徳の起源―他人をおもいやる遺伝子

  • 翔泳社
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レビュー : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784881358771

作品紹介・あらすじ

わたしたちの心をつくっているものは、「利己的な遺伝子」である。それなのに、人間社会には「協力」や「助け合い」があるのはなぜか?「利己的な遺伝子」で説明できない、人間の本性を「遺伝子功利主義」で解きあかす。

感想・レビュー・書評

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  • 『遺伝子 親密なる人類史』シッダールタ・ムカジーと本書、そして『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイドの3冊は同率1位である。文章ではシッダールタ・ムカジー、難解さではマット・リドレー、好みではマシュー・サイド。
    https://sessendo.blogspot.com/2019/08/blog-post_1.html

  • 「徳の起源」Matt Ridley

    社会とは人間の本性の中にある。

    人間の仲間に対する依存度は、類人猿や猿よりも集団の奴隷として生きているアリやシロアリに近い。

    人類が生態系の中で優位な存在になった理由の一つは、我々が非常に高度な社会的本能を数多く持っている事。

    人間の文化は恣意的な習慣が無作為に集まったものではなく、方向性を持つ人間の本能の表現。

    社会は人間の理論的思考によって作り出されたものではなく、本性の一部として進化してきたもの。

    肉体と同様に、社会も人間の遺伝子によって作られている。

    地球上には10兆匹のアリが生息しており、その総重量は全人類の体重の総和に匹敵する。

    動物の全生物量の三分の一はアリ、シロアリ、ミツバチ、スズメバチ類。

    老化現象と死は体にとってはマイナス現象だが、生殖機能がなくなったあとに体を老化させる事は遺伝子にとっては有用。動植物は種や自己の為ではなく、遺伝子の為に行動するようにデザインされている。

    遺伝子は自己の利益の為に、生物体に子孫の為になるような行動を要求する。

    生物は己の遺伝子や遺伝子のコピーが生き残り、複製できるチャンスを広げるような行動をとるようデザインされている。

    アリのコロニーにおける無私の協力は幻想。働きアリたちは自分の子ではなく、女王が産んだ自分の姉妹に遺伝子の永遠性を託して努力しているが、その行動は遺伝子の利己性によるもの。

    他人の苦しみを真に自分の苦しみとして感じれば感じるほどその苦悩を軽くしようとするあなたの行為は利己的である。冷酷で無感動な信念によって善を行う人たちのみが本物の利他主義者。

    妊娠中の合併症として起こる高血圧等の主因は胎児にある。胎児はホルモンを使って母親の血液を自分の方に迂回させ母体の組織への流れを減少させてしまう。

    胎児は自分に栄養を回してもらおうと母親の血糖値を上げようとし、母親はそれを阻止しようとする。この戦の結果、胎児の形勢が有利になると妊娠性糖尿病が発症する。また、胎児が生産するhPLホルモンは父親由来の遺伝子の命令で作られる。

    親子の遺伝子には共通の利害があるが、その一方で多少の目的の違いがある。

    母親は胎児に優しくしようが戦おうが、彼女の遺伝子は完全に利己的な動機によって振舞っている。

    女王蜂は14-20匹の雄蜂と交尾し、精子を混ぜ合わせるので、働き蜂同士は異父姉妹がほとんど。

    働き蜂は女王の子供よりも自分の息子をひいきにするが、他の働き蜂が産んだ子を殺すことで女王の息子を守る。

    女王アリは先天的に生殖能力を欠く働きアリを産むので、働きアリが反乱を起こすことはない。全ての働きアリの両親は同じ。

    蜂の巣で集団調和が保たれているのは、各個体の利己的な反乱が抑えられているから。

    全ての人は自分自身や所属機関の利益を追求する。

    女性が生きている限り、卵細胞は複製を続けるが、受精されるまでは複製の途中段階で止まっている。

    受精直後の数日間、受精卵は遺伝的に隔離され、転写を禁じられる。この命令は母親の遺伝子から。胎児の遺伝子が軟禁状態を解かれる頃までには遺伝子の運命はほぼ決まっている。人間は受精後56日後、生殖細胞系は完成し隔離される。そこで、生殖細胞は、体内の他の遺伝子全てに降りかかる突然変異や損傷、脳波の影響を受けずに過ごすことができる。

    発達における感動的な調和は、協力しあう独立したものたちの共通の利益が反映しているのではなく、巧みに設計された機械の強制的な調和の反映。

    植物には硬い細胞壁が存在する為に、全身に及ぶ癌は発生し得ない。

    真菌には生殖細胞がなく、遺伝子が生殖の権利をくじびきで決める。

    人類の2-3%は、B染色体に感染している。この染色体はペアを組んで行動しないし、細胞の機能にはほとんど貢献しない。他の染色体と遺伝子を交換しあう事もしない。ただそこにいるだけ。


    ハツカネズミやショウジョウバエの分離歪曲遺伝子は、母親の卵巣の中でどんなに減数分裂されようと、必ず卵や精子に入ろうとする。また、これはB染色体同様に宿主の為に役立つ機能は一切ない。

    一見調和がとれているようにみえる遺伝子達の間にも、緊張状態が存在するが、全体的にみると利己性よりも調和が勝つ。それは、生物体は全体としての利益を主張するから。そして生物体とは、利己的な部分の寄り集まったものにすぎない。
    利己性を追求する為に選ばれたユニットの集まりが利他性を持つはずがない。

    ミツバチの巣は民主主義国家。多数の個体の願いが各個体のエゴイズムを抑えてしまう。

    各遺伝子は自己利益を追求しているが、もしある遺伝子の行動が他の遺伝子に害を与えるなら、全員が一致団結してそれを抑えてしまう。

    体が大きくなればなるほど、体内の細胞の種類が多くなる。

    我々はどうしても親戚や友人に慈悲心を向けがちであり、慈悲心によって築かれた社会には縁者贔屓が蔓延する。見知らぬ者同士では、利己的な野心を分配している市場の隠れた力はより公平。-アダムスミス

    囚人のジレンマ同様、真に理論的な思考はあなたを集団の破滅へと導く。

    両者の関係の永続性と持続性が平衡状態にとって必要不可欠。

    脳の大きさと社会的集団の間に強い相関関係が見られる。複雑な社会を作って繁栄するには大きな脳が必要。大きな脳を獲得するには複雑な社会に生活する必要がある。人間は脳の大きさ的に、150人強の集団で生活する動物。

    雌ライオンは四種に区別され、常に率先して反応する無条件協力者、常に後ろにいる無条件落伍者、必要とされれば前にでる条件付き協力者、もっとも必要とされる時にはなるべく離れていようとする条件付き落伍者。落伍者が罰せられたり報復されることはない。

    互恵関係が成立する為には相互作用が繰り返される事だけでなく、他の個体を認識し、相手のやり方を覚えておく能力が要求される。

    ピグミーチンパンジーは果物がたくさんなった木を見つけるとお祝いにみんなで交尾しあう。

    獲物を共有するハンターグループは、共有しないハンターグループに比べ、食物供給の変動が80%も抑えられる。

    氷河期では、海水面が下がり、気候は乾燥し、多雨林は縮まり、ほとんどが豊かな草原であった。

    狩猟採集民の労働時間は農耕民族に比して遥かに短い。所持品や財産を持たないのは、彼らは平等主義の社会であり、持ち物を持ちすぎると分けるのを拒むようになるから。

    エスキモー社会では富の独占はタブー。気前のよくない金持ちは殺される事もある。

    英国では経済の7-8%は贈答品の製造に使われている。

    人間の脳は親切にしあう事で社会生活から利益を引き出す特殊な能力を備えている。

    遺伝子にとっての物質的自己利益が生物学の監視役となっている。

    アオガラのつがいは、抱卵期に雄が傷つくとすぐに別の雄と交尾する。

    動物には恨みの感情がない。上手く生き抜こうとするだけ。

    人間は感情によって苦しい時も結婚生活を続け、御都合主義者を寄せ付けないようにする。約束の保証は我々の感情。

    正直さは感情を利用する為の最良の策。

    私欲を捨て、寛大な行動をとればとるほど社会からの協力によって生み出される恩恵をより多く引き出す事ができる。

    新古典主義的経済学と新ダーウィン主義的自然淘汰説にある合理的自己利益追求行動は基本的に危険。

    子供にいい子になさいと言う時は、「そうすれば立派な大人になれるから」ではなく、「そうすれば長い目で見た時には得をするから」と教える事。

    道徳は目的を持つ一連の本能として感性の中に住み着いている。

    チンパンジーの群のボスは一番力の強い者ではなく、社会的協力を利用するのが一番うまい者が多い。

    イルカの協力の目的は雌グループや縄張りを守る事ではなく、一時的に雌を一頭づつ虜にしたり、他の雄グループから虜になっている雌を奪う為。

    雌象は群を作るが、グループ間に競争や敵対意識はなく、縄張りもなく、メンバーも固定していない。象は群れから群れへ人間の女性のように渡り歩く。

    人間社会の協力は、血縁や互恵主義、道徳教育によってではなく、集団淘汰によって生まれた。協力的な集団は繁栄するが、利己的な集団は繁栄できない。

    全ての動物の受胎時の雌雄比はほぼ同じ。

    我々の祖先は繁栄を続ける間に社会的に従順な性質、つまり社会からの影響を受けやすい性質を備えるようになった。

    人間は個人の目標を達成する為に集団を形成する傾向が強い。個人よりも集団を優先するわけではない。

    人間が踊りに惹きつけられる理由は、踊る事によって協力の精神の存在が明らかにされ、人と人とが感情的に結び付けられ、集団の同一性が繰り返し確認される為。

    音楽は集団のメンバーの感情的ムードを一つに調和させる意味で、進化にとって有益。

    ほとんどの宗教は他の集団と食うか食われるかの競争をしている集団によって作られたものなので、偏狭な視野となる。

    キリスト教によって民族抗争や国家間の対立が鎮まった事はない。

    ヒトラーは内部集団に対する道徳、外部集団に対する残虐性という二重標準を好み、国家社会主義を標榜した。

    個体闘争の冷酷さよりも集団闘争の道徳性を好む事は、個人を殺す事より大量殺人を好むこと。

    協力的な社会であればあるほど、集団間の争いは激しくなる。

    あなたの体が上手く働くのは、あなたの胃が得意な事を行い、体の他の器官と共に仕事の成果を蓄積しているから。

    人間は集団を形成し、縄張りに分かれて暮らし、同じ集団のメンバーと運命を共にする事によって、よそ者嫌いと文化的体制順応の混ざり合ったものを心に育てていく。文化的体制順応とは本能的に多数の意見に従う性質。

    比較優位は人類の生態学的奥の手の一つ。

    ジリスは生まれたばかりの子供を食べるし、マガモの雄は集団レイプの最中に雌を溺れさせてしまう。我々は動物の持つ暗い側面は無視し、明るい側面にだけ共感を寄せる。

    太平洋の島々に移住してきたポリネシア人は地球上の全鳥類の二割を絶滅させた。

    部族生活を営んでいた人々が環境を破壊せずにいたのは、文化的な自己抑制ではなく、技術や需要の限界の為。

    どんな時代でも、自然保護や生態学の概念が伝統的語彙の中に含まれていた先住民は存在しない。

    人間は環境保護道徳を本能的に備えてはいない。

    生態学的美徳は政府からではなく民間からつくりあげなければならない。

    人間の貪欲な行為の歴史は資本主義より古い。狩猟採集生活時代から深く根付いてきた人間の本性。

    同等の立場の者同士の社会契約と個人間および集団間の一般的互恵関係が社会の創造に不可欠。

    人間は公益を高めようとする本能と、自己利益を高め反社会的行動に走ろうとする本能を併せ持つ。前者の本能を奨励し、後者を抑えるようなデザインが必要。

    信頼関係を築き上げる事が可能な小規模な集団における自由な個人同士の物品や情報、財産、そして権力の自発的交換を基盤とした社会がより公平で繁栄した社会になる。

    我々は完璧に調和のとれた道徳的社会を作り出す事はできなくても、現在よりもましな社会を作り出す本能を持っている。この本能を引き出す直感を磨く事。これは同等な者同士の取引を奨励する事を意味する。なぜならそれが信頼の元であり、信頼こそが美徳を築き上げるから。

  • 利己的遺伝子、ゲーム理論、見返りを求めるための協力、分担と交換、みんなと同じことをする理由、共有地の悲劇、所有権の有効性と独占に対する反発といった幅広いテーマを取り上げる。全体的に冗漫で読むのが億劫に感じたことしばしだが、共有地の悲劇や所有権を取り扱った11〜12章は自分が読みたいテーマだった。

    ・無作為に3分の1の確率で大目に見る「寛大なお返し戦略」は、必ず罰を与える「お返し戦略」よりも優れている。しかし、「寛大なお返し戦略」は「常に協力」に弱い。「常に協力」は「常に裏切る」に簡単に侵され、「常に裏切る」は「お返し戦略」に勝てないため、安定した結論はない。
    ・勝ったらそのまま、負けたら変える「まぬけ戦略(パブロフ)」は、「常に裏切る」には負けるが「お返し戦略」に優る。
    ・大きなグループにおいては、非常にまれな裏切りでも許さない戦略、裏切り者を罰しなかった者を罰する戦略、村八分の戦略が有効。
    ・肉を与えることはセックスと関係がある。現代の狩猟採集民では、特定の相手を決めずにセックスをする民族では、男たちは多くの時間を狩猟に費やす。
    ・一般的な行動に従う体制順応主義によって、協力する気持ちは広がっていく。体制順応主義は、地域特有の習慣、集団間の敵対意識、協力的集団防衛などによって進化した。
    ・人気のある異性を選ぼうとする理由は、人気のある形質を受け継いだ子孫を残す確率が高くなるため。
    ・社会が協力的であるほど集団間の争いは激しくなる。

  • 一昨年ツイッターで大評判となった「ツイッターノミクス」、これを書く上でとても影響を受けた本のひとつと著者のタラハント氏がその作中でも述べているのが本書、「徳の起源 他人を思いやる遺伝子」だ。

    細胞の利他主義に始まり、サルやチンパンジー、イルカなど様々な動物の生態からその利他主義的に見える行動を分析してその謎を解き明かす。また、北米やオーストラリアの先住民や未開の部族などの他者や部族間の交流なども分析し人間の本質に迫る。この辺りの描写がまた「へぇ!」、「ほう!」と面白い。

    基本的にはやはり人間は利己的なのだ。ただし、人間の心の中には、よい人という評判をとり、社会的協力関係を築きたいとの本能がある。本書でもパットナムの「哲学する民主主義」を引用して北イタリアが歴史的に商業的コミュニテイがあったから発達し、南イタリアは専制君主やゴッドファーザーの存在が人々のコミュニケーションを阻害したため産業の発達が遅れたとしている。

    つまり人間は置かれた環境によって、コミュニケーションを行いお互いの信頼関係を形成しお互いに利益を得ることも出来るし、コミュニケーションが無く信頼関係を築くことができす利益を享受できない場合もある。これはそれぞれの人間関係だけではなく、人間関係の集合である組織にも言えることだ。

    組織内のコミュニケーションを活性化し信頼関係を強固なものにし、さらに組織外へと信頼関係の触手を伸ばし、信頼の輪を広げる、そうして、様々な個人や組織が信頼で結ばれる、そうすれば日本ももっと活性化し経済も上向きになるのではないか。

  • ロシアのアナーキストの脱獄
    遺伝子の社会
    労働の分担
    囚人のジレンマ
    タカとハトの違い
    義務とごちそう
    公益と個人的贈り物
    道徳感情論
    部族をつくる霊長類
    戦争の原因
    交易による利益
    宗教としての生態学
    財産の力
    信頼

  • 利他行動の起源を動物行動学から探す本。

    もう一度読みたいのに、絶版て・・・(TT)

  • まだ読んでませぬ

  • ひとを特徴づけるのは互恵主義(ノンゼロサムゲームを可能にする)だということを明らかにした画期的な書であるらしい。復刊希望。

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著者プロフィール

マット・リドレー(サイエンスライター)

「2015年 『フランシス・クリック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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