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本 ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784877588557
作品紹介・あらすじ
注目の俳人小津夜景は、選び取る言葉の瑞々しさやその博識さが魅力。本書では、これまでの人生と本の記憶を、芳醇な言葉の群で紡ぎ合わせる。過去と現在、本と日常、本の読み方と人との交際など、ざっくばらんに綴った40篇。
感想・レビュー・書評
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小津夜景さんの『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』『いつかたこぶねになる日: 漢詩の手帖』が好きだ。その本を読んでますます漢詩が好きになったと言ってもいいくらい。
その小津夜景さんの「日々のどうってことない瞬間を拾いながら、その場でひらめいた本を添えていく」という本との交際秘録。
けれども実は、この本を読もうと思ったきっかけは小津夜景さんの「ままならない読書」が気になったからではなく、表紙の装丁が美しく、その本自体のお洒落な佇まいが気に入ったから。
そのついでにもうひとつ正直に告白すると、小津さんが読んでこられた本をまったく読んだことがない。あ、唯一『智恵子抄』は読んだことがある。好きだとまではいかなくとも嫌いではない『智恵子抄』だったが、小津さんは『智恵子抄』を「大嫌い」だときっぱり書いておられる。……言葉が出ない。
好きな本の著者さんが読んでこられた本をまったく読んだことがないというだけでもちょっぴりショックななかで、唯一読んだことのある詩集をやっと見つけて、なんだかホッとしたのも束の間、それを「大嫌い」と言われたら、これはもう……どうすればいい?
それでも小津さんの読んでこられた本が気になって仕方ない。
好きな作家はと聞かれたときにたいてい答えるという夏目漱石(ああ、私は漱石もまともに読んでいない……)、『漢字の世界1』(白川静)、『灯台へ』(ヴァージニア・ウルフ)『其日の話』(大庭柯公)、『小遊星物語』(パウル・シェーアバルト)『平行植物』(レオ・レオーニ)『パンセⅠ』(ブレーズ・パスカル)『言葉と物』(ミシェル・フーコー)『新しい学 2』(ジャンバッティスタ・ヴィーコ)……
タイトルを見ただけでも、まったくもって難しそうだ。私にはお手上げになりそうな本も多いことだろう。
なのに、読んでみたいと思う。
小津さんはなぜ『智恵子抄』が大嫌いなのか。
“言葉の彫琢がゆきとどいた佳品であることは理解しているし、読めば感動だってする。それこそ、深くしみじみと。そして問題はまさにそこなのだ。いかんせん完璧すぎる。信用できない。紛うことなき最高傑作の「レモン哀歌」なんてタイトルからしてうさんくさい。(後略)”p71
ならば、なぜ小津さんは『智恵子抄』をくりかえし読んだのか。
“それは、もちろん武内(←元チェッカーズのギタリスト武内享のこと)の愛読書だったからだ。好きなひとの好きな本だということが、もうそれだけでわたしには面白い。たとえ個人的な感情とずれていたとしても。いや、むしろ違和感があったほうが燃える。わからないものを理解したいーー”p71
そうなのだ。だから私も小津さんの読まれてきた本を読みたいのだ。
好きな本を書かれた方が読んでこられた本だから。
そう、理由はそれだけなのだ。 -
美術館にいたような読後感。後半海に関連する章が続いたからか、クラゲの触手が著者に優しく触れているイメージが湧いてきて、そんな風に本や詩や歌が著者を形作っている様に感じました。照。
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歩きながら本を読む。
二宮金次郎じゃない。
頭の中で覚えている本を読むのだ。
暗誦だ。これは速読じゃなかなかできない気もする。私の中にはニュアンスは残っているけど、細かい言葉がなかなか残らない。
例えばこれ、暗誦。
「あんしょう」と読むのね。
速読の話もあるけど、言葉どころか読みも曖昧なまま、意味だけ抜き出したような読み方をしてると、いつまでも正確な読み方を知らなかったりする。
ただ、その速読でも、一言一句を噛み締めながら読んでも、どちらも読書。
著者はどちらもやってるみたい。
でもどうなんだろう、速読の中で気になったところに立ち返ってみたり、速読でも頭に焼きついて離れない言葉を暗誦することになるのかな。
いろんな読み方を知っている、様々な読書ができる。そして、読書について、本について、言葉を紡いでいける。
それが彼女にとって日常であっても、それを見て人は彼女を読書家というのだろう。
たとえ本人がどう思っていようとも。
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ことばと戯れながらすごしてきた日々を本の記憶とともに綴ったエッセイ集。
読み始めてすぐ「ああ自分もこういうふうに書けたらなぁ」と淡い憧れの気持ちが湧いたけれど、読み進んでいくうちに感性とか行動原理とかがあまりにもかけ離れていて絶対に無理だと笑ってしまった。端正で音楽的な文章だし、帯に載っている引用書籍から品のいい読書遍歴を勝手に想像していると、読後に強く印象に残っているのは中国武術漫画「拳児」の話だったりする。
とにかくご本人が面白い。学生時代に先生たちがこぞっておすすめの本を渡してきたエピソードなんかは、教師が"自分はこの子に影響を残した"と思いたくなるような生徒だったのかなぁと若干気持ち悪さも感じるのだけど、小学校時代にカウンセリングに通っていたというから先生たちなりに学校以外の生き方を提案していたのかもしれない。
中2のとき家に帰ったら川原泉「架空の森」を読んだ母親が号泣していた話もすごい。花ゆめを創刊号から読んでいるのが自慢のお母さんと一緒に泣きながら漫画を語り合うという光景が一つの理想像だなぁ。うちの親も漫画好きで一緒に色んな作品を読んできたけど、ここまで同じ刺さり方ができた体験はないと思う。
そしていちばん強烈なのは、「ナニ金が面白かったから」という理由で新卒で街金に入社し、心労で入院して上司から『姑獲鳥の夏』を差し入れられたという話。もうこれは忘れられない。上司の「詐欺ゆうのは一種のまやかし、虚妄の妖怪や」から始まる詐欺・被害者・街金の関係=憑き物落とし論が面白すぎるし、この上司はこの一篇にしか登場しないのにとても印象に残る。その後も小津さんは自費出版した句集を置いてくれる本屋を探すのに「本屋さん 素敵」で検索していたり、ちょくちょく笑えるエピソードが挟まれる。
絵本を読んだ記憶がない、から始まってフランスに住む現在まで時系列順にエピソードが並んではいるのだが、最初の宣言通りストーリーをなすようには語っていない。人生を物語にしないこと。「書きっぱなし」がいいとも書いているけれど、その哲学が息づいて美しいのに肩に力が入ってない、清い語り口が読んでいて心地よい。エピローグとして置かれた対話篇の小説風の文章もとてもよかった。おそらくこの人はフィクションとエッセイの中間地点的な私が一番好きなタイプのものを素晴らしく書ける人だろうと思うので、既刊を読みつついつかそんな文章が読める日を待とうと思う。 -
読書好きの俳人の方のエッセイ集と聞いて。読めば読む程に全く趣味が合わない。本のページをビリビリと破いても一向に構わないだとか、その場その場の気分や導きに合わせて本を読むだとか。自分は本を物体として好きなので絶対に書き込みは出来ないし、ましてや破るなんて考えたこともない。そして基本的にはテーマ読みが多い。一編一編で紹介される本をほぼ読んでいないことからも読書傾向が全く違うことが窺える。しかしながら、活字への偏愛は変わらないと感じた。壁に貼られたあいうえお表を見て勝手に文字を覚えたりだとか、図書館で借りた本に昂ったりだとか、本を読み終えるのが勿体無くて数ページ残したままにしてしまうだとか。ああ分かる分かる、としみじみ共感してしまった。活版印刷から平板印刷になって目が滑るようになってしまった、というエピソードには目から鱗が落ちた。言われてみればそうかもしれない。Twitterを辞めて他人の読書感想文を読むことがめっきり減った昨今、久しぶりに手を取り合って読書の歓びを誰かと共有出来たような気がして嬉しかった。
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図書館の本㉒
SNSでおすすめされていたので、気になって取った本。
著者が今までの読書で感じたことや、読んだものについての見解が細かく書かれている。自分が読んだことのないジャンルが多く、イメージしにくかったので共感もしづらく、理解しながらスラスラ読むことができなかった。
でも知らないものが多い分、普段読まないジャンルの本について「ふーん」「こんな世界もあるのだな」程度で読む分には面白かったと思う。
印象的なフレーズ
・「好きなひとの好きな本だということが、もうそれだけで私には面白い。」
・「つまり読書はひとを孤独にさせる道具だということ。そこに己の身を切るような、かっこよさがある。」 -
本をめぐるエッセイ。切り口が面白くて、好悪の情を排した、印象的な?本が綴られている。この本を読むと、自分なりに本との関係性を構築したいと思える。
著者プロフィール
小津夜景の作品






良いレビューだなぁってしみじみ読ませていただきました。
私自身の読書スタイルを思い返したりして。
私も...
良いレビューだなぁってしみじみ読ませていただきました。
私自身の読書スタイルを思い返したりして。
私も読書中、小さな音量で音楽を流しています。
その時の心持ちによって丁度良い音量が違うので、あれこれ音量調節してから読書スタートです。
それに、ぐーっと集中して数十ページ読む時もあれば、一段落で本を閉じてしまったりも。
それでも、作品の文章に触れること自体が大切なのだからこれでいいんだと思わせて貰えるようなレビューでした。
今年も、どうぞ宜しくお願いします♪
しみじみ読んでいただけたとのコメント、とても嬉しいです♪この本自体の魅力に負うところが大きいと思います(*...
しみじみ読んでいただけたとのコメント、とても嬉しいです♪この本自体の魅力に負うところが大きいと思います(*´꒳`*)
わたしも昨日、試しに小さな音量で読んでみたんですが、予想以上に没頭できて、社会復帰の前日に大きな満足感が得られました。
かといって、小音量一辺倒ではなく、その時の気分次第で音量を調節されるというのも、すごく分かります。
わたしは基本、遅読派なので、ブクトモの皆さんのハイペースっぷりにいつも圧倒されていますが笑、作者の体験談を通じて自分なりの読書スタイルやペースでいいのだと、自己肯定感をもらえたような気がします。
今年もよろしくお願いします!