- Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
- / ISBN・EAN: 9784877144760
作品紹介・あらすじ
1945年8月15日、日本からの解放の日、朝鮮半島で人びとはなにを夢見ただろうか――。
朝鮮半島のほぼ中央に位置する街・鉄原(チョロン)。解放直後の混乱のなか、旧親日派勢力による不穏な事件が次々と起こり、街に動揺がひろがる。そんななか、事件の真相を探るために3人の若者が38度線を越えて京城(現ソウル)へと向かうが……。
同じ民族であっても、年齢や信念、階級によってそれぞれに「解放」がもたらす意味は異なった。
大地主のぼっちゃんながら身分のへだてのない世界を夢見る基秀(キス)、自分の父親を殺した地主の家で小間使いをしてきた敬愛(キョンエ)、京城へ行って自分を取り戻そうとする気高い両班(ヤンバン)家の娘・恩恵(ウネ)、奴婢(ぬひ)出身の越境屋・斎英(チェヨン)など、個性豊かな若者たちの夢が「解放」と同時に走りだす。
しかし、朝鮮半島を南北へと引き裂く大きな力が、彼らの運命を決してゆく。自分だけではどうにもならないきびしい状況に傷つきながらも、夢をあきらめない主人公たち。歴史の流れが冷徹な悲劇をもたらすが、それでも彼らの姿は希望の光の中にある。
韓国の実力派作家による、深く静かな感動を呼ぶYA小説の傑作長篇!【対象:中学生~大人まで】装丁:桂川 潤
感想・レビュー・書評
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扱っているテーマが重いだけに、面白い!とは言い難いけれども、どうなるんだろう?どうなるの?と、ハラハラドキドキの展開で小説として興味深く読めた。
本当に大変な時代。
真っ向対立するイデオロギーのどちらが自分にとって正しいかなんてわからないのに、そんな中で必死に生きていかなきゃならない。
家族間で考えが違うこともある。
漣川おばさんがすごくて。
貧しく、幼い兄妹から夫、息子を亡くし、特に息子はひどい亡くなり方をした。
それでも、
持てる者は全て死ねば良いと言う斎英に、
「毒を持って生きたら、その毒がお前を殺すんだよ。」
「手にしてるもんがすべてじゃないよ。……人の道理まで手放してしまったらわしらに何が残るかね?」
どんなに貧しくとも辛くとも、いつか死んだ時には、人間の道理を守って生きてきたと胸を張りたいと。
漣川おばさん素晴らしい。
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解放直後、38度線に近い「鉄原」が舞台。日本支配下で大人たちが何を考え、どう身を処してきたのか、それが「解放」によってどんな影響を受け、どういう行動につながっていくのか…。よくわからないままその影響を受けざるを得ない子どもたちの視点になって、物語に入っていけます。
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鉄原は日本の植民地統治時代、京元線と金剛山鉄道との分岐点=交通の要衝として栄えた街だった。解放後は朝鮮共産党の支配地となったが、朝鮮戦争の戦火で廃墟となり、現在は韓国軍の監理下にあるという歴史に翻弄された場所でもある。巻末解説の仲村修が書いているように、鉄原の旧労働党庁舎は現在、韓国側のDMZツアーの見学ポイントとなっている。
作者のイ・ヒョンはヤングアダルト小説の書き手だったということだが、少女と少年の視点を取ることで、1945年の「解放」と希望、その後の混乱と混迷、不信と不安が鮮やかに描き出されている。「民族」としての自立を目指す純真さが貫けない哀しさ、それまでの生活と思想を捨てきれないやりきれなさ、自分たちの生命と財産を奪ってきた/奪っていった同胞に対する憎しみ――。『りんごの歌』の平和の中でまどろむことができた日本内地とはまるで違う1945年以降の人々のありようを想像させる物語。小説としては1947年1月で終わっているが、《その後》の登場人物たちが辿っただろう軌跡を思うと、胸が苦しくなる。 -
日本軍降伏後の朝鮮半島における民衆の解放と分裂を在りし日の鉄原(物語の後に勃発する朝鮮戦争で激戦地となり廃墟と化す)を舞台にして描き出す。ソ連から来たということ以外は戦前誰も知らぬ存在であり、伝説上の古代朝鮮史に登場する本名であるかすら不明の共産ゲリラ首領の金日成(キム・イルソン)を遠く平壌に擁している朝鮮労働党が瞬く間にコミュニティを支配していく有様は史実とはいえ不気味である。程なくして京城(現ソウル)に代表される南部勢力からの反撃が始まり、遂に全面戦争に発展する経緯は後日譚となる『あの夏のソウル』で語られる。まだ記憶が風化していないこれほどに重たい内容の本がヤングアダルト小説だというのは韓国文学の奥深さを感じ入る。『はだしのゲン』を産み出した日本のマンガに似通っているような…。
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敬愛(경애)は、百日紅屋敷で雑用を任されている。両親が死んでしまい、姉たちも出て行ってしまったので、百日紅屋敷の若奥様である徐華瑛に雇われたのが10歳の時だった。それから5年が経ったその年、日本が戦争に負けたという知らせが街を駆け巡った。38度線の北側にある街である鉄原で、朝鮮が解放された時、どのようなことが起きたのか。人々はどう振舞ったのか。姜敬愛(강경애)と両班の末っ子である黄基秀(황기수)を中心にして、小説で教えてくれる。時代は朝鮮戦争の始まる直前の頃である。
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いまでは当然のような顔で分断されている北と南だが、分断されつつあった時代に、38度線付近の街で起こる事件。サスペンスっぽい感じで読んでもおもしろいし、歴史の裏側にいる生の人たちを見るという感じで読んでもおもしろい。