全国アホ・バカ分布考: はるかなる言葉の旅路

著者 :
  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784872331165

感想・レビュー・書評

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  • 探偵ナイトスクープがきっかけになってこれほどの学術的に価値の高い論考がなされたことに敬意を評したい。また、肝心の「アホ」、「バカ」の語源について一般に言われていることより、さらに確度が高い説に行き着いた経緯は、まさにテレビマンとしてのコネクションの多さがもたらしたものだった。

  • 全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路

  • 最近は関東圏でも知名度が上がってきた「探偵!ナイトスクープ」。視聴者からの依頼に基づいて、若手タレントたちが「この世のあらゆる謎や疑問を徹底的に究明する」娯楽番組である。番組開始から二年目の1990年、視聴者から「『アホ』と『バカ』の境界線はどこにあるのか調べてほしい」という依頼が舞い込む。「アホ・バカ」についての第一回放送(1990年1月)は記憶にないが、仕切り直しの第二回放送(1991年5月)は鮮明に覚えている。いつもの娯楽的手法を交えながら、日本には「アホ」「バカ」以外にも様々な「罵倒語(けなし言葉)」があり、しかもそれらが京都を中心として同心円的に分布しているというのだ。かつて国語の教科書で学んだ柳田國男「蝸牛考」の方言周圏論が、再び目の前に立ち現われてきたことに驚嘆した。本書は、同番組プロデューサーである著者が、「アホ・バカ分布図」を完成させるまでの試行錯誤をまとめたものである。この度息子の高校の推薦図書に加わったというので再読したが、このアホ・バカ方言だけでもその背景には日本の文化、民俗の豊かな蓄積があることを改めて実感させてくれる。柳田國男は、晩年には方言周圏論に懐疑的になっていた。その弟子である徳川宗賢教授は、分布図を見てこう語ったという。「もし、柳田先生がこの地図をご覧になったら、きっとお喜びになったことだろうと思います」と。徳川教授は1999年に他界されたが、きっと柳田先生にこの分布図についてご報告されたことだろう。

  •  本書が書かれたきっかけは『探偵!ナイトスクープ』というテレビ番組に寄せられた視聴者からの質問です。東京は人に対して「バカ」、大阪は「アホ」と言うが、バカとアホの境界線はどこにあるのか? この質問に答えるべく、番組出演者の一人が東京から大阪まで、馬鹿げた行為を人に見せて、その人が何と言うかを調査しました。東京、静岡では「バカ」と言われました。しかし、名古屋に来たとたん「タワケ」になってしまいました。実は、日本語には「バカ・アホ」の他にも、これらの表現に相当する言葉がたくさんあったのです。いったいどのような言葉がどの地方で使われているのか。この疑問に答えるため、視聴者から情報を募り、研究者に助言をもらい、さらには全国の教育委員会にアンケート調査が行われました。放送業界の力をフルに生かした大規模な調査が功を奏し、方言研究で長らく議論の的となってきた柳田國男の方言周圏論を支持する重要な研究結果を生むに至りました。言語学に関する知識がなくても読める、言語を研究する面白さを伝えてくれる一冊と言えます。
    (ラーニング・アドバイザー/人社 IKARASHI)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=662662 (中央)
    http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1011085 (図情)

  • アホとバカの境は関ヶ原にある。もはや一般常識とも言える発見は探偵ナイトスクープで見つかった。どうもこの放送をホントに見たのかどうかは定かではないがこの話は昔から知っている。

    知らなかったのだがこの話の続きは全国でどういう言葉が使われているかが終わりではなかった。京都を中心に同心円上に同じ言葉が使われているのはアホ・バカだけでなく、京都で流行った言葉がゆっくりと地方に伝わる。推定1km/年、東北に達するのは数百年だ!、あまちゃんで北三陸市の人たちが使っているのは昔の京都の言葉だったのだ。じぇじぇじぇっ。

    アホ・バカの一番古い表現はヲコと言うらしい。かろうじて今では「おこがましい」と言う言葉だけが残っている。〜がましいは状態を表すので、「ヲコみたいな〜」=あほな様子の意味が転じて差し出がましいと言う使い方が残った。

    バカも古い言葉で関西でも「バカモン」は残るし西にも使っている地域がある。しかも語源を探ると出て来たのは中国唐代の詩人、白楽天こと白居易で源氏物語などに影響を与えている。栄華を誇ったが豪勢な屋敷を建てて没落した”馬家”のことを詠った詩が有り、これが当時のインテリ層の中で使われたのが流行となって馬家のようなもの=バカものとなり拡がっていった。バカボンが馬家の息子ならバカボンのパパは何なんだ?これでいいのか?

    アホはもっと新しい。吉本で有名なアホンダラ教の教祖の言葉は「あほんだら、あほんだら、あほんだら・・・」だが他にあんだらと言う表現もある。岡山などで使われるアンゴウ=鮟鱇は魚ではなくサンショウウオのことで間抜けな顔が転じた。そしてダラは北陸などで使われるのだがこれは田蔵田というジャコウジカに似た動物(間違って飛び出して来て殺されると言う)の名前からたくらた=だらと変化したもの。アンゴウ・ダラはアンダラになり、アホウ・ダラはアホンダラになった。

    ではアホの語源はと言うとこれもやはり中国でしかも足下の蘇州がでてきた。そんなアホな?
    蘇州人が杭州人の悪口に使ったのが阿呆でこれはアダイと発音する。阿の意味は〜ちゃんなので、阿呆はおばかちゃん。呆は発音は違うがそのままで、ぼーっとした様子を意味する。惚ける、ほれるなど同じくぼーっとした状態を表す言葉もアホ・バカの一味だ。バカにせよタワケにせよホンズナしにせよ他の表現は婉曲表現なのだが呆はその一言でアホ・バカそのものを表す。阿呆は検索してもひっかからないが蘇州じゃ今でも使われてるんだろうか?誰かに聞いてみよう。そして今でも生きてる言葉なら使ってやるわw

    アホ・バカ・タワケを自在に使った作家が一人いる。近松門左衛門だ。橋下徹に教えてやりたい所だが何と言うだろう。

    ほかにも広島(というか大竹)でしか聞いた事がなかったえずい(かしこい)は佐賀辺りの方言として出てたりアホ・バカ地図を作っていたのが今をときめく百田尚樹だったり、しかも百田がええかげんなのでよけいに視聴者からの手紙が増えて地図づくりに貢献したり、20年前の本なのにあまちゃんの久慈市や蘇州まででてくるあたり今の状況となぜかしっくり来ている。
    これでいいのだ。

  • これは凄い。
    才能は、集まるところに集まるもんだ。

  • ・なぜ西日本ではアホ、東日本ではバカなのか?それは実は古くに京で流行した言葉がゆっくりと放射状に広がり続けた結果だった、という知的好奇心を刺激しまくる内容の一冊。遠く東北に残る言葉こそ古い京ことばであり、バカよりもアホの方が新しい言葉である。柳田国男の蝸牛考にもある方言周圏論を徹底的に立証した内容は素晴らしい。過去の京の都へのロマンを感じる内容。
    ・テレビ番組の企画から発生したこの研究が、最終的にはこれまではっきりしなかったアホ・バカの語源にまで肉薄する様子は圧巻。ただ後半のアホ・バカ語源探しは内容が専門的になるため、前半の受け入れ安さに比べると少し余計な気もした。
    ・それと筆者がテレビマンだという点から仕方ないのかも知れないが、アホ・バカ語に対して差別語が語源になっている可能性が出来した際の反応は読んでいて若干しらけた。そこまでアホ・バカ語、日本語に対して理想を持たなくてもと思った。結果的に日本のアホ・バカ表現には直接差別するような単語から転じたものは無いという内容だったけども、そこに拘る意味には放送禁止用語や表現を恐れるテレビマンの姿が強調され過ぎているように感じた。

  • 力作である。タイトルや20年前の「探偵ナイトスクープ」のアホ・バカ騒動を覚えている人が気楽に読もうとするとえらい目にあうかも。朝日放送の当時のディレクターであった松本氏の筆致は軽快で、いまやベストセラー作家になってしまった百田さんとのかけあいは、いかにも関西バラエティ番組のそれらしいが、アホ・バカ分布考そのものの学術レベルはとてつもなく高い。1990年代の朝日放送に、漢籍を検討したり古典を調査することが苦にならない教養があるスタッフがこんなにいたのは驚きである。方言周圏論で鮮やかに証明される愛すべき「罵倒語」たちの中で、わたしのお気に入りはなんといっても「ホンジナシ」

  • テレビの企画だと思って、少し軽んじていました。ごめんなさい。言葉を「アホ」と「バカ」に限定していないせいか、途中すこしズレているように感じましたが内容は濃かった。企画した松本さんの情熱をひしひしと感じました。

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著者プロフィール

1950年生まれ。文学座の俳優を経て、演出家として演劇集団MODEを立ち上げる。独自の手法によるチェーホフや、カフカの舞台化などにより、高い評価を得る。現在、近畿大学文芸学部芸術学科教授。

「2018年 『ぼくの演劇ゼミナール』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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