ショスタコーヴィチ評盤記 II

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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784871985628

感想・レビュー・書評

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  •  『天使な小生意気』は、ほんとうは男の子だったのに魔法使いの呪いで女の子にされてしまったという、武道に長けた美少女・恵が、男らしく振る舞おうとすればするほど、女らしく可愛くみえるという逆説を繰り出し、「男らしい」とか「女らしい」って何だと思いもかけない方向から考えさせてくれた。その恵の男気に惹かれて集まった通称「めぐ団」に安田君というオタクがいるが、彼は恵とは別の意味でジェンダーを超える。ちびで分厚い眼鏡のいかにもオタク的風貌で、腕力はからきしないから、いつも一歩引いて観察している彼は、実は眼鏡を取ると女の子かと思うような可愛い顔をしているのだ。ところが美少女オタクの彼は、ときに「見えそうで見えないのがいいんだ。見えたらだめなんだ!」などといった哲学を熱く語り出し、そうするとものすごい迫力で周囲を圧倒する。

     さて、これは『天使な小生意気』の書評ではない。『ショスタコーヴィチ評盤記』の書評である。『II』の方を先に読んで書評も書いてしまったし、そこで言及したことは本書についても全く当てはまる。だが、ここで是非、安田君にもう一度注目して頂きたい。本書でもショスタコーヴィチ・オタクの安田君の蘊蓄がおもしろいからだ。傍観者的に淡々としながら、実はとても熱く語っている感じがする。私はついつい『天使な〜』の安田君の顔を思い浮かべながら読んでしまった。本書では、当時完成されていたすべてのショスタコーヴィチ交響曲全集の品評が特別メニューである。ちなみに『II』の最後には安田君が自分の理想とする演奏を廃盤からいくつか選んで語るというコアな企画がついていて、これがあっちの安田君の「見えそうで見えないのが〜」みたいなノリで、わかったようなわからないようなディスクが並ぶ。ショスタコーヴィチのような分厚い眼鏡の底で安田君の目がきらりと光る。

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著者プロフィール

中川右介(なかがわゆうすけ)一九六〇年東京生まれ。編集者・作家。早稲田大学第二文学部卒業。出版社勤務の後、アルファベータを設立し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版(二〇一四年まで)。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガ、政治、経済の分野で、主に人物の評伝を執筆。膨大な資料から埋もれていた史実を掘り起こし、データと物語を融合させるスタイルで人気を博している。『プロ野球「経営」全史』(日本実業出版社)、『歌舞伎 家と血と藝』(講談社現代新書)、『国家と音楽家』(集英社文庫)、『悪の出世学』(幻冬舎新書)など著書多数。

「2022年 『世襲 政治・企業・歌舞伎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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