ラブ&ポップ: トパーズ2 (幻冬舎文庫 む 1-7)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784877285494

作品紹介・あらすじ

高二の裕美は、初めて最後まで付き合う援助交際を決意した。真夏の渋谷で出会った12万8千円のインペリアル・トパーズ。それを見つけた時、心臓のあたりが凍りついたような感じがしたからだ。欲しいものを、今、手に入れるため裕美は伝言ダイヤルにアクセスする…。援助交際を女子高生の側から唯一描き、新しい世代に爆発的な共感を呼んだ衝撃作。

感想・レビュー・書評

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  • “その指輪は、ひときわ強く光るダイヤモンドの群れと、その他の石とのちょうど境い目あたりにあって、ひっそりと、淡いピンク色に輝いていた。インペリアル・トパーズ、という小さな文字が見え、その指輪がクローズアップで目に映った時、裕美は一瞬心臓のあたりが凍りついたような感じがした。その指輪以外のすべてのことがどうでもよくなって、まるで出会ったばかりの頃に高見浩一の裸を初めて見た時と同じように心臓がドキドキして、その場から動けなくなった。裕美は、その指輪を絶対に欲しいと思った。”

     村上龍の『ラブ&ポップ』は、本当に傑作だと思う。決して褒め過ぎじゃないはずだ。何回読んでも、その度に思う。たぶん、初めて読んだのは、自分が高校生の頃。そのころの私は、少女漫画のピュアな恋愛観にはやや食傷気味で、文学で描かれる際どい恋愛や、より刺激が強いものの方に惹かれてゆく成長過渡期。そんな時期に出会った村上龍の小説は、官能的でアブノーマルな世界を出し惜しみなく披露してくれ、刺激を欲する脳に直撃した作品だった。

     主人公の裕美は、学校生活や家庭環境でとりたてて不満があるわけでもなく、それなりに恋愛もし、彼氏もいて、どこにでもいそうな一人の高校生だ。彼女のまわりの女子高生たちにとって援助交際は、非日常なことではなく、欲しいものを手に入れるための手段のひとつ。裕美は援助交際に積極的ではなかったが、ある時トパーズの指輪に出会って、彼女の心の中に強い感情が芽生える。いま手に入れないと、特別なものも平凡になってしまう…。カラダを売る覚悟をした裕美だが、二人の異性と出会って、羞恥的な面食らう出来事や危険な目に遭うことになる。この二人の男性とのそれぞれのやりとりの場面は、はじめて小説を読んだときに、かなり印象的に記憶にこびりつく。裕美の他人を疑わない軽率さや、まだ擦れていない感情や反応、何気ない優しい気遣いに触れて男たちの態度が微妙に変化する。あくまでやっていることは援助交際であり、一時の快楽や満足と引き換えに男たちは金を差し出すのだが、不快感を感じるというよりもむしろ物語に引き込まれていく。

    あれ、これっていい話なんじゃない?

     しかし、読者が油断をしかけた頃に、奈落の底に突き落とすような展開を作者は準備している。唖然。キャプテンEOと自称する男が裸の裕美に突きつける台詞。たぶんこの作品の全てはそこに凝縮されている。道徳だとか、社会ルールだとかそういうお説教じみたことではなく、もっとストレートに刺さる言葉で主人公の、そして読んでいる私の心を揺さぶる。キャプテンEOがやっていることは狂気じみた行動なのだが、彼の台詞はひどく真っ当だ。そのアンバランスな加減、私は小説のそのくだりが好きだ。そして主人公が家に帰ってから、荷物を紐解いてあることに気付く場面も。

    村上龍が後書きで、述べていること。
    “罪悪感は社会的なもので、文学はモラリティを扱うものではない。自分ではその動機さえわからずアクションを起こし、時にはモラルを突破する人間の前駆的な言葉を表現するのが、文学だと私は考えている。”

    自分自身では小説と同じ体験を味わうことは到底できないが、作品に触れ、なにかを感じ、共鳴することはできる。作者がこの作品に込めたものをどれほど自分が受け取っているかは測りようもないけれど、この先もきっと何度も読み返すだろうし、物語の輝きは消えない気がする。

  • 映画で知って本も読んだ

    いいと思ってしまう

    援助交際という今でもそのまんまある社会問題を通して村上龍というおっさんが懸命に女子高生を内側を描いているのがいい。大切なものは今すぐ手に入れないと消えてしまう。だからトパーズの指輪を手に入れるのだ。

  • 普通に検索したとき出てこなかったのなんでだろう?

    とてもよかった
    キャプテンEO嫌いになれない

  • 前に読んだのは十数年前で、もうすでに女子高生ではなかったけど、夢中で読んだ。ちょっと違うと思っても、村上龍みたいなおじさんが女子高生のことをかいてるのはかわいらしく思った。
    今読んだらすごく読みにくかった。でもよかった。キャプテンEOもコバヤシもいい。

  • 【拝啓女子高校生の皆様へ】

    僕の知っている皆様は今もどこかで援助しつつされつつ生きていらっしゃいますか?それとも、もう過去は忘れて、田舎で子供を育てていますか?それとも、ゴミ溜めのような生活のまま男に蔑まれて生きていますか?

    あの時の女の子達はどんな女性になって生きていますか?

    今の女子高校生の皆様
    貴方達はどんな生活を送っていらっしゃいますか?今でも援助交際をしている方はいらっしゃいますか?消えないけどダサい事になった昨今。貴方方はどういう感覚で生きていらっしゃるのでしょうか?

    自分を売る援助交際は、今はアイドル活動に他ならないのかもしれない。

    リアルではない。リアルは今のことに限りなく近いから。だけど、あったかもれない。こんな物語が、東京のどこかで。そしてそのこは今、社会で生活を営んでいる。貴方のすぐ傍で、何食わぬ顔をして、悩みながら、後悔しながら、前を向きながら、笑って。

  • 2014年7月10日読了。援助交際をする女子高生を主人公に据えた97年刊の村上龍の話題作、龍ファンの私が読み落としていた作品だが今回読むことができた。たまたま眼にしたインペリアルトパーズの指輪を「今手に入れなければこの気持ちを忘れてしまう」と考え、代金の12万8千円のため身体を売ることもいとわない援助交際を決断する裕美の思考は切実で平板で、ゾッとするほどリアル。援助交際で数万のお金を手にする女子高生は拝金主義ではなく、「お金よりも大事なものがある」ことを知っているからこそ・お金を使って消費をするために、お金を手に入れかつ自分の価値を確認できる援助交際に手を染める、ということなのか・・・。伝言ダイアルのメッセージ、渋谷の雑踏の会話、男たちの言葉、すべてが猥雑でリアルで嫌になるが目を離せなくなる。この時代から十数年たった現代を生きる女子高生は、今何をどう感じているのだろうか・・・?

  • 映像を文字にしたような異質な文章ですが、今読むと時代を感じて良いと思います。
    終盤のセリフのために全てがある本だと思います。

  • ページをめくるごとに移ろって消えてしまう私達の気持ち

    なにかの評論で紹介されていて読む。
    しかしトパーズの指輪は欲しがらないと思う。時代?
    なんとなく、クリスタルが流行るようじゃ

  • テーマは援助交際。周りでやっている人もいなければ、自分自身の経験もないので、詳しくは知らないが、「良くない」ものだという暗黙の事実は感じていた。この本を読んだ後に援助交際が「良い」ものと思うようにはならないが、「良くない」と定義するのも無責任ではないかと思った。本の中で「援助交際は良いものか悪いものかは誰も決められない。根拠がなく、個人のモラルの問題だから」と筆者がいう。援助交際に限らない。身の回りでは理不尽な決まりがたくさんある。先生が言ったから、親が言ったから、政府が決めたことだから。と大人にただ従っていくだけでいいのか。理由を聞いても、そういうものだからと。私たちはそういう大人に果たしてなりたいのか。私はなりたくない。
    本の内容に戻ると、主人公は自分の価値を感じるために援助交際をしていたのかもしれないと思う。世の援助交際をしているすべての人に言えることだ。
    買いたいものがあってお金が欲しいからなど理由は様々だが、援助交際だとしても初対面の相手を待ち合わせ場所で待ってるときはドキドキすると思う。それを気持ち悪いと思う人もいるが。
    どんな相手であっても自分のどこかしらに魅力を感じなければ選ばれない。自分を選んでくれた、自分の価値が目に見えるその瞬間、その人は幸せを感じるかもしれない。人間はそれくらい単純なのかもしれない。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/682657

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著者プロフィール

一九五二年、長崎県佐世保市生まれ。 武蔵野美術大学中退。大学在学中の七六年に「限りなく透明に近いブルー」で群像新人文学賞、芥川賞を受賞。八一年に『コインロッカー・ベイビーズ』で野間文芸新人賞、九八年に『イン ザ・ミソスープ』で読売文学賞、二〇〇〇年に『共生虫』で谷崎潤一郎賞、〇五年に『半島を出よ』で野間文芸賞、毎日出版文化賞を受賞。経済トーク番組「カンブリア宮殿」(テレビ東京)のインタビュアーもつとめる。

「2020年 『すべての男は消耗品である。 最終巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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