- Amazon.co.jp ・本 (415ページ)
- / ISBN・EAN: 9784874987834
作品紹介・あらすじ
本書は、「731部隊」研究の第一人者である著者が、その四〇余年にわたる調査・研究をまとめた集大成ともいえる1冊で、国内外の様々な史料の実証的な検証と、これまでの数十名におよぶ関係者への聞き取りをもとに731部隊・石井機関の全貌に迫ります。
「満州国」ハルビン郊外の平房に本部をおいた731部隊は、石井四郎が組織した機関、通称「石井機関」の一部で、石井機関は東京の陸軍軍医学校防疫研究室を中心に「軍」だけでなく「産・官・学」を取り込んだ1万数千人規模という巨大なものでした。
特に密接な関わりを持ったのは大学を中心とする医学界で、潤沢な研究費や戦役免除などのメリットがありました。
731部隊は1931年の満州事変を皮切りに勢力を拡大させていきますが、1942年の淅贛(せっかん)作戦で、大規模な細菌攻撃を実行するも失敗に終わりました。部隊は細菌兵器の実戦投入の困難性を認識しながらも止まることができず、そのまま敗戦を迎えます。
研究成果と引き換えに戦犯追及を逃れた731部隊と医学界の共犯関係は総括されないまま、戦後の医学界で影響力を持ち続けました。
近年の「安全保障技術研究推進制度」をめぐり、大学と軍事研究の関係が注目されるなか、戦争と科学の関係を改めて問いなおします。
感想・レビュー・書評
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ふむ
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石井機関(731部隊)の基盤・出発点だった陸軍軍医学校防疫研究室から、日本敗戦後の乾燥BCG・結核予防法体制までを視野に入れた総合的研究。徹底した資料調査と関係者への聞き取りをもとにした重厚な著作で、この分野の第一人者としての著者の集大成とも言える。「あとがき」には、インタビューの際の準備やその後のデータの取り扱いなどにも言及されていて、とても勉強になった。自分も子供の頃に受けた乾燥BCG接種が、731部隊の開発したものとは知らなかった。。。
著者の導きで731部隊の辿った道のりを見ていくと、軍事研究がいかに制度/仕組みとしての「科学」を骨抜き、有名無実化するかがよくわかる。「科学」もひとつの制度=言説の枠組みに過ぎないけれど、「民主主義」と同様で、いろいろ問題はあるにしても、だからといってそれを弊履のごとく捨ててよい、とはならない。本書の達成を、「軍事研究」という知のあり方を考える議論の出発点と考えたい。 -
中々読むのが辛い一冊だった.
731部隊については学生時代に勉強会に何度か参加していて概要は理解していたつもりだったけど,ここまで精緻に事実を積み上げて「中身」を明らかにするものは読んだことがなかった…けど,読み物,と言うよりはたくさんの資料や証拠,上限を積み上げていく「論文」のようなもので,「読書」として読むには中々の重さだった.
国家権力の暴走,国民の狂乱,医学会も例外でなく,狂乱し,暴走した.それが戦争なのだろう.
作者は「反省がない」と繰り返すが,それに僕も同意する.しかし一方で,医師も科学者も危機に瀕した時にはただの人間,と言う視点もやはり捨てられない.
自分や家族が直接的に間接的に圧力をかけられ生命や財産の危機をもった時,受託によって一時的かもしれないけど安全と延命が約束され,収入や名誉も得られるとしたら?
戦争責任は,国民一人ひとりにある.権力者には人としての責任の他に「権力&暴力組織」としての責任が重なる.同じ意味で専門家として,専門家の責任は問われるが,戦時下にあっては酷な問いかけかとも思う.
後半,BCGからCOVIDへの流れは,「え?もしかして反ワク⁈」と,警戒してしまったが,そう言うことではなかったみたい.
折角なら,もう少し議論を深めてくれても良かったなぁ,と思う.
同じく,全体を通して,国家権力と石井機関との関係や,国家権力の責任についての記述が過小なのが気になるところ.
戦争問題を扱う時,そここそがやはり大切だと思うので. -
3.5/63
『本書は、「731部隊」研究の第一人者である著者が、その40余年にわたる調査・研究をまとめた集大成ともいえる1冊で、国内外の様々な史料の実証的な検証と、これまでの数十名におよぶ関係者への聞き取りをもとに731部隊・石井機関の全貌に迫ります。
「満州国」ハルビン郊外の平房に本部をおいた731部隊は、石井四郎が組織した機関、通称「石井機関」の一部で、石井機関は東京の陸軍軍医学校防疫研究室を中心に「軍」だけでなく「産・官・学」を取り込んだ1万数千人規模という巨大なものでした。
特に密接な関わりを持ったのは大学を中心とする医学界で、潤沢な研究費や戦役免除などのメリットがありました。
731部隊は1931年の満州事変を皮切りに勢力を拡大させていきますが、1942年の淅贛(せっかん)作戦で、大規模な細菌攻撃を実行するも失敗に終わりました。部隊は細菌兵器の実戦投入の困難性を認識しながらも止まることができず、そのまま敗戦を迎えます。
研究成果と引き換えに戦犯追及を逃れた731部隊と医学界の共犯関係は総括されないまま、戦後の医学界で影響力を持ち続けました。
近年の「安全保障技術研究推進制度」をめぐり、大学と軍事研究の関係が注目されるなか、戦争と科学の関係を改めて問いなおします。』(「高文研」サイトより)
『731部隊全史』
著者:常石 敬一
出版社 : 高文研
単行本 : 415ページ
発売日 : 2022/2/14 -
人体実験の代名詞でもある731部隊だが、本書ではおぞましい描写は無く、科学者が主体を担った、国家または陸軍の一機関としての、部隊の全容と行動を追っている。当事者への取材や実験の実態などは貴重な記録と言えるものの、個々の記事に微に入り細に入りの弊があり、全般に読み辛い印象。編集に問題があったのかもしれない。
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東2法経図・6F開架:210.75A/Ts76n//K
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15年に渡るアジア・太平洋戦争の最中に暗躍した関東防疫給水部、いわゆる731部隊の人体実験により、3000人を超えると言われる中国人やロシア人などが凄惨な死を遂げた。ペスト菌やコレラ菌などの生物兵器の実験に供されて無残に殺された人。凍傷実験にて、手指が炭素化した人。親子で生体実験に供された母子。生体実験の事実は、1949年に行われたハバロフスク裁判の音声データが公開され、2017年のNHKスペシャルで放送されたことで731部隊の真実が揺るぎないものとなった。番組の監修を務めたのが著者の常石敬一氏である。本書は、被害の事実を明らかにしつつ、731部隊を率いた石井四郎が軍学産官共同体として組織化していく経緯を丹念に、そして多面的に可視化していく。1942年の中国に対する淅贛(せっかん)作戦では細菌兵器を実践使用し、自軍である日本軍に1万人近い被害者を出して、石井四郎は左遷・更迭される。しかし、わずか数ヶ月後には復任して、責任をとるどころか、自省・内省もないままに生体実験を続けた石井四郎と医学者、軍人たち。
敗戦濃厚になると上位将校とその家族からいち早く帰国し、敗戦のためのマルタと呼ばれた捕虜や施設・設備の隠蔽に奔走された将校や軍属がロシアの捕虜となり、1949年のハバホロフクス裁判で裁かれる。戦中の人体実験などの論文は、表題を改竄して、学位を取得する医学者・研究者たちの蛮行。呆れるのは、人体実験の事実をサルの実験に改竄し、「サルが頭痛を訴えた」ことを論文の論拠にするなどの暴論が暴露される。フィリピン戦の体験を綴った大岡昇平の小説「野火」では、友軍の人肉をサルと侮蔑して人肉を売り買いするなどの堕落した帝国陸軍を描写し、インパール戦でも友軍の人肉を食えば腹が膨れるとの証言も遺されるなど、落ちぶれた帝国陸軍。
731部隊に関わった軍属やその関係者は沈黙を続ける。しかし、800点にも上る研究結果を遺したスライド等を米軍との取り引きに利用して、ほとんどの関係者が戦犯を受ける事もなく、むしろ戦後も大学や病院で人脈と権力を行使し続け、生体実験を行った医学者自身が軍部の被害者と嘯(うそぶ)いた手記をみるにつれ、暗澹たる思いになる。
戦後の結核予防では、BCGワクチンに固執し続け、今もBCGに依拠する日本。著者は、戦後の日本の結核に対するBCG政策と、1972年に本土復帰した沖縄の検査と隔離を主とした結核対策を対比し、明らかに沖縄の政策が功を奏した分析する。コロナ禍で、PCR検査の充実に難色を示し、ワクチン頼みになった安部・管・岸田政権の新型コロナウイルス対策を厳しく指弾する著者の分析は、正に鋭い指摘であると共感する。
科学者であり医療専門職である我々に突きつけられた重要な総括書籍として、多くの研究者に読んで頂き、科学・医学の軍事利用を許さない普段の取り組みが重要である。