精神救急ハンドブック―精神科救急病棟の作り方と使い方

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  • 新興医学出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784880026435

感想・レビュー・書評

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  • 自立支援法が施行されるに伴い、厚生労働省は現在の全国の精神科入院病床を3分の1に減らす(7万床まで)減らす方針らしい。3分の2は社会で看てゆく事になる訳だが、その施策を実施するために、厚生労働省は、現在の療養病床や長期入院患者に関する保険点数を極端にカットする方法にでると考えられる。つまり入院理由の如何に関わらず、長期入院患者の保険点数を国は払わない、病院には医療費が支給されないシステムを作る事で、病院が患者を放出しなくてはならない制度を作った訳だ。もちろんこれには続きがあって、退院した患者に関しては現在の介護保険をモデルにしたような、保険料が支払われるシステムが用意されている。つまり退院した患者には、医療費や様々な援助が支払われるシステムになっているのだ。これは勿論患者に支払われる訳ではなく、その施設管理者、医療法人などに支払われる診療報酬としてである。利益を退院外に誘導する事で、退院促進を行っている訳である。
    今回この事の是非は置いておくとして、自立支援法が施行されるに伴って、確実に精神障害者の地域支援/ノーマライゼーションは進行してゆくと思われるし、精神科医療も従来の入院依存/収容型の精神医療から短期入院早期退院〜地域/在宅支援の精神医療にシフトしてゆく。この為の準備として、入院病床の多さに依存していた大規模精神病院も、地域支援型にシフトしてゆかなくてはならなくなる。

    急性期治療病棟への点数加算はこのシフトの為に厚生労働省が用意したテストプランであるというのが、俺の理解である。

    前置きが長くなったが、今回急性期病棟を立ち上げるにあたって参考にしているこの本が、すこぶる面白い。勿論精神科オリエンティッドな専門書であって、一般の方が目にする事は、殆どないと思うが、紹介してみる
    『(隔離室の構造について言及する際、1、居住性や快適性を重視するより、2、安全、堅牢、清潔性を優先すべきだという根拠について)〜1、の主張を極端化すると「あなたの狂気という回路を抜けて、新しい自分を発見する旅を可能にする空間」を用意しましょうということになる。アメニティー派、あるいはセンチメンタル派、この思想の欠点は「いつまでもいても良い」ということになる危険性を孕んでいる事だ。いわば「無時間空間」である。快適性を減じれば、隔離室収容時間が短くなるのではない。しかし相当劣悪な作りの隔離室であっても、一旦入ると「捨て難い味」が生じてしまう事も事実なのだ。母胎回帰などと大袈裟な言い方はしないが、患者のなかには「隔離室へ隔離室へ」と戻って来るような人もいる。狂気の向こう側には、新たな自分も、セパレートリアリアリティーもない。そこを通ってはどこへも行けないから狂気と呼ぶ。隔離室は別世界に通じるトワイライトゾーンではなくて、もう一度現実へ戻って来る場所ーリアリティゾーンだ。そうして、戻って来る現実は時間と空間からなる。だから私の病院の隔離室には各室に時計があり、カレンダーが入る』
    『われわれが患者を前にして、あれこれ考えを巡らせても、「真実」はわからない。また、患者に関する真実の発見が、この一連の仕事の目的ではない。そういう意味では患者を理解した、あるいは理解したと思った事で仕事が終わりだと思ってはならない。解釈する事で満足するのは治療といえない事が多い。他者による解釈が真実に達していることは、ごくまれにしか起こらない。そういう醒めた認識を持ち続ける事だ。相当真実とは離れている事を織り込み済みだから仮説である。真実からの解離は、関係が出来上がってから修正してゆけば良い。その修正は言語を使用してなされる。なぜフォーミュラが要るかの理由は、その言葉のやり取りの開始のキーとして、言葉を我々が表現しなくてはならないという、職業的要請があるからだ。だいたいのところはこのへんだろうという粗筋がないと、話も作りにくかろうという程度な話と理解すれば良い。いずれにしても、生活が危機に瀕していた、あるいはそう思ってしまったから、無理ながんばりが始まったのである。我々が望んでいるのは、患者が我々とほぼ同じ、共有可能な現実性のなかに戻って来てくれる事につきる。つまり、現実を共有したいと思っている。そのとき過去の病前の生活をありありと語ってくれれば、その苦労に「共感」する事で、共有の現在は出現する。共感が共有の現在を引っ張りだしてくれるといってもいい。苦労の質・量が圧倒的であれば語れない。だから「こっちが作る」のである。』

    千葉県の精神保健医療センターで、日本で第一号の精神科救急病棟を立ち上げた筆者の、現実との格闘と同時に精神病状態の変性意識への洞察のギリギリのせめぎ合いが、リアルに有効な治療理論の成立を実現している事を伺わせる文章。理論ではない、真にハードコアな精神医療の最前線でこの患者理解を保持しているところが凄い。上記の内容の妥当性についてとは別に、こころに対する真に深い理解をベースにしていることがわかる。平易な口語調で書かれた実利的なマニュアル本のなかに、決して日常では目にする事の出来ない深い叡智が宿っている。

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著者プロフィール

1939年生まれ。千葉大学医学部卒業。医学博士。
千葉県精神科医療センターの設立に参画、現在名誉センター長。公徳会佐藤病院顧問。精神科救急医療という分野の開拓者で、日本精神救急学会前理事長。著書に『統合失調症あるいは精神分裂病』『脳と人間』『インスティテューショナリズムを超えて』など、訳書に『肉中の哲学』(レイコフ、ジョンソン著)など。

「2018年 『こころは内臓である スキゾフレニアを腑分けする』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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