遥かなる夢ものがたり: 小説遥かなる時空の中で

著者 :
  • コーエーテクモゲームス
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本棚登録 : 82
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784877199265

感想・レビュー・書評

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  • 『遥かなる時空の中で 舞一夜』の感想を書いてから、無性にこの世界に戻りたくなったので次は小説を再読してみた。

    『遥かなる夢ものがたり』は初代『遥かなる時空の中で』(簡単なあらすじなどは、漫画『遥か…』などの感想にあるので割愛)の第1弾オフィシャル外伝にあたる。
    今回再読する際にいちばん驚いたのが作者さんのお名前。この小説の初版は2001年。当時は気に留めることもなかったんだけど、作者はなんと今や押しも押されぬ推理小説作家でもあられる近藤史恵さんではないか。
    近藤史恵さんといえば、ブク友さん方からも人気の高い〈サクリファイス〉シリーズや〈ビストロ・パ・マル〉シリーズなどなど有名な作品がたくさんありますよね。

    そんな近藤さんと『遥か』にどんな繋がりがあったのーー!?
    「あとがき」によると、近藤さんはこの小説を書く1年ほど前にプレイしたことで『遥か』のゲームが大好きになったそう。そのことをあちこちでお話されたり、ご自分のホームページにプレイ日記なるものを書いておられたところ、『遥か』の小説を書いてみないかとのお声がかかったんですって。なるほど!
    と、驚いておきながらなんなのですが、実は私は近藤さんの小説はまだ読んだことがないんです…
    でも『夢ものがたり』がとても面白く読めたことと、なんといっても小説内を生き生きと動き回るキャラたちの描写に近藤さんの本気の『遥か』愛を見せていただき、近藤さんの小説も読んでみたくなりました。

    さて、『遥かなる夢ものがたり』はヒロインのあかねが平安時代の京都を思わせる異世界〈京〉で迎えた初めての「物忌み」の日から始まる。
    あかねは「龍神の神子」として怨霊と戦うのだけれど、そのときに龍脈を流れる五行の力を用いる影響で穢れを受けやすくなっていた。
    そのためにあかねの五行属性と日の五行属性が合わない日は「物忌み」として外出を控え、神子としての力を回復させなければならない。
    そんな神子の「物忌み」には八葉(神子を守る八人の男子)の一人が付き添うことになっており、彼らは退屈するあかねに自分たちが経験した〈京〉の面白い話をすることになった。
    そのお話とは……

    第1話 「六道を閉ざされた男」
    神子に〈京〉のおもしろい話をせがまれた武士の頼久は、「神子殿は、どんなことをしても死なない男がいた、と聞いたらどう思われますか?」と、かつて彼がともに左大臣に仕えた同僚について話しはじめる──

    怨念や呪いという見えないものを想像すると怖いけれど、実はそんな見えないものと対峙するよりも、呪詛や権力や、そういった見えないものを利用して自らを生かそうとする人間と対峙する方が、いつの時代もよっぽど恐ろしよね。

    近藤さんは頼久さんがいちばんお気に入りだそうで(私は泰明さんです…)、あかねの話し相手トップバッターに持ってこられましたね~
    ただ、頼久さんはとても強い武士で頼りになるのですが、なんせ無口で実直。自分の想いも口に出さずに堪えるタイプですからね。
    よくぞ、この口べたな頼久さんに喋らせたなぁと。すごい、すごいよ、近藤さん。

    第2話 「冬衣の狐」
    2回目の「物忌み」は法親王の永泉が付き添うことに。永泉はいつもの柔らかい笑顔で、1年ほど前の出来事を話し始める。
    それは大きな瓜を盗んだ小柄な少年との出会いから始まった、一匹の白い狐との不思議な体験──

    永泉さんはね、とっても繊細で優しい。でも芯は強いんです。そんな永泉さんだからこそのファンタジーでした。
    それにしても彼はあかねの何気ない一言によく“ポッ”と頬を染めるの。漫画ではそんな永泉さんの気持ちに気づいた天真くんが、あかねに寄るな触るなと突っかかってました。まるでブルブル震えるチワワに唸るドーベルマン。でもチワワだってやるときにはやるんですからね!

    第3話 「朝顔塚」
    今回の「物忌み」の付き添いは左近衛府少将の友雅。彼は優雅で美しく、陽気で気障な遊び人。女性の知り合いが多くて決して誰にも本気にはなりません。そんな友雅も母を早くに亡くし、ひとりぼっちになった「星の一族」の末裔・藤姫のことはとても大切にしてます。

    そんな彼が語るお話。
    ある夜、友雅が乗る牛車を引く牛が急に蹲ってしまい進めなくなったことから、彼は一人で夜道を歩いて戻ることに。
    その途中、門が開け放しになっている屋敷の庭に咲き乱れた朝顔の幻惑的な美しさに彼は吸い寄せられる。その庭で友雅は自分を違う男の名で呼ぶ美しくも病に蝕まれた女にすがりつかれ──

    漫画でも友雅さんが関わる謎はだいたい女性の怨念系。でもちゃんとうまく丸め込め……いやいや、おさめちゃうのが友雅さんなのです。治部少丞の堅物、鷹通さんともいいコンビ。

    第4話 「朱雀門の犬」
    ラストはあかねとともに現代からやってきた天真と詩紋が「物忌み」の付き添い。
    詩紋は金髪で碧眼という外見なので、現代でも、そして〈京〉でも偏見の目で見られるの。とくに〈京〉ではその外見から「鬼の一族」として、鬼を誰よりも嫌う鍛冶師見習いイノリから、めちゃくちゃ憎悪を向けられる。
    でも詩紋は、自分を貶める鬼の一族の少年セルフに対しても、そして自分を嫌うイノリに対しても、そして誰の想いにも理解して共感しようとするのね。そんな詩紋と接してイノリも周囲の人々も彼と仲良くなっていくの。

    詩紋はあかねに、自分のことを鬼だと決めつけずに仲良くなった男の子の話をはじめる──

    とても悲しくて寂しくて、でも温かい、そんなお話。
    あとね、近藤版・鬼の少年セルフは、悪ぶっていても健気で可愛いかったです。
    お館様に認められたくて、指先に血が滲みながらも地面に穴を掘って呪詛の元となる欠片を埋めようとする姿や、自分と友だちになりたいという詩紋のことが気になるのに意地悪してしまう気持ちや、鬼の一族だといっても働く悪事はまだまだ拙くて八葉からもガキンチョ扱い…
    そんな近藤さんの描くセルフの姿には、なんだかじんときちゃうんだよな。

    今回は私の大好きな陰陽師の泰明さんが視点キャラとなることはなかったのだけど、どのお話も怨霊や呪詛や妖といった陰陽師お得意の分野のものだったので、毎回泰明さんは登場し満足でした。ある意味、誰よりも登場回数が多くてお得な気分みたいなね。

    あと近藤さんが、泉鏡花の作品からお気に入りの台詞をキャラに語らせてるシーンがあり、とても素敵な台詞なのでその元の作品にも触れてみたくなった。
    「夢のような仰せなれば名のあるなしも覚えませんが」 泉鏡花「天守物語」より

    それと「美しい人は似るものだ」という台詞。 こちらはある歌舞伎からだそうで、なんの演目なのかしら。シェイクスピアっぽい台詞だなぁとも思う。
    そうだなぁ、まずは近藤さんの小説も「ねむりねずみ」や「桜姫」「二人道成」など、梨園の名探偵今泉シリーズを読んでみようかな。

  • 短編4作。

  • 文庫版を読了。近藤史恵さんってことで読んでみた。
    可もなく不可もなく。

  • いやぁ、よかった。アンジェの公式小説はハズレが多いのに、遙かはレベルが高いなあ!イラストも素敵だし。
    八葉の一人を語り部にした四つの短編。といって、それぞれ一人ずつしか出てこないのではなく、一編に数人からんできます。何かと便利な泰明さんは頻出w

    遙かはファンタジックな世界観だから、不思議な人物や不思議なお話ばかり。世界観ならではのストーリーで、どれも面白かった。しかも語り部のキャラの特性をよ~く生かしたお話の展開で。
    頼久のきまじめな武士っぷり、永泉の包容力と静かな強さ、友雅さんの粋っぷり、詩紋くんの苦悩感と優しさ。キャラがよく描写されつつ、お話も面白いという。
    文章も簡潔で、とても読みやすく、言うことなしの面白さでした!

    特に「六道を閉ざされた男」が印象的。
    頼久さんのお友達の武士は、さる貴族が侍女に産ませた落としだねで、北の方の死産の呪詛を受けながら生まれたため、その負の力ゆえに(陰陽師の泰明さんコメント)、六道というかまわりのすべての「気」が止まっている状態。
    おかげで立ち会いでは死なないし、火事場に入っても死なない、不死身として有名。
    さる貴族の館で助けた姫に恋した彼、姫が入内すると聞いて気もそぞろ、本当の父を脅してまで入内を止めようとするが、あるとき姫の館が火事になり、武士が姫を救う。姫のほうも武士にひとめぼれしていた。喜ぶ武士だが、姫の愛の言葉に、せきとめられていた過去の六道が流れ始め、まわりが歪み始める。そこへ父の刺客の放った矢が彼を貫く…….。後日譚として、姫は入内とりやめになり、尼になって彼の菩提を弔うことになった。

  • 近藤先生の遙か小説はどれも大好きです。八葉がかっこいいんだ……!

  • ゲームソフトと連動している物語。
    物忌みの日に「神子」に「八葉」が語ってくれる物語。
    面白いです。

  • 読んだ記憶が

  • ●2005年頃読了
    私の大っ好き!な作品の小説版☆
    「六道を閉ざされた男」「冬衣の狐」「朝顔塚」「朱雀門の犬」と、全部で4つのお話が楽しめます。私は「六道〜」と「朝顔塚」がお気に入りです。言わずもがな、友雅さんが多く出演してるからですが(汗)

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著者プロフィール

1969年大阪府生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。1993年『凍える島』で「鮎川哲也賞」を受賞し、デビュー。2008年『サクリファイス』で、「大藪春彦賞」を受賞。「ビストロ・パ・マル」シリーズをはじめ、『おはようおかえり』『たまごの旅人』『夜の向こうの蛹たち』『ときどき旅に出るカフェ』『スーツケースの半分は』『岩窟姫』『三つの名を持つ犬』『ホテル・カイザリン』等、多数発表する。

近藤史恵の作品

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