで、当時日本領であった樺太の「国境」近くに職を得た人々になり代わっての歌だったのだろう。過酷な土木工事現場で働く労働者の姿も見逃さず、
真摯【しんし】なまなざしがある。
船床に海のいろさへ知らず来ていきなり樺太の雪のうへに立つ
橋本徳壽
造船技師の橋本徳壽は、農商務省水産講習所助手を経て大日本水産会に勤め、その仕事で樺太も3度訪れていたそうだ。労働詠アンソロジーとしても再読したい近刊。
(2017年1月29日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示
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