童話物語

  • 幻冬舎 (1999年4月10日発売)
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本 ・本 (545ページ) / ISBN・EAN: 9784877282929

感想・レビュー・書評

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  •  ブク友さんの感想で「どうしてこれを宮崎駿が映画化しないのだろう」と書かれていて、この「童話物語」というタイトルにも惹かれて、手に取った。
    いつの時代がどこの国か分からない架空の世界の片隅の小さな貧しいトリニティという町で、ペチカという女の子がボロボロの小屋で暮らしていた。たった一人の親であった母親を数年前に亡くし、教会の掃除をする子供たちの一人として働くが、守頭のおばさんにも他の子供たちにも死ぬほどいじめられ、食べ物も殆ど与えられず、いつも人が捨てた食べ物を拾って炙るなど自分で工夫して食いつないでいた。
     ある強風吹き荒ぶ寒い日、ペチカが教会の塔の鐘の掃除を命じられ、死ぬほど怖い思いで掃除している時、妖精のフィッツがペチカの元の降り立った。フィッツは人間界で最初に目にした人間を観察することを命じられてきたのだった。
    「人間の世界を滅ぼしに来る」と伝えられていた妖精と一緒にいるところを見られたペチカは、守頭に自分の小屋を燃やされ、住むところも無くなり、大人たちに追いかけられ、必死で逃げた。そして、疲れて寝ていたところをロバのテディと旅する盲目のおばあさんに助けられて、気がつくと馬車の中だった。
     初めはフィッツのことも邪魔もの扱いし、おばあさんのことも「人買い」だと言っていたペチカだったが、次第におばあさんの優しさに気づき、一緒に旅をしようと思ったが、ある街の中で、守頭といじめっ子のルージャンが自分を追ってきていることに気付き、おばあさんを置いて逃げてしまう。
     おばあさんさんに申し訳ない気持ちを抱えたまま、「赤い森」や「水路の町」や「天界の街」へとペチカの冒険は続く。守頭から逃げるためだけの旅ではなく、光の妖精フィッツと邪悪な炎の妖精ヴォーの闘いも絡むのだ。
     フィッツとケンカ別れし、水路の街で死ぬ思いで地下水路を渡って地上に出たあとは、天界の街で花屋を営むハーティとオルレアという優しい夫婦に助けられ、初めて家族のように受け入れられた。
     一方、フィッツは煙突掃除の仕事をするルージャンと出会っていた。トリニティで先頭だってペチカを虐めていたルージャンだったが、実は他の子供との力関係から仕方なくペチカを虐めていたのであって、本当は謝りたいと思って、ペチカを探す旅をしていたのだった。
     ある日、天界の街一番の名所、「天空の塔」のチケットをハーティが手に入れ、ハーティ、オルレアとペチカが楽しく並んでいる時、守頭がペチカを見つけてしまい、守頭はペチカの家に忍び込んで、ペチカが大切にしていた、たった一枚の「お母さん」の写真を盗んでしまう。
     大切なお母さんの写真を盗まれ、どうしたら良いか分からなくなったペチカは家を飛び出すと、あのロバと旅する優しいおばあさんに再会した。
    「世界の果てにあると言われている「忘れ物預かり所」に行けば、無くしたものが見つかるらしいからお母さんの写真を探しに行きたい」
    と話すペチカにおばあさんは優しく頷き、古い古い地図を渡してくれた。おばあさんが辿った道は赤い線で辿られ、目が見えなくなってからは、針で印がつけられていたが、「世界の果て」には印がつけられていなかった。おばあさんも行ったことがなかったのである。
     ペチカは字が読めなかったが、オルレアにその地図を見せると、地図には
    「アンティアーロ・アンティローゼ」と書かれていて、それは「旅の途中」という意味であり、親が旅立つ子供に向けて贈ったりする言葉で「私の歩んだ旅をあなたが継いでくれ」という願いが込められているらしい。
     行ったことがある人を聞いたことがない、「世界の果て」への過酷なひとり旅をハーティは反対したが、オルレアはペチカを信じ、母心で送りだす。

    「世界の果て」「旅の途中」。
    私たちは世界に果てが無いことなど小学生の時から知っているのに、どうして、この言葉に惹かれるのだろう。それは、世界には「果て」はなくとも人生には「果て」があるからだと思う。不老不死の妖精の国から来たフィッツは「死」がある人間界のことを知ってショックを受けたが、「終わり」があるからこそ美しいということも知っていく。
    そして「私が歩んだ旅をあなたが継いでくれ」と願いを込めて親が子供に送る「アンティアーロ・アンティローゼ」はなんと美しい言葉だろう。旅の目的を押し付けるのではない。苦悩が続く「終わりなき旅」であることを知りながら、それでも道標となる地図を渡すのだ。

     旅の途中で、若い女の機関士ネネにも出会う。なんとなく、「魔女の宅急便」に出てきたウルスラみたいな。
     生まれ故郷トリニティでは誰一人味方がいなかったペチカであったが、その後の旅の中で、母のような「おばあさん」「オルレア」と父のような「ハーティ」とかけがえのない友だち「フィッツ」「ネネ」「ルージャン」を得ていた。
     最後は、邪魔に膨れ上がった妖精ヴォーが街を壊滅させようとし、そこで闘うフィッツと大切な人を守ろうとするペチカやルージャンの活躍が、ジブリ映画の戦闘シーンのようになる。

     この本の原作者、向山貴彦さんは私と同じ年に生まれ、慶應大学在学中に「スタジオ・エトセトラ」というチームを組んで、画家の宮山香里さんや何人かのスタッフと共にこの本を制作されたらしく、巻末には映画やCDのクレジットのように、スタッフの名前と役割が入っている。映画になりそうだけれどならないのは、本として完成度が高すぎるからだと思う。
     また、付記として
    「小説・童話物語」は本来、十巻からなる妖精の書「童話物語」の五巻「大きなお話の始まり」と六巻「大きなお話の終わり」にあたる部分を抜粋して、理解しやすく、記述を簡略化したものである。
    と書かれているが、他の巻にあたる部分は出版されていない。読みたいと思うが、すでに向山貴彦さんは2018年に他界されているらしい。
    けれど、こう言ってられるのではないだろうか。
    「アンティアーロ・アンティローゼ」。

  • 文庫本で読んだので、文庫本で登録している。

    挿画が素晴らしいとのことなので、いつか手にしたい、心の積読。


    …と2年前に書き込みましたが、幸運なことに古書で手に入れました。
    こんないい本を手放した人がいるなんて!とも思うけれど、これも何かのご縁。
    大切に預かることにします。

  • ハイ・ファンタジィの大傑作。
    少女と少年の成長譚であり、人間という生き物の可能性を示してくれる一冊です。

    人生に疲れた時に、この本を開きます。
    自分という存在を見失いそうになった時に、この本を開きます。
    ここには、忘れてはいけない気持ちが、たくさん詰まっているから。

    ここまで感動出来た作品は他にありません。
    ただただ夢中で頁を繰りました。
    世界の、いや、人間の醜悪さと美麗さ。
    それをとことんまで描き切った作品です。

    この本の帯には、こんな言葉が書かれていました。
    =============================
    「M.エンデ+J.クロウリー+宮崎駿を連想させる圧倒的な筆力!!」
    =============================
    大袈裟な、と思いつつ、興味を引かれて買いました。
    そして、読了後、この言葉は嘘偽り無いものであったと、深く納得しました。

    文学は、ただの娯楽ではない。
    そこには、「世界」が詰まっている。
    そしてファンタジィとは、その究極の形である。
    それを、分からせてくれる作品です。

    この本の魅力は、読んでもらわなきゃ伝わりません。
    断面を切り取ることが出来ません。
    言えることは、読まない人は、確実に損をしている、という事だけです。
    さっき、何回目か分からない再読をしました。
    そしていつものように、中盤過ぎ辺りから、幾度と無く涙を流しました。
    その涙は、悲しいもの、辛いもの、嬉しいもの、いろいろです。
    読後に、やっぱり、いつものように、心に光をもらいました。

    本書の魅力は、随所に挿入される挿絵にもあります。
    宮山香里さん( http://www.studioetcetera.com/staff/kaori/ )が描く、その美しい版画の世界。
    著者の向山貴彦さん( http://www.studioetcetera.com/staff/mobs/index.html )と、その世界観を共有しながら描いた「クローシャ」の風景。
    そして、登場人物たちの表情。
    とても活き活きとしていて、物語の側面をしっかりと支えています。
    この挿絵を堪能するためだけに、単行本を選ぶ価値は十二分にあります。

    僕には出来ないことだから、この本に頼りたいのです。
    いま、たくさんの絶望を抱えている人へ、この本を贈りたいのです。
    この本に書かれていることは、きっとたくさんの力を与えてくれるから。
    文学の持つ、希望を与えることの出来る力が、たくさん詰まっているからです。
    いくつか、フレーズとして登録しておきます。
    ぜひ、読んでください。
    読み終わった時、あなたの世界を見る目は、すこし優しくなっているはず。

    <<追記>>

    2018/3/5 著者である向山貴彦氏が永眠されました。享年47歳でした。
    http://studioetcetera.com/main/archives/5012

    以前使っていたサービスで、コメントを頂いたことを思い出します。
    まさか著者に読んで頂けるとはという驚きと気恥ずかしさ、そして何よりも嬉しかったです。

    この素晴らしい作品を生み出してくれたことに、心からの感謝を。ありがとうございました。
    どうぞ安らかに。

    • yo-5h1nさん
      ナイス酔狂(^o^)
      いけださんのリアル本棚はどうなっちゃってるんでしょうね???
      うらやましいような、おそろしいような。
      ナイス酔狂(^o^)
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      うらやましいような、おそろしいような。
      2021/03/02
    • yo-5h1nさん
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      2021/03/02
    • yo-5h1nさん
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      2021/03/02
  • 天涯孤独の少女ペチカが、妖精に出会い、旅をしながら、人間の愛を知り、成長していく物語だが、私が好きなのはルージャンである。

    ペチカの幼なじみの少年ルージャン。
    周りの男の子たちと共にペチカをいじめていたが、ペチカが旅に出たのを知って、ルージャンもペチカを探す旅に出る。
    ルージャンもまた、旅をし、1人で生きていくことで、弱虫な少年から、強くたくましい少年になっていくのだ。

    本当は好きだったペチカのことをいじめていた行いを悔やみ、ただ、ペチカを見つけたら謝りたい一心でペチカを探す。

    でもなかなかペチカに会えないのだ。
    いつになったら2人は再会出来るのか、待ち遠しく思いながら読み進めた。

    人は変われるし、自分で思っているよりすごい人間なんだ。

    って、勇気をもらえた一冊です。

  • 最初の方は、読んでいてつらくて本を閉じてしまったほど。これでもかと不幸になっていくペチカ。
    おとぎ話なら、主人公は不幸であっても心映えは美しく…というものですが、こちらは人間不信で攻撃的です。
    そんなペチカがどういう風に変わっていくかというのが見どころです。 
    最初の方に仔猫が出てきますが、その仔猫への仕打ちがあまりにもひどくて、そのシーンだけでこの本が嫌いになりそうでした。読み終わった今でこそ、また読んでもいいかも、いや、また読んでしまうかも、と思っていますが、そのシーンだけは読めないかもしれません。 (猫好きとしては耐えられません)
     しかし後からじわじわと余韻がくるような不思議な読後感です。クセになるかも^^;
    ファンタジーっていいなぁ♪

  • 本屋でふと出会ったあの日のことを忘れはしません。
    その日は徹夜で読みました…(遠い目

    とにかく!
    こんなにすばらしいファンタジーはあまりない。
    折しも世界ではハリー・ポッターが話題に。
    いやいやいやみなさん、日本にもこんな素敵な小説があるんですよ?
    当時の知名度の低さに悲しくなり、周りにすすめまくった記憶が。

    涙もろいひとなら5回は泣きます。
    ラストなんて嗚咽ですわ。
    もう何回読み返したかわからないくらい。

    ジブリで映画化して欲しいとの声も多いですが、私としては見てみたい気もするけど、小説の自分のイメージのままそっとしておいて欲しい。

    にしても著者はなぜ他にも小説をどんどん書かないのでしょうか!

  • 中学生の時に読んで以降、何度読んでも涙が止まらないくらい感動する。初めて徹夜して読んだ本。
    主人公がすごく嫌な性格の女の子だったことも衝撃で、ずっと忘れられない。
    何度も読み返したくなる、私にとっての大事な一冊。

  • 主人公のペチカをとりまく環境は、
    厳しいもので、1日1日を生きることに精一杯。
    理不尽なことも多い。
    そんな、ある日妖精と出会って体ペチカの周りがかわっていく。
    とても描写や心情の変化がわかりやすく書かれているのでついつい感情移入してしまい、読み進めていける物語。
    人は1人では生きてはいけない、そんな風に思わせられる一冊。誰もが旅の途中。人生の中で、どんな人に出会えるかが大切だと感じさせられた。

  • 辛くさみしい過去を送っていた主人公の心がだんだんと人を信じられるようになり、最後は、みんなを救う。
    涙なしでは読めませんでした。

  • 貧しい少女ペチカと妖精フィッツが出会い、旅立ち、成長していく物語。
    いじめっこの男の子の成長物語も絡めている。
    最初、ペチカの不幸っぷりがあまりにも克明に長々と綴られてて、苦しくて本を閉じそうになった。
    そして、不幸が故に攻撃的で信じる心を失ってしまったペチカが、その後旅を続けながら体験していく中で少しずつ人を信じられるようになっていく。

    分厚い長い物語だけど、読みやすいくて一気読みした。

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