クトゥルー 9 (暗黒神話大系シリーズ)

制作 : 大滝啓裕 
  • 青心社
3.27
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本棚登録 : 92
感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784878920493

作品紹介・あらすじ

ヴァーモント州の片田舎に住むヘンリイ・エイクリイからの手紙。それは宇宙の深淵からの来訪者の恐怖を告げるものだった-。ラヴクラフトが外宇宙からの恐怖を描く「闇に囁くもの」。二人の若きオカルティストが企てた心霊実験の招いた怖るべき結果は-。ヘンリー・カットナーの「ヒュドラ」。古代エジプトの邪神、異次元からの侵入者、クトゥルー、アザトースなど究極の魔道書に記された恐怖を描いたクトゥルー神話7編を収録。

感想・レビュー・書評

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  •  フランク・ベルナップ・ロングの代表的なクトゥルフ神話作品といえば『ティンダロスの猟犬』が挙がることが多いですが、『喰らうものども』も忘れてはならないでしょう。なぜなら、「1.初めてラヴクラフト以外の作家が創作したクトゥルフ神話小説(冒頭にネクロノミコンからの引用がある)」「2.オリジナルのクリーチャーを登場させた」「3.ブロックに先んじてラヴクラフトをモチーフとした人物を作中で登場させ、更にクリーチャーに殺させた」、とクトゥルフ神話の拡張の始まりという点で象徴的な作品だからです。
     9集はその『喰らうものども』を始め、ユゴスより来るものが登場する『闇に囁くもの』など7編を収録。
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    『謎の浅浮彫り』(ダーレス/1948)
     休暇で訪れた先の骨董屋でわたしは、不気味な怪物が彫られた浅浮彫り(レリーフの一種)の作品を購入し、こういう類を好む友人で批評家のウェクターにプレゼントする。その後、ウェクターの作品批評のスタイルが豹変したことに困惑したわたしが彼を訪ねると、ウェクターはあの浅浮彫りを手にして――。
    (ラヴクラフトの『クトゥルーの呼び声』へのオマージュを感じさせる作品。やや薄味な感もあるが、神話作品としては正統派であり、読み応えも悪くはない。)

    『城の部屋』(キャンベル/1964)
     友人の依頼で史料集めをしていたわたしは、その途中で友人が住む地にまつわる森に棲む魔物の話を目にする。好奇心からわたしは、その魔物を喚び出した魔術師が住んでいたという城の廃墟を訪れてみることに――。
    (ブロックが自作で名前だけ登場させた神格バイアティスを、外見的特徴や設定を肉付けして登場させている。退治する方法が現代的で時代を感じさせる。)

    『喰らうものども』(ロング/1928)
     友人で作家のハワードとわたしが宇宙的恐怖についての談義に花を咲かせていると、恐怖に苛まれた感を見せる隣人がやってくる。触手のようなものに襲われたと言って彼が髪を払いあげると、その側頭部には小さな丸い穴が――。
    (ラヴクラフト以外の手による初のクトゥルフ神話小説という記念碑的作品。所々にキリスト教的価値観を感じさせる描写はあるが、全体的にはラヴクラフトが提唱したコズミック・ホラーの表現に満ちており、良作に仕上がっている。)

    『魔女の谷』(ダーレス&ラヴクラフト/1962)
     教師のわたしは、アーカムにある小学校に赴任する。そこで受け持ったクラスの生徒の一人、アンドルーには不気味なところがあり、クラスメイトからも敬遠されていた。家族に家庭訪問し、アンドルーの将来について意見すると、彼らは異常なほどの敵意を見せて、わたしは追い返されてしまう。アンドルーのために調査を始めたわたしは、そこで男に声をかけられて――。
    (主役は教師だが、いわゆる学園モノに相当するティーンズホラーとも言える内容。怪物はヒアデス星団から召喚されたと伺わせるが、ハスターとの関係は定かではない。あくまで偶然だが、ハリー・ポッターを読んだ人ならニヤリとしてしまうかもしれない箇所がある。)

    『セベクの秘密』(ブロック/1937)
     謝肉祭最後の日、わたしは夕食後の帰り道でエジプトの神官の装いをした男に出くわす。オカルティストである彼に誘われて訪れた彼の屋敷で、彼と同じくエジプトの神官の装いをした人物を目にする。彼と違っていた点は、その人物は、クロコダイルの頭をしていたのだった――。
    (ブロックらしいエジプト色の強い作品。ゲストとしてド・マリニーを登場させている。)

    『ヒュドラ』(カットナー/1939)
     交流のあった三人のオカルティストの内、一人が失踪し、二人が変死した事件。関係者の日記や書類から明らかになった、この不可思議な事件の様相とは――。
    (クトゥルフ神話らしく、肝要なところはぼかされたり濁されたりしているが、それでも読者に与える怖気と読ませる勢いは弱まらないカットナーの筆力が素晴らしい。ちなみに今作品で登場するヒュドラは、ラヴクラフトの『インスマスを覆う影』で言及されている母なるヒュドラとは別存在らしい。TRPGでは明確に区別されている。)

    『闇に囁くもの』(ラヴクラフト/1930)
     洪水が発生した地で見つかった奇妙な生物の死骸。それについての寄稿文を書いたわたしに手紙が届く。写真やレコードなどの資料と共に手紙をやり取りしていたが、手紙の主はやがて身の危険を訴えるようになり――。
    (後年の作品なので、名前だけだがこれまでに登場した神格や生物が多数登場する。手紙のやり取りだけで読む者に恐怖をじわじわと感じさせる手法はさすが。そして最後の一文にはゾクリとさせられた。手紙の主ははたしてどうなったのか。)

  • もうこのシリーズにはまってだいぶ経つけど面白いんだよねー面白いっていうよりも、好きなんだよね、こういうの。特に怖いわけでもないし、毎回同じパターンなんだけど、それがなんとなく気持ちいいんだろうな。
    この巻ではラブクラフトのほかにダーレス、ブロックなどおなじみのメンバーの作品が収録されている。やっぱりラブクラフトの「闇に囁くもの」が一番すきなんだけど、巻末のクトゥルー神話画廊が面白かった。当時はこういう幻想怪奇、あるいは単にホラー物の雑誌が結構人気だったようなんだけど、ウィアードテイルズ誌のとある挿絵画家の話が面白かった。「暗殺王」だって、画家の通称がね。ろくに中身を読まずにぱらぱら原稿をめくって目に留まった文章を絵にするものだから、ばっちり落ちを書いちゃってるんだよね。落ちが絵になってたらそりゃ泣くよな。その辺もジョークっぽくてかわいい感じがする。

  • H・P・ラブクラフトが妄想した暗黒神話体系シリーズ。旧神と旧支配者の対立、海底の神殿から、宇宙の深遠から、地球を奪還しにやってくる旧支配者、禍々しい伝説を記した人の皮で装丁された本・・・等、様々な要素で独特の暗い世界を造りだしています。その世界で遊んでみたくなった作家が多数参加して、この神話体系はできているわけで、妄想の膨らむなかなか魅力的な世界です。話が全て面白いかというと、ばかばかしいものが多いので、気が向いたときに読んでいたのでした。ある時、2冊立て続けで読んでいたら夢の中に出てきてしまいました。嵐の夜に蝙蝠の翼をもつ「名状し難いもの」に窓から引きずりだされてさらわれてしまう、という夢で、汗びっしょりになって起きるという恐ろしい体験をし、それ以来、これは脳味噌の奥の方に訴えかける何かがあるぞと思いつつ、少しおびえながら楽しんでます。収録作品と評価「謎の浅浮き彫り」★★★★著:オーガスト・ダーレス古道具屋で見つけた不思議な木彫りの飾りを友人にプレゼントしたところ・・・さすが、後継者ダーレス。C・A・スミスの名前も出てきて楽しい。「城の部屋」★★★著:J・ラムジー・キャンベルよせばいいのに魔術師の使い魔が閉じ込められているという伝説の城を探しにいった男が・・・「喰らうものども」★★★著:フランク・ベルナップ・ロング作中でポオやブラックウッド、ブラム・ストーカー等も生ぬるいと批判を展開する強気の姿勢。脳味噌吸われてしまうぞ。「魔女の谷」★★著:ラブクラフト&ダーレス魔法使い一族ポター家(って、あのポッターとは関係ないと思うが妙な符号が楽しい)の末裔が、空から何かを召還した。「セベクの秘密」★★著:ロバート・ブロックエジプトの神官のミイラにまつわる話。「ヒュドラ」★★著:ヘンリー・カットナー実験によってできた結晶が外世界と通じる道を開いてしまう。「闇に囁くもの」★★★著:H・P・ラブクラフト本家本元だからといっておもしろいかというとそうでもなかったりする。話がまだるっこしいし、くどい表現。でも印象深い。こういうのが夢にでてくのだな、きっと。冥王星が発見された当時の作品かと思われる。暗黒の冥王星の都市からもやってくるぞ〜。何年ぶりかで、このシリーズ読みました。また夢にでてくるか、続けて10巻目いってみよう。

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