沖縄「戦争マラリア」―強制疎開死3600人の真相に迫る

著者 :
  • あけび書房
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感想 : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784871541664

作品紹介・あらすじ

日本で唯一の地上戦が起きた沖縄。
しかし戦闘のなかった八重山諸島で3600人もの住民が死んだ。
誰によって、なぜ、これほどの住民が死に至ったのか ?
映画『沖縄スパイ戦史』の共同監督が沖縄戦の最暗部に迫ったルポルタージュ。
そして、明らかになったのは、軍命による強制移住、
住民のためではなく、軍のための強制移住、
住民からは「マラリア有病地」と恐れられていた地への強制移住、
それが引き起こしたマラリアによる膨大な病死。
これが沖縄で「もうひとつの沖縄戦」と呼ばれてきた「戦争マラリア」だ。
10年にわたる長期取材で迫った、75年前の住民犠牲の実態。
それは地下水脈のごとく、今現在、私たちの足元へと続いていた…。
「戦争マラリア」の事実を多くの方に伝えるための大労作であると同時に、
ジャーナリストとしての誠実さ、気概が伝わる一冊、
そして、ジャーナリズムの社会的責務を考え合う一冊でもある。
推薦:金平茂紀、望月衣塑子、ジャン・ユンカーマン

感想・レビュー・書評

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  • 映画「沖縄スパイ戦史」の共同監督の1人、大矢英代さんの魂のこもった取材過程の書籍化である。既に書いたが、「ー戦史」は、2018年97作観た映画でのマイベストワンである。貴重な事実の発掘と鋭い視点を持つ傑作だった。私は映画を観るまでは「戦争マラリア」を全く知らなかった。本書は、映画を観ていない圧倒的多数の日本人に、それを知らせる役割を持つだろう。

    大矢英代(おおや・はなよ)。1987年生まれ、現在まだ33歳?若い!いまから10年前の2010年、千葉県生まれのジャーナリスト志望の女性が大学研究として沖縄の波照間島に訪れて、一つの知られざる事実に出会う。それから8年間、1年間休学して波照間島で生活しながら取材、やがて沖縄テレビに就職、フリーランサーになっていく。眩しいような真っ直ぐな人生である。現在カリフォルニア大学並びに早稲田大学ジャーナリズム研究所客員研究員。

    1945年沖縄戦の最中、波照間島の当時の全人口の1/3にあたる552人が死亡した。原因は戦闘ではなかった。そもそも西表島や石垣島のある八重山列島では、米軍の上陸は無かった。しかし、大勢の住民は、マラリアの無い波照間島から蔓延する西表島のジャングル地帯へ、日本軍の命令によって強制的に移住させられ、マラリアによって病死したのである。戦争マラリアは、八重山列島全域で起き、犠牲者は3600人にのぼった。中でも最も深刻な被害を受けたのが、波照間島だった。

    「思い出したくも無い」「他を訪ねてくれ」一介の学生は取材拒否に遭う。だから彼女はサトウキビ畑で働きながら8ヶ月間住み込んだ。そしてやがて消えゆく運命だった貴重な証人の姿をフィルムに収めたのである。この本は、もう1人の監督三上智恵が上梓したスパイ戦史の「証言集」とは全く趣が違って、1人の若者が瑞々しい精神を持ちながらもジャーナリストとして成長していくノンフィクションのようにも読めた。

    島民周知のマラリアが蔓延する地域への強制疎開はなぜ起きたのか?そこには、沖縄北部で起きた「スパイ活動」と同じく、陸軍中野学校出身の青年の存在があった。山下虎雄(偽名)には任務があった。情報収集、住民の戦闘員化が文書として残っている。45年3月、米軍の波照間島上陸の「可能性」を理由に、山下は強制移住を「命令」した。この頃になると、住民の誰も山下に逆らえなかったという。

    波照間島には、ある慰霊碑がある。そこには、通常の記念碑には絶対書かれない言葉が書かれている。
    「かつてあった山下軍曹(偽名)の行為は許しはしようが決して忘れはしない」
    それは、1人の個人への「究極の非難」の言葉だろう。そして、1人の個人であると同時に国家そのものへの非難の言葉だろう。

    波照間島で世話を受けた浦仲おじいは、生前(2017死去)英代さんに繰り返し語ったという。
    「戦争になると、国家は「国」というものを大事にして「民」を犠牲にする。でも「国」は「民」があって初めて成り立つものでしょう?戦争になるとね、そんなことも国民は忘れてしまうんですよ。八重山の人たちも、「お国のため」「天皇のため」と言って、マラリアで死ぬと分かっていながら軍の命令に従ったんだから」

    琉球列島には、現在中国最前線として、与那国島に自衛隊レーダー、石垣島に自衛隊ミサイル、宮古島に自衛隊ミサイル、沖縄本島に自衛隊ミサイル、米軍、奄美大島に自衛隊ミサイルと、配備が完了している。見事な中国に向けた弓形の軍事基地である。新たな「捨て石作戦」が始まろうとしている、そう感じたのは私だけだろうか。有事の時に国が守るのは、民か、国か、本書を読んだ人には答は明らかだろう。

    • 本ぶらさん
      この話はTVでやってたのを見ました。
      住民が強制移住させられたところが、ものすごいジャングルで驚きました。
      この話はTVでやってたのを見ました。
      住民が強制移住させられたところが、ものすごいジャングルで驚きました。
      2021/01/10
    • kuma0504さん
      本ぶらさん、こんにちは。
      テレビでやっていたのですか?
      どういう番組だったんだろ。
      沖縄テレビが作ったドキュメンタリーならば、大矢英世さん制...
      本ぶらさん、こんにちは。
      テレビでやっていたのですか?
      どういう番組だったんだろ。
      沖縄テレビが作ったドキュメンタリーならば、大矢英世さん制作の番組のはずです。
      2021/01/10
  • 〔週刊 本の発見〕『沖縄「戦争マラリア」―強制疎開死3600人の真相に迫る』
    http://www.labornetjp.org/news/2020/hon162

    書籍『沖縄「戦争マラリア」―強制疎開死3600人の真相に迫る』
    http://jicl.jp/ronbun/backnumber/20200601.html

    ルポ『沖縄「戦争マラリア」-強制疎開死3600人の真相に迫る』が出版されました | 大矢英代|Hanayo Oyahttps://hanayooya.themedia.jp/posts/8288294/

    ジャンル別一覧 平和・政治・社会問題・ルポ あけび書房http://www.akebi.co.jp/html/tosyo_j_g1.html#sensou-okinawa

    • kuma0504さん
      3番目の ルポ「」が出版されました が、著者本人の写真付きの紹介で、かなり的確に問題意識持って紹介していて、ブログでも使わせてもらいました。...
      3番目の ルポ「」が出版されました が、著者本人の写真付きの紹介で、かなり的確に問題意識持って紹介していて、ブログでも使わせてもらいました。ありがとうございます。著者本人は、ビッグイシューでもインタビューに答えていて、いろんなところで宣伝活動をしている。本の内容だけじゃなくて、こういうプロモーションをしないと本が売れない時代なんだとつくづく思う。
      2020/10/01
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      「こういうプロモーションをしないと本が売れない時代なんだとつくづく思う。」
      それだけ、皆に余裕が無いと言うコトなの...
      kuma0504さん
      「こういうプロモーションをしないと本が売れない時代なんだとつくづく思う。」
      それだけ、皆に余裕が無いと言うコトなのでしょうね。
      本当に売れているのかどうか判りませんが、平積みになっているヘイト本。
      何かに憂さ晴らししないと日々の暮らしが成り立たない。とすれば哀しいコトですね、、、
      2020/10/01
  • ドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」を撮った大矢さん。映画を観た時にも強く思ったけれど、戦争になったら軍隊は住民なんて守ってくれないことをみんな分かっとくべき。国も守ってなんかくれない。怖い。

  • 現地の人と生活を共にした著者ゆえ、単純な聞き取り取材では得られない深みが感じられた。戦争が残した過去の歴史を生々しく感じられた。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/759511

  • 著者の謙虚な取材態度が印象的。目の前のひとたちの語る言葉と、その上にのせられている時間、人生、物語を、どこまでも慈しみをもって接している。

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著者プロフィール

1987年、千葉県出身。
琉球朝日放送記者を経て、フリージャーナリスト、映画監督。
ドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』(2018年・三上智恵との共同監督)で文化庁映画賞優秀賞、
第92回キネマ旬報ベスト・テン文化映画部門1位など多数受賞。
2018年フルブライト 奨学金制度で渡米。以降、米国を拠点に軍隊・国家の構造的暴力をテーマに取材を続ける。
早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース修士課程修了(2012年)。
現在、カリフォルニア大学バークレー校ならびに早稲田大学ジャーナリズム研究所客員研究員。

「2020年 『沖縄「戦争マラリア」―強制疎開死3600人の真相に迫る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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