ベルリン発プラハ

  • 幻冬舎
3.20
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784877282417

感想・レビュー・書評

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  •  『あん』の文章が、男っとこ前で読みやすかったので、他はどうかと、図書館で目に付いた本書を借りたもの。処女小説とは知らず読んだ。びっくりするほど、シロートくさかった。最初に書いたのなら、しょうがないか。
     その後、と言っても2015年の『あん』しか知らないけど、十数年をかけて読みやすい文章を書くようになるもんだと、その成長のほうが興味深かった。

     非常に切ない恋愛物語。日本に、一般社会に馴染めないアウトローな男女。カンボジア内戦という特殊な状況で知り合ったサオリとテツヤ。一時日本で愛を育むが別れてしまう。サオリの残した手紙を頼りに、北欧から東欧まで、彼女の姿を求めてテツヤが彷徨う物語。
     コペンハーゲンから始まり、最初のヒントを授かる相手の名がクヌートというところで、『地球にちりばめられて』(多和田葉子著)の趣きがあり、悪くないと読み進む。

     行く先々でサオリゆかりの人と会い、サオリの行方のヒントを掴み、次の目的地へ向かう。都度、「なぜ、サオリはここにいない?」「どこへ向かったのだろう?」と、ロールプレイングゲームのような展開が、非常に安っぽい(苦笑)

     本書を読んでいる間、絶えず『書く人はここで躓く』(宮原昭夫著)の内容を思い出していた。

    ”「思いついた順」と「書く順」は同じでよいが、「読ませる順」は違う。”

     作者が思いつたことを主人公テツヤに呟かせ、そのまま読ませる。「なぜ?」「どうして?」と主人公は謎を追って旅をするが、起こった事象を見れば読者も当然そう思うので、都度、主人公が呟かなくてもいい。
     『書く人は・・・』の中で、河合隼雄の言葉も紹介されていた;

    「作者の思いがけないことがおこるものこそ、ほんとうの『創作』である」

     思いがけないことが起こるほど、人物が生き生きと動いていない。多くの者が説明のための会話をし、都合よく昔の話を思い出しては語る。
     ハンブルグで会ったエルネは「ベルリンに行けばプラハ行の汽車があるけど、行っちゃいけないよ」的なセリフを吐くが、それって「プラハに行け、って言ってるようなもんじゃん!」と思わずツッコミたくなる。

     そうしたいかにも話を誘導し、ストーリの進む道のりを、安易な会話の端緒で指し示す、非常にお手軽な表現が目立つ。
     『書く人は・・・』の中で、「粗筋会話の多い作品」とか、「手抜き回想」と称されていた文章だと、素人読者ながらも見抜けてしまう。

    「筆者がどう感じ、どう思ったか」を記すのが「手記」。「小説」は「読者にどう感じさせ、どう思わせるか」だと宮原昭夫氏は説くが、著者の思いが主人公テツヤや他の登場人物を通じて滔々と語られる、そんな小説だった。
     「あとがき」に、その思いは明確に綴られている。「あとがき」があれば先に読むようにしているが、本書も先に読んでおいて良かった。でなければ、なぜ、こんな作品を書くのか、ずっと疑問に思って読み続けただろう(あるいは、途中でやめていたかもしれない)。
     まだ、海外を知らない中学生くらいが読めば、少しは心躍るのかもしれないけど。。。

     だが、ここからはじまって、『あん』にまで至るのだから、処女作品がどうであれ、人は成長するものだと強く思わされた。

  • 高校生の時、ドリアン助川さんのラジオを聴いていた友人にすすめられて読みました。こんなせつない世界があるんだ、大人になるって悲しいなあと思いました。
    ずっと再読しようと思っていて社会人になったばかりの頃に読みましたが、ただのラブストーリーとしてしか読めず、拍子抜けしました。
    大人になったということでしょうか。
    高校生だった私にまだ知らない気持ちを教えてくれた本です。

  • 後書きに書かれていた、白血病に侵されながらも、高校3年生という,本来ならば夢と希望にあふれた年齢にありながら、長期の入院生活を送り、死の恐怖といつも闘っていた。彼女は19歳の誕生日を迎えた一週間後に逝ってしまた。家族から託された手紙や日記には、迫り来る死の予感と、生きることへの断ちがたい欲望であった、番組に電話をかけてきた時の彼女の明るさはなかった、暗闇に沈み込んだ絶望感と悲鳴をあげたくなるほどの恐怖が延々と綴られていた。しかしその中にあっても、生きることの本当の意味を彼女は貫こうとしていた。

    …人を愛したい…

    その一行が私にどれだけの衝撃を与えたかわからない。死をすぐ近くに予感しながら、彼女は胸の中で愛を育もうとしていた。泣きわめきたくなる気持ちを抑え付け、一人の女性として生きた証をこの世に残そうとしていた。あまりに重く、あまりに鮮烈な彼女の言葉の数々。彼女が愛をもって十九年の生涯を終えたこと。それを作者は世に残そうと書いた作品に心をうたれた。
    ドリアン助川著

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著者プロフィール

ドリアン助川 訳
1962年東京生まれ。
明治学院大学国際学部教授。作家・歌手。
早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。
放送作家・海外取材記者を経て、1990年バンド「叫ぶ詩人の会」を結成。ラジオ深夜放送のパーソナリティとしても活躍。担当したニッポン放送系列『正義のラジオ・ジャンベルジャン』が放送文化基金賞を受賞。同バンド解散後、2000年からニューヨークに3年間滞在し、日米混成バンドでライブを繰り広げる。帰国後は明川哲也の第二筆名も交え、本格的に執筆を開始。著書多数。小説『あん』は河瀬直美監督により映画化され、2015年カンヌ国際映画祭のオープニングフィルムとなる。また小説そのものもフランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど22言語に翻訳されている。2017年、小説『あん』がフランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞(Le Prix des Lecteurs du Livre du Poche)の二冠を得る。2019年、『線量計と奥の細道』が「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞。翻訳絵本に『みんなに やさしく』、『きみが いないと』(いずれもイマジネイション・プラス刊)がある。

「2023年 『こえていける』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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