カオス系の暗礁めぐる哲学の魚

著者 :
  • エヌティティ出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784871885188

作品紹介・あらすじ

哲学者クロサキ、入魂の電子メディア論。本書は、めまぐるしい時代のテンポの中で、我々にとってコンピュータとはいったい何なのかを思索する試みである。

感想・レビュー・書評

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  • 電子テクスト、人工知能、カオス理論、ヴァーチャル・リアリティなど、現代のコンピュータやテクノロジーをめぐる問題を哲学的に考察する試みです。

    コンピュータやテクノロジーをめぐる現代の状況はめまぐるしく変化しています。著者は、それらの急速な変化に追随するのではなく、現在生じつつある変化を500年ないし1000年のスパンで考察されるべき歴史的変化とみなす立場に立ち、2000年以上にわたる哲学史を参照しつつ現在の「知」の変遷の意義を論じています。

    グーテンベルクによる印刷術の発明以降、われわれの「知」のあり方は大きく変化しました。カントの『純粋理性批判』は、他人が読み上げるのを聞くことによって理解することはできず、黙読を通じて沈思黙考しつつ理解することが要求されます。W・オングが『声の文化と文字の文化』で指摘するように、「文学や哲学や科学の思考と表現において当然のものと思われてきた特徴の多くは、書くという技術が人間の意識にもたらした手段によって生み出された」ものにほかなりません。それゆえ、間断なく続いてきたように思われている「知」の伝統は、メディアという観点から見なおされなければならないと著者はいいます。

    著者は、現代のテクノロジーが「知」や「思考」にもたらしつつある変化がもっている哲学史的意義について考察しています。近代以前の知においては、煙が火の存在を表わすように、記号は実在のあいだで成立する関係として理解されていました。近代以降、とりわけカント哲学において、事物のあいだに内在していた意味的なつながりは、意識の働きに統合されることになります。これをふたたび転換しようという試みが、パースの記号学であり、彼によって人間の思考をも記号過程の一つの項としてとらえられることになります。さらに著者は、現在生じつつあるテクノロジーの変化によって、われわれの思考がコンピュータに外部化され、コンピュータがわれわれの思考の内部に入り込んでくるという事態にほかならないと論じています。

  • 4月17日読了。「となりのアンドロイド」が面白かったのと装丁が魅力的だったのとで手にとってみました。「知」の表現形式が「口頭」⇒「印刷物」⇒「電子テキスト」、と変わるに従い、我々にとっての理性とか知性も変化するのだ、という考え方は大変刺激的。ただ、この辺の話をもっと突っ込んで書いて欲しかった・・・いくつかの投稿論文をまとめた形式なので、まとまりに欠けるというか哲学の美味しいところのつまみ食い的というか。しかし、「決定論的カオス」についてなど、科学・コンピュータの進化に伴い明らかになった興味深い事象・またそれに伴う我々自身の世界認識の変化など、おもしろトピックがいっぱい入っていてオトク感はある。大学時代に読むべきだったか。

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著者プロフィール

1954年仙台市生まれ。
哲学者。東京女子大学教授。東京大学大学院博士課程(哲学)満期修了。専門はカント哲学。
人工知能、電子メディア、カオス、生命倫理など現代的諸問題を哲学の角度から解明している。NHK Eテレ「サイエンスZERO」(2003-12年)やNHK BS2「熱中時間~忙中“趣味”あり~」(2004-10年)にレギュラー出演するなど、テレビ、新聞、雑誌など幅広いメディアで活躍。著書に『今を生きるための「哲学的思考」』(日本実業出版社)、『身体にきく哲学』(NTT出版)、『デジタルを哲学する』(PHP新書)、『カント「純粋理性批判」入門』(講談社選書メチエ)、『哲学者はアンドロイドの夢を見たか』(哲学書房)など多数。

「2016年 『哲学者クロサキの 哲学超入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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