日本の未来は島根がつくる

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  • 山陰中央新報社
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感想 : 1
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  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784879032638

感想・レビュー・書評

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  • 本書に関して聞き及び、入手してみた。極々個人的な、勝手な事情ながら、紐解こうとしている本が幾つも積まれていた中で、少しの間は「積ん読」に陥ってしまっていた。が、紐解き始めると、そういうことをしてしまっていたことを些か悔いた。愉しい内容で、色々と示唆に富み、なかなかに読み易い。
    自身に縁が薄い地域の新聞に関しては知識が殆ど無い。『山陰中央新報』という島根県を本拠地とする新聞が在るそうだ。変遷を経て現在の紙名になっているようだが、明治時代からの伝統を受け継ぐという。鳥取県の西側でも購読が見受けられるというが少数に留まり、「島根県の新聞」というような感になっている様子だ。広島市内でも購入できる売店が在るらしい。
    本書はこの『山陰中央新報』の連載を下敷きにしている。新聞紙面の上の方に「囲み」になっているような連載が在って、面白いと思った場合に、次々と何日分かの新聞を手にして該当の連載をドンドン読み進めるというようなことをしないでもない。本書は、そういうことをするのに近い感覚で、紐解き始めると頁を繰る手が少し停め難くなる。(現実には、本書の基礎となった連載は「連日掲載」ではなかったようなので、次々と新聞を手に読むということにもなり難いとは思うが。)他方、本書は小さな量の纏まりを折り重ねている造りなので、少しずつ読み進めることもし易いと思う。何処から如何やっても読み易いという感じになっている訳だ。
    下敷きになった『山陰中央新報』の連載は、2015年から2020年に紙面掲載されたもので、全部で69本在るという。その69本を、キーワードで括って5つの章に纏め、それぞれ示している。これに島根県の経過を巡る話題を整理した内容や、本書に掲載の内容を巡って、本書を読んだ20歳代(大学生や新卒で仕事を始めたという方達)の若者3名の対談等が収録されている。
    基本的に掲載時の記事のままに掲載していることから、取上げた場所での活動が既に終えている、その移転しているという例が見受けられ、その旨は文末に注が添えられている。が、それは些事である。「ないならつくる」、「らしさを生かす」、「つながりは力」、「地元で育てる」、「みんなが安心」という章の名称になっているキーワードを語る事例として、何れもそのまま取上げるべきという内容である。
    本書のことを聞き及び、題名を見た時に「日本の未来」という表現に、微妙な大きさの疑問符を含む、酷く突き抜けてしまったような何かを感じた。
    思うに「未来」というような事柄に、然程想いが巡らなくなっているような気がしないでもないのだ。人口が減少する傾向の中で、社会を支える様々な仕組みの危機が指摘されるような状態が続き、「何を如何やっているのか?」と訳の判らない感じが溢れ、ドタバタしている間に自身でも自由に動き廻って何か出来るのでもない「いい加減な辺り」に至ってしまうのは存外に近いという程度のことを考えてしまうのだ。
    本書で取上げている島根県については、未だ一度だけに留まってしまってはいるが、訪ねて実見した経過も在る。
    横浜駅で乗込んだ夜行列車で出雲市駅に到り、出雲大社を観てから一畑電車で松江に移動して松江城を観て、宿で一夜を明かした後、特急列車で西へ進み益田駅で下車した。以降は隣県の東萩駅へ普通列車で移動したという経過だった。
    一定以上の人口密度が在りそうな街の間隔が広く、農村部や漁村部、山林と山並み、日本海というような風景ややや少ない行違う鉄道車輛の様子等を車窓に眺めたことが思い出される。他方に永く積み上げられた人々の営みを伝える文化財を色々と擁しているという感じでもあった。そして何となく「北海道に似ていないか?」と思った。そんな話しを島根県御出身であるという方にしたところ、先方も北海道を訪ねてみた時に「少し島根県を思い出す…」と感じたそうだ。
    取るに足らない極個人的な経験から、島根県と自身が長く住んでいる北海道とは似ていると強く思った。が、本書を読むと「大きな違い?」に思い至る。
    5つのキーワードに在るようなことで、島根県では「可能な範囲」に知恵を絞る、「出来るように」と試してみるという例がなかなかに多い。そういう中で、他地域でも少し似たようなことを試行する例が見受けられるようにまでなっている。これに対して、北海道は「如何か?」という程度のことが頭の中を何度も過るという様子で本書を読み進めた。
    「自治体が“消滅”?」と、人口減少に関して喧伝されるようになったのは2010年代からというように思う。人口減少の傾向や可能性はもっと以前から指摘されていたとは思うが、「自治体が“消滅”?」は2010年代に出て拡がった話しだと思う。他方、島根県では様々な条件の故に人口流出が顕在化し始めたのが1960年代頃のようで、既に半世紀以上も「そういう条件で如何しようか?」とやっているのである。或る意味では「他地域より遥かに先行」とも言えるのであろう。
    何が如何であろうと、様々な課題に向き合う地域としては「可能な範囲」に知恵を絞る、「出来るように」と試してみるという他に出来ることは無いのだと観る。「不可能」を訴え、「出来ない」と支援を求めても、支援の術も見出し悪いという例が溢れるばかりなのかもしれない。
    本書は、「島根県の新聞に連載された島根県内の話題の記事を収録した本」ではあるのだが、寧ろ「全国各地の人達が、こんな例も在ると知るための本」ということになっていると思う。それ故に、こうして刊行されたのであるとも思うのだが。
    本書の刊行に携わった皆様に感謝申し上げたいとも思う。そして本書を広く御薦めしたい。

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著者プロフィール

島根県浜田市生まれ。大阪大学文学部卒。1999年、山陰中央新報社に入社し、琉球新報社との合同企画「環(めぐ)りの海−竹島と尖閣」で2013年新聞協会賞を受賞。2014年秋、同社を退職し、フリーのローカルジャーナリストとして、変わらず島根に暮らしながら、地域のニュースを記録している。
主な著書に『関係人口をつくる―定住でも交流でもないローカルイノベーション』(2017年、木楽舎)、『未来を変えた島の学校―隠岐島前発ふるさと再興への挑戦』(共著、2015年、岩波書店)など。2018年度総務省ふるさとづくり大賞奨励賞受賞。2020年、大阪大学大学院人間科学研究科後期課程修了。博士(人間科学)。2021年4月、島根県立大学地域政策学部准教授に着任。また、過疎の発祥地から「過疎は終わった!」と問い、百年続けることを掲げる年刊誌『みんなでつくる中国山地』プロジェクトも仲間と始めた。

「2021年 『関係人口の社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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