- Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
- / ISBN・EAN: 9784878923081
作品紹介・あらすじ
稀覯書に記された戦慄の呪文を弄んだ男の末路を描く「エリック・ホウムの死」。古びた古書店に仕掛けられた深淵からの罠「本を守護する者」。百五十年ぶりに発掘されたサン・ザヴィエル伝道本部の失われた瞳にまつわる怪事件を描いた「恐怖の瞳」。海辺の寒村ケイルズマスを訪れた医師の運命の物語「緑の深淵の落とし子」など、九篇を収録。さらに「ラヴクラフト書簡より」「クトゥルー画廊」など資料も多数掲載した暗黒神話大系シリーズ最終巻。
感想・レビュー・書評
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このシリーズ最終巻。様々な作家がラブクラフトが生み出した神話体系で楽しみながら作品を作っているのが面白い。ポーやアーサー・マッケンまで関係しているとは知らなかった。どの作品で触れているかまで記載されていればなお資料編としてはベストだろうと思う。意外にC・A・スミスが様々な派生を生み出しているとろが興味深い。スミスのクトゥルー関連のみ集めた作品集はあるのだろうか?スミス祭りするかな。
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これまで、多くの人々がクトゥルフ神話に新たな解釈や設定の追加をしてきました。
それらを全て正とすべきか、生じた矛盾や綻びをどう補正すればよいのか、悩んだ人もいると思います。
私は、自由に取捨選択し、自由に判断し、自由に設定を盛っていいと思っています。
なぜなら、そうした行為や判断も含めて「遊び」の一環だからです。
別の言い方をすれば、それらは全て人間側、特に宇宙的恐怖に関わって正気が削れてしまった人の主観であり、結局、解釈は受け手次第なのです。
シリーズはこれにて最終巻。ダーレスやブロックなどの作品9編を収録。
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『彼方からあらわれたもの』(ダーレス/1951)
巡査がわたしの診療所に連れてきたのは、酷いショック状態に陥っているジェフリイだった。彼の足跡を調べるうちに、どうやら彼が「彼方からあらわれたもの」の封印を解いてしまったことがわかる。新たな犠牲者も出たことから、わたしは彼の友人らと共に、それを再び封印するために廃修道院へ赴くことに――。
(展開は面白い。だがクライマックスの場面は終始仄めかしに徹しており、竜頭蛇尾の印象は拭えない。)
『エリック・ホウムの死』(ダーレス/1939)
エリック・ホウム変死事件の検死審問(検死官と陪審員が集まり関係者の証言を聞いて死因の評決を下す制度)が開かれる。最後に彼と電話をしていた友人が証言した「実験」のあらましとは――。
(魔道に憧れるものが戯れに軽々しく呪文を唱えたことで不幸な結末を迎える自業自得もの。陪審員への証言という体で語られる展開が日本には馴染み薄いので興味深かった。)
『遙かな地底で』(ジョンスン/1939)
ニューヨークの地下で毎夜、人知れず行われる戦い。それは、地下鉄事故を起こしてその死体を貪らんとする異形たちと、それを阻止する特別班たちの攻防戦だった。そしてその長年に渡る戦いは、特別班たちの心身を確実に蝕んでいた――。
(ラヴクラフトの『ピックマンのモデル』のモチーフを現代に置き換えて創作された短編。短いながらも、食屍鬼に関わったものの顛末の描写は悍ましくも素晴らしい。)
『本を守護する者』(ハーセ/1937)
人知を超えるような稀覯書を求めて古書店を渉猟していたわたしは、ある古書店で出会った異様な男から、あの『ネクロノミコン』をも超越する凶々しい内容という本を、半ば無理矢理に受け取らされる。疑いながらも自室でその本を開くと、書かれている字が動き出して――。
(本好き、古書好き、オカルト好きにとっては身につまされる内容。身の破滅を招くとわかっている本を読むという好奇心に抗えるかどうか。)
『哄笑する食屍鬼』(ブロック/1936)
精神科医のわたしの元を訪れたチョーピン教授。彼は自身を悩ましている奇妙な夢について、そして夢の内容がありのままの事実であることをわたしに訴える。わたしは教授の説得に応じ、彼が夢で見た場所に二人で赴くことに――。
(現実に転換された悪夢が襲ってくる恐怖。精神科医というキャラクターはクトゥルフ神話によく合う。)
『ブバスティスの子ら』(ブロック/1936)
わたしは学友であるマルカムに会いに、彼が住むコーンウォールの屋敷を訪れる。オカルティストである彼は地元に伝わる神話を検証し、この近くで古代エジプト人が入植したと思われる痕跡が残った洞窟を発見していた。翌日、彼とともにその洞窟に入ると、中には古代エジプトの意匠を思わせる石棺が並んでいて――。
(クトゥルフ神話とエジプト神話をミックスし、それに独創的な恐怖をアレンジしたブロックならではの作品。)
『恐怖の鐘』(カットナー/1939)
カリフォルニアの山脈にある洞窟内で、かつて聖ザビエル伝道本部にあり、原住民の呪いがかけられた伝承のある失われた鐘が発見される。歴史協会会長のトッドから応援を頼まれたわたしはその山を登っていると、自らの目を潰す蟾蜍の姿を目撃する。さらに二人の作業員が異常な死を遂げるが、鐘は予定通りに衆目にお披露目されることになる。そして当日、にわかに地震が起き、その揺れで鐘が鳴り出して――。
(鐘を鳴らすことで召喚される魔物とそれを食い止めようとする者たちの攻防が勢いよく描かれた短編。カットナーの作品はいずれも、脳内でその展開が容易に想像できるような、映像的な面白さがある。)
『緑の深淵の落とし子』(トムスン/1946)
都会の激務に疲れた脳外科医のわたしは、海辺の村にある別荘を借りる。ある嵐の晩、別荘を訪れたカッサンドラの求めに応じ、わたしは彼女の父を診察するが、それをきっかけにわたしは彼女と交際し結婚する。しかし、日を追うごとに彼女に変化が生じ、わたしは不安を募らせていく――。
(文体から磯臭さとゴシックホラーの雰囲気が漂う異種交流譚。ダーレスがラヴクラフトの模倣だと抗議したとされる作品だが、どちらかと言うとラヴクラフトの創作の師であるポーやマッケン寄りの印象がある。)
『深きものども』(ウェイド/1969)
カリフォルニアにある動物学研究所で働くことになったわたし。上司にあたるウィルヘルム教授は、人とイルカのテレパシーによるコミュニケーション実験を試みていた。実験が進むにつれて、被験者であるジョウに副作用と思われる反応が生じるが、ジョウも教授もそれを好意的に捉えて実験は続けられる。そこまで日誌に綴ったところで、ジョウの叫び声が聞こえてきて――。
(1960年代の米国の世相を大いに盛り込んだ異色のインスマスもの。イルカとの愛の営みを告白した動物研究者の話も1960年代のことなので、作者はどこかでその話を聞いたのかもしれない。イルカの保護を訴える団体との連携など、深きものの考察やTRPGシナリオを含む創作の幅を広げるにはおすすめの作品。) -
12巻読んだのは、5年ほど前ですねぇ。
クトゥルーものって、連続で読むと、「全部同じジャーー!!」って、いらつくこともありますよねぇ。
だから、わたしは、少し毛色の違う「永劫の探究」とか、「アーカムそして星の世界へ」とかが好きなんだと思います。
でも、オーソドックスなクトゥルーものでも、これぐらいの1年と数年に1回ぐらいの頻度だといいな。
なんか、懐かしい故郷に戻ってきた感じがする。
いやな、故郷だなおい(笑)
帰りたくないから、遠くで思っていよう。 -
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