信時潔

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  • 構想社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784875740698

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  • 戦前、日本人の鎮魂曲であった『海ゆかば』の作曲家・信時潔。

    本書は、文芸批評家、新保祐司氏による信時潔へのオマージュであると同時に、「代表的日本人」の偉業を通して、歴史を正す試みである。

    ●「近代日本の正統」と題した文章の中で、河上徹太郎の『日本のアウトサイダー』を論じて、私は「河上が、『ざっと見渡しても、明治の文学者・社会運動家その他文化界一般の代表者の殆ど全部が、一度はキリスト教の門をくぐってあることは、私の今までの列伝を見ても明らかである。』といっているように、キリスト教、あるいはキリスト教とのぶつかりは、近代日本の軸なのである。」と書いた。

    そして、その「軸」を「正統」といいかえるならば、近代日本の「正統」は、キリスト教とのぶつかりに淵源を有していて、それは、「日本のアウトサイダー」の最も典型的なものとしての内村鑑三の「基督教」の中に、頂点として現れているのである。これが、近代日本最大の逆説である。

    信時潔も、やはりキリスト教とぶつかった人間であった。そして、バッハのコラールに「親炙」した音楽家であった。だから、『海ゆかば』は、「讚美歌」のようにひびいたのである。「日本主義」がすぐ連想されがちな『海ゆかば』は、実は「日本的な余りに日本的な」日本人によって作られたのではなかった。キリスト教とぶつかった日本人によって作曲されたのである。にもかかわらず、ではなく、だからこそ、『海ゆかば』は、近代日本において、最も典型的に「日本的」なのである。ここにも近代日本のクリティカルな核心、すなわち、近代日本の正統の所在の逆説性が現れている。『海ゆかば』は、近代日本の正統からひびくコラール、いいかえれば、正統が音楽と化した曲であり、近代日本の「国のささやき」の正統に他ならない。●

    七十歳以上でなければ、信時潔の『海ゆかば』といっても聞いた経験がほとんどない今日、信時潔への誤解を避け、信時潔の真価、核心を表現した稀有な一冊である。

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著者プロフィール

1953年生。東京大学文学部仏文科卒業。文芸批評家。現在,都留文科大学教授。
著書に,『内村鑑三』(1990年)『文藝評論』(1991年)『批評の測鉛』(1992年)『日本思想史骨』(1994年)『正統の垂直線――透谷・鑑三・近代』(1997年)『批評の時』(2001年)『国のさゝやき』(2002年)『信時潔』(2005年)『鈴二つ』(2005年)[以上,構想社],『島木健作――義に飢ゑ渇く者』(リブロポート,1990年),『フリードリヒ 崇高のアリア』(角川学芸出版,2008年),『シベリウスと宣長』(2014年)『ハリネズミの耳――音楽随想』(2015年)[以上,港の人],『異形の明治』(2014年)『「海道東征」への道』(2016年)『明治の光・内村鑑三』(2017年)『「海道東征」とは何か』『義のアウトサイダー』(2018年)[以上,藤原書店],『明治頌歌――言葉による交響曲』(展転社,2017年)がある。また編著書に,『別冊環⑱ 内村鑑三 1861-1930』(藤原書店,2011年)他多数。
2007年,第8回正論新風賞,2017年,第33回正論大賞を受賞。

「2019年 『詩情のスケッチ 批評の即興』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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