行動を変えるデザイン ―心理学と行動経済学をプロダクトデザインに活用する

  • オライリージャパン
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784873119144

作品紹介・あらすじ

行動経済学、心理学をサービスデザインに活用!
本書は、行動経済学と心理学をもとに、人々の行動、日常習慣を変えるためのプロダクトをデザインするための書籍です。主に医療(健康管理)、金融(資産管理)など、これまでITプロダクト(サービス、アプリなど)がなかなか使われてこなかった分野を対象に、ユーザーがやりたいと思っていたものの実行できなかったような行動を実現することを助けるプロダクトを作り出すための、実践的な情報を提供します。

感想・レビュー・書評

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  • # 感想
    プロダクト開発において人に利用してもらうためには様々な障害があります。知ってもらう、使いたいと思ってもらう、ちゃんと使えるようになっている、どっかが欠けていると結果的に利用してもらえません。

    どこをどう補っていくと効果が出て利用してもらえるか、人の心理と行動経済をベースに、理由と原因、コンセプトデザイン、実装、改善と、一気通貫でプロダクトデザインの在り方を説明してくれています。

    プロダクトの企画、マーケティング、開発、運用に携わっている人にとっては何かしらの関連性があり、学びのある本だと思います。

    # 抜粋
    - 選択疲れとは、このように長ったらしい一覧から、一番いいもの、一番有用なものを選び出そうとして、感覚が麻痺して選べなくなってしまうことをいう。(P.54)
    - 習慣はあまりにもありふれていて日常に溶け込んでいる。だからわたしたちが、今習慣をやっているな、と思うことはめったにない。(P.60)
    - ゲームの間、ゴリラの格好をした男がパス回しの真っただ中を横切り、胸を叩いて、歩き続けた(P.70)
    https://www.youtube.com/watch?v=vJG698U2Mvo
    - 行動の前提条件を手軽に覚えるために、CREATEの頭文字を覚えておこう。キュー(Cue)、反応(Reaction)、評価(Evaluation)、アビリティ(Ability)、タイミング(Timing)、実行(Execute)でCREATEだ。(P.104)
    - ルーティンは考えることもなく自然に生じるように構築されなければならないが、「サルでもできる」「簡単なもの」である必要はない、ということだ。
    多くの人にとって、上手な運転は(複雑で思い出深い)習慣だ。運転を覚えるのがどれだけ大変だったか、思い出してほしい(P.121)
    - 失うことは得ることのおよそ2倍の動機づけになる(P.268)
    - ターゲットアウトカムをはっきりさせよう(P.290-291、略抜粋)
    - 成果とは、プロダクトがうまくいったときに起こる、実世界での変化
    - 成果は、曖昧さがなく測定できるものであるべき
    - 成果は、成功のシグナルであるべき

  • 行動経済学・心理学の視点から見るプロダクトデザイン。
    人間の癖を知り、それに合わせたプロダクト開発をする時代だと感じさせる。
    今や様々な習慣を得た顧客が存在するがその行動を変えるには様々なアプローチが必要なことがよくわかる。
    実践できれば、顧客に対して真のアプローチがとることが可能だろう。

    知っていることばかりだが、実践的な体系的落とし込みが素晴らしい。
    前半は特に、行動変容を知りたい教えたい伝えたいという情報元として使いやすい。
    後半はプロダクト開発の視点を持っている人であれば当たり前のようにできないと何を持って改善しているのかと問われるだろう。
    分厚い本だが定義後の中盤から大変読みやすい。

  • 人間はどうやって行動を決めているのか、そのメカニズムを解説した第一章がとても面白かった。もうちょっとたくさん理論的な話が読めるのかなと思ったが、理論は第一章だけで、あとはそれをどうプロダクトに活かすかの実践的な話にはいったので、ちょっと難しかった。が、CREATEというモデルが紹介されたことによって、それに当てはめて自分が作っているプロダクトを設計したり、改善したりしていけるので難しいながらも実際の業務に活かしやすい内容にはなっていた。

  • オライリーというだけあって、読みにくい&長い。

    本書の肝は「CREATE」のアクションファネルだけだと思う。本書の中でも「実用最小限のアクションMVA」という「シンプルに最短」でユーザーに理解させる・行動を起こさせることを推奨してるんだから、こんなに長ったらしい本はダメだろ

    と批判しつつも、行動変容デザインについては今のところ一番良い本だと思う

  • 最近話題の行動経済学をユーザ(消費者)の行動を望ましい方向に変化させることに活用することを書いた本.

  •  デザインのお勉強。

    ・CREATE:行動するための条件
    1.行動を考え始めるきっかけとなるキューに反応すること
    2.直感的な心理が、行動についての思いつきに自動で反応すること
    3.意識的な心理が、思いつきについて、特に費用対効果の観点から評価すること
    4.行動するアビリティがあること、つまり、何をするのかをわかっているのか、必要なものが揃っているか、そして、成功できそうかを確認すること
    5.今行動するべきタイミングなのか、特に急ぎなのかを決めること

    ・プロダクトが習慣をつくり出すためのシンプルな処方箋
    1.深く考えず、何度も同じように繰り返せるルーティンを見つけよう。
    2.ユーザーにとって意味があり価値のあるリワードを見つけよう。
    3.日々の生活やプロダクトの中(メールやアラートなど)から、シンプルで曖昧なところがなく目的が絞られているキューを見つけよう。
    4.キュー、ルーティン、そして特にリワードを、ユーザーが確実に認識できるようにしよう
    5.ユーザーがそのルーティンをやりたいと思っており、実行可能であることを確かめよう(なぜなら、ユーザーが意識的に実行しようと決める必要があるからだ)
    6.キューを設置しよう
    7.ルーティンを促そう。少なくとも、ルーティンが実際に生じたかどうかを、切れ目なく直ちに記録しよう。
    8.ルーティンが生じたら、プロダクトが直ちにリワードをユーザーに与えよう。脳内でドーパミンが出ることで、記憶が薄れる前にキューとルーティンを結びつけるニューロンを強化することができる
    9.プロセス完了までの時間と率を記録しながら、6〜8のステップを繰り返そう。そして、うまくいくまでプロセスを修正していこう。

    ・行動を変える3つの基本戦略
    ?プロダクトは何を助けるのか
    ?ユーザーは何を選択するのか
    ?使いどころ
    1.チート
    ?ユーザーがソフトウェアを使うときや、いつもと異なる行動を実行するときに、デフォルト化によって成果が出るようにする。またはユーザーの同意後、ルーティンを完全に自動化することによって、行動の労力を省けるようにする
    ?ユーザーの代わりに行動をとることに同意するかどうか
     例:401kを自動的に登録する、いつも食べているものを健康な食材に代える
    ?難しい行動をインフォームドコンセントで置き換えられるとき。根深い習慣を克服するのには向いていない。また、行動をユーザー自身の特定のニーズに合わせないといけない場合にも向いていない。そのような場合には、意識への積極的な介入が必要だ。
    2.習慣をつくる、変える
    ?望ましい行動がトリガーに反応して自動的に生じるようにする。そうすれば考えることも意識して努力することもしなくていい。習慣を変える場合は、習慣の構造を巧みに突いて、習慣が生じるのを妨げるようにする。
    ?習慣をつくる(または、やめる)条件を設定するかどうか
     例:スーパーで缶詰の棚を通る前に生鮮食品の棚を通る。1日1回ウォーキングする
    ?何度も繰り返す行動を、いつもきまった状況でやりたいとき。力ずくで習慣を意識して上書きするのではなく、上記で説明したトリックによって現状の習慣を克服しようとするとき。
    3.意識的な行動を助ける
    ?ユーザーがその行動について考えるようにし、行動をとるのに必要なステップを(意識して)踏むようにする。
    ?行動を実行するかどうか
     例:適切なローンを組めるように教える。ヨガ教室に初参加するよう励ます。
    ?他の2つの戦略がとれないとき。特に行動が複雑で、目新しく、デフォルト化できない、小さな選択を何度もしなければならないとき。


     人がすでに気にかけていることを思い出させるのは、実に安上がりだ。一方、新たに動機を持ってもらうのは、はるかにコストがかかる。

    ・新しい外発的な動機づけが有効なケース
    1.アクションシークエンス中のある特定のステップに、もともとの強い動機がないとき。
    例:本当に健康になりたいと思っているが、定期的な血圧測定の重要性を単に理解していない場合。ちょっと背中を押すのが効果的だ。
    2.内発的動機を締め出してもあまり関係ない一度きりの行動のとき。
    例:本当に運動したいのに、ジム用の服を買いに行く動機を持ち合わせていない人の場合。この障壁を乗り越えるインセンティブを与えれば、目標に近づけることができる。
    3.外発的動機を内発的動機に移し替えるのを手助けするとき。つまり、ユーザーが活動そのものの楽しみを見出して始められるようにするとき。
    例:おしゃべりクラブは、ちょっとしたインセンティブ(無料の食事)を用いて、初めて新しい言語を学んでいる人たちを集めることができる。その場に来てみると、その言語にどっぷり浸かれるという本質的な喜びが体験でき、将来の学習に向かうことができるようになる。

    ・プロダクトにおけるユーザーの動機づけの方向性
    1.現金のような金銭的報酬
    2.地位や仲間内の尊敬などの社会的動機づけ
    3.何か新しいものが見つかるといった、内発的なメリット(プロダクトは、ユーザーがすでに受け取っている内発的な報酬を強調する)

    ・ユーザーにアクションを依頼したときの3つの効果
    1.キュー(注意)
     人々は忙しいし、注意を向けられる範囲は非常に限定されている。ディーン・カーランらは、課題への注意を高めるだけで、それが行動する重要な要因になることを示している。行動する動機をあらかじめ持っていた人であればなおさらだ。
    2.義務
     そこまで理不尽なお願いでなければ、相手からの頼まれたことを「いいえ」と拒むのは、誰にとっても居心地の悪いことだ。企業(や、そのプロダクトを具現化した特定の人物)が友好的で、まるで本物の人と接しているような感じがする場合には特に、行動に拍車がかかる。
    3.即時性・緊急性
     お金を節約したり、運動量を増やしたり、喫煙量を減らしたりといったたいていの「よい」行動のほとんどは、いつでもできるので後回しにされやすい。(何らかの急ぎの理由で)人々に今すぐ行うように頼むと、「後でやる」という壁を乗り越えやすくなる。

    ・環境を構築するためにやること
    1.ユーザーが行動する意欲を持っていること、そして動機が表面化していることを確かめる。そして、ユーザー自身にすでにある動機を強調する、そうでなければ、お金、承認、社会的地位、その他の要素で動機づける。
    2.今すぐ行動を起こさせるキューがあることを確かめる。その簡単な方法は、ユーザーに行動するよう頼むことだ。
    3.ユーザーが自分の成功・失敗を認識できるようにする。そして、対応可能なフィードバックをする。
    4.ユーザーの注意を引いている他の行動をさせないようにするか、逆にそれを活用する。ユーザーがすでにやっていることに便乗できるのが理想だ。


    ・ユーザーがハマるように訓練する方法
    1.ユーザーが実行しているアクションシークエンスを確認しよう。例えば、ランニングシューズを買う、コースを組むなど。
    2.最後の部分から逆算して、ユーザーが失敗する可能性が最も高い部分を特定しよう。その行動をとるために必要な技能はなんだろうか?例えば、ユーザーには、悪天候に適応し、毎日の繰り返しを絶やさない技能が必要で、それが無いとリズムが壊れてしまうかもしれない。
    3.ユーザーについてわかっていること、そして一覧化したこれまでの行動を踏まえて、ユーザーがすでに行動をとるための技能を持っていると言えるだろうか。
    4.技能が不足している場合、プロセスの早い段階に、似たような小さなチャレンジで肩慣らしをする機会を組み込む方法はないだろうか。

    ・行動を変えるプロダクトのデザインパターン
    ●ユーザーとの接触回数の多いパターン
    - 意思決定支援(Decision-making support)
     子どもの教育を考え、教育資金を貯める方法を比較検討したい、としよう。アプリは選択肢を分析し提示することでそれを支援する。そして、検討プロセスの一部を自動化し、優先事項や他の課題があれば気づかせてくれる。Hello Walletはこのような意思決定支援のプロダクトの一つだ。
    - 行動変容ゲーム(Behavior change games)
     協力について学ぶ授業に出席しているとしよう。協力とコミュニケーションが要求される2人用のゲームを体験しながら学習する。Wayは、このようなゲームの1つだ。行動変容ゲーム (やシリアスゲーム、目的あるゲーム (games with a purpose)など)のデザイナーは、社会や行動についての「学び」が明確なゲームをつくる。ユーザーは、(兵棋演習や職業訓練ゲームのように)仕事の一部として、あるいは身体や精神の治療、学校での取り組みとして、ゲームをすることになる。
    - ゲーミフィケーション (Gamification)
     もっと食事を健康的にしたい、もっと運動して健康になりたい、としよう。 ユーザーがあるタスクを実行すると、チームが組まれ、ユーザーは共有されたスコアの順位を巡ってチームの他のメンバーと競争する。Keasはそうしたゲーミフィケーションのプロダクトの1つだ。行動変容ゲームが完全にゲームの体裁なのに対して、ゲーミフィケーションはあくまでゲームではない文脈でのターゲットアクションに、社会的報酬や競争の要素などゲームデザインのやり方を借りる(ゲーミフィケーションにおける2つの視点については Deterding 2011 やZichermann and Cunningham 2012を参照)。
    - タスク管理(Planners)
     もっと健康な食事をしたいと思っており、そのために菜園をつくりたいと思っているユーザーがいるとしよう。それを実現するには、菜園に何を植えるのか、どのようにしたら、野菜が成長しやすく綺麗な菜園がつくれるのかを判断しなければならない。例えばMother Earth Newsには、このような菜園づくりのタスクを甘理するアプリケーションがある
    - リマインダー (Reminders)
     1日の過ごし方を管理したいとしよう。いつどこに買い物に行き、いつ子どもを迎えにいくのか、といったことを思い起こさせてくれるアプリケーションがほしいとしよう。OmnifocusやNozbeのような、ToDoリストの自己管理のためのアプリがこのパターンにあてはまる
    - ソーシャルにシェア (Social sharing)
     毎朝ランニングをしたいと思っているとしよう。ユーザーは、ランニングのアプリから、ランニングの目標を友人たちにシェア(共有)する。友人たちの支援や存在がユーザーの責任感を刺激し、ユーザーは目標に向き合い続けることができる。RunKeeperはこのようなプロダクトの1つだ。
    - ゴールトラッカー (Goal trackers)
     運動したい、そして、プロダクトに目標を設定し、ゴールに至る過程を記録したいと思っているとしよう。行動の記録 (手動ないし自動)によって、調整していくためのフィードバックが得られる。 Fitbit OneやJawbone UPはこのようなプロダクトで、自己定量化 (QS : Quantified Self) ムーブメントの肝だ。
    - チュートリアル(Tutorials)
     菜園の例に戻り、畝のつくり方を教えるビデオがあるサイトを探しているとしよう。このようなチュートリアルはたくさんある。農業の達人エド・ブルスケは、MonkeySee.comに実例の動画をアップしている。


    ●ユーザーとの接触回数の少ないパターン
    - 「違う角度で考えてみよう」を訴求する (An appeal to "think differently")
     電力にたくさんお金を費やしているが、もっと出費を抑えたいとしよう。隣近所の出費額と比べれば、自分の出費額を違う角度から捉えられるようになる。Opowerは簡素な通知書面だけで、これを実現(し成功)している。
    - コールトゥーアクション (行動喚起、CTA:Call to action)
     キーストーンXLパイプライン建設のような、重要な政治的課題について(賛成ないし反対の立場で)なんとかしたいと思っているとしよう。ユーザーは、すぐにメールを送信できる、あるいは、寄付ができるリンクがついたメールを受け取る。このようなメールがあれば、ユーザーはいともたやすく数分で行動を起こせる。メールやランディングページ以外には何も必要ない。このような手法は、シエラクラブ (Sierra Club)のような、数多くの擁護団体が実践している。
    - ハウツーティップス(How-to tips)
     第1子が生まれようとしているが、どんな準備が必要かよくわかっていない女性がいるとしょう。週ごとに、モバイルで短いハウツーを受け取ること ができ、したほうがいいことがわかる。Text 4 Babyがこのパターンの代表
    例ださい。
    - シンプルなリマインダーで計画づくりを促す (Simple reminders and planning prompts)
     風邪をひきたくない(あるいは、家族に風邪をひいてほしくない)と思っている企業の従業員がいるとする。彼らは、いつどこでワクチンを打ってもらえるかがわかるリマインドメールを受け取り、いつワクチン接種に行くのかを計画するように促される。Milkman et al. (2011) では実際にこれを実施し、ワクチン接種の割合を8%も増加させた。
    - ステータスレポート (Status reports)
     新しい街に移り住んだばかりで、知り合いが欲しいとしよう。ユーザーは、 その地域で開催される、興味のあるテーマのイベント情報を定期的に受け取る。Meetup.comや、参加型のイベントを主催している多くの組織がこ のやり方を取り入れている。

    ■行動先述の一覧
    1.キュー
    ・行動のきっかけをつくりたい→ユーザーに何をするのかを伝える
    ・キューの力を強めたい→どこで何ができるのかを明らかにする/ページから余計なものを削除する
    2.反応
    ・より信用されたい→きれいで専門的なサイトにする
    ・より興味をひきたい、より信用されたい→社会的証明を利用する/テーマについての権威を示す
    ・自動的な拒否反応を回避する→その人にとっての本物になる
    3.評価
    ・動機を強めたい→ユーザーの連想を刺激しておく/損失回避を促す/ピア比較を利用する/競争心理を利用する/直接お金を渡すのを避ける
    ※人はお金によって動機づけされる。…しかし、すでに行動したいと思えている人にとっては、金銭的なインセンティブは逆効果だ。
    ・行動するコストを下げたい→認知の過負荷を避ける
    ・行動する費用を減らしたい→選択の過負荷を避ける
    4.アビリティ
    ・計画する能力を高める→実行意図を引き出す
    ・制約を減らしたい→なんでもデフォルトにする/行動と情報の重荷を減らす(チートする)
    ・自己効力感を高めたい→(肯定的な)ピア比較を活かす
    5.タイミング
    ・緊急度を高めたい→時間的近視眼を避ける言葉を使う/行動する約束を思い出してもらう/友人と約束してもらう/報酬の希少性を高める



    ■結論
    4つの学び
    1.心の働きを理解すること
    2.プロダクトが狙うターゲットアウトカムとユーザーを明確にすること
    3.プロダクトがユーザーを手助けするやり方を詳細に計画すること
    4.プロダクトは決して完璧ではないこと、テストが必要であることを受け入れ、継続的に改善し続けること

    理解:どのように心はものごとを決めているのか
    ・わたしたちが行動している時間の多くは自動操縦になっている
    ・自動操縦になっていないときでも、わたしたちの心は、常にさぼろうとしている
    ・単純でわかりやすいことが重要だ。

    ●キュー。その行動をするという考えが、何らかの方法で心の働きの中に浮かぶ必要がある。それは、外部のキュー(電話が鳴ること)や内部のキュー(お腹が鳴ること)によって起こる。
    ●反応。その考えに、まばたきするくらい一瞬の間に、自動的で直感的な反応が起こり、その行動が自分と関係するか、興味が湧くかが確認される。そして、感情的な応答が生じる。それによって、他にできる行動がないかを考える心の働きが呼び起こされる。
    ●評価。もし行動が直感的に棄却されなければ、その行動が意識にのぼり、行動がどれくらい大変か、その価値は何か、といった費用対効果を分析し始める。この心の働きは、他の選択肢についても検討し、最も有望な行動を決める。
    ●アビリティ。その行動が実行に値する(メリット>費用となり、他の選択肢に勝る)ものであっても、それを実際に実行できないといけない。実行のアビリティにはいくつかの階層がある。実行の手続きをわかっていること、実行に必要な資源があること、そして失敗する気がして思いとどまったりしないこと。もし何らかの障害に直面した場合、ユーザーは解決を試みるが、それに時間がかかると、ユーザーはどこかに行ってしまう。
    ●タイミング。他の急ぎのものよりもその行動を優先してすぐに実行する理由が必要だ。外的な緊急性(車が事故にあった)から、生理的なアンバランス(お腹が空いた、のどが渇いた)まで、さまざまな急ぎの理由がある。

     もしこれらすべてが揃えば、行動を実行できるだろう。CREATEアクションファネルの要素がすべて整っているということだ。どんな行動であれ、行動しないことを明確に決めたり、他のことに気が散ってしまったりして、ユーザーがファネルの各段階でこぼれ落ちていく可能性がある。行動変容デザインが手助けするのは、 ユーザーが5つの段階すべてを通過し、行動しない状態から行動する状態へと移行することだ。


    ユーザーがCREATEアクションファネルを通過するための、主な戦略は3つある。

    1.「総当たり攻撃」。ユーザーが行動する必要があるときは常に、意識的な意思決定に働きかける。
    2.自動的で直感的な心の働きを利用して行動を習慣づける。大概の習慣は、評価とタイミングの段階を割愛できるため、行動をとりやすい。
    3.行動にかかる重荷をプロダクトに転嫁して、「チート」(ずる)をする。その
    ためには、ユーザーから同意をもらい、ユーザーはもう行動しなくていいようにする。CREATEアクションファネルを反転させて、行動しないことがユーザーの便益につながるようにしよう。

    探索:どのようにゴールを明確にしてユーザーを理解するのか
     行動変容デザインは、ターゲットアウトカム、ターゲットアクション、アクターを明快に理解することの上に、成り立っている。

    ・アウトカム(成果)とは、プロダクトがうまくいったときに、実世界に生じ る変化のことだ。
    ・アクターとは、変化を起こす人のことだ(通常アクターはプロダクトを使うユーザーだ)。
    ・アクション(行動)はアクターがやること、アクターが実行する行動のことだ。

     この3つを導き出して明確にすることで、開発プロセスで生じる問題を早めにあぶり出す。問題とは、プロダクトの現状の目的、ターゲット、そしてブログ
    成功失敗の判断基準に、チームが合意できていないことだ。


    デザイン:どのように行動をデザインするか
     行動を変えるプロダクトをデザインすることは、困難な作業に思える。数えきれない選択肢からどれかに決めなければならないし、そこには数百もの認知メカニズムが関わっているからだ。だが、行動を規定する意思決定の3つの文脈を考えれば、シンプルにデザインできる。行動それ自体、環境、そしてユーザー自身の準備だ。この3つの要素によって、どのように行動に影響を与えるかがわかり、CREATEアクションファネルによって、その結果何が起こるべきかがわかる。

    行動
     ターゲットアクションを、ユーザーがやり遂げなければならない、細分化されたステップに落とし込むことから始めよう。例えば、家で健康な夕食を食べるためには、何を食べるのかを決め、準備する方法を知り、素材を洗い出し、素材を買って、 料理に十分な時間を確保してから、料理をする必要がある。以下の手順で、ステップを小さく細分化する。
    1.熟練度や関心の度合いに応じてステップを調節しよう。
    2.ユーザーに求められる仕事量を減らすため、シンプルにしよう。理想をいえば、ステップごとなくしてしまうのがいい。
    3.ユーザーにとってわかりやすくする。できそうだ、と思えるように長期にわたる行動をしている間は、プロセスのフィードバックなどによってことやり遂げられるようにしよう。

    環境
     プロダクト自体のデザインによって、あるいは、広義の環境を変えることで、ユーザーが意思決定しやすい環境を用意する。

    1.そもそも行動しようと思った理由を思い出させること、あるいは、追加のインセンティブによって、動機を高めよう。
    2.直接ユーザーに行動するよう投げかけることや、環境の中にキューを設置することで、行動のきっかけを用意しよう。
    3.ユーザーが行動を調節できるように、ユーザーの行動によって生じた変化を リアルタイムで伝えてフィードバックループをつくり出そう。
    4.アプリケーション内の気が散る原因を取り除く、既存の行動に基づいてプロダクトを構築する、あるいは真正面からユーザーの興味関心をひく、といったやり方で、ユーザーの注意や行動を独り占めしている競合を取り除こう。
    5.ユーザーがプロダクトに確実にアクセスできるようにし、彼らの持つ制約 (例えば、ハンディキャップ、読解力、プラットフォームへのアクセシビリティ)に合わせることで、障害を取り除こう。

     ユーザー自身の準備
     ユーザーに合わせて行動を仕立てあげ、行動しやすいように環境を整えたら、ユーザー自身を行動しやすくすることに目を向けよう。そのための3つの戦術がある。
    1.物語る。ユーザーが自分自身を見る目を変えよう。ユーザーにそれまでやっ
    てきた類似の行動を思い起こさせ、ユーザーのアイデンティティと行動を結びつけることで、自らの本来持つ自然な姿の延長線上に行動を位置付けらされるようにしよう。
    2.関連づける。ユーザーの行動に対する見方を変えよう。彼らが以前してきたことの上にこの行動は成り立っており、今までの知識が活かせることを、ユーザーに伝えよう。行動と、それによってユーザーが得られる喜び(例えば草刈りをした後の清々しい芝生の匂い)を強く関連づけよう。
    3.教育する。世界の見方を変えよう。行動の完遂に何が必要か見せよう。行動に必要な情報をすべてユーザーに与えよう。しかし、ただ教えることは、動機づけの道具としてはあまり有効ではない(おそらくユーザーはすでに行動が重要であることを知っている)。

     これら3ステップのプロセスを使って、行動、環境、そして、ユーザーに着目し、ビヘイビアプラン、つまり行動しない状態から行動する状態へ変わる過程で、 ユーザーがすることを記述したストーリーをつくろう。このプランは、カスタマー・エクスペリエンスマップ、ジャーニーマップ、文書化されたストーリー、あるいは、注記付の箇条書きといったかたちで明文化できる。

     ビヘイビアプランは、プロダクトの機能に対する要求事項を教えてくれる。ビヘイビアプランをつくると、プロダクトのコンセプトができあがる。プロダクトチームは、このプランを原材料として活動していく。ビヘイビアプランは、アジャイル 開発におけるユーザーストーリーを束ねたもの、シーケンシャル開発における機能仕様を束ねたものとみなすこともできる。

     インターフェースデザイナーや他のプロダクトチームメンバーが、プロダクトのワイヤーフレームやモックアップをつくる。もしそのときに、プロダクトチームがスタックし(手が止まってしまい)、アプリケーションのフロー自体をうまく構造化できないときには、トラッカー、ゲーミフィケーション、チュートリアルといった、 行動変容デザインパターンが使える。

     ワイヤーフレームをつくる際、社会的証明、リマインダー、競合、損失回避といった戦術を学術文献から応用すれば、行動する確率を高められる。…

     最後に、潜在的なユーザーにコンセプトが刺さるかどうか、 理想を言えばプロトタイプを使ってテストする。もしすべてのときは完全版のプロダクトをつくろう。


    改善、どのようにプロダクトを反復的に良くしていくか
     人間のさまざまな行動と関わるプロダクトをデザインするときは常に、失敗が起こりうる。デザインプロセスが目指すのは、最初に開発するプロダクトの間違いをなるべく減らす(less wrong) ことだ。しかし、まだまだ改善の余地がある。プロダクトの改善は次のように進める。

    1.成果とターゲットアクションの明確な測定基準を決めておこう。
    2.成果と行動に対するプロダクトの効果を測定しよう。もし成果が、プロダクト上で直接測定できるものではないなら、データブリッジをつくろう。データブリッジとは、アプリ上で測定できるものと重要な成果の間の統計的な関係性のことだ。データブリッジの根拠は、先行研究でもよいし、チームあるいは第三者の研究者による小規模な予備調査でもよい。
    a.もし可能なら、効果を測定するために、A/Bテストやその他の対照実験を走らせよう。これらの手法は今やスタンダードなので、ネット上で利用できるツールが数多く出ている。統計的知識がなくても使える(もちろんあったほうが役に立つ)。
    b.もし実験が難しい場合、チームは全体の効果を測定した上で、ユーザーの行動に影響を与えうるすべての要素について、(形式に則って、あるいは則らずに)統制しないといけない。マッチングやパネルデータ分析といった統計的な技法は、これらの問題を緩和する が、実際に使うには統計の訓練が必要だ。
    3.ユーザーを直接観察し、ユーザーが止まってしまっているところをデータで
    確認することで、効果を上げる上で障害になっているものを見つけ出そう。ユーザーがターゲットアクションを実行しようと決めるまでのさまざまな道筋を図示する因果マップを使うことで、ユーザーが何をしているのか、データをどのように解釈したらいいのかがわかりやすくなる。

    4.なぜその問題が生じているのかを診断するために、ユーザーからのフィードバックや、小刻みに実施したテストを利用して、見込みのある解決策を見出そう。CREATEアクションファネルを使えば、テストの仕方を選別したり、解釈できる。
    5.(ビジネスや技術的な目的での案件とも並べつつ)行動への効果を上げるためのプロダクト変更案に優先順位をつけよう。
    6.主な変更をテストしよう。良いアイデアであることに賛成した人数の多寡にかかわらず、行動の変化にどのような効果があったのかは確認しよう。人間の行動は、正確に予想するにはあまりにも複雑だ。思い込みは誰しもが陥るので、これを避けるために、テストをチームの文化にしてしまおう。

    テーマ
     学びの詳細から戻って、ここではわたしが伝えたかった基本的なテーマのいくつかをまとめておきたい。テーマは、行動変容デザインを実施するにあたっての指針や色見本になる。

    ― どのように心が意思決定するかについて、多くのことを学んできたが、知見はいまだ限られている
    ― あなたのユーザーを理解せよ
    ― 行動を変える打ち出の小槌は存在しない
    ― 意図的であれ
    ― 行動に効果のあるプロダクトは、まずその前に、いいプロダクトだ
    ― ユーザーの苦労を避ける
    ― 豪華に飾り立てる必要はない
    ― わたしたちは(部分的に)間違うと思っていたほうがいい


    ■MF
     例えば、タクシー代の利用が先月に比べて多いユーザーに対しては「家計簿チェックしましょう」よりも「先月よりもタクシー代使っています」と通知するほうが反応があることがわかっているという。

  • 本当に人の行動を変えて成果を出すためのプロダクトをどう開発すれば良いのか?、という至上命題に対して、行動経済学・心理学の知見とリーンスタートアップに代表されるようなプロダクト開発の手法をミックスした方法論を体系的に整理した一冊であり、これは常に手元に置いておいて参照すべき価値が十分にある。

    本書でのプロダクトとはtoC向けのスマホアプリ、もしくはtoB向けのSaaSを想定しており、toB・toC共に徹底的にユーザサイドに立って、行動を変容するための方法論が整理されている。特筆すべきは行動経済学・心理学の知見をベースに、ユーザを行動変容に導くためのフレームワークとして”CREATE”というユーザー行動のファネルを提唱している点である。

    これは、
    ・Cue:行動を起こすきっかけ(キュー)
    ・Reaction(反応):アプリのようなプロダクトに対して直感的にそれが忌避感を招かずに使いたいと思わせるかどうかの反応
    ・Evaluation(評価):アプリを利用して行動を起こすことに対するメリット・デメリットの評価
    ・Ability:そのアプリを利用して行動を起こすことが可能な能力が備わっているか
    ・Timing:今、行動を起こすべきかどうか
    から成り立っており、このそれぞれに対して、プロダクトはユーザをうまく導くことができないと、行動変容は成り立たないとされる。

    こうしたフレームワークの存在も含めて、行動変容を導くプロダクトの理論と実践のバランスが良い良書。私自身も困ったときには読み返せるよう、常に手元においておくつもり。

  • 難し過ぎた。行動経済学をある程度真剣に学びたい人向け。

  • お金健康デザイン

  • 一回アプリとかつくってからだと内容入ったかも

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