ロゴスと巻貝

著者 :
  • アノニマ・スタジオ
4.25
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784877588557

作品紹介・あらすじ

注目の俳人小津夜景は、選び取る言葉の瑞々しさやその博識さが魅力。本書では、これまでの人生と本の記憶を、芳醇な言葉の群で紡ぎ合わせる。過去と現在、本と日常、本の読み方と人との交際など、赤裸々に綴った40篇。

感想・レビュー・書評

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  • 新年早々、震災と航空機事故という痛ましい大惨事が続き、人生の不条理について考えさせられる。そんな居た堪れない気分のなか手に取ったのが、小津夜景さんの読書にまつわるエッセイ。彼女の独特な感性がわたしの琴線に触れ続け、ざわめく心を鎮めてくれる。

    冒頭、彼女は、読書遍歴や良書リストは人生に物語性を帯びてしまうから語らないという。「日々のどうってことない瞬間を拾いながら、その場でひらめいた本を添えていくつもりだ」という構えは、『いつかたこぶねになる日』にも通じる。ならば、どれだけ豊かな読書遍歴なのだろう。

    そんな彼女だが、意外にも、10年あまり本を読まない時期があった。「ああ、本が遠い。遠いなあ」この嘆きの深さは想像を絶する。それから、「ずっと風の音を聴いていた」という。仙人か。「読むときは考えるのではなく、貝に耳をあてるみたいにしなさいとか」は表題に繋がる一節だろうか。

    海外の哲学者や芸術家の著作の抜粋が並ぶなか、目をひいたエピソードがある。「在職中の二度目の手術のときに、街金の上司からの差し入れの紙袋に、薯蕷饅頭と京極夏彦の『姑獲鳥の夏』が入っていた」「せやろ。そうゆうんがええんちゃうか思うて」 この上司、最高。

    アルバイト先の書店主。読書中の音楽の聴き方も良い。「音量が大事です。聴こえるか聴こえないかくらい。イメージとしては、うっすらと香水が漂っている感じ。ともすると、音がどこかに消えてしまう、それくらいがちょうどいいんです。ただ、空間にいい香りをつけるためのものなので」

    彼女の読書への向き合い方で、わたしの心に響いた言葉の数々を、以下に記す。

    ⚫︎ひとつは「手に入るものでしのぐ」もうひとつのルールは「じっくり選ばない」

    ⚫︎わたしの本の選び方は、そのときの自分の生活事情によって決まっていて、あこがれやこだわりとはほとんど関係がない

    ⚫︎いつどこで読むか。これについては、なにかのついで、が圧倒的に多い

    ⚫︎読む時間は一回につき一分から十分くらい。おのれをいつわらず、買いかぶらず、ありのままを見つめれば、一段落の読書でも得るものはたっぷりある

    ⚫︎意味にこだわる大人の読書もいいけれど、意味なんて気にせず、ただその影ばかりが心に流れていく感覚の読書も最高だってことを

    ⚫︎面白い本に楽しませてもらっているうちはまだ甘い。読書の醍醐味は、自力で面白がる方法を極めるところにある。つまり読書は創造と密接にかかわっている

    ⚫︎好きなひとの好きな本だということが、もうそれだけでわたしには面白い。たとえ個人的な感情とずれていたとしても。いや、むしろ違和感があったほうが燃える

    ⚫︎いまでもわたしは同じ本をなんども読む。十回、二十回、三十回と。わたしにとって読書の醍醐味とは読み直すことにある

    ⚫︎本は読めば読むほどに体に馴染んでくるし、そうなってやっと見落としていた細部に気づいたりもする

    ⚫︎つまり読書はひとを孤独にさせる道具だということ。そこに己の身を切るような、かっこよさがある

    ⚫︎いまにして思えば、オキーフの着こなしには俳句のエッセンスがひそんでいた。俳句は基本ミニマリズムである。そして細部に心を寄せる。静寂と運動とのあいだのバランスを見極めることによって美や瞑想を生み出す

    ⚫︎フランスにいると夏は七時間、冬は八時間の時差があるので、とても安心して生活できる。古典が好きなのも、そのせいかもしれないと怪しんでいる。なにせ座右に古典のある生活とは、時間的な距離のある二点を同時平行で生きることだから

    ⚫︎漢詩を読むのは、ほかの外国詩を読むのとまったく体感が違う。この「視覚的にととのった定型詩」と「聴覚的にくだけた自由詩」とのアンサンブルを体験するときの、ひとつの型に押し込まれない感覚がわたしにはすがすがしい

    ⚫︎根が野次馬な自分は、本を体験的空間だと思っているふしがあり、わからない本とは物見遊山の感じでつきあっている。とはいえ、そのざっくりとした体感がのちの助けになる局面の多さを考えると、経験はどんなささやかなものでも馬鹿にできない

    ⚫︎病弱だった幼いころはもとより、いまでも自分は近所を歩きながら、読み終わった本を思い返していることがよくあって、そんなときこそ「いま読んでいる」といった実感がある

    ⚫︎書くことと読むことは鏡のような関係で、実は切り離せない。作者は自分の文章を書きつつ読み、読みつつ書くをくりかえして一冊の本をつくるし、読者は読者で読みつつ感想を紡ぎ、紡ぎつつ読むをくりかえす。こんなふうに書くことと読むことが同時に起こって、たがいに影響を及ぼしあうような対話の空間を、わたしは本と呼んでいるのだと思う


    彼女は、病弱である。また、よく海水浴をする。「ああ。気をつけないと。そう思った三日後いきなり溺れた。…この柔らかい傷が乾ききって黒ずむ痣と化すまえに、もういちど海に抱かれてしまわねば」 この危なっかしい行動も、数奇な人生も彼女の魅力である。でも、気をつけてほしい。

    • 傍らに珈琲を。さん
      harunorinさん、こんばんは!
      良いレビューだなぁってしみじみ読ませていただきました。
      私自身の読書スタイルを思い返したりして。
      私も...
      harunorinさん、こんばんは!
      良いレビューだなぁってしみじみ読ませていただきました。
      私自身の読書スタイルを思い返したりして。
      私も読書中、小さな音量で音楽を流しています。
      その時の心持ちによって丁度良い音量が違うので、あれこれ音量調節してから読書スタートです。
      それに、ぐーっと集中して数十ページ読む時もあれば、一段落で本を閉じてしまったりも。
      それでも、作品の文章に触れること自体が大切なのだからこれでいいんだと思わせて貰えるようなレビューでした。
      今年も、どうぞ宜しくお願いします♪
      2024/01/04
    • harunorinさん
      傍らに珈琲を。さん、こんばんはー
      しみじみ読んでいただけたとのコメント、とても嬉しいです♪この本自体の魅力に負うところが大きいと思います(*...
      傍らに珈琲を。さん、こんばんはー
      しみじみ読んでいただけたとのコメント、とても嬉しいです♪この本自体の魅力に負うところが大きいと思います(*´꒳`*)
      わたしも昨日、試しに小さな音量で読んでみたんですが、予想以上に没頭できて、社会復帰の前日に大きな満足感が得られました。
      かといって、小音量一辺倒ではなく、その時の気分次第で音量を調節されるというのも、すごく分かります。
      わたしは基本、遅読派なので、ブクトモの皆さんのハイペースっぷりにいつも圧倒されていますが笑、作者の体験談を通じて自分なりの読書スタイルやペースでいいのだと、自己肯定感をもらえたような気がします。
      今年もよろしくお願いします!
      2024/01/04
  • 小津夜景さんの『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』『いつかたこぶねになる日: 漢詩の手帖』が好きだ。その本を読んでますます漢詩が好きになったと言ってもいいくらい。

    その小津夜景さんの「日々のどうってことない瞬間を拾いながら、その場でひらめいた本を添えていく」という本との交際秘録。
    けれども実は、この本を読もうと思ったきっかけは小津夜景さんの「ままならない読書」が気になったからではなく、表紙の装丁が美しく、その本自体のお洒落な佇まいが気に入ったから。
    そのついでにもうひとつ正直に告白すると、小津さんが読んでこられた本をまったく読んだことがない。あ、唯一『智恵子抄』は読んだことがある。好きだとまではいかなくとも嫌いではない『智恵子抄』だったが、小津さんは『智恵子抄』を「大嫌い」だときっぱり書いておられる。……言葉が出ない。
    好きな本の著者さんが読んでこられた本をまったく読んだことがないというだけでもちょっぴりショックななかで、唯一読んだことのある詩集をやっと見つけて、なんだかホッとしたのも束の間、それを「大嫌い」と言われたら、これはもう……どうすればいい?

    それでも小津さんの読んでこられた本が気になって仕方ない。
    好きな作家はと聞かれたときにたいてい答えるという夏目漱石(ああ、私は漱石もまともに読んでいない……)、『漢字の世界1』(白川静)、『灯台へ』(ヴァージニア・ウルフ)『其日の話』(大庭柯公)、『小遊星物語』(パウル・シェーアバルト)『平行植物』(レオ・レオーニ)『パンセⅠ』(ブレーズ・パスカル)『言葉と物』(ミシェル・フーコー)『新しい学 2』(ジャンバッティスタ・ヴィーコ)……
    タイトルを見ただけでも、まったくもって難しそうだ。私にはお手上げになりそうな本も多いことだろう。
    なのに、読んでみたいと思う。

    小津さんはなぜ『智恵子抄』が大嫌いなのか。
    “言葉の彫琢がゆきとどいた佳品であることは理解しているし、読めば感動だってする。それこそ、深くしみじみと。そして問題はまさにそこなのだ。いかんせん完璧すぎる。信用できない。紛うことなき最高傑作の「レモン哀歌」なんてタイトルからしてうさんくさい。(後略)”p71

    ならば、なぜ小津さんは『智恵子抄』をくりかえし読んだのか。
    “それは、もちろん武内(←元チェッカーズのギタリスト武内享のこと)の愛読書だったからだ。好きなひとの好きな本だということが、もうそれだけでわたしには面白い。たとえ個人的な感情とずれていたとしても。いや、むしろ違和感があったほうが燃える。わからないものを理解したいーー”p71

    そうなのだ。だから私も小津さんの読まれてきた本を読みたいのだ。
    好きな本を書かれた方が読んでこられた本だから。
    そう、理由はそれだけなのだ。

  • 【アノニマ・スタジオ】注目の俳人、小津夜景の新刊『ロゴスと巻貝』発売! | 中央出版株式会社のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000022770.html

    小津夜景(@ozuyakei) • Instagram写真と動画
    https://www.instagram.com/ozuyakei/

    小津夜景日記
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    ロゴスと巻貝│アノニマ・スタジオ|中央出版株式会社
    https://www.anonima-studio.com/books/essay/logos_to_makigai/

  • 美術館にいたような読後感。後半海に関連する章が続いたからか、クラゲの触手が著者に優しく触れているイメージが湧いてきて、そんな風に本や詩や歌が著者を形作っている様に感じました。照。

  • 読書好きの俳人の方のエッセイ集と聞いて。読めば読む程に全く趣味が合わない。本のページをビリビリと破いても一向に構わないだとか、その場その場の気分や導きに合わせて本を読むだとか。自分は本を物体として好きなので絶対に書き込みは出来ないし、ましてや破るなんて考えたこともない。そして基本的にはテーマ読みが多い。一編一編で紹介される本をほぼ読んでいないことからも読書傾向が全く違うことが窺える。しかしながら、活字への偏愛は変わらないと感じた。壁に貼られたあいうえお表を見て勝手に文字を覚えたりだとか、図書館で借りた本に昂ったりだとか、本を読み終えるのが勿体無くて数ページ残したままにしてしまうだとか。ああ分かる分かる、としみじみ共感してしまった。活版印刷から平板印刷になって目が滑るようになってしまった、というエピソードには目から鱗が落ちた。言われてみればそうかもしれない。Twitterを辞めて他人の読書感想文を読むことがめっきり減った昨今、久しぶりに手を取り合って読書の歓びを誰かと共有出来たような気がして嬉しかった。

  • 図書館の本㉒

    SNSでおすすめされていたので、気になって取った本。

    著者が今までの読書で感じたことや、読んだものについての見解が細かく書かれている。自分が読んだことのないジャンルが多く、イメージしにくかったので共感もしづらく、理解しながらスラスラ読むことができなかった。

    でも知らないものが多い分、普段読まないジャンルの本について「ふーん」「こんな世界もあるのだな」程度で読む分には面白かったと思う。

    印象的なフレーズ
    ・「好きなひとの好きな本だということが、もうそれだけで私には面白い。」

    ・「つまり読書はひとを孤独にさせる道具だということ。そこに己の身を切るような、かっこよさがある。」

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著者プロフィール

1973年北海道生まれ。2013年「出アバラヤ記」で第2回摂津幸彦賞準賞、2017年句集『フラワーズ・カンフー』で第8回田中裕明賞を受賞。その他、著作に漢詩翻訳つきの随筆集『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者・須藤岳史との共著『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』などがある。

「2022年 『花と夜盗』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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