五分後の世界 (幻冬舎文庫 む 1-1)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784877284442

感想・レビュー・書評

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  • 1994年4月2日第2刷(文庫でないけど、文庫も欲しい。) 「1984」を読了後、読みたくなってしまい再読。

    主人公小田桐が、紛れ込む5分ずれたパラレルワールド。そこは、太平洋戦争に降伏せず、崩壊した大日本帝国だった。国家消滅危機の中、純潔日本人達は、地下に潜り地下国家「アンダーグラウンド」を形成し世界とゲリラ戦を戦い続けている。
    この作品の中で日本人が、勤勉に勇敢に鍛錬を重ね、民族の誇りを持って生活している。それは、子供から老人まで。それを見た小田桐は涙さえ出そうになる。ゲリラ戦だけでなく、芸術でもスポーツでも世界に挑んでいるのだ。
    作品の多くの部分で濃密なゲリラ戦が描かれている。スピード感と危機感の表現は見事。
    そして、ラストは、「砂の女」を思い出した。

    最近は村上龍氏の作品は評価が低いが、この作品は、連作の「ヒュウガウイルス」と共に記憶に残る小説。

    自衛隊市ヶ谷駐屯地の見学コースに、敗戦直前の大本営地下壕跡がある。敗戦後、中の備品等はアメリカ軍に持っていかれたらしいが、電気水道完備。水洗トイレまであったらしい。設計図が現存してないとのことだが、正確な掘削に感動する。アンダーグラウンドは不可能ではないかもしれないと思わせる。

  • 最高にクール。何度読んでもシビレル。戻れないパターンの最高峰では。

  • だいぶ前に読んだのですが、本棚に入ってなかったので。目覚めたら別次元の日本に居た男の話。戦争はまだ続いて、日本は地下都市を作って戦っていた。生きるとは何か?痛烈に訴えてくる作品。村上龍の中で一番好きな作品。


  • 評価が難しい。
    作者が恐らく当時の段階で最も描きたかった世界を本能のままに書き殴った作品。
    俗な概要は大戦続行中の日本というパラレルワールドに放り込まれる異世界転生系。
    誰が読んでも作者の血と汗を感じる入魂作品だが、正味全く入り込めなかった。
    楽しめなかった自身の感性を恥じつつも、剥き出しの村上龍は合わないという知見も得た。
    SFモノとしては非常に重厚で迫力のある作品だと思う。

  • 時空のずれ、そしてその世界は戦争を続ける日本、、という設定が面白そうだなと思った。今の日本と戦争を続けていたらの日本の対比がドラマチックに描かれてるという感じではないのだけど世界観に引き込まれる。
    1ページの密度が濃くてちょっと目を離すとどこまで読んだかわからなくなって、子育ての合間に読むのは難しい。。

    今の自分への、現代人への、強烈なメッセージを感じた。
    戦争を終わらせないべきだとは決して思わないけれど、そのせいで日本人がアメリカの影響を大きく受け、真似をし、ただひたすら生きるという強い意志を失っているのは
    たしかにそうだよなぁと。
    人とのコミュニケーションや豊かな生活(とみせかけて人と比べてもやもやしたり)、みたいな人間関係における悩みやトラブルも、UGの人達のように無駄なことは喋らない、ただ必要なことのみ遂行する、そんなシンプルな姿勢でいたらいいのかも?なかなかそんな態度で現代を生き抜くのは難しいけれど。でもなんかシンプルに生きている人の方が複雑に考えて行動してる人より凛としてるように感じる。なんでだろ。何も考えずにただ生きてるのと生きるという強い意志を持ってただ生きるのって全然違う。。

    感想というと難しいけれど、メモしておきたい箇所がいくつかあった。
    他の本でもそうだけど村上龍の本ではぼんやり生きてる人への批判をすごく感じる。だから私は読みたくなるのかもしれない。読んだからといって生き方がハッキリしてきたわけではないのだけれど。。

    ------------------
    自分のことを自分で決めて自分でやろうとすると、よってたかって文句を言われる、みんなの共通の目的は金しかねえが、誰も何を買えばいいのか知らねえのさ、だからみんなが買うものを買う みんなが欲しがるものを欲しがる、 大人達がそうだから子供や若い連中は半分以上気が狂っちまってるんだよ、いつも吐き気がしてあたり前の世の中なのに、吐くな、自分の腹に戻せって言われるんだから、頭がおかしくなるのが普通なんだ


    全部地下に埋められて、いくつかの地下工場もできたけど、そういうのはスラムができてからは放置された。だから今は幾つもの層に分かれた迷路になっている、ネズミだけじゃなくていろんなものが棲みついているが信じられないことに人間もいるんだ、(略)これはものすごいよ、人間とはいえないかも知れない、退化してるんだ、もちろん視覚は失われているし言葉を喋れない、ボクは一度見たことがある、(略)
    退化というものがどういうものかわかるよ、進化するのに意志が必要かどうかなんてわからないし進化の価値も一口では言えないけど、退化はひどい、生きる意志を根こそぎ奪ってしまうような声だった。

  • 幻冬社から単行本が出版された当時に読んだ記憶があるので、実に25年以上ぶりに読んだこととなる。当時は中学生で世の中の事もあまり知らず、本書が何を語っているのか十分に理解はできていなかったが、今読むと非常に興味深いテーマであると思う。
    25年経っても村上龍の文章のスピード感、レトリック、構成とストーリーは他を寄せ付けず、当時の作者のエネルギーを垣間見ることができた。

    本書で語られているパラレルワールドとしての現実の日本は、その後村上龍が考えていたような国としてのコースを辿っただろうか。少なくとも自分には25年の時間を隔てた向こうから強烈な皮肉が社会に浴びせられているように感じた。25年前に既に「させていただく」問題について触れ、それを「責任の所在を曖昧にしてコミュニケーションの速度を落とす」無意味な言葉と斬り捨てるシーンは現代の日本においてはより深く強い意味を持つのではなかろうか。

  • もっと村上龍作品に触れたくて見つけてすぐ手に取った一冊。内容については、なにか今の日本を皮肉っているようなところがよく感じられた。しかし、国のもとをただせば個人の集まりであるし、P120の「誰も何が欲しいかわからないからみんなが買うものを買う」とか、P121の「みんな誰かの言いなりになっている」とか、P156の「アメリカ人の好きそうなものを好んで、それが異常だと気づけない」とか、この辺の言葉になぜか自分がヒヤッとさせられた。もちろん共通言語として英語を勉強したり、自分とは違う容姿、文化を持つ外人に憧れるのは、ないものねだりな人間の性からしてしょうがないことだと思うけどやっぱり日本人の精神的な強さとかそういうところは誇りに思わないといけないと思った(現代人にその強さが備わっているかは別として、、)。
    また、本解説を読んで村上龍作品の楽しみ方がわかったような気がした。やはり本を読むからには「結末」が欲しいと思うのが普通だけど、村上龍作品には明確な結末がない(ように自分は感じる)。だからこそ、初めて村上龍作品を読んだとき、なんだこれ、、、と読了後には何も残っていないような感じ(物語の結末がよくわからないような感じ)がしたけれど、印象として描写とか表現がすごかったなあとしっかり覚えていて、その印象に残ったような残ってないような不思議な感覚にはまった。でも、本を読んだ後に結末をだれかに話すために本を読んでいるわけじゃないし、その場その場の描写とか表現を楽しむというのが独所の本質だとすれば、村上龍作品はやっぱりすごいと改めて感じた。
    こんなにレビューを長く書いたのは久しぶりだし、やっぱりなんか他の本とは一線を画していると思う。もっと読みたい。

  • 自分の記憶力の無さに感謝したい。再読だが1行も覚えていなかった。おかげで楽しめた一級品の小説、傑作。

  • 今を揺るがす5分後の世界という架空空間。その荒れ果てた様に恐怖のどん底に誘われた。

  • 読むのに非常に時間がかかる本。1ページの情報量が多く、集中して読まないと特に戦闘シーンの描写は何が起こっているのかわからなくなる。とはいえ、その圧倒的な臨場感と秀逸につくりこまれた世界観は本当にすごい。主人公の心理描写を事細かにしているわけではないのに、最後の主人公の決断はごく自然で、感動すら覚えた。続編も是非よんみたい。

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著者プロフィール

一九五二年、長崎県佐世保市生まれ。 武蔵野美術大学中退。大学在学中の七六年に「限りなく透明に近いブルー」で群像新人文学賞、芥川賞を受賞。八一年に『コインロッカー・ベイビーズ』で野間文芸新人賞、九八年に『イン ザ・ミソスープ』で読売文学賞、二〇〇〇年に『共生虫』で谷崎潤一郎賞、〇五年に『半島を出よ』で野間文芸賞、毎日出版文化賞を受賞。経済トーク番組「カンブリア宮殿」(テレビ東京)のインタビュアーもつとめる。

「2020年 『すべての男は消耗品である。 最終巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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