- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784882940845
作品紹介・あらすじ
メイは、『歴史の教訓』のなかで「統治者にとって歴史は、無限の宝庫として眠っている」と書いた。過去そして歴史は、ただ単にそこに孤立してあるのではなく、未来に問い掛けながら存在しているのである。本書のなかでは、アメリカの内外政策の多数の政策決定過程の事例研究を綿密に検討し、歴史の「利用」と「誤用」が俎上にのぼる。そのうえで、「経験の利用」、歴史の最善の利用法が提示されている示唆的な書物である。
感想・レビュー・書評
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本書では、政策決定の中で歴史から得られる学びを活かすためにはどうすればよいかということを論じている。
政策決定の過程には分析と評価が必須であり、その中には過去の経緯や類似事例との比較など、歴史を活用することが当然のように含まれている。しかし、それらの分析が、本当に有効な意味で歴史から学んでいるのかというと、必ずしもそうではない事例が多くあるという。
本書では、筆者らがハーバード大学ケネディ政治大学院において長年行ってきた「歴史の活用」コースにおいて取り上げられた様々なケーススタディとその中での議論をふんだんに紹介しながら、良い歴史の活用とはどのようなものかを分析している。そして良い歴史の活用を実践するための方法を、「ミニ・メソッド」という非常に簡潔な方法論にまとめている。
ミニ・メソッドにおいてまず求められることは、現在の状況と参考にしようとしている過去の状況のそれぞれについて、「既知の事柄―不明確な事柄―推定された事柄」を整理すること、そしてそのようにして整理された現在と過去を比較しながら、「類似点と相違点」を洗い出していくことである。
ケーススタディの中でも多く触れられていたが、我々が歴史を活用するとき、その類似点にばかり目が行き、多くの決定的な相違点があるにも関わらず、本来は比較対象として適切ではない歴史の事例から得られた教訓を誤って適用してしまうことが多い。
また、我々の状況認識は、多くの不確実さや推測に基づいている。それらを既知の事実と峻別することにより、歴史的事実においても、どのような前提条件の中で判断がなされたのか、そしてそれがどのような結果につながったのかについて、過不足のない理解を得ることができる。
この点は、歴史を現在の判断に繋げる上で非常に大切なことであると感じた。
その他にも、「問題が何かではなく、その問題が発生するに至った経緯を問う」という「ゴールドバーグ原則」や、5W1Hを必ず意識して確認するという「ジャーナリストの基本的自問」など、多くの有益な手法が取り上げられている。
また、本書の後半では、個人や組織が持っている固定観念を明確にすることよって、その組織や個人の取る行動の傾向を類推するための「プレイスメント(位置づけ)」という手法も紹介されている。
その組織や個人の過去のタイム・ラインを洗い出し、その中にある大きな事象(広く知られている制度や論争などの出来事)や、小さな事象(個人や組織内部での出来事)を把握していくことで、分析をする我々にとって比較的なじみの薄い個人や組織であっても、その組織が持つ傾向性や行動様式を把握することができる。
我々が政策判断をする際には、複数の主体が存在する環境の中でどのように行動すべきかということが問題となるため、その環境の中に存在する他の主体の行動様式を理解するためのこのような手法も、重要なものであると感じた。
ケーススタディで取り上げられた事例には、歴史を正しく活用し判断を下すことができた事例もあるが、逆に歴史から誤った類推をすることによって望ましい結果を得られなかった事例もある。我々は「歴史に学ぶ」ことが大切であるというが、この本を読むことで、そのためにはいかに注意深く現在の問題と過去の歴史を検討しなければいけないのかということが、非常によく分かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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