ペインティッド・バード (東欧の想像力)

制作 : Jerzy Kosinski  西 成彦 
  • 松籟社
3.90
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本棚登録 : 79
レビュー : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784879842602

作品紹介・あらすじ

第二次大戦下、親元から疎開させられた6歳の男の子が、東欧の僻地をさまよう。ユダヤ人あるいはジプシーと見なされた少年が、その身で受け、またその目で見た、苛酷な暴力、非情な虐待、グロテスクな性的倒錯の数々……危うさに満ちた、ホロコースト小説。
旧邦題『異端の鳥』(角川書店)の新訳版。

感想・レビュー・書評

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  • 東欧の作家の作品を選りすぐった「東欧の想像力」シリーズ、なかでも衝撃的な作品といえば本作でしょう。あのアゴタ・クリストフ『悪童日記』さながら、疎開のために親から引き離された6歳の黒髪の少年が戦時を生き抜くサバイバル小説です。『悪童日記』が淡々と投影される影絵のような物語であるとするならば、本作は先鋭的でどぎついほど鮮やかな作品、いや~圧巻です。

    ナチズムの台頭によって、ユダヤ系の人々、ジプシー(ロマ)や障がい者はいわれのない差別と迫害を受けていますが、そこでは大人のみならず子どもたちも悪魔の子として忌み嫌われました。少年は村々を放浪し、飢餓状態、奴隷のような労働、日常化した暴力、狂気の渦と不条理な歴史に呑み込まれていきます。

    本作では田舎の子どもたちの遊びが紹介されています。
    野鳥をつかまえた子どもたちは、その鳥にせっせとペンキで彩色します。色をつけられた鳥を群れに返すと、仲間の鳥たちはその姿をひどく怪しみ、しまいには突つき攻撃して殺してしまうのだとか。
    そのエピソードを敷衍したのが本作のタイトルで、これだけみても、作者コジンスキー(1933~1991ポーランド出身ユダヤ系アメリカ・全米図書賞作家)がこの作品に全身全霊を傾けているのが伝わるよう。

    1965年にアメリカや西欧諸国で刊行されたものの、あまりの衝撃的な内容にポーランドでは発禁処分となり、東欧のいくつかのマスコミは反対キャンペーンをはったようです。作者コジンスキーへの批判や迫害、母国ポーランドへの裏切り呼ばわり、はたまた亡命先のアメリカではゴーストライター疑惑までもちあがって、なんとも数奇な作家です。

    ある種の真実をほの暗い影絵のように浮かび上がらせるのではなく、抗いようのないものとして鮮やかに照らしだすことは、往々にして人々にパニックを与えてしまうのかもしれません。また先の戦争が終わって20年、人々は戦争や差別やホロコーストの反省を誓ってはみても、かたやベトナム戦争の激化、キューバ危機、黒人公民権運動家の暗殺……はびこる虚飾や偽善をやすやすと剥してしまったコジンスキーに居心地の悪さを覚え、結局は彼を一羽のペインティド・バードにしてしまったのだろうか……。

    批判の渦中におかれたコジンスキーは、「ノンフィクションを書いたわけではないし、大戦中に東欧でみられた残忍さや残酷さを誇張してはいない……」と述べていたようです。ナチズムにかぎらず、古今東西の戦争や差別、集団的暴力の残忍さを少しでもながめ知れば、こんなに哀しい弁解を作者にさせてしまう「ヒステリックな何ものか」には呆然とします。クオリティの高い創作や力のある物語は、つねにある種の真実と並走しながらどこかの時点で重なり、溶け合い、化学反応を起こしてとてつもない感銘力を生むものと私は思います。それが事実なのかそうでないのか、フィクションなのかノンフィクション(自伝)なのかを云々すること自体、ひどく無意味で空虚に感じます。

    本作はまさに物語の力をみせつけた面白い作品。さらに人間の心の闇に巣食う、違うことへの恐怖や憎悪や差別意識――ちょっと見渡してみても、平然と人種差別発言をする米国大統領、LGBTへの差別的発言をする国会議員にはじまり、障がい、宗教、民族などを理由にした差別や迫害、わけのわからないヘイトスピーチなどが世界中に溢れていて――それが発露したときの集団的残忍性、多様性を排除した狂信性、その行き着く先は……そんな時も場所もこえた、普遍的な真実に迫った作品だとも思います。興味のある方はぜひ眺めてみてください♪

  • ホロコーストにとどまらない問題小説。

  • [ 内容 ]
    第二次大戦下、親元から疎開させられた6歳の男の子が、東欧の僻地をさまよう。
    ユダヤ人あるいはジプシーと見なされた少年が、その身で受け、またその目で見た、苛酷な暴力、非情な虐待、グロテスクな性的倒錯の数々―。

    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 飛ばし飛ばし読み

  • ペインティッド・バードとして全集あるけど、古い方で読んだ。

    読売で都甲幸治氏が
    「他人を一度でも差別したことのある人間がホロコーストを批判できるかという重い問いを突きつけてくる」
    と紹介していることから。
    これは私には読み取れなかった……
    生きるのが精一杯の環境で、それが閉鎖された世界であれば、人は自分が生きるために、他に原因を求めるものだ、というまでの解釈の再確認。共同体維持のための迎合と排除、まで、かな。

    第二次大戦時に親元から離れて疎開した子供が、疎開先の村では、黒髪に黒い目だったため、ジプシー(今はロマというが、発行当時の作中表記に従う)やユダヤ人同然に忌み嫌われる。
    七歳~十歳くらいの間の話だが、まだ知識がない上、村の迷信で、「悪魔の目に見られると寿命が減る」やら「災いをもたらす」などと、さんざんにいじめられる。少年が、自分の目は呪いをもたらすと本当に信じてしまうあたりに、子供を少年兵に育てあげることの容易さを連想。
    あちらこちらの村を放浪し、労働と引換に粗末な食料を得て、行く先々で暴力を受け殺されかけ、目立たないよう務めているのに、問題が起こる。それは少年の異質さが生む問題であり、少年のせいではなく発生した問題を、少年に押しつけて解決を図る構図でもある。

    表題の「painted bird」は作中で紹介されるエピソードより。
    つかまえた鳥をペンキで色とりどりに塗りあげ、群れに返す。解放された鳥は仲間に喜んで近寄るが、仲間はその姿を怪しむ。自分が群れの仲間であることを必死にわからせようと努力するが、群れはその鳥を突っつき、攻撃し、ついには殺してしまう。異質なものは排除されるしかない。

    この話は、差別と暴力と死と性的暴力だらけだで、読むのにつらい部分も多いが、抗いようがなくて、打ちのめされる。

    P112
    「ぼくは自分が作りたいと思う発明を頭に描きながら、居眠りをした。~目と髪の色を変える人体用の信管。~悪魔の目から人を守ることのできる信管。そうなれば、だれもぼくを恐れなくなり、ぼくの人生はもっと楽になり、快いものとなるだろう。」

    P117
    「これらの列車は、つかまえられ、死を宣告されたユダヤ人やジプシーを運んでいた。どの貨車にも二百人あまりの人間がトウモロコシの茎のように、少しでも空間をとるために両腕をあげて、押しこまれていた。」

    P119
    「ぼくの父親は、どうしてかぼくはよく覚えていたが、明るい色の髪の毛に青い目をしていたのに、母は黒い髪に黒い目をしていたのだろうか? ジプシーもユダヤ人も色が黒く、同じ最後が運命づけられているのに、この両者のあいだにどんなちがいがあるのだろうか? おそらく戦争が終わった後には、明るい色の髪の毛に青い目をした人間だけがこの世に残るだろう。そうなれば両親はブロンドでいながら黒い色に生まれあわせた子供たちはいったいどうなるのだろう?」
    (このあたり、アーシアンを先に読んでいるので、どうしてもそれが連想されてしまう……)


    P122
    「大きなカマドを作り、それからユダヤ人やジプシーをつかまえてそのなかで焼くよりも、目や髪の色を変えるほうがやさしくはないのだろうか?」
    それでも血は変わらない、と、少年に言いたくなる。
    ナチスが重んじたのは外見であり、同時にユダヤ人の血が流れていないこと、それらと関係がないこと。
    外見を変えても、それだけじゃ足りない。しかし、どれほどすばらしいアーリア人の血統だろうと、それはそこの支配者が立てた理論のなかの仕組みであって、その共同体から外れた少年がのちに発見するように、ロシアでは通じないものだ。
    ヒトラーは現に金髪碧眼ではないのだから、異端というのは力があれば支配者となり、力がなければ虐待されるものとなるのだろうなあ……


    ラスト、少年は途中から失っていた声を取り戻すのだけれど、それが、彼が、自分の世界を壊して新しい価値観を得たことになるのか。それとも、抑圧されたものが声をあげるということなのか、もっと別のことなのか、理解しきれなかった。

  • 「異端の鳥」(角川文庫)を読んだ時の衝撃は忘れられないです。
    新訳で、もう一度読んでみたいと思っています。

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著者プロフィール

1933年、ポーランドの工業都市ウッチに生まれる。ロシア系亡命ユダヤ人の両親をもち、ヨセフ・ニコデム・レヴィンコップと名づけられたが、第二次大戦勃発後イェジー・コシンスキを名乗り、またカトリックの洗礼を受けることで、ナチスの迫害を逃れる。ウッチ大学卒業後、ワルシャワのポーランド科学アカデミーの研究員となるも、1957年、アメリカに亡命した。コロンビア大学で学びつつ、ジョゼフ・ノヴァク名義で2冊のノンフィクションを発表。1965年、『ペインティッド・バード』を刊行し、センセーションを巻き起こす。同書は発表当初からバッシングにさらされ、近年ではゴーストライター疑惑や盗作疑惑がもちあがり、また主人公の少年がたどった経験と作家の伝記的事実との相違など、大いに物議をかもしつつ、現在に至るまでロングセラーとなっている。小説作品としてほかに『異郷』(原題Steps、1968、全米図書賞受賞)、『庭師 ただそこにいるだけの人』(原題Being There、1971)など。合衆国PENクラブ会長を務めるなどの名声の陰で、シャロン・テート事件とのかかわりやCIAとの接触疑惑など、毀誉褒貶の振幅が大きかった。1991年、自宅の浴室内で自殺。

「2011年 『ペインティッド・バード』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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