ジュスタ (東欧の想像力 18)

  • 松籟社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784879843937

作品紹介・あらすじ

単一政党体制下の1950年代ルーマニア。作家・批評家養成機関「文学学校」に入学した語り手「ぼく」は、ひとりの女子学生と出会う。「正義の女」=ジュスタとあだ名された彼女を待ち受ける苦難とは――ルーマニアの反体制派の代表と目される作家パウル・ゴマが、学生時代を回想して綴る自伝的小説。

感想・レビュー・書評

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  •  橋の上からはあちこちの駅や街路がよく見える。パリのアルマ橋からは、それこそ一番よく、ブカレストの一つの交差点が目に映る。ある建築家とある作家が、ミンクとデラヴランチャが交差するところだ。
     そこから、別の方向に、本物の・橋からの・眺め。完璧な夢・からの・眺め、昨夜の夢は続き物の夢の第四夜、亡命九年のあとの夢だ。夢、四冊の本の忠実な再現、オリジナルの秋はおよそ何年前のことだろう、十一年か、十三年か? 夢みていると分かっており、しかもその夢の中で起こること、見えること、聞こえることは、その昔、言うなれば十五年と一日前に起こらなかった出来事の忠実なコピーだと分かっている。それが分かるのは、日付ではなく中点のマークのため。天秤の腕の形をした時間の桁、横木、棹の上で正確な居場所はどこか。
    (p7-8)
    冒頭近く、こんな感じ。最初の段落の交差点付近に、この小説の重要な場所の一つ、文学学校がある。
    (2021 04/25)

     「連中の工場では… かりに一方から入れる原料がわかっていても、向こうから、製品として、何が出てくるかは決して分からない-私はシベリアで彼らのロシアの工場のことでそう聞いたことがある。ここでもソビエト・モデルの工場の機能はそうなるよ…」
    (p21)
    ゴマの自伝的要素もあるこの作品。この言葉は文学部と文学学校との「ダブル」合格の時に、(自身もシベリア送りにされた経験を持つ)父親が言った言葉。体制側の意図に反して行動することはできる…というメッセージ。果たしてどうか。それはこれから…

    次は文学学校で延々と繰り返される暴露劇集会の一つ、グレゴリアンの告発のところ。ここ、自分的には一番面白かった。なかなか伝わらないとは思うけど、飛び飛びで引用。
     何の関連が一つの罪ともう一つの罪の間に、発送と所有の間にあるのか(校長は“そうして特に”と強調しているが)? そんな疑問は間抜け極まる。そんな質問は、集会の一日後か、十年後ならしてもいい。だが集会中はだめだ。
    (p64)
     (グレゴリアンは)別のゼミナールで、われらが偉大な生きている古典詩人A・トマはマイナーな詩人であると主張し、そうして特に、食堂で、ぴちゃぴちゃ、げえげえ、行儀悪く食う。
    (p68 こうした非難が学生からもいろいろ次々に)
     トリアと違って、ヴァシレは何も信じておらず、そうして特に、隠していることがあった。
    (p71 ヴァシレ・アルプはp68の発言をした人物。このp71の場面では、休憩中のトイレで語り手に半分脅しの要求をしている。それに対し語り手は、トリア(この小説のヒロイン的正義感に強いスターリニズム信奉の女性)を利用してヴァシレを巻く)
    2、3番目の「そうして特に」は、太字になっている。最後の「そうして特に」は何の関連もない…わけではあるまい。
    昼間はちょうどp100、第5章まで。青春群像劇とも言えなくもない、泥沼の密告合戦中のちょっとしたロマンス場面まで…

    1956年10月、ハンガリー動乱。隣国ルーマニアでも動き出すかに思えたが…というのが背景。
    p104から108にかけてのところ、(ルーマニアの)ハンガリー人のところに一緒に抵抗運動をしようと持ちかけたルーマニア人が逆に侮辱され、それをルーマニアのセクリターテ(国家警察?)が利用する、という話が出てくる。
    小説冒頭、ジュスタことトリアが語り手ゴマ(この作品に関しては大まかにイコールでもいいだろう)にどうすべきか聞くのが11月始め。その月の自作朗読で語り手は逮捕され、続いてトリアも拷問を受ける。その拷問の要素を元恋人(トリアも含めて3人いたらしい)ディアナから聞くのが小説後半。そのディアナの言葉。聞き手は語り手。
     でも君の痛み、男性の痛みは、君を殴る彼らも同じ男性だという事実によって、消えはしないまでも、いくらか薄らぐわ。“悪党”のような文句は、彼らにとっては罵倒でも、彼らが政治上の対抗者、敵対者に対して、道徳的見地から、“われわれの側でないものは、悪党だ”という決めつけなのだから、君の耳には褒め言葉に響くわけ。けれども、女性にとっては…」
    (p152-153)
    ミッテラン大統領は、フランスに亡命した二人の作家、ミラン・クンデラとパウル・ゴマにフランス国籍を与えようとした。クンデラは受理し、ゴマは拒否した。クンデラはフランス語で作品を書き、ゴマはルーマニア語で書き続けた。この二人、お互いをどう思っていたのか少し気になる。
    (2021 04/29)

  • いや~難しかった…読みにくかった…何回読み返しても難しいままだと思う。冒頭に訳者の前書きがあって「この作家はとても特異なので先に解説を読んでいただくのをお勧めします」って書かれていたんだけどそんなこと言われたのこの本が初めてですよ…そして解説を読んだところでわからない私という…

    文体にかなり癖があって(翻訳が間に挟まっているのに)しょっちゅう目が滑るし人の名前も馴染みがないので誰が誰でどういう人なんだっけがしょっちゅう起こる。ルーマニア革命前後の歴史を勉強せねばならぬ。したところで文体が頭に入るわけではないと思うが予備知識が要ることは間違いない。

    表紙がシンプルでオシャレ。この東欧シリーズって何冊か出てるのかな。他はどんな作品があるんだろう気になる。

  • 2020年10月出版。
    えーと。いわゆる説明的描写はほぼ皆無、文字通り読めばすぐ理解できるってシロモノじゃないのに、字面はさほど難しくないせいで読み進められちゃう。だもんで、立ち止まれなくて、だから途中で何度も「へ?だから何だっけ?」苦戦した…(-_-;) というかそもそも、ルーマニアについてあまりにも無知過ぎ。出直します…。

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著者プロフィール

1935年、ベッサラビア(現モルドバ共和国)に生まれる。ミハイ・エミネスク文学・文芸批評学校に入学、のちブカレスト大学文学部に転入。1956年のハンガリー動乱に際し、抗議行動を描いた小説を学部の創作ゼミナールで発表、学生扇動のかどで逮捕される。矯正服役2年と自宅軟禁3年の後、肉体労働に従事。1966年に文芸誌の短編賞を受賞、以後活発に作品を発表するも、体制への非妥協を貫くその姿勢から、活動に掣肘をこうむり続けた。翻訳を通じて西側諸国で注目される一方、本国では孤立を深める。チェコスロバキアの「憲章77」に賛同したことで社会主義への裏切り者とされ、セクリターテの拷問を受け、投獄。その後国外追放処分となり、フランスに亡命した。異国の地で非妥協の声を上げ続けたが、2020年、COVID-19(新型コロナウィルス感染症)により逝去。

「2020年 『ジュスタ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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