- Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
- / ISBN・EAN: 9784876984879
感想・レビュー・書評
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サモサタ(シリア)生まれのルキアノス(120年頃~195年頃)は、私の好きな風刺作家のひとりです。彼のことを教えてくれたのは、中世のエラスムスとその親友のトマス・モア(^^♪ 彼らのお薦めどおり、ルキアノスの話は本当に面白い。法螺話とユーモア満載の短編、月世界旅行、鯨の腹の中の冒険譚といい、世界最古のSF空想物語は、その後の数多くの作家たちにインスピレーションを与え続けていますね。
彼の代表作『本当の話』と本書は重なる掲載も多いです。『本当の話』は冒険譚や奇人の可笑しな話が多くて読み応え満載ですが、訳者が複数いるので、トーンが微妙に異なっている感じがします(あくまでもわたしの感触ですけどね)。それに対して、この本はもう少し思弁に富む話が多い感じで、翻訳も大変わかりやすいです。
なかでも「哲学諸派の競売」と「よみがえった哲学者」(『本当の話』に掲載あります。タイトルは「漁師」)は、神ゼウスとヘルメスが哲学者らをセリにかける! という前代未聞の話。もうこれだけでもわたしは可笑しくてたまらない。
ソクラテス、ピタゴラス、デモクリトス、ヘラクレイトス……つぎつぎと二束三文で市民や商人に競り落とされていきます。ときには値もつかない惨憺たるありさま。その様子に冥府の哲学者らは驚天動地、不満たらたら現世によみがえってきて、語り手パルシアデス(という名のルキアノス)をこぞって裁判にかけるのです。
メタフィクションに加え、ルキアノスが生きていた当時の「哲学」の腐敗ぶりをおもいきり皮肉った強烈な物語はとにかく笑えます。
また「カロン」(『本当の話』掲載なし。『神々の対話』に掲載あり)は、ルキアノス作品中でも有名です。
冥府の川の渡し守カロンは、死者ばかり相手にしている日々にうんざり気味……ふいに現世のツアーをしたくなり、お友達のヘルメス神に浮世を案内してもらうのです。可笑しい、可笑しい。いや~素頓狂な創造と遊びとユーモアにただただ感激。
「もし彼らが、自分たちは死すべき存在であり、この世に逗留するのはほんのわずかな期間で、地上での生活をすべて放擲してあたかも夢から覚めた人のように立ち去っていくのだろうということを最初から知っておれば、もっと利口な生き方ができるだろうし、死に際の悲嘆もずっと少なくてすむだろうに……」
「……風の吹くなか水面にかつ結びかつ消える水泡であり、すべてが消えていく定めである。だからこそ人は目の前に死をぶらさげて生きるべし」
軽妙なカロンとヘルメス神のやりとりは、まさに人間存在の正鵠を射たものではなかろうか? 驚嘆する場面が多いのです。ふと思い浮かべるのは、日本の三大随筆のひとつ鴨長明『方丈記』。人は流れる水の泡のよう……という無常観の漂うくだりは有名で、まるでルキアノスと鴨長明が時代を超えて響きあっているよう!
こうしてみると、人の創造は時空を飛び、言葉や宗教の壁を乗り越えていくのでしょうか? まことに不思議でなりません。古典を読んでいると、そのような霊感に満ちた発見や、人間の真理と叡智に触れることが多くて愉しくなります。ますます読書がとまらない♪詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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